電子は、一体どのようなものなのか…アメリカの物理学者によって解き明かされた「電子の正体」

「電子」といったら、何を思い浮かべますか? スマートフォンやパソコン、電子メールや電子書籍…。確かにこれらは電子を利用していますが、ほんの一例。じつは、ほぼすべての現象は電子が引き起こしている、といっても過言ではないほど、電子は身の回りに満ちているんです! そんな電子の不思議なふるまいや、多岐にわたるはたらきをとりあげた、『電子を知れば科学がわかる』(江馬一弘著、講談社ブルーバックス)から、読みどころを抜粋してお届けします!
電子の電荷の大きさを明らかにしたミリカンの実験
さて、以前の記事で示した通り、トムソンの実験で分かったのは電子の比電荷(電荷÷質量)です。つまり、この段階では、電子の質量、および電荷は正確には分かっていません。当然、次に知りたいのは、これらの値です。
そこでアメリカの物理学者ロバート・ミリカン(1868~1953)と、当時その学生であったアメリカの物理学者ハーベイ・フレッチャー(1884~1981)は、電子の電荷を精密に測定する実験を行いました。なお、同種の実験はトムソンをはじめ、複数の研究者が行っていましたが、ミリカンらの実験はその精密性において優れていました。
ミリカンらが行った実験とは次のようなものです(図「ミリカンらの実験」)。
まず油を噴霧し、微小な油滴をつくり、この油滴にX線を当てます。X線も光の仲間で、可視光よりエネルギーがずっと高く、原子の中の電子をはじき飛ばすことができます。これにより、油滴を構成している原子から電子がはじき出され、油滴は電気を帯びるようになります。そのままだと油滴は落下しますが、実験では鉛直方向に電場がかけられました。
すると、油滴は重力に加えて、油滴が帯びた電荷の量に応じた上向きの電気力を受けます。そして電場をオンにしたりオフにしたりして油滴に働く力を変えながら、その運動速度を測定しました。こうして油滴に及ぼされている電気力の大きさを求め、そこから電荷の大きさを求めました。
このような実験を繰り返したところ、油滴の電荷の大きさは実験のたびに変わりましたが、どれもある量の整数倍になっていることが分かりました。つまり、この電荷の量が、電荷の最小単位であり、電子の電荷だということになります。油滴の電荷はX線によって電子がはじき出された結果として生じたものだと考えられたからです。
電子の電荷の測定に成功し、ノーベル物理学賞受賞
こうしてミリカンらの実験によって、電子の電荷の大きさが明らかになりました。既にトムソンの実験によって電子の比電荷(電荷÷質量)は分かっていたので、ここから電子の質量も明らかになりました。
ミリカンらが求めた電子の電荷の大きさは、1・592×10マイナス19乗クーロンというものでした。10のマイナス19乗とは、10で19回割るということを意味します。電子の電荷の実際の値は1・602×10マイナス19乗クーロンですから、ミリカンらの実験はかなり精度の高いものだったと言えます。ミリカンは1923年に電子の電荷を測定した功績などによって、ノーベル物理学賞を受賞しています。
1アンペアの電流で途方もない数の電子が流れている
電流は電子の流れであり、電流の単位には「アンペア」が使われます。1アンペアの電流とは、1秒間に1クーロンの電荷が流れることを意味します。
ここから計算すると、1アンペアの電流では、1秒間に624京(けい)個の電子が流れていることになります(1京は1兆の1万倍)。何とも途方もない大きさの数ですね。なお、現在では、電子の電荷の大きさ(電気素量)を1・602176634×10マイナス19乗クーロンと定めて(定義値とし)、そこから1アンペアや1クーロンが定義されています。



コメント