科学論

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黒潮大蛇行の終息、見通しは? 海洋研究開発機構の美山主任研究員に聞く 気象災害や猛暑改善に期待も

黒潮大蛇行の終息、見通しは? 海洋研究開発機構の美山主任研究員に聞く 気象災害や猛暑改善に期待も 2017年8月に始まり、本格的に観測開始した1965年以降で最も長く続いた黒潮大蛇行が終息の兆しを見せている。漁業や気象環境に長期に影響を及ぼした「スーパー黒潮大蛇行」は、静岡県内ではサクラエビやシラスの不漁、台風15号による浸水、熱海土石流に関係したとの指摘もある。ただ、黒潮の威力はいまだ弱く、いつ大蛇行が復活してもおかしくない状況。海洋物理学が専門の美山透海洋研究開発機構(JAMSTEC)主任研究員(55)に見通しを聞いた。▶▶6日8日時点の黒潮の様子 ―黒潮の最新の動向は。 「静岡沖で北緯32度より南まで蛇行していた黒潮は、紀州半島沖の冷水塊を挟み、いったん2~3月にプチンと切れた。こうしたことは大蛇行中に何度もあったが、その後再び4月末に同じ箇所で途切れ、そのままの状態が続いている。ただ、大蛇行が解消するときは冷水塊を北東に押し出すように黒潮の勢いが増すのが常だが、今はまだ黒潮の勢いは弱く、大蛇行がまたすぐに復活する可能性はあると考える。気象庁の基準では、大蛇行が3カ月間観測されな...
現代の日本

過去最長・7年継続の「黒潮大蛇行」が終息か? 漁業や気象への影響は

2025-05-22 05:00 ウェザーニュース気象庁は5月9日、紀伊半島から東海沖の黒潮大蛇行が5月8日現在みられなくなり、この状態が持続して大蛇行が終息する兆しがあると発表しました。今回の黒潮大蛇行は2017年8月から過去最長7年9か月続いたもので、カツオやシラスなどの漁業や船舶の運航、気象など、私たちの生活への影響も見逃せません。「黒潮親潮ウォッチ」で黒潮流路の変化とその予測について情報発信を行っている、海洋研究開発機構・アプリケーションラボの美山透主任研究員に、発生のメカニズムや影響など詳しく教えていただきます。過去最長で続いた黒潮大蛇行黒潮が大蛇行するとは、どういう現象でしょうか。黒潮とは、東シナ海から日本列島の南岸に沿って北上する暖流です。透明度が高いため、沖を流れる海流が黒っぽい色にみえることから黒潮と呼ばれています。「黒潮は、強い流れは幅100km深さ1000mにも及ぶ、世界最強の海流の1つです。流速は速いところで毎秒2.5m以上に達しますが、これは自由形競泳世界記録保持者でも逆らっては泳げない速さです。運ぶ水の量は、季節や場所によっても変化しますが、約毎秒2000〜...
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ホンマでっか池田教授が「人為的温暖化」に物申す。世間を混乱させる“陰謀論”のカラクリとは?

ホンマでっか池田教授が「人為的温暖化」に物申す。世間を混乱させる“陰謀論”のカラクリとは?近年やたらと目にする陰謀論。特に人為的な二酸化炭素の排出により地球温暖化を引き起こしているのではないかとする「人為的地球温暖化」の主張などは長年の間拡散されています。なぜ、このような陰謀論を信じてしまう人がいるのでしょうか? メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で生物学者、CX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの池田教授は今回、オカルトから科学、そして陰謀論に結び付いてきたのはなぜかという疑問について語っています。オカルト、科学、陰謀論オカルト、科学、陰謀論と続けば、何やら怪しい三題噺みたいだが、この三つ、結構繋がりがあるのだ。私はかつて『科学とオカルト』(PHP新書)と題する本を書いたことがある。1999年の初版だから、26年前のことだ。まだこの頃は陰謀論という語は一般的ではなかったので、この本には、オカルトと科学とカルトの関係しか書かれていない。本稿では、オカルトに端を発した科学が近年になって陰謀論に結び付いてきたのはなぜかという話をしてみたい。『科学とオカルト』にはこの二つの違いについ...
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このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」

このまま膨張し続けたら、宇宙はどうなってしまうのか…「最悪のシナリオ」と「人類に残された希望」宇宙全体の70%を占めるダークエネルギー前の記事で述べたように、ダークエネルギーもしくは宇宙定数が現在の宇宙に占める割合は、観測から約70%です。このダークエネルギーの多さが、インフレーションと同様に、現在の宇宙で、宇宙の加速膨張を引き起こしています。Ia型と呼ばれる超新星爆発からの光を観測すると、宇宙の大きさが1/3から1/2の昔と比べて、現在の宇宙年齢に近づけば近づくほど、加速膨張がどんどん激しくなってきていることがわかってきました。Ia型とは、恒星の終末期の1つの姿である白色矮星にガスが降り積もって臨界質量を超えることで爆発するタイプの超新星爆発です。1998年に同時に発表された宇宙の加速膨張を示す観測データの業績により、アメリカのソール・パールムッター博士たちと、オーストラリアのブライアン・シュミット博士とアメリカのアダム・リース博士たちの2つのグループに2011年、ノーベル物理学賞が与えられました。photo by iStockダークエネルギーは、現在では宇宙全体のエネルギーの70%...
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ついにここまで絞られた!「ナゾの物質」ダークマターの正体とは…?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!

ついにここまで絞られた!「ナゾの物質」ダークマターの正体とは...?「最有力候補」を科学的検証とともに一挙解説!どうやってダークマターを見つけるのか先の記事で、理論的に予言されるダークマターの有力候補について、ちょっとだけご紹介しました。本記事では、それぞれについて詳しく説明してみたいと思います。最も有力な候補と目されているのは、WIMPと呼ばれる未発見の素粒子です。「弱い相互作用をする重い粒子」という意味の英語の頭文字を取って、そうした性質をもつ粒子の総称として名付けられました。重さは、陽子の100倍(約100GeV)程度以上です。他の粒子との相互作用が弱すぎて散乱の頻度が低くて見つけられない粒子なのです。英語の単語wimp自体が弱虫という意味なので、名は体を表していますね。具体的な粒子としては、まだ仮説である超対称性理論に現れる光子、もしくは、Z粒子かヒッグス粒子の相棒の総称であるニュートラリーノが、WIMPの候補として注目されています。photo by iStockニュートラリーノの見つけ方は単純です。キセノン原子などの重い原子核を数トンも用意して、ニュートラリーノがぶつかってく...
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宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」

宇宙の運命を握る「ナゾの物質」ダークマター…最新研究から浮かび上がった「意外な正体」宇宙の運命を握るもの本記事では、宇宙には見える物質のエネルギーより、ダークマター(暗黒物質)がその5倍近く多く存在し、その強力な重力により物質を引き寄せて、これまで多くの銀河がつくられてきたことを解説します。ダークマターが、銀河同士すらも引き寄せて、より大きな天体である銀河団や超銀河団をつくるなど、これまでに観測されている宇宙の大規模構造をつくってきたのです。その一方、引力ではなく斥力をもつダークエネルギー(暗黒エネルギー)の量が徐々に増えてきて、ダークマターの3倍近くほどのエネルギーをもつに至り、現在の宇宙を加速膨張させ続けていることを紹介します。つまり、ダークエネルギーこそが、将来の宇宙の運命を握る、極めて重要な役割を担っているのです。物質という言葉が意味するものは、さまざまな背景により、その定義が異なってきます。しかし、これまでの章で述べられてきたように、素粒子物理学では物質とは、主にクォークでつくられた陽子や中性子のような核子を指します。もしくは、その材料であるクォークやレプトンなどの素粒子を指...
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じつは「ビッグバンによって宇宙ができた説」は問題だらけ…残されたナゾと通説に挑む新理論を一挙紹介!

じつは「ビッグバンによって宇宙ができた説」は問題だらけ…残されたナゾと通説に挑む新理論を一挙紹介!ビッグバン宇宙モデルの問題点ビッグバン宇宙モデルですが、ある決定的な問題があることがわかってきました。本記事ではそのお話をしたいと思います。遠くを見ることは、過去の宇宙を見ることに相当します。例えば、うみへび座銀河団までの距離は約1億6000万光年です。地球で1億6000万年前といえば、ジュラ紀の中期から後期にさしかかるという恐竜が全盛の時代です。その時期にうみへび座銀河団を出た光が、現在、地球で観測されているのです。逆に、うみへび座銀河団に住んでいる宇宙人たちは、ジュラ紀の地球から出た光を、現在観測しているのです。彼らは、現在の地球には恐竜がいると判断してしまうのでしょうが、やむを得ません。photo by iStock火の玉のなごりの電波は、宇宙誕生から約38万年後に発せられました。その時期に火の玉宇宙が透明になり、光が散乱されずに直進できるようになったのです。現在は、138億年かけて飛んできた138億年前の約0.3eVのエネルギーの光を見ることができます。どの方向を見ても約10万分の...
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「宇宙は膨張している」となぜ言えるのか…数々の批判をくぐり抜け、定説となった「あまりにも型破りな理論」

「宇宙は膨張している」となぜ言えるのか…数々の批判をくぐり抜け、定説となった「あまりにも型破りな理論」ビッグバンの火の玉の膨張われわれが住んでいる場所は特別であるとする、古代ギリシャ、プトレマイオスの「天動説」。それが、1543年に発表されたコペルニクスの「地動説」により否定され、われわれの地球は、太陽の周りを回る、ごくありふれた惑星であることが指摘されました。地動説がキリスト教会から警戒され、イタリアのガリレオ・ガリレイ博士が裁判にかけられながら「それでも地球は回っている」と言ったというエピソードは、あまりにも有名です。ニュートン博士が万有引力の法則を発表するずっと前、1609年から1619年にかけて発表された「ケプラーの三大法則」でも、地球の軌道は円ではなく楕円であることが、詳細な観測により、すでにわかっていたというのですから驚きです。photo by iStock1687年にニュートン博士の宇宙モデルが提唱されます。ニュートン博士が発見した有名な万有引力の法則は、リンゴの運動だけではなく、宇宙のあらゆる天体の運動にも適用され得る点で、宇宙中で使うことのできる普遍的な物理法則です。...
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実際のところ、宇宙はどれくらい大きいのか…銀河10万個分を超える「途方もない数字」

実際のところ、宇宙はどれくらい大きいのか…銀河10万個分を超える「途方もない数字」無限に広がる大宇宙、と言うけれど…無限に広がる大宇宙。皆さんも、これまで数え切れないほど、夜空を見上げてこられたのではないでしょうか。筆者も、かつて過ごした東京のような都会であれ、兵庫県南部のベッドタウンの加古川であれ、イギリス湖水地方に近い田園地帯に囲まれたランカスターであれ、数え切れないほど夜空を見上げてきました。それぞれ多い、少ない、の違いはありますが、いつどこであっても夜空には星々が凜としてきらめいています。人生のそれぞれの状況に応じて、時には目が覚めるような明るさにハッとさせられた経験をおもちの方もいらっしゃるでしょう。photo by iStock私たちは、目まぐるしく変わる日常を生きています。しかし、いつ見上げても、夜空の星々は、まったくその姿を変えないかのように宇宙に浮かんでいます。皆さんも、この一見、不変であるような宇宙が、いったいいつから存在し、そしてどこまで遠く続いているのか? その果てしない大きさと悠久の時の流れに、思いを巡らせたことがあるのではないでしょうか。実は、夜空の星座の配...
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真空に埋まっている「何か」の正体がわかれば…宇宙の起源に結びつく「素粒子に残されたナゾ」

真空に埋まっている「何か」の正体がわかれば…宇宙の起源に結びつく「素粒子に残されたナゾ」右巻き粒子と左巻き粒子1個の素粒子に注目したとき、右と左はどう定義すればよいでしょう。静止した1つの点には右も左もありません。しかし、現実の素粒子は、「スピン」という重要な性質をもちます。スピンとは、素粒子がもつ、あたかもスピン(自転)しているかのような性質のことです。量子論の一般的な制限によって自転の速さには最小単位があって、多くの素粒子はその最小の大きさのスピンをもって自転しており、決して止まることはありません。では、その回転は、どっち向きなのでしょう。1個の素粒子にとって北極と南極はどっちか、という問題です。もちろん、何もない空間には北も南もありません(磁場があれば別ですが、今は磁場のない空間を考えることにします)。方向のない空間に置かれた素粒子ですが、ここに1つ基準となる方角があります。その素粒子自身が走る方向です。その方向に沿って自転の向きを区別することができるでしょう。進行方向に向かって時計回りに回転する素粒子は右巻き、反時計回りは左巻き、という具合です(「図:素粒子のスピンの向き」)。...
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真空では「考えられないこと」が当たり前のように起きている…量子色力学から見た「トリッキーすぎる世界」

真空では「考えられないこと」が当たり前のように起きている…量子色力学から見た「トリッキーすぎる世界」何もない真空で起こっていることクォークに働く強い力。その基礎理論は「量子色力学」と呼ばれています。量子色力学は、電磁気力の理論と非常に似たものですが、電荷に相当する「色荷」が3種類(3色)あるところが、大きく異なります。そのために電磁気力を伝える光子に相当するグルーオンはそれ自身が色荷をもち、強い力を伝える役割を担うだけでなく、クォークと同じように、それ自身が力の源にもなるのです。すると、どうなるでしょう。クォークには強い力が働きます。力を伝達するグルーオンにもやはり強い力が働き、その力を伝達する別のグルーオンにも……、という具合に力が雪だるま式に増えていきます。つまり、遠くで働く力は、やがて無限に強くなります。これこそが、強い力が「強い」理由で、クォークが単独で存在できない理由でもあります。ただし、「無限に」強い力というのはあり得ません。そこでは何かおかしなことが起こっているはずです。雪だるま式に力が強くなる量子色力学では、通常では考えられないことが起こります。強くなった力の影響を受け...
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いまさら聞けない、「クォーク」とはいったい何なのか…「厄介な素粒子」と呼ばれる理由

いまさら聞けない、「クォーク」とはいったい何なのか…「厄介な素粒子」と呼ばれる理由陽子・中性子の質量はどこに?前の記事で、原子の中の質量は原子核に集中していると紹介しましたが、これがわかったのはラザフォード博士の実験によってでした。原子の中に粒子ビームを撃ち込み、それがどう跳ね返ってくるかを見る実験でした。その結果、多くの粒子は素通りする一方で、ごく少数の粒子は大きく跳ね返されることがわかったのです。つまり、原子の中には何かもっと小さいものがあって、それが粒子を跳ね返しているに違いないのです。photo by iStock陽子・中性子の中に質量がどう分布しているのかについても、同じようにして調べることができます。陽子に粒子ビームを撃ち込んで、跳ね返ってくる様子を見るわけです。その結果は?中心に何かあるのか。あるいは全体に何かが分布しているのか。それとも……?この実験の結果は驚くべきものでした。陽子の中には、やはり何か小さなものがあることがわかりました。ただし、その電荷は陽子の電荷の3分の1や3分の2といった変な値でした。しかも、この小さなものは、粒子ビームをぶつけるたびに、そのエネルギ...
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「重いダンベル」と「軽い風船」の違いを本気で考えてみたら…アインシュタインの相対性理論にたどりついた「深すぎるワケ」

「重いダンベル」と「軽い風船」の違いを本気で考えてみたら…アインシュタインの相対性理論にたどりついた「深すぎるワケ」「重いダンベル」と「軽い風船」の違いとは?前の記事で紹介したW粒子、Z粒子、物質素粒子。これらに質量を与えているのは、素粒子の標準理論に組み込まれたヒッグス機構という仕組みです。ただし実は、原子核を構成する陽子や中性子の質量は、ヒッグス機構で与えられているのではありません。では、陽子や中性子に質量を与える仕組みとは? 本記事では、あらためて質量とは何かという話をします。重いダンベルと軽い風船。2つの違いは、どこからくるのでしょう。それを考える前に、まずは「重い」というのがどういうことかを考えてみましょう。photo by iStock私たち自身の体はもちろん、地球上の物質はすべて重力によって地球に引き付けられています。重い物質は強く、軽い物質は弱く。つまり、重さとは重力の働く強さだと考えてもよさそうですね。実際、ニュートン博士の万有引力の法則によれば、すべての物質には質量に比例した大きさの重力が働きます。地上では、物質の質量とそれに働く重力の間に比例関係があり、比例定数を...
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たった「10億分の1秒」で、この世界のすべてが爆誕…!138億年前の宇宙で「物質が生まれた瞬間」

たった「10億分の1秒」で、この世界のすべてが爆誕…!138億年前の宇宙で「物質が生まれた瞬間」太陽系で観測される元素加速器が発明された20世紀初頭、加速器で加速した原子核を他の原子核に当てて原子核反応を引き起こし、原子核の性質などを調べる原子核物理学が急激な発展を遂げました。同時に、原子核物理と宇宙の成り立ちや星の性質などを調べる宇宙物理・天文観測が結び付き、元素の起源を解明する天体核物理学が産声を上げました。そこで得られた知識をもとに、天然に存在する94種類の元素の歴史をひもといていきましょう。「図:太陽系で観測された元素の存在量」は、われわれの住む太陽系で観測される元素の存在量を示しています。横軸は、原子番号で表される元素の種類です。縦軸は、太陽系で観測された元素の存在量を、原子番号14のケイ素(シリコン)の存在量を106としたときの相対値で示しています。太陽系で観測された元素の存在量存在量の全体的な傾向を見ると、原子番号が小さいほど多く、原子番号が大きくなるにつれ少なくなっていきます。存在量が多いのは原子番号1の水素と2のヘリウムで、全体の98%程度を占めています。原子番号6の...
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人類によって生み出された「人工元素」は何種類あるか…「驚きの生成方法」と「意外な目的」

人類によって生み出された「人工元素」は何種類あるか…「驚きの生成方法」と「意外な目的」元素は118種類ある前の記事で、宇宙のすべてのものが素粒子でできていることを紹介しました。一方で、私たちになじみのある性質が現れるのは、原子という単位からであることにも触れました。原子は、現在までに118種類が知られており、そのうち天然に存在するのは94種類です。本記事では、さまざまな性質をもった原子(元素)が、宇宙の歴史の中でどのように生まれたのか、を考えます。photo by iStockあらゆる物質は、原子でできています。その原子は、陽子や中性子でつくられた原子核と、周囲を取り巻く電子から成り立っています。陽子と中性子は、原子核をつくる粒子なので「核子」と呼ばれます。陽子の電荷はプラス1なので、電荷がマイナス1である電子の数は、足し合わせた電荷がゼロとなるように決まります。すなわち「陽子の数=取り巻く電子の数」です。この原子のもつ陽子の総数、陽子数のことを「原子番号」とも呼びます。原子番号が変われば束縛される電子数も変わるので、それに応じて原子同士のつながり方が変わり、さまざまな分子が形成されま...
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高校物理の定番公式《力=質量×加速度》…しかしこのうち2つは「現実にはない」─ないのに認識できる「脳の不思議」

高校物理の定番公式《力=質量×加速度》…しかしこのうち2つは「現実にはない」─ないのに認識できる「脳の不思議」「いつの日かAIは自我を持ち、人類を排除するのではないか―」2024年のノーベル物理学賞を受賞した天才・ヒントンの警告を、物理学者・田口善弘は真っ向から否定する。理由は単純だ。人工知能(AI)と人間の知能は本質的に異なるからである。しかし、そもそも「知能」とは何なのだろうか。その謎を解くには、「知能」という概念を再定義し、人間とAIの知能の「違い」を探求しなくてはならない。生成AIをめぐる混沌とした現状を物理学者が鮮やかに読み解く田口氏の著書『知能とはなにか』より、一部抜粋・再編集してお届けする。『カリフォルニア工科大の新入生は「半分以上が女子」!?…制度面では男女平等な日本で「理系女子」が極端に少ない意外な理由』より続く。進化で獲得した「現実シミュレーター」古典力学「生成AIと脳という2つの別の『知能』があり、それらは全く異なった形で現実を解釈するシミュレーターだ。今後も無限個の『異なった現実シミュレーター』としての知能が出現するだろう」という話をしたら、違和感を覚えるかもし...
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これが無いと、私たちの身体はすぐバラバラに…宇宙で最も重要な「強い力」の正体とは

これが無いと、私たちの身体はすぐバラバラに…宇宙で最も重要な「強い力」の正体とは「重力」はこの世界で一番小さい力この宇宙で働く4つの力を整理すると、私たちが常に感じることのできる電磁気力と重力、感じることがなかなかない強い力と弱い力に分けることができます。私たちは、地球の重力によって常に、地球に引っぱられています。普段意識することはなくても、重力は私たちにとって感じやすい力なので、それがとても大きい力だと思い込んでいます。しかし、それは勘違いです。例えば、クリップでも釘でも、鉄でできたものを机の上に置きます。そして、クリップや釘の上から磁石を近づけてみます。すると、クリップや釘は机を離れて磁石に吸い寄せられます。クリップや釘には下向きに重力がかかっています。重力がかかっているにもかかわらず磁石に引き寄せられたということは、重力よりも磁石の力、つまり電磁気力の方が大きいということです。しかも重力は、電磁気力より小さいだけでなく、4つの力の中で一番小さい力です。4つの力の大きさを比べてみましょう(「表:4つの力の大きさと、それぞれの力を伝える素粒子」)。4つの力の大きさと、それぞれの力を伝...
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もはや魔法では…この宇宙を支配する「4つの力」が秘めた「不思議すぎる性質」

もはや魔法では…この宇宙を支配する「4つの力」が秘めた「不思議すぎる性質」世界に存在する「4つの力」前回の記事で、この宇宙にあるものは素粒子でつくられているという話をしました。でも、宇宙は「もの」だけではできていません。例えば、サッカー場にボールを持って選手が集まっただけでは、サッカーの試合をしたことにはなりません。ドリブルして、パスして、シュートをすることで、サッカーをしたと言えます。このドリブルして、パスして、シュートしてという動きについて、ここまでまったく触れてきませんでした。この動きを生み出す作用を「力」と呼びます。この宇宙では、ものだけがあっても、力が働かないと何も起きません。力と聞いて、皆さんはいろいろな力を思い浮かべると思います。ボールを蹴ったり、ゴールに点が入らないようにボールを止めたりする力。ボールを投げたり、バットで打ったりする力。鉛筆の芯を折ってしまう力。「おしくらまんじゅう」をする力もあるでしょう。私たちはいろいろな種類の力を使っている、と思っています。でも、本当にたくさんの種類の力を使っているかというと、そうではないのです。この宇宙に働いている力を整理していく...
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空から降ってくる「地球外物質X」…素粒子とはいったい何者なのか

空から降ってくる「地球外物質X」…素粒子とはいったい何者なのか空から降ってくる「地球外物質X」私たちは原子でできていて、その原子をどんどん細かくしていくと、アップクォーク、ダウンクォーク、電子という3種類の素粒子にまで分解できます。私たちの身の回りのものはすべて、この3種類の素粒子からできています。では、この宇宙はアップクォーク、ダウンクォーク、電子の3つだけでできているのでしょうか。実は、この宇宙にはもっとたくさんの素粒子が存在しています。ものをつくっている素粒子は3種類だけなのですが、何もないと思っていた空間をよく調べてみると、いろいろな素粒子が飛んでいたのです。photo by iStockこれらの素粒子は、宇宙からやってくる放射線(宇宙線)が大気中の窒素や酸素などの原子核にぶつかることでつくられます。このようにしてつくられる素粒子の1つがミューオン(ミュー粒子)です。普段の生活ではまったく聞かない名前です。実は、発見した当時の物理学者たちも「何だ、それは!?」と思いました。というのも、ミューオンはものをつくるのにはまったく関係なく、何に使われているのかがわからなかったからです。...
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じつは「サビない鉄」で支えられていた…「奇跡の修復」を遂げたノートルダム大聖堂。その復活劇中で発見された「驚愕の製鉄技術」

じつは「サビない鉄」で支えられていた…「奇跡の修復」を遂げたノートルダム大聖堂。その復活劇中で発見された「驚愕の製鉄技術」“木組みの塊”私は、拙著『古代世界の超技術〈改訂新版〉』の執筆時、石造建築物についてはかなり調べたのであるが、鎹(かすがい)が使われた例はまったく見出せなかった。同書の姉妹編である『古代日本の超技術〈新装改訂版〉』で縷々(るる)述べたように、日本の五重塔に代表される古代木造建築物は“木組みの塊”ともよぶべきものであり、要所要所には「たたら鐵(てつ)」で作られた釘や鎹が使われている。一般に、写真8に示すような五重塔内部の木組みを見ることは難しいのであるが、私が名実ともに日本一の名橋と思う錦帯橋(岩国)へ行けば、まことに美しい木組み(写真9)と鎹(写真10)を見ることができる。写真8(上)青森・青龍寺の五重塔内部の木組み(筆者撮影) 写真9(下左)錦帯橋(岩国市提供)、写真10(下右)錦帯橋の美しい木組みと鎹(海老崎粂治錦帯橋棟梁提供 ※崎:正しくはつくりの上が「立」)「木造」建築の技術を使っていた!写真11は、2001年から2004年にかけて行われた、50年ぶりとなる...