
トランプにすがり「関税は除外して」と哀願か?“植民地的”属国官僚に取り巻かれた石破首相が続ける情けない選択

自らを「タリフマン(関税男)」と称し、次々と関税措置を打ち出し続けるトランプ大統領。3月26日には全輸入自動車に25%の追加関税を課すと発表し、日本を含む関係各国が対応に追われる事態となっています。我が国はトランプ政権に対し、どのような姿勢を持って臨むべきなのでしょうか。今回のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』でジャーナリストの高野孟さんが、石破政権が取るべき戦略を考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:日本は国家としての自尊心を取り戻し、反トランプ関税の国際連帯の先頭に立つべきだ!
プロフィール:高野孟(たかの・はじめ)
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
国家としての自尊心を取り戻せ。反トランプ関税の国際連帯の先頭に立つべき日本
トランプ米大統領が自動車の輸入に25%の追加関税を課すと発表したことに対し、これまでは遠慮がちだった日本のマスコミもさすがに奮起し、「目に余る米政権の暴走」「不当なトランプ関税を直ちに撤回せよ」「日本経済の基盤守らねば」(3月28日付各紙の社説)と強い口調で非難した。問題は日本政府の姿勢で、
【1】これまで通り米政権に擦り寄って、何とかウチだけは適用除外にしてくれませんかと哀願するような態度を続けるのか。
【2】それとも、カナダのカーニー新首相がそうしているように真っ向からトランプを批判し、直ちに報復措置を打ち出して対抗しようとするのか。
【3】さらに踏み込んで、そのカナダやフランスのマクロン大統領、中国の習近平主席らと連携して自由貿易擁護・トランプ主義撲滅の国際包囲網を形成して日本のみならず世界経済を救おうとするのか。
――という上中下3次元の策がありうる中で、植民地的属国官僚に取り巻かれた石破茂首相は、恐らく【1】の情けない選択を続けるしかないのだろう。
「トランプ包囲網路線」を訴える日本経済新聞株式欄
それに対し、【3】のトランプ包囲網路線を訴えて小気味良いのは、日本経済新聞株式欄の人気コラム「大機小機」3月25日付の「無垢」子の「トランプ関税の全廃に立ち上がれ」である。要旨はこうだ。
▼このままトランプ関税が発動されれば、世界経済はスタグフレーション(景気後退とインフレの併存)に巻き込まれる。この危機を座視できない。トランプ関税の全廃に世界中が立ち上がるときである。
▼米大統領就任から2カ月、鮮明になったのはその「経済音痴」ぶりである。関税ほど美しい言葉はないと繰り返す。貿易黒字は利益で貿易赤字は損失と思い込む。高関税で貿易赤字は減ると信じる。貯蓄投資バランスを軸とする経済学の常識に欠けている。
▼第1に高関税で2国間の貿易収支の均衡はできない。第2に関税戦争はエスカレートする。危機は深まり、消費も投資も手控えられる。市場の波乱による逆資産効果もある。第3に軍拡競争次第で債務膨張も懸念される。第4にその影響をまともに受けるのは、トランプ政権を支えた社会的弱者である。危機が経済格差をさらに広げる。
▼期待できるのはカナダのカーニー新首相だ。カナダ銀行と英イングランド銀行という2つの中央銀行の総裁を務めた本格的な経済学者で「友情ある説得」が望める。マクロン仏大統領らトランプに物申せるEU首脳との共闘も頼もしい。IMF、WTOとの連携も欠かせない。
▼重要なのは日本の役割。閣僚が「日本だけは例外扱いに」と頼みこむのはさびしい。政府も議会も経済界も労働組合も消費者も、そして経済学会もトランプ関税の撤廃で声をそろえるときである。「裸の王様」に追従するだけでは国際信義を失う。世界に視野を広げて、自分さえよければいいという姿勢から卒業するしかない……。
自尊心を喪失した者だけがすがるトランプの膝
マーク・カーニーは、この3月に中道左派の「自由党」党首に選出され、9年4カ月も続いて最後はスキャンダルも出て迷走気味だったジャスティン・トルドーから首相の座を引き継いだ。米ハーバード大学と英オクスフォード大学で経済学を学んだ博士で、ゴールドマン・サックスで13年間、金融の実務に携わった後、2008年にカナダ中央銀行総裁、13年には非英国人として初めて英イングランド銀行総裁に就いた。世界史上、2つの国の中央銀行総裁を歴任した初めての人である。
政治手腕は未知数で、対立する保守党と37.5% vs 37.1%で支持率を競い合うという難局に早くも直面しているが、保守党のポワリエーブル党首がトランプやバンスと親しい関係にあることを売り物にしてきたことが仇になって逆風に遭う中、カーニーは4月末に総選挙を繰り上げて政権基盤を固めようと攻勢に出ている。
ポワリエーブルはトランプ政権との距離の近さを逆手にとって「カナダへの関税を止めるよう交渉する」と言っているが、これは上述【1】の石破と同類の下策で、総選挙に勝つことは難しいだろう。
国際関係論の専門家で加米関係に詳しいトロント大学のロバート・ポスウェル教授は「同盟国を脅す国は定義上、もはや同盟国ではない。これは国家の自尊心の問題であり、米国市場への依存を減らすためにカナダはあらゆる努力を払うべきだ」と言っている(日経3月25日付)。その通りで、この期に及んでトランプの膝に縋り付くような真似ができるのは自尊心を喪失した者だけである。
トランプが気づいていない2つの重要な事実
カーニーは恐らく、中学生に諭すように「関税という言葉ほど美しくないものはない」ことをトランプに教えるだろう。それでもトランプは聞く耳を持たないだろうが、大事なのはそうしたやり取りが米国民と全世界の人々の目にさらされることである。それを通じて人々は、世の中はトランプが言うほど単純でないことを知ることになるだろうが、その例を1つだけ挙げれば、英BBCのサイトが3月28日付に出した図入りの説明がある。
トランプは鉄鋼やアルミにも、自動車の完成車だけでなく部品にも、25%の関税を上乗せすると言っているが、
(1)テネシー州から出荷されたアルミ粉末は、
(2)ペンシルバニア州で棒状に加工され、
(3)さらにカナダに運ばれてピストン部品用に加工・研磨され、
(4)メキシコでピストンが組み立てられ、
(5)ミシガン州でエンジンとして完成され車に搭載される。
(2)→(3)は米から加への輸出になるので加側で、(4)→(5)は墨から米への輸出になるので米側で、それぞれ関税が発生する。(1)→(2)は米国内の移動、(3)→(4)は加から墨への輸出なので関税は発生しないが、(3)と(5)では今までかかっていなかった分が上乗せされ、それだけ自動車産業のコストが増える。しかしそんなことをしても誰も幸せにならない。
トランプはそれが嫌なら全て米国内でやれるようにすればいいと言うが、加と墨は米国との国境を跨がないようにして米国を抜きにし関税を回避するという手もあることに、トランプは気づいていない。また仮に米国内でやれるようにしようと思っても、それが出来る機械設備とそれを操る熟練労働者を抱えた企業があるかどうかは保証の限りではないことに、トランプは気づいていない。関税で脅せば何でも思い通りに運ぶと思い込んでいるところが、馬鹿なのである。
日本はカナダに学んで自尊心を取り戻す戦略に転換する必要がある。
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