生命科学

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「近親交配」によって自分の遺伝子をより多く残すことができる!?……ハプスブルク家にみる「進化の法則」をめぐるジレンマ

「近親交配」によって自分の遺伝子をより多く残すことができる!?……ハプスブルク家にみる「進化の法則」をめぐるジレンマヒトもまた進化の法則に支配されている生物は進化する。そして、私たちヒトは生物である。したがって、もちろん私たちも進化する。だから、私たちも進化の法則に支配されていて、それから逃れることはできない。私たちは、しょせん進化の手のひらの上で踊っているに過ぎないのだ。だから、進化の法則を私たちに当てはめれば、私たちの体の形や行動についての理解が深まるはずである。以上に述べたことは正しい、と私は思う。ということで、進化の法則を私たちヒトに当てはめてみたのが、以下の話である。でも、この話の結論は正しいだろうか(ちなみに以下の話では、「子がいないより、いるほうがよい」といった表現が出てくるが、これは何らかの価値観ではなく、進化のメカニズムとしての話なのでご了承ください)。配偶相手は兄弟姉妹のほうがよい?生物は、自分の遺伝子をなるべく増やそうとする。つまり、なるべくたくさんの子を残そうとする。ヒトの場合は結婚したりして子を残すわけだが、さて、どうすれば自分の遺伝子をたくさん残せるだろうか...
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「ヒトらしさを決める遺伝子」はいつ生まれたのか?その突然変異はヒトの誕生より70万年も前になる!?

「ヒトらしさを決める遺伝子」はいつ生まれたのか?その突然変異はヒトの誕生より70万年も前になる!?「FOXP2遺伝子」がヒトをヒトらしくしている!?私たちヒト(学名はホモ・サピエンス)は、人類の一種である。人類は約700万年前に現れ、進化の結果、数十種に分岐した。しかし、その多くは絶滅してしまい、現在生き残っているのは、私たちヒト1種だけである。ヒトは、他のほとんどの人類種とは異なり、いわゆるヒトらしい行動をすると考えられている。洗練された言語を話したり、芸術的な活動をしたりするのは、その例だ(ヒト以外でそういう行動をした可能性のある種は、ネアンデルタール人などごく限られている)。gettyimagesこのように、ヒトをヒトらしくした原因には、おそらく遺伝子も関係しているだろう。そんな可能性のある遺伝子の一つが、FOXP2(フォックスピーツー)だ。FOXP2は、言語と関係していることが明らかになった最初の遺伝子である。FOXP2に突然変異が起きた人は、話したり、文法を理解したりすることが困難になることが知られている。このFOXP2遺伝子をもとにして、FOXP2タンパク質が作られる。ヒト...
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進化が生み出す「多様性」は!現時点で「進化系統樹」に収まらない異形の生物「タリーモンスター」は本当に不思議な生物なのか?

進化が生み出す「多様性」は!現時点で「進化系統樹」に収まらない異形の生物「タリーモンスター」は本当に不思議な生物なのか?奇妙なタリーモンスターアメリカのイリノイ州には、化石がたくさん見つかる地層として有名なメゾンクリーク層がある。メゾンクリーク層の年代はおよそ3億1000万年前で、時代としては古生代の石炭紀に当たる。1955年にアマチュアの化石収集家だったフランシス・タリーは、このメゾンクリーク層で奇妙な化石を発見した。後にタリーモンスターと呼ばれるようになるこの化石は、10センチメートルほどの動物の化石で、頭部の先端が蛇のように長く伸びた構造になっていた。その一番前にはワニのような口がついており、口には歯のような構造も観察された。また、頭部からは細い棒状の構造が左右に突き出していて、その先端は眼になっていたと考えられている。上・トゥリモンストゥルム・グレガリウム(タリーモンスタ ー)の化石(Paul Mayer/The Field Museum of Natural History)、 下・化石から考えられる復元イメージ(Sean Mcmahon/Yale University)こん...
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恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると

恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると鳥は恐竜の子孫である鳥は恐竜の子孫なのか否か、という百年以上続いた論争にも、ほぼ決着がつき、鳥が恐竜の子孫であることが広く認められるようになった。だからといって、恐竜がどうやって鳥になったのかについて、謎がすべて解明されたわけではない。たしかに、恐竜が何らかの進化の道筋を通って鳥になったことについては、すでに多くの証拠で固められており、確実といってよい。しかし、どういう道筋を通って鳥になったのかについては、それほど明らかではないのである。gettyimages飛行しない生物が飛行する生物に進化するときには、その途中で滑空する段階を通ることが普通である。ちなみに、飛行というのは、同じ高度を保って飛べることで、滑空というのは、徐々に高度を下げながら飛ぶことだ。大ざっぱなイメージとしては、動力を使って飛ぶのが飛行で、動力なしで飛ぶのが滑空である。生物における動力は、おもに「羽ばたき」だ。滑空から飛行への進化をたどるとまったく飛行できない生物が、いきなり完全な飛行能力を持つ生物に進化...
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進化の速度を決定するものとは何か?進化を目撃することはできるのか?グッピーの体色はたった2年で進化したという事実!

進化の速度を決定するものとは何か?進化を目撃することはできるのか?グッピーの体色はたった2年で進化したという事実!ヒトが一生の間に進化を見ることはできない?最近、「進化はとても速く進む」という話を、よく聞くようになった。これまでは、進化はとてもゆっくりと進むので、人間の一生のあいだに進化を目の当たりにすることはできないと言われていた。でも、そんなことはなくて、一生のあいだに進化を見ることは十分に可能だというのだ。たとえば、中部アメリカ原産のグッピーという魚は、捕食者(グッピーを食べる魚)がいない環境では、オスの体色が派手になる。そのほうがメスに好まれるからだ。一方、捕食者のいる環境では、オスの体色は地味になる。そのほうが捕食者に見つかりにくいからだ。地味になるとメスに好まれなくなるというデメリットはあるものの、捕食者に見つかりやすいほうが、デメリットとしては大きいのだろう。gettyimagesプリンストン大学に在籍したジョン・エンドラー(1947-)は、このグッピーを使って、進化の実験を行った。グッピーの生息地に似せた、長さ十数メートルの川や滝を作って、そこにグッピーを放したのだ。そ...
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恐竜の絶滅と偉大なダーウィンの間違いとは!?誰もが信じる白亜紀末の恐竜絶滅「隕石衝突説」はかつて異端の説だった!

恐竜の絶滅と偉大なダーウィンの間違いとは!?誰もが信じる白亜紀末の恐竜絶滅「隕石衝突説」はかつて異端の説だった!恐竜絶滅の原因「隕石衝突説」はトンデモ!?約6600万年前の白亜紀末に、地球に巨大な隕石が衝突し、多くの恐竜を絶滅させた。今なら誰にも気兼ねすることなく、平気でこういう発言ができる。しかし、私が学生のころは、そうではなかった。そんなことを言ったら、怪しい説を信じるおかしな奴だと思われて、馬鹿にされたり冷笑されたりしたものだ。gettyimagesこれは誇張ではなく事実である。実際に私は、そういう場面を何回か見たことがある。しかも、これは日本に限ったことではないらしい。イギリスの古生物学者であるマイケル・ベントンによれば、イギリスやアメリカでも事情は同じだったようだ。怪しい説は、たくさんある。たとえば、地球空洞説だ。地球は中身の詰まった球体ではなく、ゴムボールのように中空になっている、という説である。これは古くからある説で、ハレー彗星の軌道を計算したイギリスの天文学者、エドモンド・ハレー(1656‐1742)も、地球空洞説を唱えていたようだ。20世紀の日本のある作家などは、空飛...
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進化は進歩ではない!?複雑になる生物と単純になる生物……ダーウィンは「進化」をどのようにとらえていたのか?

進化は進歩ではない!?複雑になる生物と単純になる生物……ダーウィンは「進化」をどのようにとらえていたのか?進化=Evolutionは、進歩という意味を含んでいる数人の友人と夕食を食べていたときのことである。少し酔っていた一人が突然、「向上心のない、進化しないやつは、ダメだっ」と、やや大きめの声で言った。彼は大学の先生で、同僚や学生に対する不満が溜まっていたのかもしれない。たしかに、向上心があるのはよいことなので、それがない人はダメな人間だという意見はもっともだろう。私などは、向上心がまったくないわけではないが、あんまりないので耳が痛い。人は努力して、向上していく。進歩していく。そういうときに「進化」という言葉が使われるのを、よく聞くようになった。「進化」という言葉を「進歩」の意味で使うことは、以前からあった。しかし最近、とくに増えたように思う。gettyimagesスポーツ選手が進化する。カメラが進化する。「進化」と言ったほうが、「進歩」とか「改良」とか言うよりカッコよく聞こえる。なかなか「進化」って、いい言葉だ。それなのに学校では、生物の「進化」は「進歩」ではありません、と習う。それ...
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ダーウィンの『種の起源』はいかに受け入れられたのか?19世紀の英国では「科学者」と「聖職者」とが対立していたという誤解!

ダーウィンの『種の起源』はいかに受け入れられたのか?19世紀の英国では「科学者」と「聖職者」とが対立していたという誤解!科学者と聖職者は対立してきた、は本当か?欧米でも日本でも、科学とキリスト教は対立してきた、というイメージが強い。そして、ダーウィンが生きていた19世紀のイギリスは、両者が対立していた典型的な時代とされることも多い。しかし、そういうイメージは本当に正しいのだろうか。たとえば、「地質学的な証拠はノアの洪水が起きたことを示している」とか、「すべての生物は神の創造物であって進化などしない」とかいった考えは、19世紀のイギリスではありふれたものだった。しかし、これらの主張を攻撃したのは科学者で、擁護したのがイングランド国教会の聖職者だった、というイメージは正しくない。実際には、これらの主張を攻撃したのも擁護したのも、イングランド国教会の聖職者だったのである。ダーウィンにも影響を与えたペイリーの『自然神学』ウィリアム・ペイリー(1743‐1805)は、イギリスのノーサンプトンシャーで生まれた。父親が校長をしていたグラマースクールで学んだ後、ケンブリッジ大学のクライスツカレッジに入...
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「人間以外は同種間の殺し合いをしない」という誤解!群れで暮らす生物における「自然淘汰と進化」のはたらきを考えてみると

「人間以外は同種間の殺し合いをしない」という誤解!群れで暮らす生物における「自然淘汰と進化」のはたらきを考えてみると同種の個体を殺すのは人間だけ!?「同種の個体を殺すのは人間だけである。人間以外の動物は、たとえ同種の個体同士で争いになっても、相手を殺すまで闘うことはない。残忍に思えるオオカミも、敵わないと思って相手が服従のポーズを取れば、そこで闘いは終わる。こういう行動は、種を存続させるために進化したものである」gettyimages私が学生だったころの話だが、動物の行動についてこのように教わった。もちろん、これは正しくない。同種の個体同士で殺し合いをする動物はたくさんいる。たとえば、サルの仲間ではハヌマンラングールやチンパンジーなど、その他の哺乳類ではライオンやイルカなど、鳥の仲間ではカモメやレンカクなど、昆虫ではタガメやミツバチなどで、同種の個体を殺す行動が観察されている。オオカミの群れとよそ者のオオカミまた、オオカミといえば、人類学者であるパット・シップマン(1949‐)が、アメリカのイエローストーン国立公園で目撃した例が忘れられない(*1)。8頭のオオカミの群れが、死んだバイソ...
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異形のハエ「シュモクバエ」の眼柄はなぜ長くなったのか?「グッピー」のきれいな色はなんのため?性淘汰と自然淘汰の違い、わかりますか?

異形のハエ「シュモクバエ」の眼柄はなぜ長くなったのか?「グッピー」のきれいな色はなんのため?性淘汰と自然淘汰の違い、わかりますか?飛べるのが不思議!? 世にもシュールなハエ生物は環境に適応するように進化する、と一般には考えられている。ある環境において、その生物が生存できる可能性を高めるように進化していくというわけだ。しかし、じつは、生きていくために不便な特徴が進化することは、そう珍しいことではない。シュモクバエは、おもにアフリカやアジアの熱帯に生息するハエである。多くの種がいるが、その一部は左右の眼が非常に離れており、かなりシュールな印象を受ける。頭部から、眼柄(がんぺい)と呼ばれる棒のような構造が左右に伸びており、その先端に眼がついているのだ。Rob Knell眼柄はオスにもメスにもあるが、とくにオスの眼柄は長く、片側だけで体長を上回ることさえある。ちなみに、鐘などを打ち鳴らすための道具を撞木(しゅもく)という。これはT字型をしており、シュモクバエの名前はここからきている。シュモクバエの眼柄は非常に長いので、飛んだり歩いたりするときに邪魔になるだろう。これは生きていくために不便な特徴...
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なぜ化石に残らない特徴が化石からわかるのか?生物が海から陸上へと進出した過程と「羊膜類」の出現が「石炭紀」だとわかる理由!

なぜ化石に残らない特徴が化石からわかるのか?生物が海から陸上へと進出した過程と「羊膜類」の出現が「石炭紀」だとわかる理由!完全な陸上進出を成し遂げた羊膜類昔、私たちは魚だった。それから長い進化の道のりを経て、私たちは哺乳類になった。そのあいだには、さまざまな出来事が起きたけれど、そのなかで最大の出来事の一つが陸上への進出だろう。gettyimages現在の私たちは、完全に陸上で生活することができる。多くの両生類も陸上で生活しているけれど、卵や幼生のときはたいてい水中で暮らしている。でも、私たちには、そういう時期はない。私たちのなかには、大人になるまで海や湖を見たことがない人もいるかもしれない。それでも、生きていくうえでは、とくに不都合はないのである。ところで、私たちが陸上生活を送れるようになるためには、「羊膜卵」の進化が決定的な役割を果たしたと考えられている(羊膜卵については後述する)。羊膜卵を持つ動物を「羊膜類」といい、現生生物のなかでは爬虫類と鳥類と哺乳類が含まれる。化石記録によれば、羊膜類は石炭紀(約3億5900万~2億9900万年前)に現れたと考えられている。ところが、羊膜卵は...
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わずかに頭角を現し、やがて急速に増えていく…「生命はあるけど生物じゃない」存在が「生命誕生の謎」を明らかにする「衝撃のシナリオ」

わずかに頭角を現し、やがて急速に増えていく…「生命はあるけど生物じゃない」存在が「生命誕生の謎」を明らかにする「衝撃のシナリオ」最初こそゆっくりだけど、時間とともに一気に増加する生命は必ず自己複製しないといけないか、というところから疑って考察すると、自己触媒という手段が考えられます。ふつうの触媒反応は、用いられる触媒分子Cによって、出発分子AからBがつくられるものです。触媒C自体は変化しません。しかし、CがAから自分と同じCをつくりだす反応があります。これが、自己触媒反応です。この反応では、Cは原材料Aがなくならないかぎりは増えつづけます。しかも、しだいに触媒が増えるため、反応速度も増加します。ただ、ふつうは材料に制限があるので、反応は減速されて頭打ちになります。自己触媒反応において、Cの濃度の変化をグルフに取ると、その変化はS字型の曲線「シグモイド曲線」となります(図「自己触媒反応」)。自己触媒反応。(b)では生成されたCが触媒となり反応速度を上げ、グラフ(図の右)上には特徴的なS字カーブ「シグモイド曲線」描かれるCの触媒能が小さく、もともとのCの濃度が低い場合も、Cの増え方は最初こ...
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この宇宙で生命は生まれているのか…じつは、生命の材料は「簡単」にできる。それでも、生命の生成を阻む、限りなく「確率ゼロに近い壁」

この宇宙で生命は生まれているのか…じつは、生命の材料は「簡単」にできる。それでも、生命の生成を阻む、限りなく「確率ゼロに近い壁」地球外生命検出の「ミシュラン方式」現在の地球においても、「1」(生命)と「0」(非生命)の区別は、実はそう簡単につかないことがわかりました。そのような状況で、地球外に生命がいるかどうかなど、どうやって調べたらいいのでしょうか。これまでに行われた例としては、ヴァイキング計画での、土壌を熱して出てくる有機物を調べる方法や、3つの「ヴァイキング生物学実験」があることは、以前の記事で紹介しました。これらは地球の表層環境での生物の検出から発想されたものでした。しかし最近では、火星には表層ではなく地下に生物がいる可能性が考えられていますので、光合成を調べる方法(図のA)などは使えないでしょう。生命の存在を調べる「ヴァイキング生物学実験」ヴァイキング生物学実験A:「熱分解放出実験」。火星の土壌に水と二酸化炭素を加え、光を当てたあとに土壌中で有機物がつくられるかどうかを調べる実験。もし地球の光合成生物(シアノバクテリアなど)のようなものがいれば、土壌を加熱したときに二酸化炭素...
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ますます深まる謎…ウイルスから考える「まぎれもない生物」と「明らかな無生物」のはざま

ますます深まる謎…ウイルスから考える「まぎれもない生物」と「明らかな無生物」のはざま生命と非生命の境界連続的なスペクトラムという考え方は、生命と非生命のあいだにも当てはめることはできないでしょうか。『生物と無生物の間』という本があります(川喜田愛郎/岩波新書)。副題は「ウイルスの話」とつけられています。たしかに、ウイルスは生物と無生物のあいだに置くことができるのかもしれません(なお、ほぼ同じタイトルでベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一/講談社現代新書)は生命とは何かについて考察をめぐらせたものです)。ウイルスが生物か生物でないかということは、たびたび議論されていますが、生命と非生命を二分する立場の生物学者から見ると、ウイルスは生物ではないとすることが多いようです。ウイルスは、細胞膜は持っていませんが、核酸(DNAもしくはRNA)を持ち、カプシドというタンパク質で覆われています。なかにはエンベロープとよばれる脂質二重膜を持つものもあります。しかし、単独では代謝ができず、宿主の細胞に入って宿主のタンパク質合成系を用いて、タンパク質を合成しています。以前の記事〈まさか…生...
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生における性の問題…男と女のあいだは、じつに「さまざまな状態」だった

生における性の問題…男と女のあいだは、じつに「さまざまな状態」だった虹の色から考える連続性生命と非生命はデジタル的に0と1に区分できるのでしょうか。それとも連続的につながっているのでしょうか。連続的なものには「スペクトラム」という言葉が使われることがありますが、もしかしたら生命においても「生命スペクトラム」という概念が成り立つのでしょうか。生命と非生命のあいだをどう埋めればよいかを考えていきたいと思います。空にかかる虹の色は、日本では「虹の七色(なないろ)」といわれています。外側からいえば、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫です。これはニュートンが著書『光学』の中で虹の色を音階の7音(ドレミファソラシ)と対応させたからで、ニュートン以前は3色とか5色とされてきました。しかし、いまも虹を何色とするかは国によってさまざまで、オランダやイタリアなどはニュートンに従って7色としていますが、ドイツやフランスでは5色(赤・橙・黄・緑・青)とされ、アメリカやイギリスでは20世紀以降は、青や紫と見分けにくい藍を7色から除いて6色とすることが一般的です。実はニュートンも、虹の色がはっきり7つに分かれると思ってい...
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じつに、5000個もある「太陽系外の惑星」。そこに生命の存在は見出せるか…認めざる得なかった「地球の生命システム」の独自性と多様性

じつに、5000個もある「太陽系外の惑星」。そこに生命の存在は見出せるか…認めざる得なかった「地球の生命システム」の独自性と多様性全球凍結で生じた光合成生物の激減地球での生物進化を振り返り、そこに、非生命が生命に至るまでの化学進化について学ぶものがあるか、考えてきました。その過程で、前回の記事では、シアノバクテリアの大量発生を原因とする、地球大気の酸素濃度上昇「大酸化事変」が引き起こした「全球凍結」(スノーボール・アース)事件を取り上げました。では、全球凍結とは、どのような出来事だったのでしょうか。米国の地質学者ジョゼフ・カーシュヴィンクは、 6億3500万年前には赤道の直下だったはずの南オーストラリアの地層を調べたところ、そこに氷河が運んできた堆積物が存在するのを見つけ、この時期に地球全体が凍結していたとする全球凍結説を提唱しました。それまで知られていた新生代の氷河期は、氷河が中緯度まで押し寄せてきたとするもので、赤道までは凍っていませんでした。もし、赤道も凍っていたとすると地球は真っ白な惑星になり、太陽からの光の多くを反射するため、地球の温度はますます下がってしまうでしょう。それは...
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なんと、地球丸ごと氷に覆われた時代があった…生物進化と地球進化の「衝撃的なシンクロ」事件

なんと、地球丸ごと氷に覆われた時代があった…生物進化と地球進化の「衝撃的なシンクロ」事件「進化曲面」で考える進化前回、見てきたダーウィンの自然選択説は、いろいろと批判を受けてきましたが、変異が起きるしくみが説明されていないなどの欠点はあるものの、さきほど紹介した突然変異説や、新たに発展してきた遺伝学により補強されていきます。さらに、変異の多くは自然選択的に有利でも不利でもないという、日本の遺伝学者の木村資生(きむら・もとお。1924〜1994)が唱えた「中立進化説」が登場します。当初は自然選択説に対抗するものともみられましたが、変異はすべて中立であるとする考えは、実は自然選択説と共通するものであり、やがて両者は統合されていきました。こうして自然選択説のもとにこれらの説が一つにまとまっていき、現在では「総合進化説」や「ネオ・ダーウィニズム」などとよばれ、さまざまな修正を受け入れながらも基本的には進化のメカニズムの中心にすえられて、ダーウィン進化論は進化学の主流となっています。NASAの生命の定義にも「ダーウィン進化しうる自立した分子システム」と明記されています。自然選択説は、さまざまな修...
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この地球最大の謎「生命は、どうやって生じた」のか…じつに、40億年もの生物進化から見えてきた「意外すぎる盲点」

この地球最大の謎「生命は、どうやって生じた」のか…じつに、40億年もの生物進化から見えてきた「意外すぎる盲点」有力説ながら、不明点も多い「化学進化説」1920年代、オパーリンとホールデンは、生命の誕生を単純な物質から複雑で組織化された物質への化学進化によって説明しようとしたことを、かつての記事で述べました。この化学進化説はいまも、多くの研究者に大筋では認められています。しかしながら、その詳細については不明な点だらけです。アレクサンドル・イヴァノヴィッチ・オパーリン(左)とアレクサンドル・オパーリン*参考記事:「生命は自然に発生する!」ありえないとされた説が息を吹き返して提唱された「生命の一歩手前」の衝撃の姿そのため数回にわたるシリーズ記事でも、化学進化の道筋をより明瞭なものにするため、他の天体での化学進化を探ったり、もし「第2の生命」が存在すればそれと比較したりする必要があることを述べました。しかし、惑星探査には時間がかかるため、それらの情報が得られるのは、少し先のことになりそうです。そこで今回から数回にわたって、現時点でも地球上で可能な、化学進化についての考察を深める手段をみていきま...
健康

「土踏まずがある人」と「偏平足の人」では、どちらが進化しているのか…あまりに「誤解されすぎている考え」から導き出す「本当の答え」

「土踏まずがある人」と「偏平足の人」では、どちらが進化しているのか…あまりに「誤解されすぎている考え」から導き出す「本当の答え」土踏まずがない横綱「土俵の鬼」と呼ばれた横綱がいた。1958年に横綱に昇進し、栃錦とともに栃若時代を築き上げた二代若乃花である(初代若乃花(あるいは若ノ花)とされることが多いが、師匠である大ノ海も若ノ花の四股名を使っていたことがあるので、正しくは二代である)。この若乃花は、自分には土踏まずがない、と言っていた。土踏まずがない足のことを偏平足というが、どうやら若乃花は偏平足だったらしい。土踏まずがなかった初期の人類土踏まずというのは、脚の裏にある凹んだ部分のことで、かかとと親指の付け根を結ぶ骨が上向きにアーチ状の構造をしているために形成される。足は地面に着地するときに衝撃を受けるが、その衝撃を吸収するクッションの役割を果たすので、歩くときに便利な構造である。土踏まずが見えるよう、左内側から写した右足のレントゲン写真 photo by gettyimages人類の進化において、チンパンジーに至る系統と私たちに至る系統が分かれたのは、およそ700万年前のことと推定さ...
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もしも「地球外生命」が見つかったら…原始地球で繰り広げられた「生命誕生のシナリオ」は、どう塗り替えられるのか

もしも「地球外生命」が見つかったら…原始地球で繰り広げられた「生命誕生のシナリオ」は、どう塗り替えられるのか地球の化学進化のヒントとなるタイタンの大気組成地球での生命誕生の痕跡は、現在の地球上にはまったく残っていません。そのため、化学進化の過程を議論するためには、実験室内で模擬実験をしたり、計算シミュレーションをしたりする方法が主流になっていますが、天体という大きなスケール、長い時間で実際にどのようなことが起きるかを知るには、それらでは不十分な点が多々あります。そこで、他の天体に注目するわけです。自然界でどのような化学進化が起きうるのかを考える手がかりとして、最も有力視されている天体はタイタンです。大気中の窒素とメタンから、さまざまなエネルギーによって、どこでどのような有機物ができるのかをカッシーニ計画で調べたところ、高度950km以上の高層大気で、波長が短い紫外線により、高分子量の複雑な有機物(カール・セーガンがいう「ソーリン」)が生成していることがわかりました。また、もう少し下方(高度数百km)でも、土星の磁気圏の電子によるプラズマ放電でソーリンが生成していて、これがタイタン上空で...