研究チームは新しく発見された地上絵と散策路を分類。散策路は曲がりくねった道と、正式な道路に分けられ、地上絵は幾何学的なものと比喩的なものに分けられています。さらに、地上絵も線タイプのものと面タイプのものに分けられました。面タイプの地上絵は線タイプのものとは様式・規模・分布において差異があることが判明しており、モチーフにも差異があることが明らかになっています。
面タイプの地上絵は直線と台形のネットワーク沿いに分布しているのに対して、線タイプの地上絵は曲がりくねった小道沿いに分布しています。また、線タイプの具象的な地上絵は共同体の儀礼のために制作されたのに対して、面タイプの地上絵は小道から見える「掲示板」のようなもので、主に家畜や首級に関連する活動を共有するために制作されたものであると論文では報告されています。
山形大学がAIを使ってナスカの地上絵を半年で303個発見することに成功、地上絵の目的も明らかに
山形大学ナスカ研究所とIBM研究所の共同研究プロジェクトが、AIを用いた6カ月間におよぶナスカでの現地調査により、新たに303個の地上絵を発見したと報告しています。これによりナスカ台地で確認済みの地上絵の数はほぼ倍増しました。
AIによってナスカ調査が加速したことで、既知の具象的な地上絵の数がほぼ倍増し、地上絵の目的が明らかになった|新着情報:プレスリリース|国立大学法人 山形大学
https://www.yamagata-u.ac.jp/jp/information/press/20240924/
AI-accelerated Nazca survey nearly doubles the number of known figurative geoglyphs and sheds light on their purpose | PNAS
https://www.pnas.org/doi/full/10.1073/pnas.2407652121
Hundreds of Mysterious Nazca Glyphs Have Just Been Revealed : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/hundreds-of-mysterious-nazca-glyphs-have-just-been-revealed
ペルーのナスカ川とインヘニオ川に囲まれた平坦な砂漠の地表面には、砂利の色分けによって幾何学図形や動植物の絵が描かれています。これらはナスカの地上絵と呼ばれており、1920年代に初めて発見されました。これまでの研究でナスカの地上絵のうち具象的な地上絵は430点確認されており、記事作成時点でも新しいものが発見され続けています。
山形大学は2012年に現地に地上絵について研究するためのナスカ研究所を開所しており、同研究所は現地での立ち入り調査を認められている数少ない研究機関です。ナスカ研究所は発見済みの具象的地上絵430点のうち318点をリモートセンシング技術(人工衛星、航空機、ドローン)を用いて発見していますが、ナスカ台地は約400平方kmにもおよぶ広大な地域であるため、高解像度の航空写真を全て目視で確認し、現地調査を実施するのは時間的に困難であるという課題を抱えていました。
この問題を解決するため、ナスカ研究所はIBMと協力してAIを用いた地上絵の特定に取り組んでいます。ナスカ研究所とIBMのAIを用いた地上絵発見プロジェクトは、2019年に未発見の地上絵143点を発見したことを報告していました。
未発見の「ナスカの地上絵」をIBMのAIが見つけ出すことに成功、見つかった143点の地上絵はこんな感じ – GIGAZINE
ナスカ研究所とIBMの共同研究プロジェクトはその後も新しい地上絵を発見し続けており、わずか6カ月間で303点の新しい具象的地上絵を発見したことが新しい論文で報告されています。IBMのAIを使用することで地上絵の発見率はこれまでの16倍にまで高まっており、特に「面タイプの具象的な地上絵」が大量に発見されたそうです。
地上絵の発見に使用するAIでは、トレーニングデータの量が限られているという課題があります。IBMは少量のトレーニングデータでも高いパフォーマンスを発揮する強力なAIモデルを開発することに成功しており、これにより地上絵が存在する可能性の高いエリアを特定することが可能となりました。AIモデルが提示した地上絵の候補の中から平均36件を精査することで、地上絵の存在する可能性が高い候補地を1件見つけることに成功しています。これはこの種の作業において画期的な成果であると研究チームは報告しました。なお、研究チームは合計1309件の有望な候補地を特定し、その約4分の1を現地調査した結果、わずか6カ月で303件の新しい具象的地上絵を発見することに成功しています。
以下はAIを用いて予測された「地上絵が存在する確率の高い場所」を示したマップ。地上絵が存在する確率の高い場所は3つのランクで分けられており、「Rank I」が最も地上絵が存在する可能性の高い場所で、「Rank III」は確率としては最も低い候補地です。このうち赤色で示された場所が、実施に現地調査を行うことができた場所となります。
以下は現地調査で新しく地上絵を発見することができた場所を示したマップ。既知の地上絵が黒色、AIによって地上絵が存在する可能性が高いと予測されていた場所で発見された新しい地上絵が黄色、AIが地上絵が存在すると予測したグループの一部が紫色、AIが地上絵が存在すると予測したものの現地調査で地上絵が見つからなかった場所が緑色でマークされています。
以下の画像は、AIを用いて新しく発見された303点の地上絵のうち、15点をまとめたもの。地上絵は現地でドローンを用いて撮影されています。地上絵がどのようなものになっているのかわかりやすいように、白色で輪郭線が引かれており、地上絵の下に引かれている白色の線は5メートルのスケールバーです。地上絵として描かれているのは人型、頭部、家畜(ラクダ科)、シャチ、鳥、ネコ、儀式の場面、人間と動物の交流など。
研究チームは新しく発見された地上絵と散策路を分類。散策路は曲がりくねった道と、正式な道路に分けられ、地上絵は幾何学的なものと比喩的なものに分けられています。さらに、地上絵も線タイプのものと面タイプのものに分けられました。面タイプの地上絵は線タイプのものとは様式・規模・分布において差異があることが判明しており、モチーフにも差異があることが明らかになっています。
面タイプの地上絵は直線と台形のネットワーク沿いに分布しているのに対して、線タイプの地上絵は曲がりくねった小道沿いに分布しています。また、線タイプの具象的な地上絵は共同体の儀礼のために制作されたのに対して、面タイプの地上絵は小道から見える「掲示板」のようなもので、主に家畜や首級に関連する活動を共有するために制作されたものであると論文では報告されています。
コメント