スーパーフレアが地球生命を生んだのか…? じつは、宇宙線が「生命の材料」を生成していた「衝撃の事実」

生命科学
スーパーフレアが地球生命を生んだのか…? じつは、宇宙線が「生命の材料」を生成していた「衝撃の事実」(小林 憲正)
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」しかし、生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロ。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめた『生命と非生命のあいだ』から、読みどころをご紹介するシリーズ。今回は、前回に引き続き、宇宙線が生命誕生に与えた可能性をさらに探っていきます。

スーパーフレアが地球生命を生んだのか…? じつは、宇宙線が「生命の材料」を生成していた「衝撃の事実」

太陽がスパーフレアを起こす可能性

こうしたフレアは「スーパーフレア」とよばれています。それまでは太陽はスーパーフレアを起こさないと信じられてきたのですが、この観測によって、1000年に一度くらいはスーパーフレアを起こすことは想定しておく必要があると考えられるようになりました。

なんの準備もせずにスーパーフレアに遭遇してしまった場合、生物学的にすぐに人類が滅ぶところまではいかないでしょうが、電気を基盤とする人類の文明が崩壊してしまう可能性があります。

一般に恒星ができたての頃は、見た目は暗いのですが、フレアを頻繁に起こすなど、活動は活発です。ということは、若い頃の太陽は現在よりもスーパーフレアを数多く起こしていた可能性が考えられます。

若い頃の太陽は現在よりもスーパーフレアを数多く起こしていた可能性が考えられる illustration by gettyimages

スーパーフレアが地球生命を生んだのか

NASAゴダード宇宙飛行センターのウラディーミル・アイラペティアン博士は、理論的にその可能性を計算し、さらに、そのような若い太陽の活動が地球の進化にどのような影響を与えたのかを研究しています。

それによれば理論上も、若い太陽のスーパーフレアにより、非常に高エネルギーの「太陽高エネルギー粒子(SEP)」が大量に地球に降り注いだ可能性が出てきました。では、そのとき地球大気中では何が起きたのでしょうか。

アイラペティアン博士の研究では、シアン化水素(HCN)や一酸化二窒素(N₂O)が多く生成した可能性が見えてきました。では、実際に実験で確認したらどうなるのだろうかーーということで博士は、陽子線照射の実験を前から行っていた私のグループに声をかけてきました。

それまで私は銀河宇宙線の影響についての実験を行ってきたのですが、こうして、SEPの影響も調べることになりました。

宇宙線よりはるかに多い太陽高エネルギー粒子(SEP)によるアミノ酸量

実際に原始地球大気の組成がどうだったかは不明ですが、現時点で考えられるもっともらしい組み合わせとして、二酸化炭素と窒素を主とし、そこに少量のメタン、もしくは一酸化炭素を加えた、わずかに還元的な混合気体を用いることにしました。

まず、この気体に雷(火花放電)や紫外線を当てても、アミノ酸は生成しないことを確認しました。

そのあと本番の加速器実験となりますが、東工大のバン・デ・グラーフ加速器はすでに運用が終わってしまっていたので、代わりに東工大のタンデム加速器を用いて、スーパーフレアのときに発生するSEPに最も多く含まれる高エネルギー陽子を混合気体に照射してみました。

すると、メタンが二酸化炭素の100分の1しか入っていないような気体でも、生成物を加水分解するとアミノ酸が生じました。

実験結果をもとに計算すると、SEPにより年間数万トンものアミノ酸が生じることになる photo by gettyimages

この結果をもとに、40億年前のSEPの推定エネルギー量から地球全体で生成したアミノ酸の量を計算すると、年間数万トンものアミノ酸が生じることになります。これは、隕石などにより宇宙から運ばれたと考えられるアミノ酸量(多くて年間100トンくらい)よりも、はるかに多いことがわかったのです。

宇宙のアミノ酸をつくったのも放射線だった

隕石など、地球外に存在するアミノ酸などの有機物がどのようにしてできたのかを、宇宙線との関係に注目しながら、みていきましょう。

太陽系の外から飛来する銀河宇宙線は、太陽や地球の磁場で遮られるため地球には大きな影響は与えていませんが、裏を返せば、磁場の外側の地球外、さらには太陽系外の宇宙空間では、銀河宇宙線が大きく影響していると考えられます。

地球外でアミノ酸などができる場所の候補として、先の記事で分子雲の星間塵をおおう氷の層を紹介しました。分子雲は一般の宇宙空間よりも物質密度が高く、そのために星からの光が中心部まで入れないことから、水のほか、一酸化炭素、メタノール、アンモニアなどが氷になっています。

分子雲の星間塵をおおう氷で、アミノ酸は生成されるか photo by gettyimages

ここで一酸化炭素やアンモニアが反応して、複雑な有機物ができるのではないか、というアイデアをライデン大学のジェローム・マヨ・グリーンバーグ(1922〜2001)が提唱したことから、この仮説は「グリーンバーグ・モデル」とよばれています。

グリーンバーグとは私は1990年代に知り合い、宇宙でアミノ酸を合成する実験を共同で進めることを計画しましが、残念ながら実施には至りませんでした。グリーンバーグも亡くなり、宇宙での彼との共同実験は夢に終わりました。

私たち横浜国立大学グループは、宇宙線によって氷の中(氷の表面ではなく)でアミノ酸ができるかどうかを調べる実験を行いました。千葉市にある放射線医学総合研究所(現在は量子科学技術研究開発機構)には、がん治療用の加速器HIMAC(ハイマック)があり、治療目的のほかに基礎研究に使うことも可能です。通常は、陽子よりはるかに重い炭素イオンなどの重粒子を高速度 に加速するので、「重粒子線加速器」とよばれます。重粒子は宇宙線の中にも含まれています。

私たちは、メタノール・アンモニア・水の混合物を液体窒素で冷やして氷にし、これに炭素イオンなどの重粒子を照射しました(図「模擬星間氷への炭素イオン照射実験」)。炭素イオンのエネルギーは35億電子ボルトという非常に大きいもので、実際の宇宙線と同様、標的の氷をあっさりと突き抜けてしまいます。

模擬星間氷への炭素イオン照射実験

しかし、そのエネルギーのごく一部が氷に与えられ、反応が起き、アミノ酸の前駆体が生成することがわかりました。分子雲の中の氷の表面ではなく「氷の中」で、宇宙線によってアミノ酸ができる可能性が初めて示されたのです。

また、記事〈まさか、宇宙の生命体の痕跡ではあるまい…隕石の中にあるアミノ酸が「できるまで」を再現した「衝撃の実験」〉で、分子雲の中で太陽ができたあと、それをとりまく原始太陽系円盤の中でできる小惑星の内部でも、放射性元素の壊変熱で氷が融け、アミノ酸などができた可能性があると述べました。この場合、熱だけでなく、放射性元素からのガンマ線などの放射線そのものの効果によって、熱よりも種類、量ともに多くのアミノ酸が生成することもわかってきました。

つまり、宇宙の分子雲や小惑星でも、アミノ酸などの有機物生成の鍵を握るのは、宇宙線などの放射線だったのです。

では、こうしてできるアミノ酸前駆体とは、どのようなものなのでしょうか。

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