日本の文化江戸の庶民の思いやり ~ 磯田道史『無私の日本人』から
江戸時代、とくにその後期は、庶民の輝いた時代である。江戸期の庶民は、親切、やさしさ、ということでは、この地球上のあらゆる文明が経験したことがないほどの美しさをみせた。倫理道徳において、一般人が、これほどまでに、端然としていた時代も珍しい。無私の志が江戸時代の庶民の間に深く根付いていた。江戸の庶民の思いやり ~ 磯田道史『無私の日本人』から■1.心洗われる登場人物たちの無私の志「江戸時代のわが国には、こんなにたくさんの無私の人々がいたのか」と、『殿、利息でござる!』という映画を飛行機の中で見て思った。題名からコメディタッチの時代劇かと思って見始めたら、とんでもない。 明和3(1766)年の仙台藩領内の宿場町・吉岡宿は藩から「伝馬役」、すなわち宿場間の物資の運搬作業を課されて困窮し、夜逃げが相次ぐ状況だった。吉岡宿は藩の直轄領ではなかったために、他の宿場のように「伝馬役」の助成金が支給されていなかったからだ。 この窮状から宿場を救おうと、吉岡宿の有力者たちは金を出し合ってなんとか大金を作り、それを藩に貸した利息で伝馬役に使おうという奇想天外な企てを始める。登場人物たちの宿場を救おうという無...
