トランプの7月建国250周年「グリーンランド奪取計画」をスッパ抜く!

来たる2月1日から、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フランス、ドイツ、イギリス、オランダ、フィンランドから米国に輸入されるすべての商品に10%の関税が課される。1月17日、ドナルド・トランプ大統領は自らのSNS(TruthSocial)で、この方針を示した。
さらに、6月1日から関税が25%に引き上げられると警告した。この関税は、グリーンランドの買収に関する合意が成立するまで適用される。なお、現在、欧州連合(EU)加盟国からの商品には15%、英国からの商品には10%の関税がかけられている。EU27カ国は単一の貿易・関税圏であるため、一部の国に関税を課すことは、すべての国が新たな貿易税に直面するかもしれない。
とくに、この8カ国がやり玉にあがったのは、「目的不明のままグリーンランドへ向かっている」ためとした。しかし、これはごく少人数の派遣にすぎない。
たとえば、ドイツは北極圏における海上監視と戦略的軍事協力に焦点を当てた多国籍ミッションの一環として、グリーンランドに連邦軍兵士13名を派遣した(1月15日付の情報を参照)。具体的には、ドイツ軍部隊はエアバスA400M輸送機でヌークへ空輸され、17日まで共同演習に参加する。なお、15日、ドイツ国防省は「他の NATO(北大西洋条約機構)加盟国とともに、グリーンランドに調査チームを派遣する予定」と発表した。
他方で、ノルウェー国防省報道官は同日、グリーンランドに国防要員2名を派遣するとCNNに語った。フランス軍は山岳歩兵15名を、フィンランドとノルウェーはそれぞれ将校2名を、英国軍は将校1名を派遣したとの情報もある。イタリアのジョルジア・メローニ首相は、トランプの関税脅威の後、トランプに電話をかけ、トランプがグリーンランドへの小さな、象徴的な部隊配備を誤解していると示唆した模様だ(The Economistを参照)。
追加関税を課される8カ国は18日、共同声明を出し、「NATOの一員として、我々は共有する大西洋横断的利益として北極圏の安全保障強化に取り組む」のであり、「同盟国と共同で実施した事前調整済みのデンマーク演習「アークティック・エンデュランス」は、この必要性に応えるものである」と、今回の騒動について弁明した。
他方で、トランプの投稿には、「我々は長年、デンマークや欧州連合(EU)加盟国、その他諸国に対し、関税やその他の対価を課さずに補助してきた」から、「今や数世紀を経て、デンマークが恩返しする時が来た」と書かれている。「中国とロシアはグリーンランドを狙っており、デンマークにはどうすることもできない」のだから、米国領に入れということのようだ。
「ヤンキー帰れ!」
1月17日、グリーンランドの住民は抗議活動を行った(下の写真)。「ヤンキー帰れ」というわけだ。数百人が参加し、グリーンランドのイェンス=フレデリック・ニールセン首相が登壇すると、歓声があがった。
(出所)https://www.nytimes.com/2026/01/17/world/europe/greenland-denmark-protest-trump-takeover.html
同日、デンマークの首都コペンハーゲンでは、何千人もの人々が市庁舎前広場に集まり、米国大使館まで行進しながら「グリーンランドは売らない!」、「グリーンランドに手を出すな!」と叫んだ。群衆の上には、グリーンランドの赤と白の旗が翻っていた(下の写真)。
(出所)https://meduza.io/short/2026/01/17/ruki-proch-ot-grenlandii
ベネズエラの「成功」が後押し
グリーンランドを米国の支配下に置こうとする動きは、1月3日に米軍によって実施された、ベネズエラのマドゥロ大統領夫妻の「誘拐劇」の「成功」によって勢いづいた。1月4日のエアフォース・ワンでの記者団への応答のなかで、トランプは「国家安全保障の観点からグリーンランドが必要だ」と話した。
それより前に、スティーブン・ミラー大統領次席補佐官の妻ケイティ・ミラーは、1月3日夜の段階で、「もうすぐ」というキャプションとともに、アメリカ国旗の色で塗られたグリーンランドの写真をXに投稿した(下を参照)。1月5日には、夫もまたCNNの質問に答えて、「米国は北大西洋条約機構(NATO)の要である。米国が北極圏を確保し、NATOとその利益を保護・防衛するためには、明らかにグリーンランドは米国の一部となるべきだ」とのべた。
(出所)https://x.com/KatieMiller/status/2007541679293944266
1月4日、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、「私は米国に対して非常に率直に申し上げなければならない。米国がグリーンランドを併合する必要性について議論することは、まったく意味がない。米国には、デンマーク王室領の3カ国のいずれかを併合する権利は一切ない」という声明を出した。前述したニールセン首相もまた、トランプ氏の発言を拒否し、大統領の暴言は「まったく容認できない」ものであり、ベネズエラとグリーンランドを結びつけることは「間違っている」「無礼だ」とソーシャルメディアに書き込んだ。
1月6日になって、欧州指導者は、「グリーンランドはその住民に属する。デンマークとグリーンランドに関する事項は、デンマークとグリーンランドのみが決定すべきである」とする共同声明を出す。Politicoによると、署名したのは、デンマークのフレデリクセン首相、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、ドイツのフリードリッヒ・メルツ首相、スペインのペドロ・サンチェス首相、英国のキア・スターマー首相、イタリアのジョルジャ・メローニ首相、ポーランドのドナルド・トゥスク首相。
ベルギーのバルト・デウェーフェル首相も、フレデリクセン首相の「NATO同盟国間の主権の尊重」を求める呼びかけを支持するとのべ、ソーシャルメディアに「西側諸国は分裂しているときではなく、団結して協力しているときにもっとも強い」と投稿した。また、オランダ、ギリシャ、ルクセンブルク、スロベニアの首脳も声明を支持した。
1951年のグリーンランド防衛協定
共同声明では、「北極圏の安全保障は、欧州にとって引き続き重要な優先課題であり、国際および大西洋横断の安全保障にとって極めて重要である」との認識に立って、その安全保障がNATOによってこそ守られると主張されている。ゆえに、「NATOは北極圏を優先課題と位置づけており、欧州加盟国は対応を強化している」と記述されている。このとき問題になるのが、デンマーク王国に属しているグリーンランドの取り扱いだ。共同声明には、「米国はNATO同盟国として、また1951年にデンマーク王国と米国との間で締結された防衛協定を通じて、この取り組みにおける不可欠なパートナーである」と記されている。
安全保障の観点からみると、NATO、米国、デンマーク、グリーンランドの関係が問題になる。この問題を理解するには、1951年4月27日にコペンハーゲンで締結された、「デンマーク王国政府とアメリカ合衆国政府との間のグリーンランドの防衛に関する北大西洋条約の枠組みにおける協定」について知らなければならない。
同協定には、米国とデンマークが「北大西洋条約の締約国」であり、グリーンランド防衛の取り決めについて交渉するよう「NATOから要請された」と明記されている。さらに、同協定の序文と条文の両方に、NATOへの直接的な言及があり、「米国の島での活動はNATOの計画と構想に従って行われなければならない」とされている。このため、米国がグリーンランドを併合(購入)したいという議論は、この1951年協定をどうするかという問題に直結していることになる。
「防衛の非対称性を是正する」
それだけではない。1951年協定の規定にもかかわらず、実際には、NATOの防衛計画においてグリーンランドはほとんど登場せず、米国は島における軍事的存在のパラメータを決定するにあたり、一方で主にデンマークと二国間で合意し、他方で北米および米国本土の安全保障上の国益と必要性に基づいてきたという現実がある。
こうした意味合いを解説してくれているのは、ロシア科学アカデミープリマコフ世界経済・国際関係研究所の研究員ニキータ・ベルーヒンだ。彼によれば、「グリーンランドの事例」は、NATOが設立当初から抱えている根本的な非対称性を如実に示している。米国が欧州大陸の安全保障に深く関与している一方で、欧州は北米の防衛体制には関与していないという非対称性が、グリーンランドについても、欧州側はデンマークを除いてほとんど無関心という状況が長くつづいてきたのである。
米国自身は、第二次トランプ政権になって、自国の領土の安全保障に関する問題を、完全に独自に、あるいは米加航空宇宙防衛司令部(NORAD)の場合のように、2国間で解決する傾向をより強くしている。「とくに現在、米国は北米および西半球の防衛に何らかの「欧州的側面」や「要素」を加えることに対して、深い懐疑心を抱いていると考える」と、ベルーヒンは指摘している。
おそらくトランプは、現行の1951年協定から「NATOの要素」を削除し、代わりにNORADと同様に、グリーンランドの安全保障と米国軍のグリーンランドにおける軍事的存在の拡大のために、2国間あるいはカナダも加えた3国間の指揮体制を構築したいのではないか。これにより、トランプは米国がグリーンランドに対する「軍事的支配権」を獲得したと主張すると同時に、「グリーンランド問題」を2国間問題のみに限定することで、デンマークをより従属的な立場に置きたいのだろう。
ベルーヒンの解説によれば、「米国はNATOの枠組みの外にグリーンランドの指揮系統を構築することで、より一層の統制力と機動性を獲得し、グリーンランドおよびその周辺海域・空域の安全保障を、欧州の同盟国が関与する多国間機構を介さずに、事実上自国の管轄下に置くことを期待している」。
「ゴールデン・ドーム」
そのことを裏づけているのが、冒頭で紹介した1月17日付のトランプの投稿だ。そのなかで、彼はつぎのようにのべている。
「今や、ゴールデン・ドームと現代の攻防両面の兵器システムにより、獲得の必要性はとくに重要となっている。『ドーム』に関連する安全保障プログラムには現在、カナダ防衛の可能性も含め、数千億ドルが投じられている。このきわめて精巧だが高度に複雑なシステムが、最大限の潜在能力と効率を発揮できるのは、角度や境界線といった要素において、この土地がシステムに組み込まれている場合に限られる」
ゴールデン・ドームとは、ミサイル防衛シールドを意味し、イスラエルによって開発された「鉄のドーム」(アイアン・ドーム)を念頭に置いている。こちらは、155mm砲弾、ロケット弾、ドローン(UAV)などによる攻撃に対する防衛のための近接防空をめざして構築された全天候型のシステムだ。だが、米国の場合、もっとずっと規模が大きく、陸上だけでなく宇宙を拠点とする兵器も備えたもので、敵のミサイルが離陸するのを追跡し攻撃することができる何百、何千もの衛星などを使って、アメリカを攻撃から守ることを意図している。
トランプは昨年1月27日、「アメリカのための鉄のドーム」という大統領令14186号を発出した。「弾道ミサイル、極超音速ミサイル、巡航ミサイル、およびその他の高度な航空攻撃による攻撃の脅威は、依然として米国が直面するもっとも壊滅的な脅威である」との認識から、「米国は、次世代ミサイル防衛シールドを配備・維持することにより、自国民と国家の共同防衛を図る」と記されている。
同年5月20日、トランプはゴールデン・ドームの総工費が1750億ドル、完成までに2~3年かかり、「100%に近い」防御を提供するとのべた(The Economistを参照)。「大きくて美しい」税制法案に250億ドルの初期資金が含まれ、プロジェクトには総額1750億ドルかかるとした。
議会予算局の試算では、20年間で5000億ドルを超える可能性があり、「2年半から3年」というトランプ氏の楽観的なスケジュールよりもはるかに長い時間がかかる可能性がある。「ワシントンポスト」によれば、5月初め、米議会予算局は、新ミサイル防衛システムの宇宙ベースの迎撃ミサイルだけを配備・運用する場合、今後20年間で1610億ドルから5420億ドルの費用がかかると試算している。
北極圏における軍事基地を示した下図からわかるように、ロシアの軍事基地に比べて、北米を防御する軍事態勢は決して盤石ではないようにみえる。米軍は、グリーンランドにピトゥフィック宇宙基地をもっているにすぎない。
(出所)https://www.washingtonpost.com/politics/2026/01/17/trump-greenland-europe-tariffs/
砕氷船の保有数を比べてみても、下図に示したように、圧倒的にロシアが多い。その保有数は、47隻であり、そのうち8隻は原子力砕氷船だ(昨年12月15日付「モノクル」参照)。その他の北極圏および非北極圏諸国を合わせた砕氷船の総数は43隻であるという。
米国は砕氷船を3隻保有していると示されているが、米沿岸警備隊の北極圏海域に配備された砕氷船は、わずか2隻であるという(昨年10月26日付のThe Economistを参照)。
ちなみに、昨年10月18日、プーチンはBRICSビジネスフォーラムで講演し、BRICS諸国のジャーナリストと会談した。そのなかで、エチオピアのジャーナリストに対して、プーチンは、「我々は世界に存在しない砕氷船団を建造している」と説明した。
さらに、彼は、「このような原子力砕氷船艦隊は、ロシアを除いて世界には存在しない。ロシアには、7隻の原子力砕氷船と34隻のディーゼル砕氷船があると思う。また、私たちは『リーダー』と呼んでいる砕氷船を建造中で、これはどんな厚さの氷でも、どんな氷でも切断することができ、一年中働くことができる!」と胸を張ったのである。なお、昨年3月28日付の情報では、ロシアは3隻の原子力船(チュコトカ、レニングラード、スターリングラード)が建造中である。
潜水艦でも、北極圏で厳しいつばぜり合いが起きている。昨年10月23日付の「ワシントンポスト」は、「ロシアが密かにフロント企業を使って欧米の技術を購入し、潜水艦が活動する北極圏に監視網を構築していたことが調査で明らかになった」と報じた。「ハーモニー」と呼ばれるこの監視システムは、海底センサーの配置(コンステレーション)に依存し、ロシア海軍の「堡塁(ほうるい)」、すなわち防御陣地に侵入する米潜水艦を検知するもので、西側諸国がロシアの潜水艦を追跡したり、戦争が勃発した場合に破壊したりする試みを妨害する。
(出所)https://monocle.ru/monocle/2025/51/arktika-tsivilizatsionniy-kod-rossii/
安全保障を軽視してきた欧州
逆に言うと、これまでいかに欧州の政治指導者が北極圏をめぐる安全保障を軽視してきたかがわかる。そこで、NATO加盟の欧州同盟国は、同盟レベルでグリーンランド問題を取り上げ、同領土における同盟のプロジェクトや軍事措置を提案し、この問題を米・デンマーク間の問題から多国間の問題へと移行させようとしているようにみえる。
1月8日付のPoliticoは、同日にブリュッセルで開催された非公開会議で、NATOの大使たちは、同組織が北極圏の防衛力を強化すべきであることに合意したと報じだ。大使たちは、①情報能力を活用して同地域をよりよく監視する、②北極圏への防衛支出を増やす、③より多くの軍事装備を同地域に移送する、④同地域周辺でより多くの軍事演習を行う――などを提案したという。しかし、こうしたNATO加盟国の遅ればせながらの対応に、トランプ政権が満足するかどうかはわからない。
トランプによる1月17日の追加関税という脅しに対して、欧州の政治指導者の多くは激怒した。欧州議会議員のマンフレート・ヴェーバーは、昨年夏に結んだ米・EU貿易協定の批准について、「承認は現段階では不可能」と投稿した。それどころか、EUは米国産品約1080億ドル相当に対する報復関税リストを発動する可能性がある。1月18日付の「フィナンシャルタイムズ」は、「EU、トランプ大統領のグリーンランド脅威への報復として930億ユーロの関税を準備」と報じているからだ。
いわゆる「強制防止手段」(Anti-Coercion Instrument、ACI)の適用も検討されている。2023年に採択されたこの手段は、投資の制限を含み、米国テクノロジー企業がEU域内で提供しているようなサービスの輸出を困難にすることができるようになる。
これは、非公式には欧州の通商「バズーカ砲」と呼ばれており、大陸で大量のビジネスを展開する米国の大手テクノロジー企業やその他のサービスプロバイダーに制限をかけるために使用できる。フランスのマクロン大統領は追加関税が実行に移された場合、EUのACI発動を求める意向であると、大統領側近が1月18日に明らかにした(「フィガロ」を参照)。
先行きは不透明だが、別のPoliticoの報道によると、「取材した専門家や当局者によれば、米国は11月の中間選挙を前に、また7月4日の独立250周年を記念する時期に合わせ、今後数か月でグリーンランド支配を確立する好機を模索する可能性がある」という。
本格化する米国による裏工作
グリーンランドの領有権をめぐっては、拙著『ネオ・トランプ革命の深層』「第七章 鉱物資源をめぐる争奪戦」の「第三節 グリーンランド」(244~261頁)において詳述したので、そちらを参考にしてほしい。ここでは、同書にない昨年の米国政府の動きについて説明しておきたい。
昨年5月6日付の「ウォール・ストリート・ジャーナル」(WSJ)は、トゥルシー・ギャバード国家情報長官が4月下旬、中央情報局(CIA)、国防情報局、国家安全保障局(NSA)などの情報機関の責任者たちに、グリーンランドとデンマークにいる、グリーンランドに対するアメリカの目的を支持する人々を特定するよう求めた「収集重視のメッセージ」を発した、と報じた。グリーンランドの独立運動と、同島でのアメリカの資源採掘に対する態度についてもっと知るよう指示されたという。
これに対して、The Economistによると、デンマーク政府は昨年、グリーンランドでのスパイ活動と秘密の影響力工作に関する報告を受け、アメリカ外交官を3度召喚した。デンマーク軍情報部は昨年12月の年次脅威評価で、アメリカに対する懸念を表明した。
他方で、トランプは昨年12月21日、ルイジアナ州のジェフ・ランドリー知事を、グリーンランド担当米国特使に任命するとSNSに投稿した。ランドリーは2024年にルイジアナ州知事に就任した人物で、新たな役割をパートタイムの「ボランティア職」と説明している。
彼は、トランプ支持者であり、共和党の強硬派で、以前からグリーンランドを米国の一部にしようとする大統領への支持を表明していた。今年、デンマーク政府はコペンハーゲンにいるアメリカの外交官を2度呼び出し、グリーンランドにおけるアメリカの影響力行使という漠然とした疑惑に対する懸念を表明した。また、ペイパル共同創設者で昨年10月に上院によって承認されたケネス・ハウリー駐デンマーク米国大使は12月、グリーンランドを訪問し、グリーンランドの首都ヌークで、デンマークとグリーンランドの当局者と会談した(WPを参照)。
「自由連合協定」締結の罠
一説には、米当局者は、太平洋の小国に歴史的に適用してきた「自由連合協定」(COFA)をグリーンランドに提案する案を協議している。COFAはこれまで、ミクロネシア連邦、マーシャル諸島、パラオといった小島嶼国にのみ適用されてきたものだ。
詳細は署名国によって異なるが、米国政府は通常、郵便配達や軍事保護など多くの必須サービスを提供する。その見返りとして、米軍はCOFA加盟国で自由に活動でき、米国との貿易はほぼ無関税となる。ただ、COFA協定はこれまで独立国と締結されてきたため、グリーンランドが同様の計画を進めるには、デンマークからの分離独立が必要となる。
そのため、ロイター通信が1月8日に伝えたところでは、米政府高官は、グリーンランド人にデンマークから離脱し、米国に加盟する可能性を説得するため、グリーンランド人に一時金を支払うことを検討している。正確な金額や支払い方法は不明だが、ホワイトハウスの補佐官を含む米政府関係者は、一人当たり1万ドルから10万ドルの範囲で話し合っているという。理論上、この資金提供はグリーンランド住民に独立投票を促す手段として、あるいは独立投票後のCOFA締結に利用される可能性がある。
これに対しデンマーク側は、グリーンランドにはすでにピトゥフィック宇宙基地が存在し、米軍が広範な活動自由度を有していると反論している(といっても、人員は150人に満たない[「ノーヴァヤガゼータ・ヨーロッパ」を参照])。デンマークとの条約(前述した1951年防衛協定)上、米国がグリーンランドに展開できる兵力数に明示的な制限はない。ただし、米軍の存在感に重大な増強や変更が生じる場合は、おそらくデンマークの同意が必要となる。
主権移行という方法
COFA締結を餌(えさ)にしながら、グリーンランドを事実上、米国の傘下に置くことは可能だ。「グリーンランドの陥落 血なきトランプ掌握を想像する」という『フォーリン・アフェアーズ』に公開された論文によれば、まず、1917年に米国がデンマーク領西インド諸島(現在の米領バージン諸島)を購入したことを引き合いに出しながら、国連憲章に基づくグリーンランドの自決権を訴えるようにする。具体的には、グリーンランド議会が「暫定自治」の宣言を採択するよう促し、グリーンランドの主権を原則的に米国が承認するのである。その後、米国は正式に 、首都ヌークに米治安部隊を駐留させはじめるのだ。
そのうえで、グリーンランド議会は暫定自治と「暫定主権移行」を宣言する。米国は、ヌークとそれに次ぐグリーンランドの三つの町に新設された「民軍連絡事務所」に国旗を掲げる。その直後から、米国がミクロネシアやマーシャル諸島と結んでいるようなCOFAをグリーンランドに与えるための交渉が始めればいい。
この手法は、国民投票を経ずに、「民主的投票」なる行為を使って、議会を通じて主権移行を促すというやり方だ。これがうまくゆくかは不明だが、最初から言語道断というのは軽挙妄動だろう。
NYTが指摘するように、グリーンランドの大部分は北極圏にあり、超大国が軍事と商業の両面で覇権を争っている。この島を支配すれば、米国はたしかに、大西洋と北極圏を結ぶ極めて重要な海軍回廊に前哨基地をもつことになる。気候変動で氷が溶け、かつては航行不可能だった領域が競争の舞台となるのだ。
グリーンランドはまた、レアアース(希土類)鉱物を大量に蓄えている。加えて、グリーンランドの大陸棚の一部には、北極圏で最大の未発見の石油・ガス鉱床が眠っている可能性があると言う科学者もいる。しかし、グリーンランド政府は2021年、環境リスクと商業性の欠如を理由に、石油開発の野望を正式に断念した。
グリーンランドは2021年にウラン採掘を禁止するなど、環境破壊的な採掘の可能性を制限する法的措置も講じている。このような措置は、米国が同領土を獲得した場合、覆される可能性がある。
ただ、グリーンランド人は現在、独立の是非を問う住民投票を実施する権利をもっている。デンマーク政府関係者は、島の住民5万7000人が自分たちの将来を決めることだとのべている。なお、NBCの報道では、グリーンランドの買収には 7000 億ドルの費用がかかる可能性がある。
いずれにしても、安全保障上のグリーンランドの重要性は、たしかに高いように思われる。だからといって、米国の手中に収めようというのはスマートなやり方ではない。その成否は、今年11月の中間選挙のころまでには明確になるだろう。



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