JOG(1467) 日本人は日本の小学校で作られている ~ ドキュメンタリー『小学校 ~それは小さな社会~』から

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JOG(1467) 日本人は日本の小学校で作られている ~ ドキュメンタリー『小学校 ~それは小さな社会~』から
日本の小学校を忠実に記録したドキュメンタリー映画が国際的な評判を呼んだのはなぜか? ■転送歓迎■ R08.04.12 ■ 85,713 Copies ■ 9,440,361Views■ 過去号閲覧: 無料受講申込み: __________ ★★★「国の宝を育てる授業」★★★ 小中高校の先生方に実践いただきたい「お手本授業」です。 子供たちにも…

JOG(1467) 日本人は日本の小学校で作られている ~ ドキュメンタリー『小学校 ~それは小さな社会~』から

日本の小学校を忠実に記録したドキュメンタリー映画が国際的な評判を呼んだのはなぜか?

■1.日本人は日本の小学校で作られる

伊勢: 花子ちゃん、先週、面白いドキュメンタリー映画を見たよ。『小学校 ~ それは小さな社会』という、日本の小学校の1年間を追った映画で、今、国際的な注目を浴びているんだ。

 たとえば、教育大国と言われているフィンランドでも、20館の公開で4ヶ月のロングラン大ヒットになったんだよ。そのフィンランドで「自分たちの教育を見直す場になった」という声が出ているそうなんだね。

花子: へー。いったい、どんな内容なんですか?

伊勢: 日本の公立小学校で子供たちが育つ様子を一年間にわたって追った記録映画なんだね。印象的なのは、1年生が教室の掃除、給食の配膳、運動会などを通じて、人間的に成長していく姿が描かれているところだ。

 私が特に感動したのは、1年生の女の子が次の年の新入生を迎えるブラスバンドでシンバルを担当したんだけど、なかなかうまくできなくて、先生に叱られ泣き出したり、別の先生に励まされたりしながら練習したんだ。そして、ついに本番でしっかり演奏できたんだよ。

花子: わあ、感動的なストーリーですね!

伊勢: この映画のキャッチコピーは「6歳児は世界のどこでも同じようだけれど、12歳になる頃には、日本の子どもは”日本人”になっている」というんだ。

 英語のタイトルは「The Making of a Japanese」、「日本人をつくる」という意味だけど、この「日本人」とは、互いに協調性と思いやりをもって、与えられた場で一生懸命取り組む人間のこと。そういう日本人は、小学校で育てられている、というメッセージなんだ。副題の「小さな社会」というのは、小学校という小さな共同体で、子供たちは社会で生きる練習をしているという意味なんだね。

■2.「こんなの運動会じゃない」

伊勢: 監督の山崎エマさんは、父親が日本生活の長いイギリス人、母親が日本人なんだね。日本の普通の公立小学校を出たけど、中学・高校はインターナショナル・スクールに通ったんだよ。日本式の小学校教育と、インターでの欧米式の教育、その違いを痛感したというんだ。エマさんは著書でインターでの経験をこう語っている。
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少し大げさかもしれませんが、入学して初めて迎えた運動会の日の衝撃と悲しみは、今でもはっきりと覚えています。
 まず驚いたのは、気づいた時には運動会が翌週に迫っていたこと。本番の何週間も前から、全校で行進やダンスの振りを合わせるために練習する日本の小学校では考えられないことでした。[山崎、p40]
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花子: え! 何も練習しないで運動会を迎えるんですか?

伊勢: そうなんだ。たとえば、ダンスでは、日本では全員で繰り返し練習した踊りを披露するのに、インターでは音楽に合わせ、その場で自由に体を動かすだけの即興ダンスだったんだね。エマさんは、こう感じた。
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 私は、これらのあまりの落差に心の中で「こんなの運動会じゃない!」と叫びました。[山崎、p40]
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■3.「友達と一緒に泣きながらハグをして味わった喜び」

伊勢: エマさんにとっての本当の運動会とは、6年生の時の組み体操だったんだね。一番下の段には、地面の上に8人3列が四つん這いになって並び、その上に7人が左右二人の背中の上に四つん這いとなり、というように、ピラミッドを作って行くんだね。

 体の大きかったエマさんは、7段ピラミッドの最下段だったんだ。その上に2段、3段と同級生が乗ってくると、背中の骨の折れそうな痛みに、ギブアップして崩れると、上から友達が降ってくる。それを見た先生が「今日はここで終わりだけど、明日はもっとやるよ」って言ったそうだよ。

 しかし、毎日練習するうちにコツを覚えて、最初は3段でも崩れていたのに、次第に5段、6段と積めるようになってくる。その過程で、エマさんはこう学んだんだよ。
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「どんなに難しいことでも、みんなで力を合わせればできるんだ」ということを実感した、強烈な経験になりました。先生たちの言うことを信じて、お互いを信じ合ってやってみることの大切さも学びました。[山崎、p29]
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伊勢: そして、運動会当日、父兄の大観衆の前で、緊張しながら、7段のピラミッドを完成させたんだね。エマさんの感動が伝わってくる文章があるよ。
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すべて終わった後、お客さんに向かってお辞儀をして、大きな拍手をもらいながら退場門を駆け抜けた時の達成感。友達と一緒に泣きながらハグをして味わった喜び。すべてが強烈な経験として残りました。[山崎、p29]
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伊勢: 組み体操は危険なので、今は実施されていないけど、同様の学びが集団のダンスなどで追求されている。こういう体験的な学びをしたエマさんにとって、インターでの、練習もせずに単にそれぞれが自由に体を動かすだけの即興ダンスなど、「こんなの運動会じゃない」と思うのも当然だろうね。

■4.「自分探し」をさせる欧米式教育

伊勢: 一方で、インターは「自分という人間に何ができるのか」を常に考えさせられる環境だった、とエマさんは言っているんだね。だから、通常の教科以外に、演劇、陶芸、映像制作など、日本の一般的な学校にはない多様な授業が用意されていたんだよ。

花子: 「自分探し」をする場所なんですね。

伊勢: 実際、エマさんは中学2年生の時の映像の授業をきっかけに、生涯の仕事となる映画制作に出会っているんだ。自分でビデオカメラを回して撮影し、コンピュータで編集して作品を仕上げるという未知の世界に、彼女はたちまち夢中になったんだね。

 その後、エマさんはニューヨークの大学で映画制作を学んだ。そこでの同級生たちは皆、「恐れ知らずに夢を追い、それが当たり前」という雰囲気の中にいた。エマさんは入学当初、同級生の映画に関する知識や情熱に圧倒され、焦りを感じるほどだったそうだよ。

■5.社会人として「当たり前」のことをしているだけなのに、、、

伊勢: エマさんはアメリカの大学を卒業後、映画制作会社の編集スタッフとして働き始めた。そこで、仕事を始めるにあたって、こんなふうに考えた。
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当時の私は「組織の中で働く以上、社会人としてきちんとした振る舞いをしよう」と思っていました。たとえば、出勤時間に遅れない、責任を持って与えられた役割をまっとうする、他の制作チームと協力し、少しでも良い物を作るために自分のベストを尽くす。こうした心掛けは、特別なものではなく、当然だと考えていました。[山崎、p66]
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花子: 確かに、どれも社会人として当たり前のことのように思えますね。

伊勢: ところが、そんな「当たり前」のことをしていただけなのに、周囲のアメリカ人から驚くほど褒められることが続いたんだ。「エマを見習おう。時間に遅れないし勤勉だ。周囲への配慮があって、責任感も強いのに自己中心的ではない」[山崎、p67]とね。

花子: えっ、こういうことは、アメリカでは当たり前じゃないんでしょうか?

伊勢: そこがポイントなんだ。自分では「当然だ」と考えていたことで、なぜこんなに褒められるのか、エマさん自身も不思議に思った。そして気づいたのが、日本で受けた小学校教育だったんだ。
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頑張って何かを達成することがもたらす充実感、仲間と力を合わせることの重要性、誰かの役に立つ喜び。これらは子どもの頃に覚え自分の人格のベースとなったのだと思います。[山崎、p67]
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花子: 日本の小学校で学んだことが、社会に出てから活きてきたんですね。

伊勢: そうなんだ。インターやアメリカの大学では、個人として自分の夢を見いだし、それに向かって努力することが重視される。

 でも、いざ社会に出たら、映画制作という創造的な仕事であっても、多くの人々の共同作業が必要になる。そこでは、エマさんが組み体操で習ったような、皆で共通の目標に向かって一致団結し、それぞれの持ち場で全力を尽くす、という姿勢が不可欠だったんだ。

花子: 組み体操って、そういう意味があったんですね。日本の小学校教育が、知らず知らずのうちに大切なことを教えてくれていたんですね。

■6.「個人の尊重」「自由」の前にまず「協調の力」

伊勢: 日本人にとっては当たり前なことが、海外から見れば称賛の的となる。これが、エマさんの小学校の1年間を追ったドキュメンタリーが海外で注目された理由でもあるんだね。たとえば、教育大国フィンランドでは、こう評された。
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 我々の教育システムは『個人の尊重』と『自由』で有名になった。でも近年はその方向に走りすぎたと思っている。というのも、自分のことしか考えられない子どもたちが増えてきてしまっている。日本の小学校を見て、『コミュニティの一員としてまずどうあるべきか』を考える教育のお手本だと感じた。
 かつてはフィンランドもこの意識をベースに持っていて、そのうえで『個人』を唱えていたから、うまくいっていたのではないか。そのことに気付かされた。[山崎、p3]
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花子: なるほど。コミュニティの一員としての意識が基礎としてあって、その上での自由や個人の尊重なんですね。

伊勢: アメリカでの批評も興味深い。ニューヨーク・タイムズ紙が監督としてのエマさんを紹介して、「アメリカでは子供たちは掃除をしない。これは『自分たちのことを自分たちでやる』ということを学ぶための最高の見本だ」って書いている。日本の小学生が、自分たちで教室を掃除すること自体が、驚きなんだよ。

花子: えー、アメリカでは子供たちは教室の掃除をしないんですか?

伊勢: 清掃員まかせなんだ。「自分たちのことを自分たちでやる」というのは、いかにも「セルフ・ヘルプ」を重視するアメリカ人らしい価値観なんだね。そして、それは共同体の中で、それぞれの個人が自分のことは自分でやる、という共同体意識でもある。その共同体意識の上に、個人の自由や夢の追求というアメリカン・ドリームの価値観がなりたっている。

 どこの国でも、共同体の「協調の力」がベースにあって、その上に個人一人ひとりの「個の力」が発揮される、というのが、個人の幸せと共同体全体の繁栄への鍵なんだね。

■7.「協調の力」の上に「個の力」をつける

伊勢: エマさんは、ご自分の体験から、日本の小学校が育てている「協調の力」は、日本人の強みだと指摘している。
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世界を見渡してみると、自分のことを第一に考え、自己主張の声が大きい人が勝つ、個人主義が強い文化も多いです。その中で、組織に貢献し、他の人の役に立つのであれば自己犠牲も厭わないという日本人の性質は、やはり強みだと感じます。[山崎、1,945]
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伊勢: この点は、この映画に関するドイツの批評からも窺える。
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 日本人は小さい頃から周りと協力する意識が自然と身についている。だから地震がきても慌てず、コロナ中もうまく対応できたんだろう。[公式サイト]
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 この「小さい頃から周りと協力する意識」、つまり「協調の力」こそが、日本の小学校での教育の賜物なんだね。

 しかし、ギリシャでこの映画を上映したとき、「日本の小学校制度はこんなに素晴らしいのに、どうして日本の社会には課題も多いのか?」という質問が出たそうだ。

 確かに13歳から29歳を対象にした国際調査で、「自分自身に満足していない」「自分の将来が不安」と答えた若者の率が、日本では他の先進国よりも段違いに高くなっているというデータがある[こども家庭庁]。

 エマさんはこれに関して、小学校教育と中学校以上の教育を切り離して考えるべきだとして、こう主張している。
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型に沿った振る舞い、集団の中での協調性や思いやりは、小学校の教育を通してある程度身に付くことを前提に、その後の中学以降の教育は「自分探し」にもっと重点を置いた内容にして欲しい。[山崎、p122]
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花子: なるほど!小学校で「協調の力」を学んで、中学校からは「自分探し」をして「個の力」を伸ばしていく、ということですね。

伊勢: まさにそうだ。実は先ほど紹介したフィンランドの批評でも、「かつてはフィンランドもこの協調の力を育てる意識をベースに持っていて、そのうえで『個人』を唱えていたから、うまくいっていたのではないか」という、まったく同じ趣旨の反省なんだね。

 エマさんのドキュメンタリーは「協調の力」を育てている日本の小学校の素晴らしさを訴えて、それを見た海外の人々が「個人の尊重」と「自由」の前に、そうした「協調の力」を育てていた自分たちの伝統的教育の価値を思い出した。だから国際的な反響を呼んだんだね。

花子: 日本の小学校教育って、実はとても価値があるものだったんですね。

伊勢: そうなんだ。だからこそ、足元にある素晴らしい小学校教育の価値を足蹴にして、欧米で反省を始めているのに、半周遅れで欧米の後を追って小学校から「個の力」のみに注力するような、海外の実態を無視した政策を採らないよう、心がけるべきだと思う。

 それと同時に、この映画を見た我々日本人は、「小学校の先生たちがいかに苦心して、子供たちに協調の力を教えているか」、まったく知らなかった、ということに気づかされる。それを知ったら、我々もできるだけ学校を助けようという気持ちになる。こういう現実を映像で伝えて、人々に真実を気づかせるのが、優れたドキュメンタリーなんだね。

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