地球以外に存在するのか…「地球外生命」への大きすぎた期待と、じつに意外だった「ヴァイキング探査の結果」

生命科学
地球以外に存在するのか…「地球外生命」への大きすぎた期待と、じつに意外だった「ヴァイキング探査の結果」(小林 憲正)
1976年の6月19日、前年の10月に打ち上げられたヴァイキング1号が10ヶ月の長旅を経て、火星の周回軌道に入りました。このミッションには、地球以外の天体への生命や、原始地球で起こった「生命起源」の謎を解くヒントといいた期待が、大きく関わっていました。火星に生命の痕跡を探ってきたこのミッションを、アストロバイオロジーの第一人者、小林憲正氏の解説でお届けします。

地球以外に存在するのか…「地球外生命」への大きすぎた期待と、じつに意外だった「ヴァイキング探査の結果」

生物学者と天文学者

地球以外に生命を宿す星はあるのだろうか?

これは生命の起源と並ぶ、未解決の大きな謎です。しかし、この二つの謎は、一つの謎の二つの面といってもいいでしょう。生命が簡単にできるものならば、地球以外でも生命ができる星はいくらでもあるでしょう。しかし、生命の誕生が難しいものならば、たとえば、以前の記事で紹介したフレッド・ホイルらの考え*が正しければ、宇宙でもそうそう奇跡は起きないでしょうから、地球外生命の可能性は低いことになります。

フレッド・ホイル photo by David Levenson / gettyimages

科学者の中でも、生命の起源の細かい議論を別とすれば、生物学者は、

「生命のような複雑ですばらしいものが、地球以外でそう簡単にできるわけはない」

と考える人が多く、一方で天文学者は、

「地球は特別な惑星ではない、これほど広い宇宙で地球以外に生命がいないわけがない」

と考える人が多いといわれてきました。

2000年頃からはアストロバイオロジーに参入する生物学者も増えてきて、生物学者の中でも地球外生命を認める人は増える傾向があります。逆に、地球生物が用いる核酸(DNAとRNA)の複雑さを考えると、物理学者の中でも戸谷のように「観測可能な範囲の宇宙では、RNAをつくりだすには広さが不十分」と考える人もいます。

結局、地球以外に生命がいるのかいないか、決着をつけるには、実際に宇宙で生命を探してみるしかなさそうです。

*以前の記事:〈地球上で生命ができる確率は「かぎりなくゼロ」なのに、なぜか生命は存在する「謎」…「神頼み」にしない説明は可能か〉参照

19世紀から気になる惑星だった火星

宇宙で生命を探すといっても、20世紀前半までは、せいぜい望遠鏡で覗くことしかできませんでした。月にはどう見てもいそうもないので、次に地球に近い天体となると、火星か金星です。

1877年、イタリアの天文学者でありミラノ天文台長もつとめたジョバンニ・スキャパレリ(1835〜1910)は精力的に火星を観測し、多くのスケッチを発表しました。彼は火星の表面に多くの筋があるのを見つけ、それを水路(キャナリ)だと考えました。この“水路”は天然の河川というより人工物、いわば“運河”のように見えたため、火星には高等生物がいるのではないかと盛り上がりました。

ジョバンニ・スキャパレリ

20世紀後半、人類はロケットで他の天体まで行くことが可能になりました。火星へも1960年代からソ連(当時)と米国が競って探査機を打ち上げましたが、成功したのは1964年のマリナー4号(米国)が最初でした。

マリナー4号から送られてきた火星表面の画像には、運河はなく、大型生物はいそうにありませんでした。それでも、上空からは見えないような微生物ならいるかもしれない、ということで立案されたのが「ヴァイキング計画」です。

火星探査の「ヴァイキング計画」

火星と地球の距離は、2年2ヵ月ごとに接近しています。スキャパレリが“運河”を見つけたと言った1877年も接近の年でした。NASAはこの接近の時期にあたる1975年に、
2機の火星探査機を打ち上げました。それがヴァイキング1号・2号です。

両機はほぼ同じスペックで、そこに、機が失敗しても、もう機をなんとか成功させたいというNASAの熱意を感じました。打ち上げ翌年の1976年、それも7月までに、なんとしてでも火星に着陸して、生命を探させたい。それは、1976年7月4日が米国の200回目の独立記念日だったからです。

ヴァイキング両機は、火星を周回しながら安全に着陸できそうな地点を探し、1号は1976年7月20日にクリュセ平原に、2号は同年9月3日にユートピア平原に、無事に着陸しました。ともに中緯度の比較的平坦な場所です。両機はカメラで着陸地点周辺の写真を撮るとともに、シャベルで土壌を採取し、生命の調査のために分析しました。

生命がの存在を調べる「ヴァイキング生物学実験」

生命がいるかどうかを調べる「ヴァイキング生物学実験」は、3つの実験から構成されていました(図「ヴァイキング生物学実験」)。

ヴァイキング生物学実験

まずは「熱分解放出実験」。火星の土壌に水と二酸化炭素を加え、光を当てたあとに土壌中で有機物がつくられるかどうかを調べる実験です。もし地球の光合成生物(シアノバクテリアなど)のようなものがいれば、土壌を加熱したときに二酸化炭素が発生するはずです。

2番目は「ラベル放出実験」。こちらは有機物を「食べる」生物がいるかどうかをみる実験です。アミノ酸などの有機物を与えたときに、これを分解してガスを出すかどうかをみます。

3番目は「ガス交換実験」。私たちは生きていくのに酸素を用い、二酸化炭素を吐き出します。このようなガス交換が行われているかどうかをみるものです。

実験の結果、生命の痕跡は見つかったか

3つの実験の結果、火星土壌から何も発生しなかったわけではなかったのですが、結論としては、生命が存在する証拠となるものはありませんでした。

たとえば、ラベル放出実験では有機物を加えると二酸化炭素が発生しましたので、有機物を分解するものが存在するとはいえます。

しかし、2度目に有機物を加えたときは、二酸化炭素はほとんど出てきませんでした。このことから、生物ではない別のものが有機物を分解していると解釈されました。

さらに困ったのは、火星土壌中に有機物が検出されなかったことです。生命が存在しないと考えられる隕石(炭素質コンドライト)中にも有機物はあるし、星間の分子雲にも有機物が検出されているくらいですから、火星でも、生命が検出されるかどうかはともかく、有機物は検出されるだろうとヴァイキング計画の前は考えられていました。

ヴァイキング 1号のランダーが撮影した火星著地表の写真。中央やや右の岩は、「ビッグジョー」と名付けられた photo by gettyimages

こうしたことから、一般の人々の火星への関心はしぼんでしまい、さらには火星探査自体も、なかなか立案できない状況になってしまいました。

ところが、1996年8月7日、その後の火星探査のみならず、地球外生命研究の方向をも一変させる発表が、NASAのダニエル・ゴールディン長官によって行われ、日本でも多くの新聞やテレビがトップニュースとして報じられました。それは米国の研究チームが、火星から飛来した「ALH84001」とよばれる隕石中に、生命の痕跡を発見した、というものでした。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました