
日本のレアアースに勝算は──中国の輸出規制、南鳥島の試掘成功をどう見るか

世界を舞台に、レアアース、レアメタルを半世紀以上取り引きしてきた中村繁夫さん(撮影:編集部)
今年2月、日本最東端の孤島、南鳥島周辺の水深5700メートルの海底から「レアアース泥(でい)」の試掘に成功したと報じられた。年初から中国による日本へのレアアースの輸出規制が続く中、政界などでは今回の試掘成功で日本は将来レアアース大国になると喜ぶ向きもある。一方で、専門家の間では喜ぶにはまだ早いという声もある。現在のレアアース危機をどう見ればよいのか。レアアースに半世紀ほど前から関わってきた「レアメタルキング」こと、中村繁夫氏に聞いた。(文:ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「100年経っても無理」が成功した南鳥島

今年2月、南鳥島周辺海域で水深5700mからレアアース泥を取ることに成功した(概念図)
試掘が始まる前の昨年末、南鳥島周辺海域のレアアースの潜在的な資産価値を「165兆円」とウェブメディアで評したのが、株式会社UMCの代表取締役会長、中村繁夫さんだ。
中村さんは専門商社の立場で、レアメタルやレアアースを半世紀にわたって貿易対象としてきた第一人者で、「レアメタルキング」の異名をとる。
中村さんは、まず試掘の成功については「ようやった」と感慨深げに言う。
「南鳥島周辺にレアアースがあることは、研究をしていた東京大学の加藤泰浩さんや中村謙太郎さんとの関係で15年くらい前から知っていました。ただ、当時、このレアアースを実際に掘り出すなんて話は誰も相手にしませんでした。なぜか。学術的に意味はあっても、産業的、経済的には意味がないとみんな思っていた。私自身、『100年経っても無理でしょう』と書いたこともあります」

南鳥島のレアアースで日本が資源大国になるという見方には「さぁ、どうですかね」と首をひねる中村さん(撮影:編集部)
そんな状況が変化したのは、内閣府で海底資源の調査に関する大型プロジェクトが採択されたのがきっかけだ。
2014年度から、内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム」(SIP)の第1期で水深2000メートル以浅の海底熱水鉱床を調査。2018年度からの第2期で南鳥島のレアアース地層の調査、次いで、水深2470メートルの海底から泥を引き揚げる試験に成功。今回の南鳥島でのレアアース試掘は、2023年度からの第3期での調査だった。
このプログラムが進行する中で、大手商社などもこの数年で南鳥島に投資する動きが出てきたと中村さんは言う。
「南鳥島周辺は水深約6000メートル。海中は10メートルで1気圧増加するので、600気圧という過酷な水圧がかかる。その強い水圧の中、泥をパイプに詰まらせず、船まで引き揚げられるか。それが問題だったわけです。ところが、2022年、茨城沖で2470メートルの海底から泥を引き揚げることに成功した。これで潮目が変わり、学者も産業界も政治家も一気に色めき立ったわけです」
そんな困難を乗り越えての試掘成功に中村さんも喜ぶ。だが、これで日本がレアアース資源大国になるという見方については「さぁ、どうですかね」と首をひねる。
中国にレアアースの製錬を教えた70年代
中村さんは、1974年に専門商社・蝶理(大阪府)に入社。1977年からレアメタル、レアアースの輸入契約に関わりだした。
そもそも中国のレアアースの見本品を最初に日本に持ち帰ったのが自分だったと中村さんは振り返る。
「それ以前、蝶理ではレアアースをソ連(現ロシア)から輸入していました。そしたら、ある時『中国でもレアアースが取れるから、君が担当ね』と命じられた。ただね、当時の中国はレアアースを扱う技術が十分ではありませんでした」
レアアースとは、存在量が少ない金属(レアメタル)の一種で、さまざまな特性をもつ元素だ。ネオジム、ジスプロシウム、イットリウムなど17種類あり、超伝導、強磁性、触媒、光学などの特性をもつ。

たとえば、車のモーターは高速回転で熱を帯びるが、ジスプロシウムを添加した鉄は高温下でも高い磁力を維持する(ジスプロシウムが添加されていないと磁力が大きく低下する)。ネオジムを添加した鉄は磁力が強くなる。イットリウムは液晶パネルに使われる。
こうした特性があり、現代の製造現場ではレアアースの必要性が上がっている。ただし、その採取は簡単ではない。
第一に、産出地が限られる。世界の埋蔵量の5割以上を占めるのが中国で、ブラジル、オーストラリアと続く。第二に、レアアースは同一の鉱石に複数の元素が含まれており、それを酸やアルカリといった物質で個々の元素を分離、精製する過程が必要になる。
そんなレアアースを適切に製錬する手法を当時の中国は確立していなかったと中村さんは言う。
「たとえば、物質の溶解度の違いを生かして成分を分離する溶媒抽出法。その技術を中国に教えたのは、他ならぬ日本です。というより、その片棒を担いだ一人が30代の私だった。なぜ技術を教えなければならなかったのか。というのは、彼らの当初の技術で出荷したレアアースは、日本に到着してみると処理が不十分で酸化するなど劣化していた。そうなった製品は使い物にならない。日本のメーカーからはクレームも多くもらった。中国に製錬方法を教えなければ商売にならなかったのです」

1980年代、中国でレアアースで取引をしていた頃の中村繁夫さん(左から3人目)(提供写真)
当時、日本と中国は日中平和友好条約を締結しようという頃。中国国内ではレアアースを買おうとする中村さんを歓迎する空気があったという。
「当時、1978年春の交易会の頃から、中国じゅうの工場を回ったんです。彼らにとって私らは外貨を稼ぐ対象でもある。だから『工場を見せてください』と言えば見せてくれたし、『鉱山の現場を見せてください』と言えば見せてくれた。本来は秘密で外国人には見せないところですが、私はどこにでも行けた。ただ、その過程では、レアアースの厳しい現場にも遭遇しました」
その厳しい現場とは、放射線による被曝だ。
レアアースの放射線というリスク
レアアースを含む鉱物は多くの場合、トリウム232やウランといった放射性物質を含んでおり、その製錬過程で放射性廃棄物が大量に発生する。
そのため、中国のレアアース工場では、放射線によって被曝していた作業員が少なくなかったと振り返る。
「ある大きな工業都市の工場に行ったときのこと。その工場で研究者らが私に会いに来てくれたんですが、見ると、彼らの手はみんな被曝して白斑ができていた。そもそも工場内を歩く際も、放射線被曝を防ぐため、私たちも鉛でできた重いコートを着させられた。つまり、レアアースの産出や製錬では放射線の課題があり、環境的にも大変手がかかる。そういう健康被害を犠牲にしていたのが中国で、だからレアアースを促進することができたとも言えるんです」

レアアースの採掘、製錬には環境への影響もあるため、簡単ではないと語る中村さん(撮影:編集部)
この放射性物質の発生は、各国がレアアースの生産に二の足を踏む課題でもある。1980年代、マレーシアでは日本企業が絡んだ健康被害で訴訟も起きている。
当時、マレーシアの当該工場ではその周辺に放射性廃棄物を野積みにした。すると、周辺住民の間で白血病など健康被害が続出。住民側が工場の操業停止などを訴える事態となった。その後、日本企業は同事業から手を引いた。中村さんはその企業の担当者が手を引く現場にも立ち会っていたという。
「その問題が渦中の頃、その企業の担当者と一緒にマレーシアに行きました。現地で彼は『私の会社はこの仕事から足を洗います』と決意を語っていました。そういうリスクが高いのがレアアースの事業。だから、日本国内ではレアアースを生産、製錬する事業が少ないのです」
背景もある。日本では1968年に原子炉等規制法が改正され、イットリウムの製造業者に核原料物質使用届け出の義務を課すとともに、技術上の規制がかけられた。そこから日本国内でのレアアース事業は縮小、海外に活路を見いだしていった流れもある。
一方、中国は1980年代以降、レアアース技術を向上させていった。アメリカやフランスが環境対策コストを理由に生産を縮小する中、中国は10分の1以下のコストで製造し、市場を席巻。製錬などの出荷段階で世界シェアの9割を占めるに至った。

中国はレアアースを重要な交渉材料としても活用してきた。1991年に国家鉱物資源保護法を制定し、レアアース17種を国家で管理する体制を構築。日本に対しては、2010年9月、尖閣諸島沖の漁船衝突事件の際、3カ月にわたってレアアースの輸出をほぼ停止する措置をとったこともある。
今回のレアアース輸出規制は、昨年11月の高市早苗首相による国会での台湾有事に関する「存立危機事態」発言を契機とした日本への圧力という見方が一般的だ。
では、この事態の中、日本は南鳥島のレアアース採掘に注力していくべきなのだろうか。中村さんは、南鳥島についてはレアアースの資源にだけ目を向けるのは間違いだと言う。
「続けることの価値は別にあります。経済安全保障としての枠組みづくりです」
レアアースで米国との経済安全保障と中国との外交強化を
南鳥島でレアアースが取れた事実を喜ぶ一方、今後の時間やコストを考えると南鳥島のレアアースに大きな期待をするのは現実的ではないと中村さんは言う。
「船であそこまで行って掘り出し、それを持ち帰って製錬する。日本では、酸やアルカリなど環境的な規制にも対応しなければいけない。いかに大量の資源が眠るとしても、そうした生産時のコストを考えると、やはり中国産のものとは比較にならない」
ただし、コストとは別の観点で南鳥島は重要な資源開発の場になるという。資源を他国とともに管理運営する枠組みの経済安全保障だ。

今年3月に行われた日米首脳会談(写真:米ホワイトハウス・ギャラリーより)
「経済安全保障で一番よいのはアメリカと共同で南鳥島を運営することです。というのは、東シナ海で勝手に資源の掘削を始めているように、中国は南鳥島海域でも強引に迫ってくる可能性がある。そういう時に、日本一国だけで対応するのは心もとない。今回高市早苗首相とトランプ大統領との日米首脳会談に合わせ、南鳥島周辺海域のレアアース泥などに関して『深海鉱物資源開発に関する協力覚書』を締結しました。それは、まさに私が昨年から指摘していたことです。詳細な中身まではわかりませんが、適切な合意だったと思います。こうした経済安全保障の構築はレアアースのもたらす経済効果以上の価値になると思います」
じつは、中村さんは中国の輸出規制自体はそれほど気にしていない。日本への輸出を止めていたとしても、他国に輸出していれば、その国から迂回して買うことはできるからだ。
「もしアメリカに出すのであれば、アメリカから買えばいいし、他の国であれば、そこで買えばいい。ものが出ていれば買うことができる。そういう裏口はたくさんあるんです」

「レアアースの入手より中国との外交の選択肢を広げるべき」と語る中村さん(撮影:編集部)
だからこそ、レアアースの入手より中国との外交の選択肢を広げるべきだと言う。
「2010年、レアアース輸出規制の頃、民主党政権の岡田克也氏は中国に行って温家宝首相に規制を見直してくれと要請していました。私はちょうど北京にいて、それを見てがっかりしたのを覚えています。土下座外交じゃないのだから、お願いすれば出してくれるのであれば何の苦労もない。そうではなく、もっと交渉で知恵を使ったり、話ができる人脈を増やしたりすることが政治の仕事でしょう。レアアースをめぐる世界との取引は『そういう基本的な交渉力をつけなさい』と教えてくれているように思います」
森健 ジャーナリスト、専修大学非常勤講師。大宅壮一ノンフィクション賞、小学館ノンフィクション大賞ほか受賞多数。


コメント