2024年、グローリズムとナショナリズムのせめぎ合いが激しくなっています。
この状況に至る過程で、ロシア国内では熾烈な戦いが繰り広げられ、現在は、民族派プーチン大統領の勝利により、「世界のパワーバランス」が大きく変化しています。
つまり、「欧米諸国を中心とした世界」から、ロシア、中国などBRICs諸国とグローバルサウスと呼ばれている国々が形成する「多極化した世界」へ、新しいパラダイムが顕現しています。
このパラダイム転換を象徴する「ロシアの歴史的転換」を地政学的視点で記された記事を紹介します。
この記事のまとめ
石油地政学史⑪ – グレートゲーム最終章 / DS ロシア移転? ドル覇権の次は?
- ソ連崩壊後の新生ロシア経済は、IMFショックドクトリン「500日計画」で崩壊。
- ユダヤ系新興財閥(オリガルヒ)が国営企業、地下資源、メディアを牛耳り、民主化したロシア政界もマネー支配。
- DSは本拠地を米国からロシア(ハートランド)へシフトしようとしていた可能性があり、そうなれば人類の反抗はほぼ不可能になっていた。
- プーチンはホドルコフスキーを始めとしたオリガルヒを追い詰め、国内権力を掌握。ロシアDSの誕生を阻止。
- グレートゲーム最終章は第三次世界大戦?
- プーチンによるペトロダラーシステム破壊
→ 新世界覇権システム誕生 - DSによるハートランド支配
→ 新世界秩序システム完成
- プーチンによるペトロダラーシステム破壊
石油地政学史⑪ – グレートゲーム最終章 / DS ロシア移転? ドル覇権の次は?
更新日:2022-10-03
石油を支配すれば、諸国を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
前回 石油地政学史⑩において、1990年代ユーゴスラビアへのNATO空爆は、ハートランドへの東方拡大や IMFによる経済支配が目的であったことに言及した。
第11回となる本稿では、いよいよ グレートゲーム最終章前夜が舞台。冷戦後のロシアがIMFにエネルギー資源をいったんは強奪されるも、プーチンが奪還し、ロシアDS誕生を阻止した。
ウクライナ危機が発生したのは、この後だ。
- 本稿の前提となる地政学「ハートランド」については別項をご覧頂きたい。
- 本シリーズでは、ハートランドを巡る近現代史をウィリアム・イングドール氏著書*の助けを借りて早足で振り返ってみた。
- 本シリーズの一貫したキーワードは「石油」「金融」「ハートランド」
*ウィリアム・イングドール氏の著書 – 「ロックフェラーの完全支配 石油・戦争編」。中国で大学の教科書に採用。
グレートゲーム最終章 – 地政学への原点回帰
ソ連崩壊の恩恵により、旧ソ連・東欧諸国は、資本主義的繁栄を謳歌できるようになるはずだった。
民主主義国家アメリカが一極支配する平和世界では、これまでの軍事予算を、経済発展に費やすことができるからだ。
しかし、英米金融支配層の思惑は違った。
ワシントンにとってみれば、ロシア経済の近代化と繁栄は、その豊富な原材料を略奪するときに邪魔なだけだった。W.イングドール
英米シーパワー vs 露ランドパワー
つまり、英米金融資本は ロシア国民の豊かな生活を望まなかった。ロシアには、ただハートランドのエネルギー資源を差し出してくれるだけで いてほしかったのだ。
ユーラシアを制する能力を持つ挑戦者、
ひいてはアメリカに挑戦する能力を持つ者を、
決してユーラシアに出現させないことが絶対に必要だ。ズビグニュー・ブレジンスキー
ハートランド地政学への原点回帰
東欧を支配するものがハートランドを支配し、
ハートランドを支配するものが世界島を支配し、
世界島を支配するものが世界を支配する。ハルフォート・マッキンダー
ハートランドが射程圏内に入ったことで、英米支配層はハルフォード・マッキンダー的な地政学野心を思い出していたに違いない。
リムランドの支配者
英米が地理的にハートランドを制することは不可能。しかし、オランダ系米国人の地政学者スパイクマンの見方は少し違った。
リムランドを制するものは ハートランドを制し、
ハートランドを制するものは 世界の命運を制する。ニコラス・スパイクマン
リムランドである東欧・中東・極東に米軍が駐留しているのは、偶然ではない。百年以上もの時間をかけた、ハートランド制圧への計画的な布石であった。
英米金融支配層は、リムランドを制することでハートランドを制する道を選んだのだ。NATOがウクライナを落とせば、リムランドはすっかり英米支配圏。
いよいよロシアとのグレートゲームを終わらせる時が来たのだ。
ロシア版 IMFショックドクリン
1991年、米国(シカゴボーイズ)が新生ロシアへ放ったIMFショック療法で、超大国だったはずのロシアは 第三世界に転落。誇り高いロシア国民のプライドは、ズタズタになったことだろう。
ソ連経済を 自由市場経済に移行させるプログラム名は「500日計画」。名称からも強引さが伝わる。
外国資本への規制緩和、国営企業の民営化で、ロシアは外国マネーが蹂躙し放題。
特に重要であったのは、ハートランドに眠る地下資源に、英米金融資本が干渉できることだった。
国営企業の民営化 – バウチャー配布
5000ルーブル札
冷戦崩壊後、初代ロシア大統領エリツィンは、ロシア国民にバウチャーを配布。ロシアの国営企業を民営化するにあたり、その株式と交換できる権利を国民に与えたのだ。
ところが、資本主義制度を全く知らないロシア国民の大半が、バウチャーを二束三文で売却。よくわからない紙切れよりも、現金を求めたのだ。
資本主義を知る一部の存在だけが そのバウチャーを買いあさり、ロシアの元国営企業を次々と手中に収めた。オリガルヒ(新興財閥)の誕生だ。
オリガルヒがロシアを買収
ロシア中のバウチャーを買い占めることで、世界最大の石油・天然ガスの利権は、一部のユダヤ系オリガルヒが独占。
巨大な経済利権を手に入れたオリガルヒは、新聞社・TV局も買収。世論を操作し、政界とも深い癒着関係を築くことに成功。
やがて、世界最大のガス会社ガスプロム社は、市場価格1,190億ドルのところを わずか0.2億ドルで売却された。
オリガルヒが支配するロシア経済
オリガルヒはロシア国籍を保有してはいるものの、ことごとくユダヤ系の人物。いわゆるグローバリストたちだ。
英米金融とのつながりが疑われる彼らに、ロシアへの忠誠心・愛国心は はたしてどれだけあったのか?
一方、外国(英米支配層)がロシア内部の資産をコントロールする上で、ロシア国籍を持つグローバリストたちは重宝された。
ロシア経済モデルはどうあるべきだったのか?
この頃には日本円ブロックモデル*も、ユーゴスラビア民族主義型モデルも、英米金融支配層がすでに破壊。
進むべきモデルを見出せないロシア国民は、力強い救世主を求めたことだろう。かつて エルサレムの神殿を破壊されたユダヤの民が そうであったように。
*日本円ブロックモデルの破壊 – 日本経済のバブル崩壊と、アジア通貨危機を意味する。
民主主義システム = マネー支配
民主主義システムとは、政治家たちを選挙資金で支配できる制度でもある。
例えば、アメリカ大統領選挙が選挙資金獲得レースであり、選挙資金の尽きた候補者から脱落することはよく知られているはずだ。
マネー支配されたエリツィン大統領
IMFショックドクトリンによる貧困に喘ぐロシアでは、共産主義への回帰が真剣に支持された。
選挙で負け、新生ロシアを再び共産主義に戻させるわけにはいかないエリツィン大統領。米国から選挙運動のプロを呼び、オリガルヒたちからの選挙資金提供を受領した。
選挙に勝利し、大統領の地位は死守。しかし 外国マネーに縛られることになったエリツィンには、もはやロシアのための政治は困難。
オリガルヒはロシアの国家資産獲得をさらに拡大し、政権での腐敗も海外で報じられるようになった。
ロシア・ファースト – 新星プーチンの登場
ロシアの未来を託すため、エリツィンの後継として、KGB出身で有能な若きウラジミール・プーチンが指名。
グローバリストに支配されたロシアを、ロシア国民の手に取り戻すために登場したナショナリストだ。
「ロシア・ファースト」
プーチンの政治哲学は「ロシア・ファースト」。ん? どこかで聞いたような?
プーチンにとって、ロシアの天然資源はロシアの国益に資するべきであり、外国勢力が盗むことを認めなかった。
外国資本の支援を受けて誕生したオリガルヒ勢力が、我が物顔でロシアの資産を貪ることなど言語道断。
こうした政治的スタンスは、米トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」と非常に近いと言えるだろう。二人とも21世紀の代表的なナショナリストだ。
プーチンのスタンス
コールダーウォー著者マリン・カツサ氏によると、プーチンの政治的モットーは、トランプ大統領よりずっとワイルドだ。
俺と一緒にやろう。そうすれば邪魔はしない。反対すれば必ず潰す。
ロシア版 ディープステート – オリガルヒ
かつてロンドンのロスチャイルド家は、米国においてモルガン家、ロックフェラー家を代理人として育てた。米国ディープステートの始まりだ。
ロシアにおける新興財閥オリガルヒは、いわば「ロシアにおけるディープステート」となるべく育成されていたのではないかと本稿筆者は見ている。
新興財閥オリガルヒは、ハートランドの地下資源と金融、メディアを支配。米国DS ロックフェラー家の歴史にそっくりだ。
プーチンがいなければ、今頃オリガルヒ達は 政界をマネー支配し、ロシア版 軍産複合体を完成させていたことだろう。
政敵 ホドルコフスキー
ミハイル・ホドルコフスキー(CC BY 2.0)
ロシアのロックフェラーを目指したとされるホドルコフスキー氏。推定資産 約2兆円。巨大石油会社ユコスの経営者は、オリガルヒの代表的人物だ。
我々を導く神はお金である。『ルーブルを手にした男』
ミハイル・ホドルコフスキー
ロシア資本主義界の最高実力者は、まるで共産主義者かのような言葉を吐く。ウォール街や北京・上海の支配者たちとそっくりではないか。
ホドルコフスキーの野心
ホドルコフスキーは、大手石油会社ユコスを設立し、世界最大級にまで成長させた剛腕の持ち主。
ホドルコフスキーは 所有するユコス株を、あろうことかネオコン(チェイニー米副大統領、ブッシュ家)と協議し、米国の石油企業であるエクソンモービル社やシェブロン社に売却しようとした。
このままでは、ロシアの膨大な油田資産が、米国系マネーの管理下に収まってしまう。
ホドルコフスキーの狙いは、米国大手石油会社の最大株主となり、ロックフェラー家に匹敵するパワーを得ることだったという。恐ろしい野心だ。
ホドルコフスキー逮捕
2003年10月、ユコス株 売却前に、プーチンはホドルコフスキーを逮捕。
ユコス株売却だけではない。公衆の面前でプーチンを非難するなど、ホドルコフスキーはやりすぎたのだ。
- オープン・ロシア財団を設立。理事はジェイコブ・ロスチャイルド、ヘンリー・キッシンジャー。
- 政界をマネー操作し、「ロシア地下資源に関する法律」を変えようとした。
ホドルコフスキーは有罪となり、2013年に恩赦となるまでシベリア監獄生活。現在はロンドンで亡命生活。
「ロシアの地下資源を盗む売国奴を成敗する指導者」がやっと現れたと見なしたロシア国民は、プーチン大統領を強く支持した。
オリガルヒの制圧
栄華を極めたはずのオリガルヒ、つまりロシアの油田を支配する経営者たちに与えられた選択肢は、①投獄されるか ②「事故死」するか ③プーチンに恭順の意を示すか のいずれかだった。
プーチン傘下のオリガルヒもいる
一方で、プーチンを支持する側にまわることで生き残ったオリガルヒもいる。
ミハイル・フリードマン | ロシア第二の富豪 |
---|---|
アリシェル・ウスマノフ | アーセナルFCオーナー |
ロマン・アブラモビッチ | チェルシーFCオーナー |
ロシアのDS退治
モルガン家、ロックフェラー家を代理人として米国を操作したように、ロシアもオリガルヒを通じて操作されていた未来があったのかもしれない。
それをプーチンという剛腕指導者が、ロシアDS支配が完成しきる前に芽を摘み取った。
ロシア(ハートランド)拠点のDSが誕生したら?
現時点、世界の金融支配層は、北米大陸のDSを通じて世界覇権を握っている。これがもし、DSの本拠地がハートランドにシフトしたら?
恐ろしい未来が待っている。石油、天然ガス、ウラン、食糧などを、本当に根こそぎDSが支配してしまう。
ハートランド拠点のDSが誕生したなら、もはや人類が立ち向かう術は ほぼない。絶望的だ。
パワーシフトに伴う混乱 – 世界大戦? 世界大恐慌?
プーチンは米ドル覇権へ挑戦しているが、DSだって米ドルが不要になれば、次の通貨システムを築くだけ。
世界基軸通貨ドルが突然崩壊すれば、世界金融はパニック必至。我が国の保有する外貨準備高はどうなる?
オリガルヒは ロシア国内だけの問題ではなかった
「オリガルヒの存在は、ロシア一国内だけの問題ではなかった」というのが、本稿筆者の見解である。
もちろん プーチンのこうした姿勢を、国際金融資本が放置するはずがない。
ロシア石油化学の秘密兵器 – 石油無生物起源説
一方、ロシアの石油化学がとんでもない技術を所有していることも、にわかに疑われ始めていた。
西側諸国における油田試掘成功率は約10%。ところが、ロシアの技術を用いた成功率は驚異の6倍。尋常ではない違いだ。
もしロシアが何らかの石油科学技術を開発しており、西側にそのノウハウがなければ?
ハートランドの巨人ロシアは、重大な戦略的カードを隠し持っていることになる。西側の世界戦略が根底からひっくり返る重大案件だ。
石油の無機起源説 – ソ連科学アカデミーの研究
1950年代にスターリンは、西側から独立したエネルギー自給自足が可能な技術開発を、ソ連科学アカデミーに研究させていた。
ソ連科学者たちは「石油無機起源説(石油無生物起源説)」を主張。1870年代に、メンデレーエフ*が唱えた学説だ。
石油は生物の死骸ではなく、地球深部の物質が地圧・地熱を受けて生成されたものだという。
*メンデレーエフ – 元素記号の周期律表で知られるロシアの化学者
石油の無機起源説 – 石油は化石燃料ではなかった?
これまで西側で信じられて来た「有機起源説(化石燃料説)」では「石油が存在しない」と判断された地域でも、ロシアは油田を次々と発見。
この事実は「石油無生物起源説」の有力な状況証拠となった。国際金融資本が脅威に思わないはずがない。
科学的結論は待ってもいいが、ロシアの油田試掘成功率が異常に高い結果を示しているのは確かだ。ますますロシア・プーチンをのさばらせてはいけない。
ロシアを中心とした世界島が誕生?
ここで英米の金融資本家たちの頭をよぎるのは、マッキンダー地政学の核であるハートランド理論。
ロシアの広大な領土に眠る莫大なエネルギーをさらに発掘し、ますます成長するエネルギー消費大国 インド・中国や、日本・欧州の技術が連結されたら?
この三者の潜在的な相性は、本来すごくマッチしている。
資源大国 | ロシア |
---|---|
消費大国 | インド・中国 |
技術大国 | 日本・ドイツ |
このままでは、覇権国家アメリカをも凌駕する 世界島ユーラシア大陸のパワーが、開花してしまう。ハートランド・ロシアを中心として。
「ロシアを中心とした世界島の誕生」こそは、石油地政学史を通じて、英米が絶対に阻止して来たグレートゲームの革新部分だ。
ロシア = 核武装国家
しかも ロシアは冷戦時代の核兵器を所有したまま。正真正銘の核武装国家。これまでの丸腰国家とはわけが違う。
ユーゴスラビアのような空爆を仕掛けたら、原子爆弾が NYやワシントンの上空に落ちてくるのだ。
カラー革命という手口
そこで英米金融支配層が、ブレジンスキーや ジョージ・ソロスなどをフロントにして実行したのが、NATO東方拡大や東欧カラー革命の数々。
狙いを定めた東欧諸国の指導者を ヒトラー扱いするプロパガンダで、各国の政権を次々と転覆。「親米」政権を強引に樹立し、傘下に収めた。
軍事力よりも、マネーを利用した情報戦・政治工作を フロントで展開。国内世論も国際世論も操作し、独裁者を追い込む。
NATO東方拡大 – 兄弟国家ウクライナも転覆
ロシアの旧同盟国は 次々とCIAによるカラー革命で打倒され、親米反露政権としてNATOに加盟していく。
2004年にはロシアにとっての兄弟国家ウクライナも、ついにオレンジ革命で乗っ取られた。2014年のマイダン革命*では親露派ヤヌコヴィッチ大統領がモスクワに亡命。
NATOの東方拡大(約束違反)により、ロシアを無害化する必要がある。ブレジンスキー
いよいよロシアの国境が揺らぎ始めた。
*マイダン革命に米国が内政干渉していたとの指摘は絶えない。現米国務次官ビクトリア・ヌーランドは デモ隊にクッキーを配っていたことで有名。ヌーランドが革命後のウクライナ政権人事まで決定していた電話の盗聴記録も、YouTubeで世界に公開されている。
ロシアの世界戦略 – ポスト「ペトロダラー・システム」
石油を支配すれば、諸国を支配できる。ヘンリー・キッシンジャー
ロシアの石油購買において、プーチン大統領が「米ドルでなく、ロシア通貨ルーブルによる決済を要求」した世界史的意味がわかるだろうか。
英米世界覇権の正体 – ペトロダラー・システム
「ペトロダラー・システム」こそ、ウォール街とロンドンシティが世界を統治する力の根源。サウジアラビア、ドイツ、我が日本が下支えしている世界システムだ。
「アメリカの世紀」は ①無敵の軍事力 + ②無敵の世界通貨米ドル で成立していた。この両者を成立させた鍵こそ「石油」。
ペトロダラー・システムは「軍事支配・通貨支配・石油支配」の芸術的な組み合わせとさえ言える。
しかし その正体は、世界各国の富を合理的に搾取するジャイアニズム。
プーチンの戦いとは、その英米金融支配層による石油ドル支配体制を破壊し、新たな世界秩序の構築を目指すものなのだ。
ペトロダラー・システムの次は?
1913年、FRB通貨発行権を掌握した 英米金融支配層。金本位制、石油ドル本位制、米軍ドル本位制など、時代の変遷とともに姿を変えて 世界金融を支配してきた。
ところがドル決済そのものが、プーチンによる石油・天然ガスのルーブル決済で脅威にさらされている。
SWIFTコードも不要?
ウクライナ侵攻を理由に、国際決済システムSWIFTはロシアを加盟国から排除。ロシアへの経済打撃は甚大と予想された。
しかしロシアは代替システムとして、SPFSをすでに用意。さすがに まだSWIFTに代わるわけにはいかないだろう。
だが、「英米金融支配から脱却した世界を築こう」というロシアの本気度がここでも見て取れる。
しかも欧州諸国は、ロシアからの石油・天然ガス輸入を決済する銀行のSWIFTは停止しなかった。一体何のためのSWIFT停止だったのか。欧州の弱みをロシアに見せつけただけではないか。
「ユーラシア連合」構想
プーチンによる世界戦略構想は、大統領になる以前から具体的に描かれていた。
というのも、1997年に プーチンは「ロシアの地下資源を活用した国家戦略」を論文にしたためているのだ。
その理想である「ユーラシア連合」は、潜在的に「世界島の団結」という可能性をはらむ。
英米金融資本が 百年以上かけた地政学上の準備が、すべて水泡に帰す構想だ。
G7からBRICSへのパワーシフト?
プーチンが描く世界覇権構想は、「G7からBRICSへのパワーシフト」になるのかもしれない。
BRICSの国土面積は世界の約3割。4割以上の人類が BRICS国民。資源も豊富で、プーチンはこれらの地域との外交に注意を払っている。
ブラジル | 資源大国 |
---|---|
ロシア | 資源大国 |
インド | 消費大国 |
中国 | 消費大国 |
南アフリカ | 資源大国 |
はたして我が国の外交はどうあるべきだろうか。国民的議論が求められる。
(しかし その前提として、日本国民が 石油地政学史を認知しないことには何も始まらない)
パイプライン外交 – 欧州はロシアの影響下
地政学上 エネルギーの自立ができない欧州は、産業技術がいくらあろうとも、ロシアの地下資源を頼りにしている。
欧州各国のロシア天然ガス依存度
フィンランド | 100% |
---|---|
エストニア | 100% |
ラトビア | 100% |
リトアニア | 100% |
ブルガリア | 100% |
スロヴァキア | 99% |
ルーマニア | 86% |
ポーランド | 79% |
ギリシャ | 59% |
ドイツ | 35% |
イタリア | 28% |
フランス | 15% |
原子力発電基盤を整えたフランスですら、ロシア天然ガス依存は15%。30%のドイツは、ロシアの地下資源抜きに 安定した国民生活は不可能。
100%依存のバルト三国などは、言うまでもない。
欧州はロシアと闘いたくない
欧州全体のエネルギーロシア依存度が、非常に高いことは一目瞭然。
天然ガス | 約5割 |
---|---|
石炭 | 約5割 |
石油 | 約3割 |
ロシアが本気になれば、明日から欧州各国の鉄道は停止。親や子供たちに温かいシャワーを浴びさせることすらできなくなる。
パイプライン – ノルドストリーム問題
ロシアから欧州に供給されるパイプライン。特にノルドストリームを中心とした話題が、ほとんど日本で報道されて来なかったことに 筆者は強い違和感を感じている。
2022年の欧州では、ノルドストリームが ロシアから停止されていることが、大きな問題。
- 米バイデン政権は、ノルドストリームを使わないよう欧州に圧力をかけている。ロシアの外貨獲得を阻止し、アメリカの資源を高く販売するため。
- ドイツでは、国民にこの冬の暖房を提供できない危機が本当に迫っている。21世紀のベルリンでは、凍死者が出ることになるかもしれない。
近日中に、このノルドストリームを巡って「何らかのトラブル」が発生するだろう。
しかし、日本のメディアはなぜ報道しないのだろうか? 我が国のエネルギー安全保障とも非常に関係が深いにも関わらず、一体 何を恐れているのだ?
グレートゲーム最終章 = 第三次世界大戦?
かつて、英米ペトロダラー・システムに反逆するものは、米軍・NATOで必ず始末されて来た。
- カダフィのディナール通貨構想*は、アフリカ大陸の希望と注目されていたが、カダフィはリビア首都のトリポリ市民ごとNATO軍に空爆
- ドル以外の通貨による決済を進めたイラクのフセイン大統領も、祖国を攻撃された上に、自身は処刑された
*リビアのカダフィ大佐は、リビアの高品質な石油と潤沢な金資産を背景としたディナール通貨の発行を画策。
プーチンもNATOに空爆?
はたしてプーチン・ロシアの運命はどうなるのだろうか。
ましてや ロシアの領土こそは、エネルギー資源による 世界支配構想の聖地、ハートランドそのもの。
世界覇権を決するグレートゲーム。シーパワー英米が最終的に夢見るゴールは、やはりハートランドの支配なのだ。
第三次世界大戦?
「石油、金融、ハートランド」が、二次に渡る世界大戦の原因であった。
2022年に私たちが目撃している危機は、すなわち第三次世界大戦なのかもしれない。
戦火に巻き込まれ、原爆まで投下された我が日本国民は、今こそもっと石油地政学史を認識すべき時ではないだろうか。
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