
〈値上げラッシュに悲鳴〉コメだけじゃない2343品目の食品高騰で苦しむ庶民…その裏で資産家が巨額の利益を得る悪循環に打開策は?

食料品の値上げラッシュが止まらない。昨今のコメ高騰にはじまり、3月は冷凍食品や乳製品、飲料品などの値上げが相次ぎ、帝国データバンクによると、その品目数は2343に及ぶ。2024年10月にも2000品目を超える値上げが行なわれていたが、その勢いが収まる気配はない。
主な理由は原材料費の高騰によるものだが、価格改定が進む裏で企業の収益性が高まって株主の配当などに回されているという側面がある。その結果として、庶民が割を食うという構図が鮮明になってきた。
食料品の負担は1割増加
総務省の「家計調査」によると、2024年における一世帯当たりの食品への支出総額は年間およそ89万円。2019年比では約7万円増加したため、1割近い増加である。一方、年間支出総額は300万円ほどであり、2019年の299万円とほとんど変化していない。
一方で、衣服への支出額は4万6000円から3万8000円台まで、パック旅行費は4万円から2万6000円程度まで下がった。食料品が高騰する裏で、切り詰めた生活を送る人びとの姿が浮かび上がる。

ガソリンや電気代も高騰し、多くの人が無駄な支出を節約して生活費を捻出しているのが実情だ。
日本銀行は2025年1月の金融政策決定会合で利上げを決定した。その要因として、植田和男総裁は賃金と物価の好循環を確認したことを挙げている。物価上昇に見合う賃上げがなされていると判断したというわけだ。
確かに賃上げは進んでいる。2024年春季労働交渉において全産業のアップ率は1991年以来となる5%を超え、月額1万9210円の上昇となった。2025年の春闘では電機大手各社の労働組合がベースアップ相当分として月額1万7000円を求める要求書を提出した。
しかし、賃上げが進むのは大手企業ばかりなのも事実だ。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、一般労働者の平均賃金は月33万円。2020年の30万7000円と比較して7%ほどしか上昇していない。消費者物価指数も2020年を100とすれば、2025年1月は111.2だ。物価高に賃金上昇率が追いついていないのが現状と言える。
さらに日銀が金利を引き上げると、変動金利型の住宅ローンの金利も上昇するため、借り手の負担が増す。
まるで庶民だけが置いてけぼりにされているかのようだ。
インフレの進行で配当金は2倍に拡大
こうして見ると、値上げが進んで企業の稼ぐ力が高まる一方、投資家ばかりが儲けを出し、企業の内部留保が膨らむという構造的な問題点が浮かび上がる。
企業が値上げに踏み切る理由として多く挙げられるのは、原材料費や輸送費などの高騰によるものだ。消費者としては、食品製造メーカーも同じ悲鳴を上げているように見えるが、実状はやや異なる。
例えば、乳製品は最近になって価格が高騰した典型的な品目の一つだが、ウクライナ危機によって牛の飼料代が高騰したことや、円安の進行、エネルギー価格の上昇などによって牛乳の価格は上がり続けた。とある国内大手乳製品メーカーは2019年度の原価率が76%ほどだったが、2023年度は84%。原材料費が上がったことで、製造コストはたしかに上昇している。

しかし、商品を販売するために必要な経費である「販管費率」(この比率が低いほど経営効率が高い)は20%から13%ほどに下がったために本来的な収益性は失われておらず、得られた利益は株主に還元されている。一株当たりの配当金は約2倍に拡大しているのだ。さらに内部留保と呼ばれる利益剰余金は3割増加した。
この間の平均年収の上昇率は3%ほどだ。
こうした傾向は乳製品メーカーに限らず、菓子や冷凍食品など大手食品メーカーに共通している。
今の日本は経済学者のトマ・ピケティ氏が唱えた「r>g」という不等式にぴたりと当てはまる。「r」は資産運用によって得られる収益、「g」は経済成長率を表す。つまり、資産運用によって得られる富は、労働によって得られる富よりも早く成長するというものだ。
企業は賃金アップや設備投資に資金を投じるのではなく、株主還元を重視している。ただし、これには仕方のない面もある。需要そのものが膨らんでいるとは言い難いからだ。
石破構文からにじみ出る「悪いインフレ」
2月4日の衆院予算委員会で、立憲民主党の米山隆一氏が今の日本はインフレかデフレかを問う場面があった。日銀の植田総裁は「インフレの状態にある認識」と答えた一方、石破首相は「デフレは脱却できていない。今をインフレと決めつけることはしない」と説明し、両氏の認識の違いが鮮明になった。
石破首相の答弁はいかにも歯切れの悪い「石破構文」だが、そこからにじみ出るのは今の日本が「コストプッシュ・インフレ」(生産コストの上昇により起こるインフレの一種)の状態であるということだ。

インフレには2つの種類があり、需要が増加して物価が上昇する「ディマンドプル・インフレ」と、コスト高で引き起こされる「コストプッシュ・インフレ」がある。
ディマンドプル・インフレは需要増で企業の設備投資意欲が活発化し、賃金上昇と消費の拡大という好循環が形成される。一方、コストプッシュ・インフレは需要そのものが膨らんでいるわけではないために価格転嫁が需要減退に繋がることが多く、大幅な賃金上昇も望めない。前者は良いインフレ、後者は悪いインフレとも呼ばれる。
結局のところ、政財界では「今の日本は悪いインフレだ」と言いたくないのでないだろうか。特に利上げに積極的な姿勢を見せる植田総裁は、賃金上昇と物価上昇を引き合いに出して良いインフレであることを強調しているようにさえ見える。
石破首相は「デフレは脱却できていない」と発言した。デフレとは需要が減退して企業の収益性が低下し、賃金の減少や横ばいが続くことだ。需要が回復しきっていない一方で、物価は上がっているために「今をインフレと決めつけることはしない」という説明だったたのだろう。
国民民主と立憲民主のタッグで打ち出す需要喚起策
日銀は利上げを進めているが、これは需要を縮小させて価格を適正なものに下げようというものだ。需要と供給を一致させれば、インフレを抑え込むことができる。しかし、利上げは強制的に需要を縮小させているだけであり、大衆の生活を犠牲にする対策だとも言える。
特効薬は供給の制限を取り払うことだ。国民民主党と立憲民主党が、ガソリンの暫定税率廃止を求めて共闘する姿勢を打ち出した。こうした課税を軽減する施策も、需要を喚起する材料の一つだと言える。
規制緩和を進めて旧来型の供給体制を改めることも必要だ。
政府は3月10日から備蓄米の入札を実施すると発表したが、そこに至るまでの動きはあまりに遅かった。法律で備蓄米がコメ不足に対する備えだと定められていることが背景にあるが、コメの流通過程は昔と比べて複雑化しており、庶民の不足感は政府の楽観的な見方よりも深刻だった。
品薄状態で人びとの生活が圧迫されているのであれば、速やかに放出する運用方法が求められている。帝国データバンクによると、2025年の食品の値上げは累計で1万品目を突破するという。供給制限の撤廃に本腰を入れなければならないタイミングにさしかかっている。
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