中身を見ればわかる。「ヒトの体は、左右対称ではない」…じつは、生物の「外形はコロコロ変わる」。環境から見えてくる「進化の真実」

生命科学
ヒトの体は、左右対称ではない…じつは、生物の「外形はコロコロ変わる」。環境から見えてくる「進化の真実」
アメリカの心理学者であるボールドウィンは、ダーウィンの『種の起源』で唱えられた「自然淘汰」よりも、さらに踏み込んで、生物が自ら進化の道筋を決められるような進化のしくみとして「生物淘汰」を提唱しました。ボールドウィンの理論は、ダーウィンの進化理論とラマルクの進化理論の折衷案だと考えた学者もいたそうですが、果たしてそうなのでしょうか。

中身を見ればわかる。「ヒトの体は、左右対称ではない」…じつは、生物の「外形はコロコロ変わる」。環境から見えてくる「進化の真実」

クジラが魚類ではなく、哺乳類であることは知られていることですが、鰭状の前脚など、私たちヒトと同じ哺乳類より魚類に近い外形を持っているように、生物の本質は、外形から窺いしれない事実は非常に多くあります。

ヒトの体も左右対称に見えますが、内部の臓器・器官は左右で非対称です。このように、生物がどのような歩みを経てきたのかを考えるときに、外見に騙されることも少なくありません。

生物の形に影響を与えやすい環境を、念頭に生命と進化の捉え方を考えてみます。

【写真】ダヴィンチの解剖図。ヒトの体が左右対称というのは、本当なのか

ヒトの体が左右対称って、本当……!? photo by iStock

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私たちの体は本当に左右対称か

私たちの体は左右対称である。右眼と左眼、右手と左手など、体の右側と左側がだいたい同じ形をしている。そのため、心臓が左側に(ごくまれには右側に)あると聞くと、驚く人もいる。私たちの体は左右対称にできているのに、なぜ心臓が左側にあるのか不思議に思うのだろう。

でも、考えてみれば、心臓が左側にあるのは、それほど不思議なことではない。

なぜなら、私たちの体の中は、ほとんど左右対称になっていないからだ。胃は左側に大きく膨らんだ形をしているし、小腸や大腸は複雑な形をしているが左右対称ではない。

肝臓は右側が大きい直角三角形のような形だし、膵臓は十二指腸から左側に伸びている。腎臓は左右に2つあって、形も大きさも似ているけれど、位置が違う。左腎(さじん)は右腎(うじん)より高い位置にあるのだ。

肺は左右対称のように見えるが、よく見ると右の方が大きいし、構造も異なる。

右肺(うはい)は上葉(じょうよう)、中葉(ちゅうよう)、下葉(かよう)という3つの部分に分かれているが、左肺(さはい)は上葉と下葉という2つの部分に分かれているのである。

【イラスト】私たちの体の中は、ほとんど左右対称になっていない
私たちの体の中は、ほとんど左右対称になっていない illustration by iStock

なぜ体の外側は左右対称になっているのか

それでは、なぜ体の中は左右対称になっていないのだろうか。受精卵が細胞分裂をしながら発生していく過程はかなり研究されており、それぞれの臓器の作られ方は、ほぼ明らかになっている。それらを踏まえて、左右対称でない理由を大雑把にいえば、体内の臓器が左右対称である必要性はあまりないから、ということになるだろう。

それに引き換え、体の外形が左右対称である必要性はかなり高い。なぜなら、動くときには左右対称の形が便利だからだ。

獲物を捕まえたり捕食者から逃げたりするときには、素早く動く必要がある。そういうときには直進するのがもっともよい。そして、直進するのにもっともすぐれた形は左右対称形なのだ。

さらに、微妙に調節しながら左右に曲がるときにも、左右対称形は優れている。そのため、自動車や船や飛行機は、左右対称形なのだ。

だから、どちらかといえば、「なぜ体の中は左右対称になっていないのか」を問うのではなく、「なぜ体の外側は左右対称になっているのか」を問うべきなのだろう。

私たちは、よく目にするものは当たり前のものと捉えて、疑問に思わないことが多い。そして、そういう勘違いは、他にもいろいろな場面で起きているのである。

よく目にする体の外側が左右対称であることを、当たり前のものと考えることが多い illustration by iStock

クジラに近縁なのはサケかヒトか

突然だが、あなたはクジラだとしよう。大きな体で優雅に水の中を泳ぐ、あのクジラだ。

では、あなたから見て「系統関係」が近いのは、魚のサケと私たちヒトのどちらだろうか。

ちなみに系統関係というのは、生物の類縁関係のことである。あなたにとっては、兄弟姉妹の方が、いとこよりも類縁関係が近い。あなたと兄弟姉妹は親が同じだが、あなたといとこでは祖父母まで遡らないと同じにならない。あなたから見て、兄弟姉妹の方が(大げさな言い方をすれば)共通祖先が近く、いとこの方が共通祖先が遠い。つまり、類縁関係の近さは共通祖先の近さで決まるわけだ。このような、個体のあいだの類縁関係を血縁関係という。

系統関係の場合は、種のあいだの類縁関係なので、血縁関係とは異なる概念だが、共通祖先が近いか遠いかで系統関係が近いか遠いかが決まる点は同じである。

血縁関係(左)と系統関係。血縁関係で見ると、「いとこより、兄妹の方が共通祖先が近い」と言える。また、系統関係で見ると「ゾウリムシはミドリムシとの共通祖先より、粘菌との共通祖先が近い」と言える

クジラもヒトも母親と子どもは胎盤がつながっている

さて、クジラの話に戻ろう。クジラから見て、系統関係が近いのはサケだろうか、それともヒトだろうか。

クジラに形が似ているのは、サケだろう。両者とも水の中を泳ぎやすいように流線形の体をしているし、鰭(ひれ)も付いている(そのため、かつてはクジラを魚の仲間だと考えた人もいた)。

一方、ヒトの体は流線形をしていないし、鰭もない。陸上に住んでいるので、移動手段は鰭ではなく肢である。

しかし、クジラの体の中は、かならずしもサケに似ているとはいえない。たとえば、クジラは子どもをお腹の中で育てるので、母親と子どもをつなぐ構造である胎盤が(妊娠中の雌には)ある。しかし、サケに胎盤はない。

この点で似ているのは、クジラとヒトである。

直観に反する系統関係

じつは、あなたも知っているとおり、クジラに系統関係が近いのは、サケではなくヒトである。

これは確実な科学的事実だけれど、私たちの本来の直観には反している。そのため、クジラを魚だと考えた人が、かつてはいたわけだ。

その後、研究が進んで、いろいろな根拠から(胎盤があることもその一つだ)クジラは私たちと同じ哺乳類と考えられるようになった。

【写真】クジラの親仔。クジラは私たちと同じ哺乳類と考えられるようになった
胎盤があることなどから、クジラは私たちと同じ哺乳類と考えられるようになった photo by gettyimages

つまり、似ているからといって、系統関係が近いとは限らないのだ。こういうことが起きるおもな理由は、生物が自然淘汰によって、環境に適応するように進化してきたからである。

私たちに見えているものは体の外側の形だけ

生物の体の外側は、環境に直接接しているので、環境の影響を受けやすい。つまり、自然淘汰によって変化しやすく、同じグループの生物でも形が大きく異なることがある。環境がしょっちゅう変化すれば、外側の形もコロコロ変わるわけだ。

ところが、私たちの目に見えるのは、生物の外側の形だけである。系統的に近くても、水中に棲んでいるクジラと陸上に住んでいるヒトでは外側の形は大きく違うし、系統的に離れていても、同じ水中に棲んでいれば、クジラとサケのように外側の形が似ている。

【写真】クジラ類の外形。系統的に近いヒトよりも、同じ水中に棲むクジラとサケのように外側の形が似る
系統的に近いヒトよりも、同じ水中に棲むクジラとサケのように外側の形が似る photo by gettyimages

このように、環境に適応している外側の形を使って、系統関係を推定するのは難しいので、しばしば私たちは勘違いをしてしまうのである。

クジラが水中へと活動圏を変えたときに起きた変化は

ここまでは、体の外側と内側という区別で説明してきたが、より本質的には環境に適応しているかどうかが問題だ。

たとえば、クジラはカバに近い仲間から進化したと考えられている。つまり、陸上から水中へと生きる場所を変えたわけだ。そのとき、環境により強く影響されるのは胎盤だろうか、それとも肢だろうか。

【イラスト】水陸両生の原始的クジラ類とされる、アンブロケトゥス類の復元像
水陸両生の原始的クジラ類とされる、アンブロケトゥス類の復元像 illustration by gettyimages

胎盤は、母親の体内で子どもを成長させる仕組みである。ある程度まで成長させてから子どもを産めば、子どもの生存率が高まることが期待される。

これに関しては、陸上でも水中でも、それほど事情は変わらないだろう。そのため、クジラが水中へ進出したときも、胎盤に大きな変化はなかったのだと考えられる。

一方、肢は、陸上生活に適した器官である。水中でも役に立たないことはないが、泳ぐためなら鰭の方がずっと役に立つ。そのため、水中へ進出したときに、肢を鰭に変化させたのだと考えられる。

環境に適応している形質は系統関係を反映しない

ある環境にそこそこ適応している形質なら、環境が変わってもそこそこ役に立ち続けるかもしれない。しかし、ある環境にすごく適応している形質は、環境が変わるとすぐ役に立たなくなる可能性が高い。

体の外側に付いている形質は、得てして後者の場合が多い。そのため、環境の変化に敏感な場合が多く、その形質を使って系統関係を推測しようとすると、間違ってしまうことが多いのだろう。

逆に言えば、どんな環境でも役に立つ形質は、環境が変わっても変化しないはずだ。そんな形質を、私たちは一つもっている。

私たちは、環境が変わっても、動くことをやめなかった。何億年も動き続けた。その結果、みごとに左右対称な体の形に進化したのであろう。

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何億年も動き続けた結果、ヒトはみごとに左右対称な体の形に進化した illustration by iStock

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