なぜ、ショウジョウバエとヒトの形は大きく異なるのか?この疑問から、生物のボディプランと進化の速度を考え直してみると!

生命科学
なぜ、ショウジョウバエとヒトの形は大きく異なるのか?この疑問から、生物のボディプランと進化の速度を考え直してみると!(更科 功)
進化の不思議が明らかに!脊椎動物と節足動物、共通の祖先からわずか1億年で劇的な変化を遂げた彼らの違いは、進化の限界と生態系の役割が鍵!果たしてヒトはこの道を辿ることができたのか?

なぜ、ショウジョウバエとヒトの形は大きく異なるのか?この疑問から、生物のボディプランと進化の速度を考え直してみると!

カンブリア紀の脊椎動物と節足動物

動物は(研究者によって多少異なるが)35個ぐらいのグループに分けられる。それぞれのグループは「門」と呼ばれ、独自のボディプランを持つことで区別されている。それらの中でもっとも繁栄しており、かつもっとも身近なグループは、「脊椎動物門」と「節足動物門」だろう。

脊椎動物門は私たちヒトが属しているグループだし、節足動物門は非常に種数が多い昆虫を含むグループだ。そして、脊椎動物門も節足動物門も、すでにカンブリア紀(約5億3900万年前~約4億8500万年前)には現れていたことが知られている(ちなみに、かつて脊椎動物は「門」の下の分類階級である「亜門」とされていたが、最近は「門」とすることもある)。

上・脊椎動物「ミロクンミンギア」(Andrew Dalby)、下・節足動物「エオレドリキア」(Ghedoghedo)

たとえば、中国雲南省のカンブリア紀の地層(約5億2000万年前)から産出した澄♯江{チェンジャン}生物群には、脊椎動物であるミロクンミンギアという魚や、節足動物であるエオレドリキアという三葉虫が含まれているのである。

ヒトは脊椎動物でショウジョウバエは節足動物

ところで、もちろん現在の地球にも、脊椎動物や節足動物は生息している。たとえば私たちヒトは脊椎動物だし、ショウジョウバエは節足動物だ。

それでは、ここで述べた4種の動物について考えてみよう。この中でお互いに似ているのは、「脊椎動物であるミロクンミンギアとヒト」と「節足動物であるエオレドリキアとショウジョウバエ」だ。

たとえば、ミロクンミンギアとヒトは体を支持する棒状の構造が体内に走っているし、エオレドリキアとショウジョウバエは体の外側を硬い組織が覆っている。

gettyimages

もっとも、そんなことをいちいち考えなくても、脊椎動物同士が似ていて、かつ節足動物同士が似ているのは当たり前な気がする。ところが、よく考えてみると、これは非常に不思議なことなのである。

脊椎動物と節足動物の共通祖先

DNAによる解析から、脊椎動物と節足動物の共通祖先は、約5億8000万年前に生息していたと推定されている【図のA】。それでは、節足動物であるエオレドリキアとショウジョウバエの共通祖先は、いつごろ生きていたのだろうか。

節足動物と脊椎動物の進化の概略 Aは節足動物と脊椎動物の共通祖先、Bはエオレドリキア(三葉虫)とショウジョウバエの共通祖先、Cはミロクンミンギア(魚)とヒトの共通祖先を示す

エオレドリキアは絶滅した三葉虫の一種なので、ショウジョウバエの直接の祖先ではありえない。そこで、両者の共通祖先が生きていた時代は、エオレドリキアが生きていた時代より前ということになる。

ということは、5億8000万年前と5億2000万年前の間のどこかだろう【図のB】。同じように考えれば、ミロクンミンギアとヒトの共通祖先が生きていた時代も、5億8000万年前と5億2000万年前の間のどこかということになる【図のC】(ちなみに、ミロクンミンギアがヒトの直接の祖先である可能性はゼロではない。その場合は(C)が生きていた時代は約5億2000万年前になる)。

さて、生物というものは、進化していくにつれて形がだんだん変わっていくものだ。進化した時間が短ければ、それほど形は変化しないかもしれないが、進化した時間が長ければ、形は大きく変化する。そう考えるのが普通だが、しかし、今述べた4種の動物で考えると、そうなっていないのだ。

節足動物と脊椎動物の形は大きく違う。しかし、約5億8000万年前の時点では、節足動物も脊椎動物も(A)という同じ種であった。それから両者は別々の進化の道を歩み始めて、節足動物(B)と脊椎動物(C)に分かれたわけだ。

劇的な変化は、1億年ほどで起こったのに……

したがって、両者の違いは、「AからB」のあいだに変化した量と「AからC」のあいだに変化した量を足したものになる。進化にかかった時間で考えれば、「AからB」の時間と「AからC」の時間を足したものになるわけだ。

「AからB」は数千万年、「AからC」も数千万年なので、両方を足してもせいぜい1億年ぐらいだろう。その程度の時間で(A)は節足動物(B)と脊椎動物(C)に大きく変化したのである。

一方、節足動物のエオレドリキアとショウジョウバエのあいだの違いを生み出した時間は、「Bからエオレドリキア」と「Bからショウジョウバエ」の時間を足したものなので、5億~6億年ぐらいだ。それなのに、両者は同じ節足動物なので、形がそれほど大きくは違わない。同じことは、脊椎動物のミロクンミンギアとヒトにも言える。

考えてみれば、これは不思議なことである。

節足動物と脊椎動物が分かれたときは、短い時間で形が大きく変わったのに、節足動物や脊椎動物が生まれた後は、長い時間が経ってもあまり形が変化していない。それはなぜだろうか。

進化できる「ボディプラン」には限りがある

これには大きく分けて2つの説明の仕方がある。

一つは、進化できるボディプランには限りがある、という説明だ。節足動物と脊椎動物は、かなり異なるボディプランをしているし、その他の動物も、いろいろなボディプランを進化させている。しかし、だからといって、どんなボディプランにも進化できるわけではないかもしれない。

動物の発生は、受精卵が細胞分裂をすることによって進んでいくが、その道筋には何らかの制約がある可能性がある。そのため、たどり着けるゴールの数は、限られているのかもしれない。このゴールが、動物の成体のボディプランというわけだ。

ダーウィンのノートより「進化系統樹のイメージ」(gettyimages)

そのため、まだボディプランが決まっていない時代の初期の動物は、さまざまなボディプランへと進化することができるけれど、いったんボディプランが決まってしまうと、それを変更することは難しくなる。

つまり、まだボディプランの決まっていない動物の共通祖先は、節足動物にも脊椎動物にも進化できたけれど、いったん節足動物や脊椎動物になってしまうと、その後はずっとそのままだというわけだ。

生態系における「役割」には限りがある

もう一つは、生態系における役割には限りがある、という説明だ。

これは、樽に石を詰めることに例えられる。空の樽には、大きな石も入る。しかし、樽がいっぱいになると、大きな石は入らない。できることは、せいぜい小さな石を隙間に入れることぐらいだろう。

gettyimages

この樽は生態系を表し、石は生態系における役割を表している。ただし、生態系で新たな役割を果たすには、おそらく新たなボディプランを持つことが必要なので、この石はボディプランを表していると考えてもよい。

まだ生態系の役割が空いているときは、新しいボディプランも進化できる。しかし、動物が増えて生態系の役割が埋まってしまうと、もはや新しいボディプランは進化できない。せいぜい小さな変化を進化させるぐらいがやっとである。

そのため、いったん節足動物や脊椎動物などのボディプランが確立して、生態系が満たされてしまうと、新たなボディプランは生まれづらくなる。そして、確立されたボディプランが、生態系における同じ役割を、長期にわたって果たし続けることになるのである。

どちらの説明が正しいのかはわからないが(あるいは両方ともある程度は正しいのかもしれないが)、動物の形態の進化速度が大きく変わることは確かだ。

進化していくにつれて形がだんだん変わっていくことに間違いはないけれど、進化した時間が長ければ長いほど、形が大きく変化するわけではないのである。

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