なんと、原始の大気に陽子線をあてたら「がらくた分子」ができた…! じつは、これこそが「生命のはじまり」かも、という「驚きの仮説」

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なんと、原始の大気に陽子線をあてたら「がらくた分子」ができた…! じつは、これこそが「生命のはじまり」かも、という「驚きの仮説」

放射線によってできる「がらくた分子」

原始大気や宇宙空間などで、放射線の影響によりアミノ酸前駆体が生成することを述べてきました。

では、こうしてできるアミノ酸前駆体とは、どのようなものなのでしょうか。

もし、ミラーや欧米の多くの研究者が考えるように、アミノ酸がストレッカー合成*でできるならば、その前駆体はアミノアセトニトリルという比較的単純な分子(図2 ‒ 5)のはずです。

しかし、加速器実験による生成物を加水分解する前に分析したところ、アミノアセトニトリルは少量しか存在せず、加水分解後に生じるアミノ酸のごく一部しか説明できないことがわかりました。では、ここでのアミノ酸前駆体とは、おもにどのような分子なのでしょうか。

*ストレッカー合成:アルデヒド(またはケトン)とアンモニア、シアン化水素との反応により、アミノ酸を合成する反応。詳しくは、『生命と非生命のあいだ』第2章、もしくは記事〈残念ながら、原始地球の大気に「メタンありき」は、思い込みだった…衝撃的だった「ミラーの実験」が残した「1つの功績と2つの罪」〉参照。

アミノ酸前駆体とは、おもにどのような分子なのか photo by gettyimages

原始大気や星間物質をモデルにした単純な分子(たとえば一酸化炭素、アンモニア、水蒸気の混合物)に、宇宙線を模した高エネルギーの陽子線を照射して、調べてみました。照射を始めるとまず、気相中に「もや」が生じます。

このもやは、水によく溶けます。もやの溶けた水溶液を取り出して分析すると、分子量が1000以上のものが多くできていることがわかりました。これを加水分解すると、いろいろなアミノ酸が生じてきます。したがって、この分子量1000以上のものは、アミノ酸前駆体を含むことがわかりました。

加水分解してアミノ酸ができる分子量の大きいものというと、タンパク質が思い浮かびます。タンパク質はアミノ酸がきれいに一列に並んでつながった分子なので、加水分解すると、ほとんどすべてがアミノ酸になる、優れた生化学的機能を持つ洗練された分子です。

ところが、陽子線照射でできた分子を加水分解してできるアミノ酸は、もとの分子の数%にすぎないことがわかりました。つまり、もとの分子の90%以上は、アミノ酸以外の分子ということになるわけです。

機能が低く、洗練されていないけれど、役に立たないわけではない「がらくた分子」

生命のもとになるアミノ酸という分子が少しと、それよりずっと多くのアミノ酸以外の分子がつながった分子ということで、私たちはこれら分子量1000以上の分子を「がらくた分子」とよぶことにしました。

「がらくた」といえば普通は、役に立たない、値打ちのないもののことを思い出すでしょうが、ここでは「がらくた市」に並ぶ古い骨董品のようなものをイメージしてみてください。それらは最新の高機能のものではありませんが、まったく役立たずというわけではないはずです。

つまり「がらくた分子」とは、「機能が低い、洗練されていない分子」という意味合いで、そうよんでいるのです。図「グリシンの分子模型と〈がらくた分子〉のイメージ」の右が、がらくた分子のイメージです。左のグリシン分子よりもずっと大きいですね。

グリシンの分子模型と〈がらくた分子〉のイメージ

放射線によって、なぜこのような大きい分子ができるのでしょうか。

がらくた分子は、どうやってできるのか

そのくわしい機構はまだ不明ですが、重要なのは、放射線(粒子線やガンマ線など)のエネルギーが、紫外線や熱と比べてはるかに大きいことです。

分子の中で、原子と原子を結合させるエネルギーは数電子ボルト(1電子ボルトはエネルギーの単位で1.6×10⁻¹⁹ジュールに相当)ですが、紫外線のエネルギーも数電子ボルトなので、ちょっとした結合の強さの違いで切れたり切れなかったりと、結合が切れる場所は限定的です。

ところが放射線であれば、ガンマ線は数百万電子ボルト、宇宙線はそれよりもさらに高エネルギーのものが多いので、どんな分子でも簡単に結合を切ったり、電子を剝ぎ取ったりすることができます。だから放射線が通りすぎた直後は、原子はいったんばらばらになります(図「陽子線照射による「がらくた分子」生成のイメージ」の(a)a)。

しかし、ばらばらの状態は安定ではないので、すぐにつながってより安定な分子になろうとします(図「陽子線照射による「がらくた分子」生成のイメージ」の(b))。このようにして、ばらばらになったものが次々とつながって、さまざまな大きい分子(すなわち、がらくた分子)ができるのではないかと私たちは考えています。

陽子線照射による「がらくた分子」生成のイメージ。(a)陽子線が通ったところの分子がばらばらになる (b)直後に急冷されると次々と原子がつながる

では、このようながらくた分子は、何か機能を持っているのでしょうか。

がらくた分子の機能

タンパク質酵素の中には、「エステル」とよばれる、分子を分解してアルコールと有機酸にする活性を持つものがあります。これを「エステラーゼ活性」といいます。がらくた分子を調べてみたところ、弱いながらも、このエステラーゼ活性を持っていることがわかりました。

記事〈じつに、恐るべき「太陽フレア」による宇宙線…なんと、地球誕生時には「もっと頻繁に起こっていた」かもしれない〉でメルヴィン・カルヴィンについて触れましたが、彼が考えた「最初の触媒」のシナリオーー最初は非常に弱い触媒からスタートしたーーが、ここへきて現実味を帯びてくるのです。

「タフでなければ生きていけない」

ここで、生命が誕生するまでの化学進化の過程で必要なのはどのような分子かを、あらためて考えてみましょう。

いったん生命が誕生してしまえば、必要な分子をみずからリサイクルして使えるので、RNAのような洗練された弱く壊れやすい分子でもいいのですが、生命誕生前では必要な分子が壊れてしまえばおしまいです。ハードボイルドの主人公フィリップ・マーロウの台詞ではないですが、まさに「タフでなければ生きていけない」のです。

私たちは、陽子線を照射してつくったアミノ酸前駆体を含むがらくた分子の頑丈さを、アミノ酸そのものや、それまで想定されていた、がらくた分子よりも小さいアミノ酸前駆体と比べてみました。

アミノ酸が星間でできたとすれば、それは宇宙線にさらされます。原始太陽系星雲に取り込まれれば、場所によりますが、若い太陽からの紫外線やX線にさらされるでしょう。小惑星の内部では、放射性元素からのガンマ線などを浴びます。隕石や彗星からできた宇宙塵として地球に降るときは、太陽からの紫外線が最もシビアです。

これらの条件で比較してみますと、がらくた分子の形が、アミノ酸そのものや、小さいアミノ酸前駆体よりも安定であることがわかりました。

宇宙塵として地球に降るときは、太陽からの紫外線が最もシビアといえる illustration by gettyimages

多様な機能を持つ可能性

また、「がらくた分子」とひとくくりにしていますが、それぞれの分子に共通しているのは炭素(C)、水素(H)、酸素(O)、窒素(N)でできていることと、平均して数%のアミノ酸を含んでいることだけで、構造はどれも異なっているはずです。

さきほど、がらくた分子は触媒活性を持っていると言いましたが、1分子ずつ取り出して、その触媒機能を測ることができれば、それぞれは異なった値を示すでしょう。そのなかには、何か”一芸”に秀でた分子もあるはずです。

生命の定義で、「ダーウィン進化」が重要視されていることを本シリーズ第1回目の記事で述べました。進化はより環境に適したものが選ばれるという「自然選択」によって起きるとする考え方です。

生命誕生後の生物進化においては、ダーウィン進化が重要な働きをすることは広く認められています。もし生命誕生前の化学進化の時代にも、このダーウィン進化が起きていたとすると、そのときに鍵となるのは、進化によって選別されるもととなる、大きい集団(「ライブラリー」とよびます)です。その意味でがらくた分子は、生成当初から膨大なライブラリーを形成しているので、きわめて多様な機能(触媒機能など)を持つものが含まれていることが期待できます。

RNAワールドの研究者たちが行っている試験管内分子進化という手法も、変異ライブラリーの中で機能の優れたものを選び、それを増幅して機能の優れたRNAをつくりだすものです。こうしたアプローチは「進化分子工学」とよばれていますが(図「進化分子工学のサイクル」)、がらくた分子が進化したとする「がらくたワールド仮説」も、基本的には同じ考え方といえます。

進化分子工学のサイクル。選別・増殖・変異を繰り返す

続いては、地球以外でも生命はできるのか、という問題について、取り上げます。

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