生命科学

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生命は「宇宙で生まれた」…パンスペルミア説の「2つの根拠」から明らかになる「否定はしないけれど、すっかり鵜呑みにはできない」ワケ

生命は「宇宙で生まれた」…パンスペルミア説の「2つの根拠」から明らかになる「否定はしないけれど、すっかり鵜呑みにはできない」ワケ「生命は宇宙で生まれた」というアレニウスの着想生命の起源は謎に包まれている。生命は地球で生まれた可能性が高いけれど、起源がはっきりとしない以上、宇宙で生まれた可能性も完全に否定することはできない。「生命は宇宙で生まれた」という仮説をパンスペルミア説という illustration by gettyimagesこの、「生命は宇宙で生まれた」という仮説のなかで、もっとも有名なものがパンスペルミア説である。パンスペルミア説は、スウェーデンの物理化学者でノーベル化学賞の受賞者でもあるスヴァンテ・アレニウス(1859~1927)により、1903年に提唱された。アレニウスは、胞子のような何らかの強固な構造を取った細胞が、地球の歴史の初期に、宇宙からもたらされた可能性を示したのである。スヴァンテ・アレニウス photo by gettyimages細胞が宇宙空間を移動する手段として、アレニウスは光の放射圧を考えた。物体が光を放射したり吸収したり反射したりすると、微弱だが圧力...
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昨日と今日の自分は、本当に同じ自分なのか?「シミュレーション仮説」や「世界五分前仮説」をもとに意識、ヒトの生について考えてみると

昨日と今日の自分は、本当に同じ自分なのか?「シミュレーション仮説」や「世界五分前仮説」をもとに意識、ヒトの生について考えてみると 歴史に「もしも」があったら?歴史にもしもはない、という。もしも武田信玄が病気で死ななかったら……もしも平泉で藤原泰衡(ふじわらのやすひら)の軍勢に囲まれたとき、源義経が脱出していたら……。そんなことは、考えても仕方のないことだ。でも、私たちは、ついそんなことを想像してしまう。もしも歴史が違う方向に進んでいたら、と夢見ることを、私たちはやめることができない。そして、それは……私たちだけでなく、他の知的生命体でも同じかもしれないのだ。スウェーデン人の哲学者であり、オックスフォード大学の教授であるニック・ボストロム(1973‐)は「シミュレーション仮説」を提唱した。この仮説は、私たちが生きている世界というものが、知的生命体が行っているコンピューター・シミュレーションである可能性を指摘したものである。gettyimages私たち人類だって、どんどん文明が発達していけば、地球全体(ひょっとしたら宇宙全体)のシミュレーションを行うことが可能になるかもしれない。そうなれば...
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20世紀の王道シナリオが「あり得ない」とひっくり返された…なんと、ミラーの「衝撃的実験」に惑星科学の進展が「再検討」を迫った

20世紀の王道シナリオが「あり得ない」とひっくり返された…なんと、ミラーの「衝撃的実験」に惑星科学の進展が「再検討」を迫ったニワトリが先か、タマゴが先か「ニワトリが先か、タマゴが先か」という問題があることは、みなさんも聞いたことがあるでしょう。実は、これはプラトンとアリストテレスの頃からあった生命の起源をめぐる論争で、ニワトリとタマゴのどちらが先にこの世に誕生したのかを問うものです(図「ニワトリとタマゴ問題」の左)。1953年にDNAの二重らせん構造が明らかになり、分子生物学が興ると、タンパク質がなければ核酸はできない、また核酸がなければタンパク質はできないことがわかり、この問題は「タンパク質が先か、核酸が先か」という問題に置き換えられました。タンパク質は、アミノ酸を正しい順番でつなぐことにより、触媒として働きますが、つなげる順番は、核酸の塩基配列により指定されます。しかし、その核酸もまた、合成されるには触媒であるタンパク質が必要です。つまり、両者がそろって初めて、生命というシステムは動きだすのです。しかし、タンパク質も核酸も複雑な高分子有機物ですので、原始地球上での化学進化の過程にお...
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残念ながら、原始地球の大気に「メタンありき」は、思い込みだった…衝撃的だった「ミラーの実験」が残した「1つの功績と2つの罪」

残念ながら、原始地球の大気に「メタンありき」は、思い込みだった…衝撃的だった「ミラーの実験」が残した「1つの功績と2つの罪」アミノ酸は簡単にできる!1953年にミラーの論文が発表されたときの話に戻りましょう。この論文は多くの科学者の興味をひきました。化学進化の実験が数日でできるなんて、誰も考えていなかったからです。このあと、ミラーをお手本に化学進化の実験を始めるグループが続々と現れました。まず、材料については、原始地球大気は二酸化炭素を多く含むとする説と、メタンを多く含むとする説が対立していたと述べましたが、ミラーの結果を受け、多くの人がメタン派となりました。しかし、ミラーと同じことをしても論文にはなりません。そこで、ミラーが考えた雷による放電とは別のエネルギーを考えてアミノ酸をつくろうとする実験が、1970年くらいまで続々と報告されました。まず考えられたエネルギーは、火山の熱でした。マイアミ大学の原田馨(1927〜2010)とシドニー・フォックス(1912〜1998)は、放電の代わりに熱を使った反応装置をつくりました。とはいえ本物の溶岩の温度は約1000℃で、こんな温度で熱するとほぼ...
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これは「物質から生命が生まれる瞬間」かもしれない…地球生命に絶対必要なアミノ酸が、なんと「わずか数日」でできてしまった「衝撃の実験」

これは「物質から生命が生まれる瞬間」かもしれない…地球生命に絶対必要なアミノ酸が、なんと「わずか数日」でできてしまった「衝撃の実験」生物学の革新時代「1953年」DNAの二重らせん構造が発見された1953年は、ほかにも生物学上の重要な発見がありました。たとえば英国の生化学者フレデリック・サンガー(1918〜2013)は、タンパク質のアミノ酸配列を調べる方法を開発し、この年に初めて、インスリンというタンパク質(膵臓でつくられるホルモン)の51個のアミノ酸の並び順(一次構造)を発表しました。そして、米国の化学者スタンリー・ミラー(1930〜2007)によるアミノ酸の合成が発表されたのも、この年のことでした。ミラーは1951年にカリフォルニア大学バークレー校で化学の学士を取得したあと、シカゴ大学大学院に入学しました。彼が選んだのは、ハロルド・ユーリー(1893〜1981)の研究室でした。ユーリーは重水素の発見で1934年にノーベル化学賞を受賞し、その後、研究の興味を宇宙化学に移していました。ハロルド・ユーリー photo by gettyimages「初期の地球大気」2つの説初期の地球大気に...
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まさか…生命と非生命が「区別できない」とは…! それでも地球型生命に2つの「絶対必要な分子」があった

まさか…生命と非生命が「区別できない」とは…! それでも地球型生命に2つの「絶対必要な分子」があった生命を定義することの難しさ生命を定義しようとする試みは、多くの研究者によってなされてきました。いま述べたように生化学系の研究者は、生体内で反応が進行すること、ひとことでいうと「代謝」を重視することが多いようです。一方、分子生物学者は、DNAを重んじることから「自己複製」を重視する傾向があります。ほかには、オパーリンのように外界との「境界」の存在を重視する人もいます。また、前回の記事でご説明したようにシュレーディンガーは、エントロピーという物理量から生命を定義しようとしました。シュレーディンガーは、エントロピーという物理量から生命を定義しようとした近年では、「進化」を重視するようになってきている傾向があります。米国ソーク研究所のジェラルド・ジョイス(1956〜)は、RNAの試験管内分子進化の研究で有名ですが、生命を「ダーウィン進化しうる自立した分子システム」と定義しました。これはNASAの「生命の定義」に採用されています。一方、20世紀の終わりには、生命を定義すること自体の問題点も指摘され...
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なぜ、ショウジョウバエとヒトの形は大きく異なるのか?この疑問から、生物のボディプランと進化の速度を考え直してみると!

なぜ、ショウジョウバエとヒトの形は大きく異なるのか?この疑問から、生物のボディプランと進化の速度を考え直してみると!カンブリア紀の脊椎動物と節足動物動物は(研究者によって多少異なるが)35個ぐらいのグループに分けられる。それぞれのグループは「門」と呼ばれ、独自のボディプランを持つことで区別されている。それらの中でもっとも繁栄しており、かつもっとも身近なグループは、「脊椎動物門」と「節足動物門」だろう。脊椎動物門は私たちヒトが属しているグループだし、節足動物門は非常に種数が多い昆虫を含むグループだ。そして、脊椎動物門も節足動物門も、すでにカンブリア紀(約5億3900万年前~約4億8500万年前)には現れていたことが知られている(ちなみに、かつて脊椎動物は「門」の下の分類階級である「亜門」とされていたが、最近は「門」とすることもある)。上・脊椎動物「ミロクンミンギア」(Andrew Dalby)、下・節足動物「エオレドリキア」(Ghedoghedo)たとえば、中国雲南省のカンブリア紀の地層(約5億2000万年前)から産出した澄♯江{チェンジャン}生物群には、脊椎動物であるミロクンミンギアと...
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だってそれ、結局「神様のやったこと」にしてないか…? 量子力学で「高名な物理学者」の言葉に噛みついた「生化学者のこだわり」

だってそれ、結局「神様のやったこと」にしてないか…? 量子力学で「高名な物理学者」の言葉に噛みついた「生化学者のこだわり」コアセルベートと「化学進化」1935年、モスクワにソ連科学アカデミー・バッハ記念生化学研究所が設立されると、オパーリンはその副所長に就任し、植物の加工などについての実務的な研究を行う傍ら、生命の起源の考察も進めていきました。そして1936年には、前著の小冊子『生命の起原』を大幅に拡張した『地球上の生命の起源』を発表します。少しくわしい人は、オパーリンというと「コアセルベート」を連想し、それについて書かれたのは1924年の『生命の起原』であるという印象を持っているかもしれませんが、コアセルベートが登場するのは、この1936年版が初めてです。というのは、オランダの化学者H・G・ブンゲンブルク・デ・ヨングが「コアセルベート」という命名をしたのが1929年だからです。前述のようにオパーリンは、コロイド溶液を生命のもとと考えていました。しかし、この溶液は、他の物質を加えるなどすることにより、コロイドが高濃度に集まった部分と低濃度の部分の2つに分離することがあります。これをコア...
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「生命は自然に発生する!」ありえないとされた説が息を吹き返して提唱された「生命の一歩手前」の衝撃の姿

「生命は自然に発生する!」ありえないとされた説が息を吹き返して提唱された「生命の一歩手前」の衝撃の姿オパーリンの『生命の起原』1917年、ロシアでは十月革命が起こり、ソヴィエト連邦が誕生しました。この年にモスクワ大学を卒業したアレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン(1894〜1980)は、大学に残って生化学の研究を続けていました。アレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン photo by gettyimages1922年、オパーリンは、ロシア植物学会モスクワ支部で、生命の起源に関する発表を行います。そして1924年には、その内容をまとめた70ページほどの小冊子『生命の起原』を発表しました(やはり「起源」ではなく「起原」と訳されています)。その後、オパーリンは生命の起源についての本を何冊も書いていますので、それらと区別して、1924年版を「小冊子」とよびます。この小冊子でオパーリンはまず、アリストテレスからニーダムに至る自然発生の考えが、パストゥールによって否定されたことにより、「生命がいかに地球上で生じたか」という問題が生じたことを述べています。次にパンスペルミア説を紹介し、...
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もし本当なら…「地球で最初の生命は、進化では誕生できない」…進化論で生じた「すこぶる当然の疑問」

もし本当なら…「地球で最初の生命は、進化では誕生できない」…進化論で生じた「すこぶる当然の疑問」ダーウィンのオリジナル概念ではなかった「進化」1859年、チャールズ・ダーウィン(1809〜1882)は、ジョン・マレー出版社から『自然選択という手段、または生存闘争の中で好ましいとされる種が保存されることによる種の起原について』という長いタイトルの本を出版しました。これが、今日の生物進化学の基礎を築いた、『種の起源』という名で知られている著作の正式な書名です(「起“源”」ではなく「起“原”」と訳されました)。実は「進化」という概念自体は、ダーウィン以前にもありました。たとえば、彼の祖父のエラズマス・ダーウィン(1731〜1802)は、生物学に進化(evolution)という言葉を持ちこんでいました。また、フランスの博物学者ジャン=バティスト・ラマルク(1744〜1829)は、キリンの首は高いところの葉を食べようとして伸びた、といった「用不用説」と呼ばれる考え方で進化を説明しようとしていました。ダーウィンは初め、医者である父のあとを継ぐためエジンバラ大学に進学しましたが、医学学には向かずに退...
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ミトコンドリア・イブは全人類の母ではなかった!?ゲノム解析から明らかになっている、ヒトの遺伝子の共通祖先・イブやアダムは数万人以上いるという事実

ミトコンドリア・イブは全人類の母ではなかった!?ゲノム解析から明らかになっている、ヒトの遺伝子の共通祖先・イブやアダムは数万人以上いるという事実ミトコンドリア・イブは誰だったのか?約16万年前のアフリカに、一人の女性が住んでいた。彼女の細胞の中にあったミトコンドリアは、子供からさらにその子供へと伝えられていった。そして、彼女のミトコンドリアは、ついにすべての人類に広がった。つまり、現在の地球上に住んでいるすべてのヒトのミトコンドリアは、彼女一人のミトコンドリアに由来するのである。この話は魅力的なだけでなく、事実である。ミトコンドリア・イブという洒落たニックネームがつけられたこともあって、この16万年前にアフリカにいた女性は、世界的な有名人になった。そして、このミトコンドリア・イブの存在が、私たちヒト(学名はホモ・サピエンス)がアフリカ起源である証拠だと、いろいろなところで述べられるようになった。gettyimagesでも、本当に、そうだろうか。ミトコンドリア・イブと呼ばれる女性が約16万年前にアフリカにいたことはよいとして、それってヒトがアフリカ起源であることの証拠になるのだろうか。本...
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多くの人が知らない「じつは、1回の産卵で死なないサケ」がいる…生物が「生殖活動を進化させる」予想以上の理由

多くの人が知らない「じつは、1回の産卵で死なないサケ」がいる…生物が「生殖活動を進化させる」予想以上の理由ゼウスの愛人セメレーの悲劇古代ギリシアの都市テーバイを建てたカドモスには、4人の娘がいた。主神ゼウスは、そのうちの一人であるセメレーを愛し、人間の姿になってセメレーのもとに通った。ゼウスの妻であるヘーラーはこれに嫉妬し、セメレーをそそのかした。そそのかされたセメレーは、自分の願いを一つ叶えてほしい、とゼウスに頼んだ。どんな願いでも叶えるとゼウスが約束したので、妻のヘーラーに求婚したときの姿で来て欲しいとセメレーは頼んだのである。しかし、ゼウスの本当の姿は雷なので、その姿を見せれば人間は死んでしまう。しかし、約束を破ることはできない。しかたなくゼウスは、雷となってセメレーを訪れたのだが、果たしてセメレーは焼け死んでしまった。ピーテル・パウル・ルーベンス作「セメレーの死」 painting by Peter Paul Rubens, Public domain, via Wikimedia Commonsしかし、このとき6ヵ月だった胎児は、火の中から救い出され、ゼウスの太腿のなかに縫い...
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進化は予測可能なのものなのか?生物のデザインと進化の関係。生命の40億年をやり直したとき、ふたたび人類は誕生する?

進化は予測可能なのものなのか?生物のデザインと進化の関係。生命の40億年をやり直したとき、ふたたび人類は誕生する?もしも白亜紀末に小惑星が地球に衝突しなかったら?アメリカの有名な古生物学者、スティーヴン・ジェイ・グールド(1941‐2002)は、大学の講義を教室の一番前で聴くような、熱心な学生だった。その後、大学の教員になると、大げさな手振りを交えて熱弁を振るう、熱い先生になった。学生時代にグールドの講義を聴講した生物学者、ジョナサン・B・ロソスは、内容も魅力的で素晴らしかったと言っている。ただし、かつてグールドの講義助手を務めた古生物学者、ニール・シュービンによれば、(当然のことだが)その情熱をすべての学生が受け止めたわけではないらしい。教室の前のほうで熱心に聴く学生もいたけれど、後ろのほうで眠りこける学生もいたようだ。もっとも、グールドの講義は人気があって、学生が600人ぐらいいたらしいので、それも仕方がないだろう。大教室で講義をすれば、かならず何人かの学生は眠るものである。さて、グールドはある講義で、「もしも白亜紀末に小惑星が地球に衝突しなかったら?」という質問を学生たちに投げか...
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「種の絶滅」を考えたとき、個体の生のように、種にも「寿命」はプログラムされているのだろうか?

「種の絶滅」を考えたとき、個体の生のように、種にも「寿命」はプログラムされているのだろうか?種に寿命は存在するのか?何年か前に、ある大学の先生がこんな発言をしていた。「現生人類であるホモ・サピエンスが誕生したのは、20万年~30万年前と言われていますが、いずれ種としての寿命が来て、絶滅するときがきます。いろいろな理由がありうるのですが、その一つは生殖能力です」また、マイケル・クライトンの『ロスト・ワールド――ジュラシック・パーク2』(上)には、こんなくだりがある。「概して、ひとつの種の平均寿命は四〇〇万年だ。哺乳類の場合は一〇〇万年。そこでその種は滅んでしまう。つまりひとつの種は、数百万年の範囲で勃興し、繁栄し、滅びるというわけだな」(酒井昭伸訳・早川書房)gettyimagesこれらに限らず、「種の寿命」という言葉をときどき聞くことがある。でも、「種の寿命」なんて、本当にあるのだろうか。たしかに私たち一人ひとりには、個体としての寿命がある。生きていればだんだんと老化して、いくら頑張っても100歳を超えた辺りで死んでしまう。このような寿命は、何らかの形で遺伝的にプログラムされていると考...
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私たちは先祖のほとんどからDNAを受け継いでいない!?過去をたどっていくとすべての人の「共通祖先」にがあらわれる理由

私たちは先祖のほとんどからDNAを受け継いでいない!?過去をたどっていくとすべての人の「共通祖先」にがあらわれる理由源氏の子孫か?平氏の子孫か?最近はあまり聞かなくなったが、私が子供のころは、源氏や平氏の子孫だという年配の人がときどきいた。「うちは源氏側だからね」みたいなことを言うわけだ。数百年のときを越えて源氏や平氏の血脈が受け継がれているなら、それはたしかに魅力的な話である。「源平合戦図屛風」(伝狩野元信)それから中学生ぐらいになって、すこしは遺伝の仕組みがわかってくると、そういう話がアホらしく思えてくる。かりに本当に源氏の子孫だったとしても、源氏の血脈はだんだんと薄まっていくから、もうその年配の人にはほとんど受け継がれていないだろう。昔になればなるほど、その血脈はすでに薄まっていると、私は考えたわけだ。でも、よく考えてみると、そう単純な話ではなさそうだ。遺伝子の「組換え」とそのメカニズム私たちのDNAはおよそ60億もの塩基対を含んでおり、すべてのDNAを1本につなげると約2メートルになる。しかし、実際には細胞の中で46本に分かれている。この46本は、タンパク質などと結合して染色体...
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まさか…工場の煤煙で起こった自然選択。人類が「史上初めて目にした進化」という驚愕の事実と、まったく予想外だった「否定論者の素性」

まさか…工場の煤煙で起こった自然選択。人類が「史上初めて目にした進化」という驚愕の事実と、まったく予想外だった「否定論者の素性」工業暗化は嘘なのか嘘か本当か、疑問に思う話がある。そういう話のなかで、進化に関するものとしては、オオシモフリエダシャクという蛾の工業暗化の話が有名である。オオシモフリエダシャク。「シャク」の名が示すようように、本種を含むシャクガ科のガの幼虫は、いわゆる「シャクトリムシ」の名で知られる photo by gettyimages工業暗化というのは、工場から出る煤煙のために樹木の幹が汚れて黒くなり、それにともなって、その付近で暮らす蛾の色も黒く変化する現象である。蛾が黒くなった理由は、保護色で説明される。蛾が黒く汚れた樹木に止まっているときは、黒い個体のほうが鳥に見つかりにくく、捕食されにくい。そのため、同じ種のなかに黒い個体と白い個体がいた場合、自然淘汰によって黒い個体が選択されて増えていくというわけだ。これは、多くの教科書にも掲載されている有名な話だが、こんな話は嘘だ、あるいはでっち上げだという意見もあるのである。マンチェスターにおける産業革命中世には貴族の荘園...
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「近親交配」によって自分の遺伝子をより多く残すことができる!?……ハプスブルク家にみる「進化の法則」をめぐるジレンマ

「近親交配」によって自分の遺伝子をより多く残すことができる!?……ハプスブルク家にみる「進化の法則」をめぐるジレンマヒトもまた進化の法則に支配されている生物は進化する。そして、私たちヒトは生物である。したがって、もちろん私たちも進化する。だから、私たちも進化の法則に支配されていて、それから逃れることはできない。私たちは、しょせん進化の手のひらの上で踊っているに過ぎないのだ。だから、進化の法則を私たちに当てはめれば、私たちの体の形や行動についての理解が深まるはずである。以上に述べたことは正しい、と私は思う。ということで、進化の法則を私たちヒトに当てはめてみたのが、以下の話である。でも、この話の結論は正しいだろうか(ちなみに以下の話では、「子がいないより、いるほうがよい」といった表現が出てくるが、これは何らかの価値観ではなく、進化のメカニズムとしての話なのでご了承ください)。配偶相手は兄弟姉妹のほうがよい?生物は、自分の遺伝子をなるべく増やそうとする。つまり、なるべくたくさんの子を残そうとする。ヒトの場合は結婚したりして子を残すわけだが、さて、どうすれば自分の遺伝子をたくさん残せるだろうか...
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「ヒトらしさを決める遺伝子」はいつ生まれたのか?その突然変異はヒトの誕生より70万年も前になる!?

「ヒトらしさを決める遺伝子」はいつ生まれたのか?その突然変異はヒトの誕生より70万年も前になる!?「FOXP2遺伝子」がヒトをヒトらしくしている!?私たちヒト(学名はホモ・サピエンス)は、人類の一種である。人類は約700万年前に現れ、進化の結果、数十種に分岐した。しかし、その多くは絶滅してしまい、現在生き残っているのは、私たちヒト1種だけである。ヒトは、他のほとんどの人類種とは異なり、いわゆるヒトらしい行動をすると考えられている。洗練された言語を話したり、芸術的な活動をしたりするのは、その例だ(ヒト以外でそういう行動をした可能性のある種は、ネアンデルタール人などごく限られている)。gettyimagesこのように、ヒトをヒトらしくした原因には、おそらく遺伝子も関係しているだろう。そんな可能性のある遺伝子の一つが、FOXP2(フォックスピーツー)だ。FOXP2は、言語と関係していることが明らかになった最初の遺伝子である。FOXP2に突然変異が起きた人は、話したり、文法を理解したりすることが困難になることが知られている。このFOXP2遺伝子をもとにして、FOXP2タンパク質が作られる。ヒト...
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進化が生み出す「多様性」は!現時点で「進化系統樹」に収まらない異形の生物「タリーモンスター」は本当に不思議な生物なのか?

進化が生み出す「多様性」は!現時点で「進化系統樹」に収まらない異形の生物「タリーモンスター」は本当に不思議な生物なのか?奇妙なタリーモンスターアメリカのイリノイ州には、化石がたくさん見つかる地層として有名なメゾンクリーク層がある。メゾンクリーク層の年代はおよそ3億1000万年前で、時代としては古生代の石炭紀に当たる。1955年にアマチュアの化石収集家だったフランシス・タリーは、このメゾンクリーク層で奇妙な化石を発見した。後にタリーモンスターと呼ばれるようになるこの化石は、10センチメートルほどの動物の化石で、頭部の先端が蛇のように長く伸びた構造になっていた。その一番前にはワニのような口がついており、口には歯のような構造も観察された。また、頭部からは細い棒状の構造が左右に突き出していて、その先端は眼になっていたと考えられている。上・トゥリモンストゥルム・グレガリウム(タリーモンスタ ー)の化石(Paul Mayer/The Field Museum of Natural History)、 下・化石から考えられる復元イメージ(Sean Mcmahon/Yale University)こん...
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恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると

恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると鳥は恐竜の子孫である鳥は恐竜の子孫なのか否か、という百年以上続いた論争にも、ほぼ決着がつき、鳥が恐竜の子孫であることが広く認められるようになった。だからといって、恐竜がどうやって鳥になったのかについて、謎がすべて解明されたわけではない。たしかに、恐竜が何らかの進化の道筋を通って鳥になったことについては、すでに多くの証拠で固められており、確実といってよい。しかし、どういう道筋を通って鳥になったのかについては、それほど明らかではないのである。gettyimages飛行しない生物が飛行する生物に進化するときには、その途中で滑空する段階を通ることが普通である。ちなみに、飛行というのは、同じ高度を保って飛べることで、滑空というのは、徐々に高度を下げながら飛ぶことだ。大ざっぱなイメージとしては、動力を使って飛ぶのが飛行で、動力なしで飛ぶのが滑空である。生物における動力は、おもに「羽ばたき」だ。滑空から飛行への進化をたどるとまったく飛行できない生物が、いきなり完全な飛行能力を持つ生物に進化...