じつに、5000個もある「太陽系外の惑星」。そこに生命の存在は見出せるか…認めざる得なかった「地球の生命システム」の独自性と多様性

生命科学
じつに、5000個もある「太陽系外の惑星」。そこに生命の存在は見出せるか…認めざる得なかった「地球の生命システム」の独自性と多様性(小林 憲正)
生命はなぜできたのか? この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。【地球での生物進化】に、非生命が生命に至るまでの化学進化についてのヒントがあるか」というテーマで、一連のトピックをご紹介しています。今回は、地球の全球凍結が生命にもたらした影響と、系外惑星の聖m性存在の可能性から見えてきた、アストロバイオロジーに求められる視点について解説します。

じつに、5000個もある「太陽系外の惑星」。そこに生命の存在は見出せるか…認めざる得なかった「地球の生命システム」の独自性と多様性

全球凍結で生じた光合成生物の激減

地球での生物進化を振り返り、そこに、非生命が生命に至るまでの化学進化について学ぶものがあるか、考えてきました。その過程で、前回の記事では、シアノバクテリアの大量発生を原因とする、地球大気の酸素濃度上昇「大酸化事変」が引き起こした「全球凍結」(スノーボール・アース)事件を取り上げました。では、全球凍結とは、どのような出来事だったのでしょうか。

米国の地質学者ジョゼフ・カーシュヴィンクは、 6億3500万年前には赤道の直下だったはずの南オーストラリアの地層を調べたところ、そこに氷河が運んできた堆積物が存在するのを見つけ、この時期に地球全体が凍結していたとする全球凍結説を提唱しました。

それまで知られていた新生代の氷河期は、氷河が中緯度まで押し寄せてきたとするもので、赤道までは凍っていませんでした。もし、赤道も凍っていたとすると地球は真っ白な惑星になり、太陽からの光の多くを反射するため、地球の温度はますます下がってしまうでしょう。それは、現在の地球が凍りついていないことと矛盾します。

このような理由から、全球凍結説は最初、猛反発をくらいましたが、その後、研究が進展して、いまでは少なくとも3回、地球が全球凍結したことが定説となっています。凍結した地球が解凍したのは、凍結により光合成生物の活動が抑えられて二酸化炭素の消費が少なくなった一方で、火山からの供給は続き、大気中の二酸化炭素濃度が上昇したためと考えられています。

3回の全球凍結は、そのときの生態系に壊滅的な影響を与えたはずです。氷により太陽光が遮られて海水中の光合成生物は激減し、それに依存した従属栄養生物も数を減らしました。

3回の全球凍結は、そのときの生態系に壊滅的な影響を与えたはず illustration by gettyimages

地球の進化と生物の進化のシンクロ

さて、ここで注目されるのが全球凍結の時期です。1回目が23億年〜22億2000万年前、2回目が7億3000万年〜7億年前、3回目は6億6500万年〜6億3500万年前とされています。これらの少しあとに、生物進化の大事件とされる真核生物の誕生(20億年前頃)や多細胞生物が急増したアヴァロンの爆発(5億7000万年前)が起きているようにみえるのです。

さきほど、個体数が少ないときに変異が集団に広まりやすいことを述べましたが、実際、まさに地球環境が激変したあとに、そのような生物の大進化が起きた可能性が考えられます。恐竜を滅ぼした隕石衝突後、絶滅を免れた哺乳類が一気に進化したのも、衝突により哺乳類も個体数を劇的に減らしたためでしょう。これも、地球の進化と生物の進化がシンクロしている例といえるでしょう。

アストロバイオロジーからみた生物進化…地球外はどうか

次に「地球外」に視点を移して、アストロバイオロジーと生物進化について考えます。以前の記事で、太陽系の生命探査によって生命の起源へのヒントが得られる可能性があることを述べました。では、生物進化についてはヒントが得られそうでしょうか。

太陽系で生命が存在するかもしれない天体は、火星、エウロパ、エンケラドゥス、タイタンなどがいまのところ考えられますが、当面の探査の対象となる生物は、微生物と考えられます。

ボイジャー2号が撮影したエウロパ。無数の[筋]が見られる  photo by NASA/JPL via gettyimages

もちろん微生物も進化するので、生命が検出され、その多様性が解析できれば地球外での生物進化の議論ができるでしょう。

しかし、多細胞の大型生物や、知的生物が存在している可能性についてはあまり期待されていません。

宇宙に生命の痕跡を探す旅……地球外生命から考える地球の生命シリーズ第1回は、こちら〈地球以外に存在するのか…「地球外生命」への大きすぎた期待と、じつに意外だった「ヴァイキング探査の結果」〉

アストロバイオロジーからみた生物進化 「系外惑星編」

太陽系外にある恒星を周回する惑星が初めて見つかったのは、1995年のことでした。発見したのはスイスの天文学者ミシェル・マイヨール(1942〜)と、その学生のディディエ・ケロー(1966〜)で、2人はこの功績で2019年にノーベル物理学賞を受賞しました。

系外惑星発見の難しさは、まず、明るい恒星のすぐ近くにある、みずからは光らない暗い惑星をとらえなければならないところにあります。そこで、間接的に見つける方法がおもに開発されました。

恒星も惑星からの重力を受けているため、若干ですが動きます。そのとき、恒星からの光の波長が変化します。これを調べるのがドップラー法(視線速度法)です。また、惑星が恒星の前を通過するときに、恒星の明るさが減少することを利用するのがトランジット法です。

マイヨールたちが使ったのは、ドップラー法でした。そして、ついにその網に、1個の惑星がかかりました。それは、サイズは木星に近いほど大きいのに、公転周期は4.2日しかないという、太陽系の常識からはずれた惑星でした。多くの天文学者は太陽系の常識にとらわれていたために、なかなか見つけられなかったのです。

ペガスス座51番星の周りをまわっているこの惑星は「ペガスス座51番星b」と命名され、その特徴的な性質から「ホットジュピター」というカテゴリーに分類されています。

ペガスス座51番星b illustration by NASA

1つ見つかれば、あとは次々と見つかりました。その後、現在までの30年ほどのあいだに、5000個を超す系外惑星が見つかっています。

次の興味は、その中に生命を宿す惑星があるかどうかです。

生命を宿す太陽系外惑星は存在するか

5000個を超す系外惑星の中に、生命を宿す惑星があるのでしょうか。まずは単純に、恒星の明るさと、惑星との距離から、ハビタブルゾーンにあるかどうかが議論され、適合する惑星が「ハビタブル惑星」の候補としてリストアップされました。ただし、これはあくまで候補です。実際に生命がいるかどうかは、大気の成分がヒントになります。

大気の成分で最も注目すべきなのが、酸素とオゾンです。

酸素は非常に反応性が高く、大気中で安定に存在しにくい分子です。もし存在するなら、地球のように、酸素をたえず発生しつづけるシステム、たとえば光合成生物が存在していることが強く示唆されます。つまり、系外惑星の大気に酸素が存在すれば、酸素発生型の光合成生物がいることが推測できるのです。このような生物の存在を示唆する分子をバイオマーカーと呼びます。

そして大気中の酸素濃度が高まると、オゾンが生成します。オゾンの濃度は低いのですが、酸素よりも検出が容易である点がメリットで、オゾンは優れたバイオマーカーです。

また、地球の光合成生物は、クロロフィルという色素を用いて光合成を行っていますが、このクロロフィルも優れたバイオマーカーになり得ます。どういうことでしょうか。

光合成で知る生命の痕跡

地球の光合成生物は、クロロフィルという色素を用いて光合成を行っています。つまりクロロフィルによって光合成に使われた波長の分だけ、太陽光が減るわけです。地表の多くを覆っている植物のクロロフィルは、赤い可視光を強く吸収しますが、それより波長の長い赤外線は吸収しません。

そのため地球外から見ると、反射光の赤い可視光と赤外線のあいだにギャップが生じるわけです。これを「レッドエッジ」と呼びます(図「レッドエッジ」)。系外惑星でもこれが見られれば、その惑星の陸地は地球の植物のような生物で覆われている可能性が考えられます。

ただし、中心にある恒星が太陽よりも小さいと、赤外線をより強く出していて、それに対応して恒星のまわりの惑星で赤外線を用いた光合成が発達している可能性もあります。

レッドエッジ(Y. Fujii et al., ApJ, 715, 866 ‒ 880[2010])。可視光と赤外線のあいだに大きなギャップがある

地球の場合、陸地がこのように光合成生物で覆われたのは、地球史46億年のうち、最近の4億年のみです。この方法で見つかるハビタブル惑星も、生物進化がかなり進んでいる可能性が高いといえるでしょう。

生命システム自体の多様性と独自性を考える必要

今回の一連記事ではまず、地球での生物進化を振り返り、そこに、非生命が生命に至るまでの化学進化について学ぶものがあるか、考えてきました。生物進化については、化石という、進化の過程を記録したものが地球上に残っていて、さらに現存のそれぞれの生物種は、一つの樹の形で表される分子系統樹に沿って、約40億年間、進
化の歩みを続けてきたことがわかっています。

つまり、すべての地球の生物種はみな兄弟なのです。それぞれの生物種は、ある意味、それぞれの“専門領域”での進化の頂点にいるといえます。ヒトは「知性」の面で他の生物よりも優れており、それを武器に地球表層で最も繁栄している生物となりました。

しかし、個体数や種の「数」を指標として考えると、昆虫こそ地球で最も繁栄している動物でしょう。ヒトの人口は80億を超えたところですが、アリの個体数は2京ほど、つまりヒトの1億倍以上です。

アリよりもちっぽけな南極のオキアミは、1個体の重さで勝負すればヒトと比べものになりませんが、総重量でいえばヒトの4億トンを上回るといわれています。微生物も、植物も、なんらかの点でそれぞれ、ヒトをしのぐものを持っているのです。つまり、生物はそれだけ多様性と独自性に富んでいるのです。

オキアミ。総重量でいえばヒトの4億トンを上回るといわれる photo by gettyimages

そして、そうした生物進化では、たとえばチンパンジー→アウストラロピテクス→ネアンデルタール人→現生人類のような、一方向に向かう進化という考え方は、すでに否定されています。

では、化学進化はどう考えられているかといえば、そこではいまだに、ヌクレオチド→オリゴヌクレオチド→RNAワールド→RNPワールド→DNPワールドといった、一方向に向かう進化という考え方が主流になっています。

私たちがこのようなイメージにとらわれているのは、生命システムにはいろいろな形がありえるはずなのに、地球という惑星上ではそれらは淘汰されてしまい、現在の地球上にはたった一つのシステムしか残っていないためです。そろそろ生物の多様性とその独自性をみならって、生命システム自体の多様性と独自性を考えることが必要なのではないでしょうか。

スポンサーリンク

コメント

タイトルとURLをコピーしました