「いつでも核を落とせる」プーチンが核弾頭搭載可能の弾道ミサイル発射で尽きかける全世界とウクライナの命運

現代のロシア
「いつでも核を落とせる」プーチンが核弾頭搭載可能の弾道ミサイル発射で尽きかける全世界とウクライナの命運 - まぐまぐニュース!
ウクライナによる米英供与の長距離砲を用いたロシア領内への攻撃に、核弾頭搭載が可能とされる弾道ミサイルでの報復を行ったプーチン大統領。ウクライナに対してこれまで以上に核の脅しを強めたロシアですが、開戦から1,000日を超えた「特別軍事作戦」はこの先、どのような推移を辿るのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官

「いつでも核を落とせる」プーチンが核弾頭搭載可能の弾道ミサイル発射で尽きかける全世界とウクライナの命運

ウクライナによる米英供与の長距離砲を用いたロシア領内への攻撃に、核弾頭搭載が可能とされる弾道ミサイルでの報復を行ったプーチン大統領。ウクライナに対してこれまで以上に核の脅しを強めたロシアですが、開戦から1,000日を超えた「特別軍事作戦」はこの先、どのような推移を辿るのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、プーチン氏が核兵器を使用するのか否かについて考察。その上で、国際情勢が取り返しのつかない事態に発展する可能性を指摘しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/メルマガ原題:米国の変心?それともただの気まぐれ?‐混乱深まる国際情勢

核ミサイル発射は避けられないのか。新たなフェーズに突入したウクライナ戦争

ロシアがウクライナに対してICBMのRS-26「ルベジ」(編集部註:日本時間11月22日午前現在、プーチン大統領はICBMではなく「オレシュニク」という極超音速の中距離弾道ミサイルを発射したと語っているとの報道がなされています)を発射し、攻撃した模様です。

核弾頭搭載可能なICBMを実戦投入したことで、確実にロシアの対ウクライナ攻撃はまたレベルアップしたものと思われます。これは「いつでも核兵器を使用できる」という、これまでとは違った現実的な脅しだと考えます。

欧米系の情報機関は「あれはICBMではない」という情報も流していますが、「核弾頭搭載可能な弾頭ミサイルであることは確実」とも言っており、この戦争がまた次の段階に進んだことを認めています。

これまで長く紛争調停官を務めていますが、恐らく初めて最高レベルの緊急招集がかかりました。詳しいことは分かりませんが、さすがに緊張しています。

「ああ、これはどちらがウクライナ紛争の解決をしたかという手柄争いだな。なんと馬鹿なことを…」

これはバイデン大統領がついにウクライナが求め続けてきた【アメリカ政府が供与した長距離砲をロシア領内への攻撃に使用することの許可】を承認したとの一報を聞いた際に呟いたことです。

来年1月21日から第47代アメリカ合衆国大統領に就任する予定のトランプ氏は、大統領選挙中、何度も「私が再び選ばれたら24時間以内に戦争を終わらせる」と高らかに宣言してきたことへの当てつけと、自らの政権のレガシーとして“ウクライナ戦争を終結させた”というバイデン大統領の焦り・想いが背景にあるものと思われます。

ただ凄まじい違和感を抱くのは、これは“ウクライナのため”ではなく、「トランプかバイデンか。どちらがウクライナ戦争を終結に導いたか」に重点が置かれた決定であり、バイデン大統領にとっては非常に危ない賭けに出たというのが、私の印象です。

これまで再三、ゼレンスキー大統領から長距離砲のロシア領内への攻撃使用の許可を求められていても「ロシアとプーチン大統領をあまり刺激したくない」との思いと恐怖感からスルーし続けてきましたが、政権終盤になって、下手をするとアメリカ合衆国の威厳と影響力を地に落ちさせ、かつ世界全体を地獄に引きずり込むことになるような決定を、ウクライナのためというよりは、自身の見栄のために下したというのは、非常に恐ろしく、愚かだと感じます。

「何を偉そうに!」という批判もあるかと思いますが、同様の違和感と危機感を抱いたのは決して私だけではないはずです。

アメリカ政府の方針転換に不安と疑念を抱く各国の首脳

G20に集った各国の首脳、特に議長国ブラジルを含むグローバスサウスの国々は、「これはロシアを激怒させ、ウクライナの恨みと憎しみに根差した攻撃心に火をつけて、もう国際社会が手を付けることが出来ないような地獄に、この紛争をエスカレーションさせる可能性が高まった。なんと無責任な」という反応を、口には出さずとも(出している国もありますが)、示しているようです。

またG20の先進国メンバーも挙ってアメリカ政府の方針転換に対して不安と疑念を抱いているようで、バイデン大統領からアメリカの方針に追随するように求められたにもかかわらず、即答できる首脳はおらず、国内の権力基盤の著しい弱体化を受けて発言力が低下しているドイツのショルツ首相も、「これ以上ウクライナに首を突っ込むのではなく、ロシアとの関係改善にも努めるべき」というドイツ国内の声に縛られ、かつフランス経済の立て直し失敗でフランス国内において政治的危機に瀕していると言われているマクロン大統領もすぐに対応できない状況が明らかになってきています。

その一方で、欧州各国はウクライナから距離を置き、代わりにロシアとの関係改善に努め、対話のチャンネルを再開すべきという意見が高まり、今週に入って首脳レベルの対話が再開されるという動きが活発化しています。

例えばドイツのショルツ首相は今週、およそ2年ぶりにプーチン大統領と電話会談を行っていますし、フランスのマクロン大統領も近々対話を行う見込みとのことです。

そしてこれまでの会議ではロシア非難が欧米グループから出て、ロシアの発言時にボイコットするなどの動きがでていたG20では(今年の議長国はブラジル)、各国の首脳・閣僚が、ロシア代表として参加していたラブロフ外相と相次いで会談するなど、これまでと潮目が変わってきているように思われます。

アメリカの方針に追従したのは、特にトランプ次期大統領とのパイプを持たない英国のスターマー首相くらいで、政府としての公表はしていないものの、英国とフランスが共同開発した長距離巡航ミサイルストームシャドーのロシア領内への攻撃への使用を許可した模様です。

ウクライナとしては喉から手が出るほど欲しかった承認を得て、早速、米国の陸軍戦術ミサイルシステムATACMSをロシア西部(ロシア・ブリャンスク州)の弾薬庫に向けて8発発射し、うち2発はロシアに迎撃されたものの、6発が命中し、ロシアのクルスク州奪還のための弾薬補給線に被害を与えたと言われています。

また20日には英国が供与したストームシャドーが用いられ、ロシア軍の弾薬庫を破壊したと言われています。これに対して英国政府は公式に認めていませんが、複数の情報筋がストームシャドーの投入を認め、確認しています。

国際社会にさらなるショックを与えた米国の対人地雷供与

これに加え、20日にはバイデン大統領が近いうちにウクライナに対人地雷を供与することが発表され(オースティン国防長官も発表)、「人口密集地近くでの使用をせず、あくまでもロシア軍の進軍を止めるという目的のみに使用されることをウクライナと確約済み」という条件ではあるものの、国際社会にさらなるショックを与えています。

現在、国際社会においては1996年のオタワ条約を通じて、対人地雷の撤廃に努めており、カンボジアはもとより、旧ユーゴスラビア、アフリカ大陸などでもその撤去のために力がそそがれている際に、アメリカによる対人地雷の供与は、その動きに逆行するものですし、何よりもそのアメリカのバイデン政権が、ロシアがウクライナ領内で陥落させた集落に対人地雷を敷設していることに対して激しい怒りと非難を表明していたにもかかわらず、今度は自らが同じことを行うとは許しがたい矛盾を示していると感じます。

対人地雷の使用でウクライナが陥ることになる自己矛盾

またこのアメリカから供与される対人地雷をウクライナが使用した場合(恐らくする)、オタワ条約の締約国であるウクライナは明らかなオタワ条約違反となり、ロシアによる侵略に対して“国際法違反”と非難していた立場から考えると、自己矛盾に陥ることになると考えられます。法による支配を守るという建前も、ウクライナによる抗戦の理由にあげられていたように思いますが、これについてはどのように説明をするのでしょうか?

また一旦対人地雷の敷設が行われた場合、ウクライナ軍としては、すでに有する旧ソ連軍の対人地雷を導入することへの心理的な抵抗が取り払われ、かなりの規模でロシア・ウクライナ国境付近に対人地雷が埋設されることになると懸念します。

皆さんもご存じのように、対人地雷は埋設されてしまうと、その位置を特定することはほぼ不可能と言われており、それゆえにカンボジアやボスニアでの地雷撤去作業が非常に難航しているのですが、いつか戦争が終わってロシアに奪われた土地がウクライナに戻ってきたときに、自らが埋めた対人地雷によって、守るべき国民をまた生命の危険に曝すことになります。

「生命がかかっているのだから、なりふり構わず攻めるのだ」とウクライナ政府も、周りのウクライナサポーターたちも主張するでしょうが、ウクライナ東部の集落に地雷を敷設して離れたロシア軍に対してあれほど激しく非難したにも関わらず、今度はそれを自分が行うことになれば、将来、どのような説明を国際社会に対して行うのでしょうか?

「仕方なかった」とでも言って、正当化するのでしょうか?

Post-Ukraineのかたちがどのようなものであったとしても、ロシアもウクライナも、そしてアメリカ政府も、この問いにきちんと答える義務があると考えます。

兵器供与先への核兵器使用の可能性を再度強調したプーチン

さて、アメリカが留め金を外す決定(長距離砲の使用許可と対人地雷の供与の決定)を行ったことに対し、ロシア側も決して黙ったままではいません。

ロシア領内がNATO諸国供与の兵器(ATACMSやシャドーストーム)によって攻撃されている事態を受けて、19日にはプーチン大統領は核兵器使用のためのドクトリンの使用要件の改定に署名し、「ウクライナのみならず、ウクライナに武器弾薬を供与し、それがロシアへの攻撃に用いられた際には、その供与元も敵とみなし、核兵器を含む報復攻撃の対象とする」という内容を明示し、核兵器使用の可能性を再度強調しました。

私個人としてはプーチン大統領が実際に核兵器を用いるとは考えていませんが、懸念があるとすれば、プーチン大統領の側近や政権、ロシア議会内で強硬派が主導権を握っている状況下で、非常に積極的に核兵器の使用を進めている勢力に押されて、使わざるを得ない状況に、プーチン大統領が追い込まれる可能性は否定できないと考えます。

核兵器の使用を推す強硬派の主張の源には「ロシア(ソビエト連邦)は長い月日と多くのリソースを費やして、ロシアの国家安全保障のために核兵器を開発・製造し、近代化を進めてきた。核兵器を保有し、世界最大の保有国となることで軍事的な抑止力にはなってきたが、国家安全保障のためには、必要に応じて使うことが出来ることを示す必要がある」という主張があり、2022年2月以降、強硬派はウクライナ特別作戦が停滞するにつれ、「今こそロシアの真の力と覚悟を示す時だ」という主張をして、プーチン大統領に核兵器の使用を進言してきています。

今回、NATOの主軸であるアメリカと英国が挙ってウクライナに長距離砲を用いてロシア領内を攻撃することを容認したことで、強硬派の発言力が政府内で高まるのではないかと懸念されています(強硬派の意見としては「核兵器を使用しないから、なめられているのだ」とのこと)。

すでに対ロ戦争の準備を始めたフィンランドとスウェーデン

さらにここにきて国内でのプーチン大統領に対する支持率が極めて高いことと、“ウクライナで行っている戦争”への支持率も高いこと、さらには、今回のバイデン大統領の変心の理由の一つに挙げられている北朝鮮軍兵士の実戦参加により、ロシア人に対する臨時徴兵の必要性が弱まったとの認識が高まることで、ロシア国民の中で再度、この戦争が自分事ではなくなってくる現象が現れることになると、ロシアによる攻撃のエスカレーションへの障壁はかなり下がると思われ、核兵器使用を含む、思い切った作戦が実施される可能性は否定できないと考えます。

ただし、紛争のエスカレーションが起きた場合、直接的に影響を受けるのはロシアとウクライナに近い東欧諸国とバルト三国であり、かつ地続きでロシアの脅威が襲ってくるEU諸国、特に北欧諸国です。

すでにこれらの国々では、来る戦争に向けて臨戦態勢に入ったという情報が入ってきていますし、新しくNATOに加盟したフィンランドとスウェーデンも、日本ではなぜか報じられませんが、今回の米英の方針転換を受けて、ロシアが必ず攻勢を強めてくると予想し、戦争の準備を始め、国民に生活必需品の十分な備蓄を急ぎ行うように呼び掛け、かなり緊迫感が強まっています(余談ですが、ちなみに私の両国への訪問予定はまだそのままなのですが)。

ドイツ政府は与党の連立が事実上瓦解したことで、ショルツ首相は来年2月に総選挙を迎え、恐らくこのままでは下野すると言われているため、すでにドイツの安全保障・防衛関連の方針を示しても、連邦議会での支持が集まらない状況であり、政権は“ウクライナへの支援”を口にしつつも、ロシアとの緊張をこれ以上高めることはできないという方針転換を強いられています。つまりロシアへの歩み寄りをじわじわとスタートしています。

その証に今週、2年ぶりにショルツ首相とプーチン大統領が電話会談をし、事態のこれ以上の緊迫化を協力して防ぐべきとの合意をし、関係改善に乗り出しています。

ドイツの防衛政策の専門家曰く、政府の今後の方針として「すでに供与したレオパルトII戦車は諦めるとして、ウクライナが求めるタウルスミサイルの供与は行わず、徐々にドイツはウクライナから手を退くことになるだろう」とのことで、例えは悪いですが、我先に危ないところからは退避し、ロシアから攻められるような事態にはならないようにしようという姿勢が垣間見られるようになりました。

フランスについては、マクロン大統領自身はロシア・ウクライナ戦争において目立つ役割を担いたいと望んでいるようですが、国内で極右政党の影響力が増大し、そこにフランス経済のスランプにマクロン政権が何ら策を講じていないという非難が重なり、今、積極的に外交的な手段に打って出づらい環境が作り上げられています。

「マクロン大統領が、特にフランス国民の福祉に関係がないウクライナ問題に時間とお金を使っている間、フランス国民は窮状に瀕している」とFN(国民戦線)あたりから攻撃され、その認識が国民、特に労働者層の支持を集めていることもあり、外交よりもFrance Firstにすべきとの圧力がかかっているため、フランスはこれ以上のウクライナ支援には動くことができない状況のようです。

またドイツ同様、トランプ次期大統領登場後、アメリカが再び欧州と距離を置くことを想定し、「ロシアとの緊張関係を解くことこそが、欧州にとっての安全保障を確保する道」との認識を強めているようで(もともとの提唱者でもありますし)、水面下でロシアとの関係改善の機会を探っているようです。

ショルツ首相と同じく電話会談に臨むのか、2022年のロシアによるウクライナ侵攻前まで行っていたモスクワ(クレムリン)訪問を強行するのかは分かりませんが、今はNATOやアメリカとの結束を維持するよりも、フランスおよび欧州独自の安全保障体制の強化、そしてロシアによる脅威の軽減に重点を移しているように見えます。

あと数か月の時限爆弾と見ることもできる米英のウクライナ支援

イタリアやスペイン、ポルトガルなどの南欧諸国は、かつて、特にイタリアは反ロシアでNATOの主要な一員としてウクライナ支援をけん引してきましたが、昨年10月7日以降の中東地域での情勢悪化と、イタリアの部隊が派遣されている駐レバノンPKFに対するイスラエル軍の攻撃などを受けて、外交・安全保障政策の重点を転換し、中東全域が戦火に巻き込まれる恐れが高まると、その影響が直接的に地中海を介して南欧にも飛び火するとの分析結果が示され始めたのを機に、ウクライナ支援の輪からは次第に距離を置き(外交的なモラルサポートは継続しているが)、安全保障・外交上の重点を対イスラエル・対中東に移し、かつ南欧諸国と協力して、戦火が欧州に広がらないようにするための予防策に力を入れ始めています。

ウクライナがロシアを押し返し、いずれ実現する停戦においてできるだけ良い条件を得るためには、継続的な一枚岩の支援がNATO各国から必要になりますが、すでにその支援網の結束は緩んでいると言え、ウクライナの命運はアメリカと英国の本気度に関わってくると言っても過言ではない、非常に不安定な状況に陥ることになります。

バイデン政権は来年1月には終焉し、「私ならば就任後24時間以内の停戦を実現する」と豪語するトランプ氏が新しい政権運営を始め、恐らく対ウクライナ支援を停止するか大幅に縮小しますし、トランプ氏とコネクションを持たないスターマー英首相が、歴史的なtrans-Atlanticの特別な関係を重視するためには、トランプ政権誕生後は、ある程度、アメリカのトランプ政権の方針に沿う形を取ることが予想されるため、米英の対ウクライナ支援もあと数か月の時限爆弾と見ることもできるかもしれません。

さらにウクライナにあまりよくない情報を挙げると、アメリカがこれまでに供与し、今回使用を許可したATACMSの在庫がウクライナにあまり残っていないことで、ウクライナ軍は今後あまり贅沢にATACMSを使用できないことと、退任までに数十億ドル規模の軍事支援を行う権限をすでに得ているバイデン政権ですが、ATACMSのストックをATACMSの後継の次世代兵器が揃うまではあまり出したくない陸軍当局の方針もあり、その方針を強硬に押し切ってでもウクライナに供与してしまうと、容易に「バイデン政権は、アメリカ国民の安全保障よりも、ウクライナを選ぶのか」という非難の的になりやすくなり、これはまた民主党に対する打撃にもなり得る非難となる恐れがあるため、残り2か月ほどの任期中にどこまでウクライナを支えられるかについての見通しは、あまりpromisingではないと思われます。

複数弾頭を内蔵するATACMSの小弾頭の雨がロシア軍に大きな損害を与える姿は、今回の使用時の映像でも見ることが出来、ウクライナの健闘に声援を送る人たちもいますが、恐らくATACMSがロシアに与える脅威・影響もあと少しとなるため、今後、ATACMSの使用法については、ウクライナ当局も非常に慎重にならざるを得ないと思われます(ロシアの戦略的な軍事拠点などに絞った攻撃など)。

これから2か月の間に試されかねない非常に危険な火遊び

トランプ政権が誕生し、アメリカ政府が対ウクライナ支援を大幅にカットするか撤廃することが予想され、加えて長距離砲の使用許可も取り消す決定を行うでしょうから、恐らくそれに英国政府も追随すると考えると、ウクライナとゼレンスキー大統領の命運も尽きたかと悲観的になりますが、NATOや米英の意思に関わらず、ロシア領内を攻撃できる無人ドローン兵器などのウクライナ国内での開発・生産・配備が進んでおり、今後、その実戦配備の予定が早まるようなことがあれば、この戦争が思いのほか、長引くだけでなく、トランプ大統領の意思に反して、ウクライナのゼレンスキー大統領は抗戦を続けることを選ぶようになるかもしれません。

そうなると戦争は続きますが、その場合、トランプ大統領はアメリカのサポートを引っ込め、結果としてNATOがロシア・ウクライナ戦争から手を退く形になると、実はロシアにとってもあまりいい環境ではなくなることになります。

今回の“特別軍事作戦”の理由として、「ウクライナという駒を使って、NATOがロシアの国家安全保障を脅かそうとしているので、それに徹底的に反抗するのだ」という主張が掲げられ、真偽のほどはともかく、それで国民の支持を得ているわけですが、そのNATOのコミットメントがなくなるか、かなり低減することになると、プーチン大統領はウクライナ攻撃に対する大義を失うことになりかねず、これはまたロシアにとって難しい状況が生まれることになります。

そこに“停戦の種”があると、どうもトランプ次期大統領も、プーチン大統領も考えているように思われます。

バイデン政権が残りわずかな任期中に停戦を達成するべく、ウクライナに軍事的な成功をおさめさせようと躍起になり、ロシアを過剰に刺激するという危ない賭けに出たように、ロシアは核兵器使用の可能性を再度示唆したり、近々、大規模な攻撃をウクライナに対して行ったりすることで、少しでも陣地を拡大し、有利な条件を作り出そうとすると考えられます。

そしてロシア・ウクライナのタイムリミットが、トランプ政権が正式に誕生する来年1月です。

それまでにロシアとウクライナのどちらが、より有利な状況を作り出し、相手側に一刻も早く戦いを終えたいと思わせるかがカギと言うことになってしまいます。

非常に危険なことがこれから2か月の間に試されることが予想されますが、その火遊びが少し過ぎると、ロシアまたはベラルーシの核兵器が投入され、世界の広範囲に不可逆的な悲劇をもたらす事態に発展する危険性もはらんでいます。

それに見事に翻弄されているのが、実は中国です。

トランプ大統領の再登板により、容易に米中関係の緊張がさらに高まることが予想されますが、恐らく安全保障上の緊張は避けられるかと思います。

それはトランプ氏が実は言われているほど台湾防衛に関心がなく、台湾にコミットする理由がTSMCの存在のみと思われ、TSMC防衛の手筈が整ったら、案外あっさりと台湾については見放すことも予想されています。

ただそれを実現するためには、中国としてはアメリカと対等に渡り合えるだけの実力を備えている必要があり、それがトランプ氏の前政権時と現在の中国の状況とのおおきな違いです。

皆さんもご存じの通り、中国経済はこのところスランプに沈んでおり、再度、トランプ関税を実施されたら、中国経済が耐えられない恐れが懸念されます。

アメリカのトランプ政権と渡り合うためには、100%方針ややり方に同意できなくとも、しばらくはロシアとの協力が欠かせないとの理解で、ロシアの戦争実行には直接的に関与しない方針を貫きつつも、かといってロシアを見捨てることが出来ず、結果として中ロの結束を高めて影響力を相互に高め合っている状況です。

「ロシアに今、負けてもらっては困る」。中国の思惑

またロシアによるウクライナ侵攻以降の欧米の対応、特に経済制裁の内容については、中国政府内で真剣に分析されており、仮に中国が核心的な利害と位置付ける台湾の“防衛”および“統一”に打って出なくてはならない時に、どのような制裁が課され、それに中国はいかに耐えることが出来るかが、今、検討されています。

その点でも、中国の外交・安全保障の専門家によると「ロシアに今、負けてもらっては困るので、中国は見えない形でロシアを支え、共同で欧米の影響力に抗戦する体制を取る必要がある」とのこと。

ということは、もしトランプ政権が誕生して、本当に早期にロシア・ウクライナ戦争が停止または終焉するようなことがあれば、アメリカの次のターゲットは、仮に中東情勢が相変わらず混乱をきたしていても、中国になると思われます。

ゆえに中国としてはロシアを間接的にでも支え、何らかの形でロシアに勝ってもらう状況に持って行くか、または以前から噂されているように、本気でロシア・ウクライナの仲介に乗り出し、調停役として停戦を作り出して、post-Ukraine warの国際秩序作りの主導権を握るかという選択を、そう遠くないうちに行う必要が出てきます。

それが今の中国にできるか?そもそもする気があるのかは分かりませんが、水面下でロシアとウクライナの調停を行っていたカタール政府は、イスラエルとハマスの調停に加えて、こちらの仲介も一旦停止したとのことですので、スペースは空いていると思われます。

今回のアメリカ・バイデン政権による大きな賭けが、大きな後悔に繋がらないように心から願い、祈りますが、私たちが見聞きしている以上に、国際情勢は緊迫度を高め、いつ同時に多方面から破裂して、取り返しのつかない事態に発展する可能性が高まっています。

これまでにも国際社会はそのような危機的状況を、協調によって乗り切ってきましたが、世界の分裂が鮮明になる今、その調整機能をまた期待していいのか、非常に心配しています。

来年1月に誕生するトランプ政権が、いい意味で予想を裏切ってくれ、再び国際協調を復活させる軸になってくれるといいのですが…。

以上、今週の国際情勢の裏側のコラムでした。

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