恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると

生命科学
恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると(更科 功)
とかく誤解されやすい「進化論」について、楽しく、わかりやすく語り尽くした『世界一シンプルな進化論講義』。実際の生物を取り上げ、進化の謎について考察していくことにします。今回のテーマは「恐竜から鳥にどのように進化したのか?」をミクロラプトルの化石を例に考えていくことにします。

恐竜から鳥にどのように進化したのか?その飛行の進化を「4枚の翼を持つ恐竜・ミクロラプトル」の化石から考えてみると

鳥は恐竜の子孫である

鳥は恐竜の子孫なのか否か、という百年以上続いた論争にも、ほぼ決着がつき、鳥が恐竜の子孫であることが広く認められるようになった。だからといって、恐竜がどうやって鳥になったのかについて、謎がすべて解明されたわけではない。

たしかに、恐竜が何らかの進化の道筋を通って鳥になったことについては、すでに多くの証拠で固められており、確実といってよい。しかし、どういう道筋を通って鳥になったのかについては、それほど明らかではないのである。

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飛行しない生物が飛行する生物に進化するときには、その途中で滑空する段階を通ることが普通である。

ちなみに、飛行というのは、同じ高度を保って飛べることで、滑空というのは、徐々に高度を下げながら飛ぶことだ。大ざっぱなイメージとしては、動力を使って飛ぶのが飛行で、動力なしで飛ぶのが滑空である。生物における動力は、おもに「羽ばたき」だ。

滑空から飛行への進化をたどると

まったく飛行できない生物が、いきなり完全な飛行能力を持つ生物に進化することは考えにくい。飛行できなかった生物が、少しずつ飛行能力を上げるように進化して、完全に飛行できるようになるのが、実際のところだろう。

飛行する前に、すでに滑空する能力があれば、そういう進化も起きやすくなると考えられる。

滑空できる生物が、その翼(あるいは皮膜)を少し羽ばたかせれば、滑空する距離が少し延びるかもしれない。その場合は、羽ばたくほうが有利になり、羽ばたく能力が高くなっていく可能性が高い。

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つまり、中途半端な翼でも、あったほうがよいということだ。そうであれば、だんだん翼が大きくなっていき、ついには完全な飛行能力が進化することもあり得るだろう。こういう進化の道筋なら考えやすいのだが、恐竜の場合は、そうではないと言われてきたのである。

飛行の進化はたった4回しかなかった!

生物の世界では、滑空が何百回(もしかしたら何千回)も進化しているのに対して、飛行はたった4回しか進化していない。それだけ、飛行は難しいということだろう。

飛行できるように進化した生物はすべて動物で、「昆虫」と「翼竜」と「鳥類」と「コウモリ」である。

最大級の翼を持っていたとされる翼竜「ケツァルコアトルス」の復元骨格(Houston Museum of Natural Science)

飛行できる4つのグループのうち、昆虫は少し特殊である。昆虫は体が小さくて軽いので、飛び上がるための条件が、他の3つのグループとはかなり異なる。しかも、他の3つのグループは、肢を変化させて翼にしているのに対し、昆虫の翅(はね)は肢とは関係なく進化したものだ。

そこで、ここでは昆虫は除いて、翼竜と鳥類とコウモリについて考えていくことにする。

地上では、飛行能力は進化しない!

翼竜とコウモリは、さきほど述べたような滑空の段階を通って、飛行能力を進化させたと考えられている。おそらく樹上のような高い場所に棲んでいて、滑空をしていたのだろう。

そして飛行能力が高くなるにつれて、生息範囲を樹上以外へも広げていったと考えられる。つまり、樹上に棲んでいれば、滑空から飛行へと進化することに、それほど無理はないということだ。

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ところが、地上に棲んでいると、そうはいかない。もちろん、完全な飛行能力が進化してしまえば、地上から飛び立つこともできるだろう。しかし、中途半端な翼がある段階では、地上から飛び立つことは不可能だ。

地上では、中途半端な翼など飛び立つ役には立たないし、歩くときには邪魔になるし、かえってないほうがいいくらいだ。そうであれば、中途半端な翼は小さくなるように進化するだろう。そして、ついには、翼がなくなってしまうはずだ。

つまり、地上に棲んでいる場合は、飛行能力が進化することは難しいのである。しかし、恐竜は地上に棲んでいたと考えられる。体は大きいし、手足にも樹上生活に適した特徴は見られないからだ。

恐竜が「翼」を進化させた「3つの仮説」

そこで、地上に棲んでいながら、翼を進化させる仮説が、いくつか提案された。

たとえば「保温仮説」である。多くの恐竜にも羽毛が生えていたので、それが保温の役目を持っていたことは疑いない。そして、翼は羽毛でできているので、保温と何らかの関係がある可能性はある。

翼を進化させた2つ目の仮説は「性的シグナル」だ。

21世紀になると、一部の恐竜の羽毛に、鮮やかな色がついていたことが明らかになった。化石に色が残っていたわけではないのだが、化石の微細構造から色が推測できたのである。

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少し単純化して説明すると、以下のようになる。

鳥類の羽毛や哺乳類の毛の色の一部は、メラニンという色素で決まる。そして、メラニンは、細胞の中のメラノソームという構造の中にある。メラニンには種類があって、ユーメラニンは黒っぽい色素で、フェオメラニンは赤っぽい色素である。そして、ユーメラニンは柱状のメラノソームの中に、フェオメラニンは球状のメラノソームの中にある。

つまり、顕微鏡でメラノソームの形を見れば、メラニンの種類がわかり、そうすれば色がわかる、というわけだ。

その結果、一部の恐竜は鮮やかな色の羽毛を持っていたことが明らかになった。そうであれば、鮮やかな翼が、オスがメスに(場合によってはメスがオスに)アピールするためのシグナルになっていた可能性は十分に考えられる。

3つ目は、斜面を駆け上がるために翼が進化したという仮説で、2003年にモンタナ大学のケネス・ダイアルが提唱したものだ。

イワシャコという鳥の雛は、まだ飛ぶことができないにもかかわらず、しょっちゅう翼を羽ばたかせている。

イワシャコ(Ikshan Ganpathi)

それには、斜面を駆け上がるときに、肢を地面にしっかりと押し付ける意味があるらしい。レーシングカーについている水平翼と同じ役割だ。こういう翼は、捕食者に襲われて木に登るときなどに役に立つはずで、そこから飛行能力が進化したのだろうというのである。

4枚の翼を持つ恐竜「ミクロラプトル」

いま述べた保温仮説や性的シグナル仮説は、仮説自体は納得できるものの、飛行できる翼を進化させた理由としては弱そうだ。

3つ目の斜面仮説については、たしかに部分的にはそういうこともあったかもしれないが、どこまで一般化してよいのか疑問が残る。しかし、2000年に命名されたミクロラプトルという恐竜の化石は、飛行できる翼の進化を、まったく別の面から説明してくれるかもしれない。

ミクロラプトル(ミクロラプトル・グイ)の化石 (David W. E. Hone, Helmut Tischlinger, Xing Xu, Fucheng Zhang)

じつは昔から、鳥類の祖先には、翼が4枚あっただろうという意見があった。これは1915年にアメリカの生態学者、ウィリアム・ビービが示した考えで、ハトの脚に羽毛が生えているのを見て、閃いたらしい。

実際、ハトには脚に羽毛が生えているものがけっこういて、それほど珍しい現象ではない。ビービは、翼が4枚ある想像上の鳥類の祖先に、テトラプテリクスという名前までつけていた。

そして、ミクロラプトルには、ビービの予測通りに、4枚の翼があったのである。ミクロラプトルは、後肢に翼がついているので、地上を走り回る生活には適していなかった。また、ミクロラプトルの肢の鉤爪(かぎづめ)は、強く彎曲(わんきょく)しており、木登りには適応していた。さらに、翼と体の接続部は強度が弱く、長距離の飛行で体重を支えることは難しかった。

以上の特徴から考えて、おそらくミクロラプトルは木の上に棲んでいて、滑空をしていたのではないかと考えられる。もしかしたら羽ばたいて飛行したかもしれないが、そうであっても、長距離を飛行することはできなかっただろう。

どうやら、恐竜の飛行も特別なものではなく、翼竜やコウモリと同じように、滑空から進化したらしい。地上から直接飛び立つことの困難さを考えれば、それも当然かもしれない。

滑空から飛行も進化、飛行能力を喪失するのも進化

恐竜の進化については、さらに想像を膨らますこともできる。ミクロラプトルが生きていたのは約1億2000万年前である。

鳥類と爬虫類の中間的な特徴を持つことで有名な始祖鳥(アーケオプテリクス)が生きていたのは約1億5000万年前である。この辺りで、滑空から飛行への進化が起きたと考えるのは妥当だろう。

そうすると、全身が羽毛に覆われていたけれど、飛行はできず、地上を走り回っていたデイノニクス(約1億年前)やヴェロキラプトル(約8000万年前)についてはどう考えればよいのだろう。

デイノニクスの復元図(Emily Willoughby)

もしかしたら、現在のダチョウのように、空を飛んでいた祖先が、二次的に飛行能力を失って、デイノニクスやヴェロキラプトルに進化したのではないだろうか。翼竜やコウモリには、二次的に飛行能力を失ったものは知られていないが、鳥類(つまり恐竜)には、二次的に飛行能力を失ったものが、たくさんいるのだから。
 

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