ちょっと古い記事ですが、マスメディア報道に関する記事の紹介です。
何らかの意図を持って文章を作る、情報やデータを構成する、そして民意をコントロールする、この様な事はずっと以前から行われています。
2024年現在は主要メディアの凋落は激しく、ネット情報にその基盤が移っているように思いますが、テレビ、新聞等を見ると、このような偏向報道は、まだまだ続いています。
このような状況で事実を知ろうとする為に最も重要なファクターは「自らが自らの頭で考える」「その為にまず事実を掴む」しかないように思います。
現代は海外の情報も容易に入手でき、自動翻訳機能も進化しているので、自国のメディアだけに頼る必要が無くなってきました。
私達自身が、いろいろな情報を俯瞰的に且つ論理整合性を元に追求する事が求められています。
「私に調査企画を指揮させてくれたら、どんな結果でも出して見せる」
世を欺く世論調査のテクニック
■1.賽銭の1万円札は多いのか、少ないのか
朝日新聞と産経新聞が同じ日にこんな記事を掲載した。
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「1万円札減り硬貨増/当たり馬券も交ざる/伏見稲荷でさい銭勘定」
商売の神様として知られる京都市伏見区の伏見稲荷大社で四日から、初もうで客が入れたさい銭の勘定が始まった。長引く不況のためか一万円札は少なく、千円札や硬貨が目立った。・・・
(朝日新聞、H7.1.4夕刊)
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「3が日総決算/1万円札めだつ神頼み/伏見稲荷さい銭勘定」
商売の神様として知られる京都市伏見区の伏見稲荷大社で四日朝、正月三が日のさい銭勘定が始まった。一万円札や五千円札も目立ち、「今年こそは景気の回復を」という願いが込められているといえよう。・・・(産経新聞、H7.1.4夕刊)
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同じ神社のさい銭に関して、朝日は「1万円札は少なく」と言い、産経は「一万円札や五千円札も目立ち」と書く。一体どちらが真実なのか。
この二つの記事は、両方とも定量的な調査データがない、という意味で共通している。ただ厳密に言えば、朝日はデータもないのに「1万円札減り」としているのに対し、産経は「1万円札めだつ」と主観的表現に留めている点はより良心的であると言える。
いずれにせよ1万円札が増えたどうか、昨年までのデータと比較してみなければ分からない。ここに社会調査の意味がある。
■2.PKO法案「賛成68%」か「反対88%」か
ただし、この社会調査が曲者だ。たとえば、以下の二つの調査結果を比較してみよう。平成4(1992)年に審議されていた「国際平和維持活動(PKO)協力法案」に関する賛否の調査である。
1)「PKO 自衛隊派遣68%が容認」(読売新聞、H4.5.3)
3)「PKO法案 反対88% 賛成11%」(「日本はこれでいいのか市民連合」等による市民投票、朝日新聞、H4.5.18)
なぜこんな正反対の結果が出るのか。この「市民投票」は主要駅など約170カ所で計13万7千票を集めた結果だという。主催の「日本はこれでいいのか市民連合」の代表は小田実氏で、ベトナム戦争反対運動など氏の経歴を知る人から見れば、この調査が要はPKO反対運動の一環だと見破れる。
したがってPKO反対派は積極的に反対票を投ずるだろうし、また一人が何票も投票した疑いも残る。逆に法案賛成の人から見れば、こんな「うさん臭い投票ごっこ」など、はじめから馬鹿らしくて投票する気にもなれないだろう。
反対者ばかりが投票して、賛成者が投票しないのでは、「反対88%」という結果が出ても不思議ではない。このように調査対象の取り方が偏っていれば、調査結果も偏ってしまう。こんな偏った調査結果を、大新聞が「PKO法案 反対88% 賛成11%」と報じたら、世を欺く仕業としか言い様がない。
■3.仮設住民『取り残される』75%
こういう眉唾物の調査は、いかがわしい市民団体だけでなく、大新聞も時に行う。以下の記事でどこかおかしいか考えて頂きたい。
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「仮設住民『取り残される』75% きょう震災1年半 300人追跡調査 「生活に不安8割」
阪神大震災で被災し、仮設住宅で暮らす人たちの中で、「復興から取り残される」と思っている人は七割を超え、震災前に住んでいた地域に「戻りたいが戻れない」と考える人も約6割に増えた。
神戸市内の仮設住宅の入居者千人に対し、朝日新聞が昨年12月に実施した意識調査を踏まえ、うち3百人を6月に追跡調査したところ、こうした傾向が浮き彫りになった。今後の生活に不安を感じている人も増えている。一方、行政への評価は厳しさを増し、震災後の施策に対して「十分とは思わない」が8割に達した。(朝日新聞、H8.7.17)
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朝日は、見た目には客観的な調査をして「取り残される 75%」「生活に不安8割」など結果を出し、このデータを「天声人語」のコラムで紹介し、現政権批判につなげている。
■4.残された3百人が「取り残される」
しかし、この調査の欠陥を、社会調査を専門とする谷岡一郎・大阪商業大学教授は、次のように指摘する。
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前回、調査した千人のうち、今も仮設住宅に残る3百人を追跡したというが、・・・残りの7百人のうちの多くは「仮設住宅を出ていった人たち」のはずで、残された3百人が「取り残される」と感じたり、行政の施策が「十分とは思わない」のは、むしろ当然である。[1,p70]
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当初の千人を対象とした調査と、7百人が出て行った後で取り残された3百人を対象とした調査は、まったく別物であり、比率の増減を云々すること自体がナンセンスなのである。
こうした明白な過ちを、朝日新聞が知らずに犯したとすれば、調査機関として稚拙であり、知っていてやったとすればプロパガンダ機関としては凄腕だ。
「PKO反対88%」とか、「取り残される75%」など、調査結果は比率で表現されることが多い。比率は分子÷分母だから、分母の取り方によって、いかようにも細工できるのである。
■5.『君が代』法制化、『議論尽くせ』66%
分母の取り方とともに、細工できるのが設問である。人間心理を読んだ質問の仕方によって、望む方向に誘導することができる。以下の例で、どこが誘導的か見分けていただきたい。
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『君が代』法制化『必要』47%、『不要』45% 『議論尽くせ』66%、(小さな文字で)法案への賛成58%」 (朝日新聞、H11.6.30)
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質問は全部で11問、日の丸と君が代に関するイメージや、議論されている内容が続いた後、最後の質問はこうである。
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あなたはこの法案を、八月半ばまでの、今の国会で成立させるのがよいと思いますか。それとも、今の国会での成立にこだわらず、議論を尽くすべきだと思いますか。(数字は%)
今の国会で成立させるのがよい 23
議論を尽くすべきだ 66
その他・答えない 11
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この結果を踏まえて、同日の社説は、次のように述べている。
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【社説】「矛盾がますます広がる/国旗・国歌法案」
日の丸・君が代を国旗・国歌とする法案の国会審議が始まった。「自自公連携」の流れに乗り、政府は延長した今国会での成立をめざしている。何度も主張してきたように、性急な法制化は避けるべきだ。多くの国民もそう望んでいることが、朝日新聞社の世論調査で確認された。・・・踏みとどまるなら、いまのうちだ。
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■6.「法案賛成58%」が「踏みとどまるなら、いまのうちだ」
まず最初の記事で「法案への賛成58%」とわざわざ小さい文字で書いているところに、正直な民意が表れている。国民の過半数は国旗国歌法案に賛成なのだ。
それを最後の質問で「今の国会で成立させるのがよいか」「議論を尽くすべきか」のどちらかを選べ、と聞かれたら、「どうしても今国会でなければ」という理由も思い当たらないほとんどの人は、後者を選ぶだろう。「議論を尽せ」という言葉に、生来、民主的な日本人は弱い。ここに最後の質問のトリックが隠されている。
「法案賛成58%」と「議論を尽くすべきだ66%」を合わせて考えると、法案そのものには賛成だが、まだ議論が煮詰まってないのなら、今国会にはこだわらず、議論を尽くせ」というのが、多数派の意見だろう。
これを「性急な法制化は避けるべきだ。多くの国民もそう望んでいることが、朝日新聞社の世論調査で確認された」と言うのはプロパガンダであり、「踏みとどまるなら、いまのうちだ」とまで言うのは扇動である。
谷岡教授は、常々、社会調査の専門家として、学生たちに「私に調査企画を指揮させてくれたら、どんな結果でも出して見せる」と豪語しているそうだ。同じ意味で、「法案賛成58%」というデータから「踏みとどまるなら、いまのうちだ」とまで結論づけてしまう朝日新聞も、豪腕の調査専門家を擁しているのだろう。
■7.朝日論調をぶち壊した特定秘密保護法案アンケート
しかし、こういう状況もインターネットによって変わりつつある。たとえば、昨年、特定秘密保護法案について、朝日新聞Digitalがアンケート調査をした。[2]
縦横10づつのマス目があり、横軸は特定秘密保護法案に賛成か反対か、縦軸は日本の安全が脅かされていると感じるか、どうか、となっている。それぞれ自分の考えに近いマス目に投票し、コメントも書き込めるというものだ。
その結果が面白い。四隅の端にほとんどの投票が集まっているので、そこだけを示すと:
・「法案賛成」「脅かされていると感じる」 12,058
・「法案賛成」「感じない」 1,229
・「法案反対」「感じる」 1,609
・「法案反対」「感じない」 926
と圧倒的多数が、「日本の安全が脅かされている」と感じ、「法案賛成」を表明している。安倍政権の高支持率とも合致するデータである。
しかし、このデータを掲示している「特定秘密法に関するトピックス」のページ構成が興味深い。
・冒頭の写真:法案に反対するデモや国会の混乱風景
・最新ニュース:「(排除の理由:2)原発、隠す・言わせず」「徳島)秘密法、女性団体が廃止求める ビラ配り抗議」等々
・連載「どうする秘密法」:「時代錯誤の富国強兵 浜矩子さん」「反対の声が歯止めに 奥平康弘さん」等々
・社説:「石破発言 報道の危うさ叫ぶ前に(12/13)」「特定秘密法 心に響かぬ首相の強弁(12/11)」等々
・ビデオ「朝日新聞・弁護士 特定秘密法案を語る」
と、延々と秘密保護法に対する反対意見・報道が続いた後で、突然、このアンケートがあらわれる。何のコメントもなく。そのデータはそれまでの長々とした反対意見・報道をぶち壊している。
いかにも、自分の意図に反する結果だが、公開アンケートの結果を隠したら、ネット世界で非難の嵐を呼びそうなので、仕方なくデータだけを渋々ページの最後に掲示した、という風情である。編集者の無念のため息が聞こえてきそうな構成なのだ。
■8.偏向報道に使いにくいネット調査
国旗国歌法案に関する調査で「法案賛成58%」を「踏みとどまるなら、いまのうちだ」とまでねじ曲げた豪腕ぶりに比べると、このネット調査での「稚拙さ」はどうした事か。
まずネット調査では、誰でも自由に投票できるだけに、調査対象を操作できない、という制約がある。仮設住宅に取り残された人々だけを対象にして「取り残される75%」という結果を出すテクニックが使えない。
また、ネット調査では、調査時点から質問が公開されてしまう。従来調査では「議論を尽くすべきと思いますか」などと、否定しにくい誘導質問をこっそりしておいて、回答がまとまってから「踏みとどまるなら、いまのうちだ」と強弁するテクニックが使える。ところがネット調査では、こういう誘導質問が公開された時点で、非難ごうごう、という事になりかねない。
さらに従来型の調査では望ましくない結果が出たら、発表せずに、なかった事にしてしまえるが、ネット調査では結果だけ隠すような姑息な手段は使えない。
こうして見ると、ネット調査は従来の調査に比べれば、はるかに偏向報道に不向きな手段だと言えそうだ。ネット調査は「ネトウヨ(ネット右翼)」が暴れて結果がねじ曲げられる、などと言う批判が聞こえてきそうだが、「ネトサヨ(ネット左翼)」だって同様に活躍できるのだから、常に一定の偏向があらわれるわけではない。
さらにメールアドレスを確認するなどすれば、一人が何票も投票する事態をかなり防げるので、「PKO法案 反対88%」などというトンデモ結果よりはだいぶましになるだろう。
新聞やテレビ報道の偏向ぶりが、ネットで批判され、国民の目に見えるようになったのは、サッカーの日韓ワールドカップの頃からだった。[a] それに加えて、本稿で見たように、ネット調査は従来型調査での偏向テクニックを封じるという効果を持つ。
マスメディアによる偏向報道は民主主義にとってもっとも危険であり、それを防ぐためのネット・メディアのより効果的な利用を我々は工夫していくべきである。
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