トランプ「怒りの閉鎖処分」のUSAIDへの「大いなる疑問」…本当に世界メディアの左派偏向の元凶なのか

現代の米国
トランプ「怒りの閉鎖処分」のUSAIDへの「大いなる疑問」…本当に世界メディアの左派偏向の元凶なのか(朝香 豊) @gendai_biz
トランプ政権が世界の人道支援を担うUSAIDを「裏切り者」と名指しし、装飾的な支出を根本から見直すと宣言したことで、海外メディアへの不透明な資金供与やイスラム過激派への助成金が暴露され、アメリカの税金が無駄に使われている実態が明るみに!果たしてこの大改革は国際援助の未来をどう変えるのか、注目が集まる!

トランプ「怒りの閉鎖処分」のUSAIDへの「大いなる疑問」…本当に世界メディアの左派偏向の元凶なのか

USAIDはこのあたりを「裏切った」

トランプ政権がUSAID(United States Agency for International Development:アメリカ国際開発庁)について、全世界で1万人以上いる職員の97%を削減し、およそ290人にするとの方針を打ち出したことが話題になっている。

大統領執務室のイーロン・マスク(左)とトランプ大統領(右) by Gettyimages

この方針のもと、米東部時間で2月7日午後11時59分をもって、USAIDに直接雇用されている人員は全世界的に休職処分となった。

トランプはUSAIDの行うプログラムのうち、人道支援を除いた全てのプログラムを停止させ、海外にいる職員全員の30日以内の帰国を命じ、対外開発援助の効率性と外交政策との一貫性に関する評価を行うとして、90日間の援助停止に踏み切った。

USAIDは1961年に設立され、世界の紛争地域や貧困地域で食糧支援、教育支援、衛生支援などを行ってきたとされる組織だ。

2023年度にはおよそ130か国で400億ドル(6兆円)のプロジェクトに関わっている。これはアメリカが行う国際支援の6割程度に相当し、USAIDがアメリカの対外支援の中核を担う組織として存在してきたことがわかるだろう。

政府支出の削減策を検討するDOGE(政府効率化省)のトップであるイーロン・マスクは、USAIDの運用が不透明だとして、閉鎖が必要だとの認識を示している。

これに対して野党民主党や主流派メディアの側から、対外支援が失われることで、アメリカの国益が失われるとか、選挙で選ばれたわけでもないイーロン・マスクが大鉈を振るうことに根拠があるのかといった批判がなされている。

だがこの問題はすでに議会でも同様に問題視されているのである。

米下院外交委員会では、「USAIDの裏切り」に関する公聴会が開かれた。念のために言っておくが、「USAIDの裏切り」というのは私が勝手に名付けたものではない。米下院外交委員会のページには、the United States Agency for International Development’s betrayal of America(USAIDのアメリカの裏切り)と、はっきりと書いている。

この公聴会の冒頭でブライアン・マスト委員長も、many of the people and many of the programs in USAID have literally betrayed America(USAIDの人々の多く、プログラムの多くが文字通りアメリカを裏切ってきた)と語っている。

マスト委員長は、USAIDが行ってきたアメリカを裏切る支出の例として、グアテマラでの性転換手術の支援に200万ドル(3億円)、アフリカの人々に気候変動について教えるためのコンサルタント費用として5億2000万ドル(780億円)、カンボジアでのLGBTリーダーを決めるための費用として1400万ドル(21億円)、タリバンに対してコンドームを普及させる費用として1500万ドル(23億円)など9つの例を列挙した上で、こんな例は枚挙にいとまがないと語っている。

アメリカ国民からすれば、こんなことにこれほどの金額を自分たちの税金から賄われているというのは、許せないだろう。

イスラム過激組織への資金の流れも

さらに衝撃的な話もある。

アメリカの保守系シンクタンクの中東フォーラムの調査によると、国務省とUSAIDからからイスラム過激派組織に対して1億6400万ドルの助成金が支払われているという。

テッド・クルーズ上院議員は、2023年10月7日にハマスが行ったイスラエルに対するテロ攻撃を仕掛ける資金を、USAIDが提供していた可能性を指摘している。

なお、クルーズ上院議員は昨年5月に、イランに対して宥和的なアプローチをすることで、イランに多額の資金がわたり、それがハマスの資金の90%に相当する800億ドルを構成していたとして、バイデン政権を批判している。

こうした点から見た場合に、USAIDの問題は単にUSAIDだけの問題ではなく、アメリカの政権による不適切な支出が、アメリカや世界を大いに傷つけ、却って紛争を生みだすような仕掛けになっているのではないか、これらを抜本的に見直すべき時が来ているのではないかとの問題意識の中の一環であることがわかるだろう。

なお下院外交委員会のマスト委員長は、「裏切りはUSAIDの内容だけではない」とし、「最近の監査では、USAIDの実施パートナーは、助成金の50%を、命を救う措置ではなく、間接費に充当している」と指摘している。

例えばUSAIDが発展途上国の医療支援を行うというNGOに10億円の資金を提供した場合のことを考えてみよう。この時に実際に医療支援として使われるのは半分の5億円に過ぎず、残りの5億円は医療支援を実施するNGO側の人件費だの、輸送コストだのといった名目でNGO側に入っているのが実際だという感じの話をしていると見ればいい。

「慈善団体」を運営しているNGO関係者が楽して金儲けしている実態が表に晒され、ここにメスが入り始めているのだ。

ウクライナのゼレンスキー大統領は、米国が送った1770億ドルの援助金のうち、ウクライナが実際に受け取ったのは750億ドルあまりに過ぎず、残りのお金がどこに行ったかわからないと2月2日に語ったが、ここにも似たような巨大な中抜き構造が横たわっていることが想像される。

日本でも「慈善団体」に対して、政府や地方自治体が杜撰な審査で資金を安易に渡している実態が明らかになった。この件は主流派メディアではほぼ取り上げられていないものの、ネット上では「公金チューチュー」という言葉まで作られて、大きく批判された。

今回アメリカではこの「公金チューチュー」問題が、連邦政府レベルで全面的に問題にされたと考えればよい。

世界の左派ジャーナリズムを支援したのか

また別の問題として、USAIDが30カ国以上で独立系のメディアを支援し、2023年には6200人のジャーナリストの養成・支援に資金提供し、707の非国営の報道機関を支援してきたことも取り上げられている。こうした支援予算は2025会計年度で2億6800万ドル余り(400億円)に達しており、この2つを結びつけて年間400億円を使って左派ジャーナリズムを育成してきたのだという指摘がなされている。

この指摘に妥当性が全くないわけではないだろうが、左派ジャーナリズム主流の現在のメディア環境に、この問題が大きな影響を及ぼしているという見立ては、私は違うのではないかと思っている。

2月4日にアメリカの左派ジャーナリズムのポリティコが「技術的な問題」によって給与の支払いが止まったことを明らかにしたが、これがUSAIDの援助停止と時期的に重なったことから、アメリカの右派メディアによって両者を単純に関連づける報道が行われた。すなわち、USAIDの援助停止によってポリティコの給与の支払いが止まったかのように報じたのだ。

だが、この両者を結びつける報道は、ミスリーディングだったと言わざるをえない。

USAIDはポリティコに対し2024年度(23年10月~24年9月)1年間にに2万4000ドル(360万円)を支払っているにすぎない。連邦政府全体では810万ドル(12億4000万円)も支払われているが、これらは全て購読料であり、補助金の類ではない。そして購読料は年間契約だから、急に止められるものでもないし、ポリティコの収入全体に対しては3%程度の比重しか持たないのが実際だ。

それにしても810万ドルは高額すぎないかという見方もあるだろうが、ポリティコにはポリティコプロという高付加価値のサービスがあり、このサービスを利用する連邦職員も多くいることで、多額の購読料がポリティコに支払われる状態を生み出している。

もっとも連邦職員の中には、自分の考えと近い左派メディアを政府予算で支援できるなら支援したいということで、安易な購読が広がっていたのは間違いないだろう。ポリティコの収入の3%にすぎないといっても、利益率がさほど大きくないメディアからすれば、トランプ政権がこれを厳しく締め上げて3%の収入減少となれば、経営的には大きな影響を受けることになるだろう。

とはいえ、ポリティコが年間12億円の連邦政府絡みの収益を失ったとしても、それによって政治的ポジションを今後変更するとは考えにくいと見るべきではないかと思う。

というのは、アメリカの教育が左翼系に染め上げられていて、普通に真面目にお勉強をしてきた人たちの中には左翼的な考えに知らず知らずのうちに染まっていることも多いのだ。日本でも左派的な偏向教育が行われているという批判がなされているが、アメリカの左派偏向教育は、日本のレベルをさらに上回っている。そうした教育を受けた人たちがメディアに入り込むことによって、左翼偏向が自然に作られている側面が圧倒的に強いと見るべきだ。

資金配分はたしかに無茶苦茶だが

BBCは傘下の国際慈善団体BBCメディア・アクションが、USAIDから320万ドル(約4億9000万円)を受けていることを明らかにした上で、編集権は独立しており、BBCの記事にUSAIDの影響が及んでいるとの見方を否定した。

私はこのBBCの主張も妥当性があると考える。

BBCは確かに主流派メディアの一員であり、左派的な傾向を持っているが、それはUSAIDの資金工作によってもたらされたものではなく、もともと左派系の人間がBBCに流れ込んだ結果にすぎないと見る方が適切だからだ。

さらに言えば、USAIDによる海外メディアなどへの支援は、否定的な文脈でのみ捉えられるべきではないと私は思う。

例えばロシアのウクライナ侵攻に対して、ウクライナ側からの情報発信に努めているキーウ・ポストが、USAIDなどからの資金援助なしに運営できることは考えにくいだろう。

アメリカも対外工作を行なっているが、中国やロシアだって対外工作を仕掛けている。中国やロシアの対外工作が展開される中で、アメリカ側の対外工作だけが行われなくなることが、果たしていいことなのかというのは、冷静に考えるべきではないか。

アメリカの主流派メディアにも連邦機関にも左派勢力が強力に入り込んでいて、そうした勢力がかなり身勝手な資金配分を行い、それが無茶苦茶なレベルに達しているというのは確かだと言っていいとは思う。

「公金チューチュー」を荒療治するために

「公金チューチュー」状況を抜本的に改善するために、90日間の資金凍結といった荒療治に出たことも、私としては理解できる。

ただそれでも、それがいい結果だけを産むわけではないというところも、冷静に見るべきだと思うのだ。

ニューヨークに拠点を置くチャイナレイバーウォッチは、中国の労働者権益の侵害を監視して、定期的なレポートを発表し、新疆のウイグル自治区での国有綿花農場における強制労働などの告発を行なってきた。

福島香織氏によれば、このチャイナレイバーウォッチの活動資金の90%は米政府の資金によって賄われてきたが、こうした資金が1か月で底をつくことになるという。こうした事態を招いてよいのかという問題意識も持つべきではないか。

メディアの話ではないが、カンボジア最大の地雷除去組織・カンボジア地雷対策センター(CMAC)へのUSAIDの資金凍結を受けて、CMACにはすぐさま中国からの資金提供が2倍になることでその穴が埋められたと発表された。

このような形で、中国のカンボジアへの影響力が高まることは大したことではないのだろうか。

トランプからすれば、こうした問題が生まれるとして非難されることには反論したい気持ちもあるだろう。アメリカ一国だけが支えるべきものなのか、日本やヨーロッパ諸国も一緒になって支えるべきではないのかという問題意識も、恐らくトランプにはあるのだろう。そしてそれは決してわがままな主張ではない。

だから日本政府は、日本も資金も人員も拠出することを提案した上で、対外援助の協力の枠組みをどう構築するかについて、組織の腐敗防止策も考えた上で、米トランプ政権に建設的な提案をすべきではないのか。

我々はこの問題について傍観者的に善悪を論じるだけではいけないのではないかと思う。

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