イーロン・マスクが進めるIRSとFRBの解体で何が起きるのか?トランプ政権の“1913年以前”回帰計画とは

現代の米国
イーロン・マスクが進めるIRSとFRBの解体で何が起きるのか?トランプ政権の“1913年以前”回帰計画とは=高島康司 | マネーボイス
「DOGE」が進める省庁の閉鎖は、アメリカの国税庁にあたる「内国歳入庁(IRS)」と「連邦準備制度理事会(FRB)」に及んでいる。これらの機関の閉鎖は、1913年以前の状態にアメリカを戻すことが目的だ。(『』高島康司) 【関連】今ここが人工知能「人間超え」の出発点。米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職…2025

イーロン・マスクが進めるIRSとFRBの解体で何が起きるのか?トランプ政権の“1913年以前”回帰計画とは=高島康司

「DOGE」が進める省庁の閉鎖は、アメリカの国税庁にあたる「内国歳入庁(IRS)」と「連邦準備制度理事会(FRB)」に及んでいる。これらの機関の閉鎖は、1913年以前の状態にアメリカを戻すことが目的だ。(『 未来を見る! 『ヤスの備忘録』連動メルマガ 』高島康司)

【関連】今ここが人工知能「人間超え」の出発点。米国覇権の失墜、金融危機、大量辞職…2025年には劇変した世界が待っている=高島康司

急速に世界を作り変えていくトランプ政権

イーロン・マスクが率いる「政府効率化省(DOGE)」が計画している「内国歳入庁(IRS)」と「連邦準備制度理事会(FRB)」の廃止に向けた動きが意味するものについて解説したい。

トランプ政権の動きはとにかく早い。数年はかかる変化が、わずか数日で実現してしまうくらいのペースだ。それは内政と外交の両面で既存の秩序を全面的に変えてしまうほどの変化である。ウクライナ戦争の終結に向けてトランプ政権は、ウクライナを犠牲にしてロシアとの協力関係を模索している。

これが実現すると、民主主義と人権という価値観を共有したアメリカの同盟関係を基盤にする国際秩序ではなく、米中ロのスーパーパワーの勢力均衡に基づく新たな秩序の構築に向かうことになる。その過程では、ヨーロッパや日本のような同盟国は基本的に無視されるに違いない。

「内国歳入庁(IRS)」の廃止

改革のスピードは内政の分野ではもっと早い。連邦政府の大胆な縮小に向けた計画が一挙に進行している。改革される省庁のリストは前回の記事でも紹介したが、今週特に注目されていたのは、「内国歳入庁(IRS)」の廃止である。「内国歳入庁(IRS)」は日本の「国税庁」にあたる組織である。それを廃止するというのだ。

トランプ大統領は先月、関税による歳入を徴収する任務を負い、「IRS」に取って代わる可能性のある新たな「外税庁」の設立を発表した。トランプ大統領は、1913年以前の「黄金時代」の米国経済の復活を目指している。1913年以前、アメリカでは所得税も「FRB」のような中央銀行も存在しなかった。政府が必要とする歳入は関税に依存していた。この状況に、現代のアメリカを戻したいということだ。

これが具体的にどういう状況なのか、ハワード・ラトニック商務長官がテレビ番組の「ジェシー・ワッターズ・プライムタイム」で語っている。

「大統領が言ったように、相互関税は、相手国が関税を引き下げるか、我々が関税を引き上げるかのどちらかだ。もし我々が相手国と同じ水準になれば、他国と同等になるために年間7,000億ドルの利益が得られる。これで財政赤字は解消され、金利は急激に低下し、経済全体が爆発的に上昇する。

クルーズ船。船尾にアメリカ国旗を掲げたクルーズ船を見たことがあるだろうか。リベリアやパナマの国旗を掲げている。どの船も税金を払っていない。超大型タンカーも、税金を払っていない。アルコールも、外国産のアルコールも、すべて税金がかからない。ドナルド・トランプ政権下で、こうした状況は終わるだろう。

それらの税金が支払われると、米国民の税率は下がるだろう。それがドナルド・トランプが望んでいることだ。予算を均衡させ、税金を減らすことだ」

関税は輸入品に課せられる税金で、ほとんどの場合、米国に拠点を置く輸入業者が既存の連邦機関である「米国税関・国境警備局(CBP)」に支払う。つまり、トランプが主張する相互関税によって関税を高く引き上げると、関税収入が一気に増大する。すると、その分大幅な所得税の減税が実現できるというわけだ。所得税からの歳入は減るので、これを処理する「IRS」の規模は大幅に縮小が可能になる。規模を縮小させた「IRS」は、「外税庁」に改組される。

所得税の減税は国内消費を活性化するので、米経済の景気は必然的に上昇する。こうした大胆な改革だ。

マッキンレー関税の時代への復帰

これがどういうことなのか、もう少し細かく解説する。

トランプ大統領は、第25代大統領のマッキンレーを称賛し、この時代の高関税を実現するとしている。ちなみに現在の米国の関税は中国などの例外を除いて、基本的に2.5%から3.0%程度である。日本もほぼ同じレベルである。ところが、大統領に就任する以前のマッキンレーが1890年に提唱し、可決された関税はなんと49.5%であった。その後、引き下げられたものの、1913年以前は25%から30%前後の水準の関税がずっと堅持されていた。

もちろん当時はアメリカの製造業がまだ弱く、国内産業を保護する必要性があった。だが、この時代に高関税が一般的になった理由は他にもあった。アメリカは1913年に所得税を導入し、「連邦準備制度理事会(FRB)」を創設した。これ以前に所得税は存在しなかったのである。米政府の歳入のかなりの割合は、高い輸入関税から得られる収入によって賄われてた。この状況は、マッキンレーが大統領であった1897年から1901年には顕著であった。

トランプの目指すものは明らかだ。所得税が導入される以前、つまり1913年以前の状態に関税の水準を戻して、関税収入で米政府の主な歳入がカバーされてしまう状況を作り出したいのである。すると、政府の歳入が米国民の所得税に依存する必要性は大きく減る。この結果、所得税と税の還付を主な仕事にする「IRS」は不要になる。規模を大幅に縮小し、関税徴収のための「外税庁」へと改組する。このように、「IRS」の閉鎖と高関税の適用はセットになっている。高関税の適用で所得税を廃止し、個人消費を引き上げて景気を上昇させるという大胆な計画だ。

もちろん、輸入関税を引き上げると輸入製品の物価も上がる。これはただでさえ高止まりしているアメリカのインフレ率をさらに押し上げる結果になる。しかしトランプ政権は、高関税でもこれは解決可能と見ている。高い輸入関税を嫌って、企業は一斉に米国内に生産拠点を移転する。この結果、インフレは抑制され、逆に雇用も増大するので米国内の景気はよくなるというのだ。高関税によるインフレ圧力は、早いうちに解消するので問題ないとしている。

「FRB」の廃止

そして、トランプが後押しする「政府効率化庁(DOGE)」が進めるさらに過激な計画が、「FRB」の廃止である。

「DOGE」が進めるのは単なる「FRB」の改組ではなく、実質的な閉鎖であることは、先頃開催された「下院金融サービス委員会」の公聴会で明らかになった。マキシン・ウォーターズ議員(民主党)はジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長に対し、「FRB」の独立性と、トランプ大統領とイーロン・マスクによる特定の連邦政府機関を削減する取り組みについて質問した。

以下に発言を引用する。

ウォーターズ議員:議長、どうもありがとうございました。 トランプ大統領が連邦準備制度理事会を完全に廃止したいことは周知の事実です。 彼は金利のことをあなたよりもよく知っていると言いました。 ここにいる何人かは中央銀行の重要性を皆に理解してもらうために戦ってきたことを知って欲しい。(中略)あなたは以前、トランプ大統領から辞任を求められても辞任しないと言っていましたね。 その公約を守っていますか?

パウエル議長:そのことに変更はありません。

ウォーターズ議員;ありがとうございます。 記録に十分記録させてください。 あなたには、法律や憲法によって妨害されない権利があるのですから。イーロン・マスクが「FRB」のドアをノックしたら、あなたは彼を中に入れるつもりですか?

パウエル議長:私たちは何も持っていませんし、接触もしていませんし、本当に何も持っていません。

このように、「DOGE」は「FRB」の廃止を計画し、パウエル議長に「FRB」の監査と辞任を要求する可能性があることが、認識されている。「FRB」の廃止は単なる仮説ではなく、現実的にあり得る事態になのだ。

「FRB」の全面的な改革または廃止

では、イーロン・マスク率いる「DOGE」は「FRB」をどのように改革しようとしているのだろうか?

実は「DOGE」は「FRB」の閉鎖を示唆しながらも、改革の具合案は出していない。しかし、トランプの実施している改革の基本骨子となっている「ヘリテージ財団」の「プロジェクト2025」には、改革の方向性が明確に示されている。「DOGE」はこれに沿って改革する可能性は大きい。

以前の記事でも紹介したが、再度見て見よう。

「プロジェクト2025」は、「連邦準備制度(FRB)」と金融政策の将来に関する政策処方箋を提示している。最低限でも連邦準備制度の権限は大幅に縮小され、最大限の改革だと、「FRB」は完全に廃止される。この結果、大統領と議会の金融政策に対する権限が増大し、「FRB」の権限は大幅に縮小または廃止されることになる。

「プロジェクト2025」の金融政策提案には以下が含まれる。

  1. 米国を金本位制(商品担保通貨)に戻す。
  2. 「FRB」の最大雇用と物価安定という二重の使命を廃止し、物価安定のみに重点を置く。
  3. 連邦債務や住宅ローン担保証券を含む金融資産の連邦準備制度による購入を削減し、制限する。
  4. 破綻寸前の銀行に融資を提供する連邦準備制度の最後の貸し手としての機能を制限する。
  5. 連邦準備制度の廃止や「フリーバンキング」の実施など、連邦準備制度に代わる選択肢を模索する。

「プロジェクト2025」は、金融政策と規制政策に関する「FRB」の裁量権の拡大が、運用上の非効率性と政治的圧力に基づく政策決定の可能性を生み出していると主張している。

金本位制の復帰とインフレ対策

これらのどの改革も凄まじいが、中でも過激なのが金本位制への復帰である。

ちなみにアメリカは、1879年から1933年まで金本位制だった。米国を含むほとんどの主要国は、自国の通貨を金で裏付けていた。金本位制とは、国の通貨の供給量とその価値が、国が保有する一定量の金に基づいている通貨制度である。言い換えれば、国の通貨の供給量は国が保有する金の量によって決まり、金に対する通貨の価値は固定されている制度だ。中央銀行が自らの裁量で自由に紙幣を印刷することはできない。そのため理論上は、中央銀行が通貨を過剰に発行して通貨価値が下落するインフレは起こらないのだ。

要するに「プロジェクト2025」は、金本位制の導入で通貨の増刷を制限して、インフレリスクを軽減する。そして、中央銀行が財政難に陥った金融機関を救済する能力を制限することで、景気の循環を自由な市場の回復機能にゆだねる。そうして、景気の正常な循環を取り戻すべきだと主張する。

たしかにこれで、現在の米経済を悩ませているインフレは抑制できるかもしれない。だが、反論も多いことも事実だ。歴史は、金本位制がインフレや景気後退への対処にまったく効果がなかったことを示している。金本位制は、大恐慌を防ぐことも、国がそこから立ち直るのを助けることもなかった。

嵐の前の静けさか?

さて、高関税を適用して所得税を大幅に軽減し、日本の「国税庁」にあたる「IRS」を廃止してしまう。そして、中央銀行の「FRB」も廃止して、金本位制に復帰する。これらはまさに革命的な政策だ。

これらが実施されることになれば、予想を越えた余波があることは間違いない。あまりに内容が過激なので、その余波はまだ十分に予想できないが、市場は導入のショックに耐えられず、クラッシュする可能性だって排除できないはずだ。

そのように見ると、いまは嵐の前の静けさかの状態なのだろうと思う。これからもこのメルマガでは、これからどのような余波があるのか、実際に嵐が始まる前に警告するつもりだ。

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