なぜ備蓄米放出でも高いまま?問われる自民党の農政…守りたいのは国民生活か農協か

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なぜ備蓄米放出でも高いまま?問われる自民党の農政…守りたいのは国民生活か農協か=斎藤満 | マネーボイス
政府自民党の農政に批判の声が強まっています。きっかけは江藤農水大臣の認識でした。彼が自動車業界はつぶれても農協は守る、との認識を示したことで反発を強めています。政府が備蓄米を放出してもコメ価格は下がるどころか上昇を続け、多くの地域で安価な備蓄米にありつけない不満も政府にぶつけられています。(『』斎藤満) 【関

なぜ備蓄米放出でも高いまま?問われる自民党の農政…守りたいのは国民生活か農協か=斎藤満

政府自民党の農政に批判の声が強まっています。きっかけは江藤農水大臣の認識でした。彼が自動車業界はつぶれても農協は守る、との認識を示したことで反発を強めています。政府が備蓄米を放出してもコメ価格は下がるどころか上昇を続け、多くの地域で安価な備蓄米にありつけない不満も政府にぶつけられています。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

批判が集まる江藤大臣の認識

政府が備蓄米を放出しても、コメ価格は一向に下がりません。

4月の東京都区部の「うるち米」(コシヒカリを除く)価格は前年比93%の上昇で、直近のスーパーでのコメ価格は5キロ4,220円で前年の2倍となっています。政府が備蓄米を放出しても、ほとんどこれが流通せず、農水省は「精米、流通に時間がかかるため」と説明、いずれ多く出回るとしていますが、現実はそうなっていません。

コメがそもそも少ないことがネックになっていますが、政府は「減反はしていない」と言います。しかし、現実には水田をコメ以外のほかの作物に転換するよう指導し、転作補助金まで出してコメの生産を絞っています。24年は猛暑で白濁米が増え、コメの作柄が良くなかったうえに、インバウンド需要の拡大もあって、コメの需給は急速にタイトになっています。

農水省のデータによると、コメ出荷業者と卸売業者等との相対取引価格は、コロナ前の3年間は60キロ当たり1万5,000円台が続きましたが、コロナ禍で一時1万2,000円台まで下げたあと、コロナ禍からの回復とともに価格が持ち直し、24年度産米は一気に2万3,000円台に急騰しています。

コメ在庫が前年より49万トンも減っているなかで、政府が21万トンの備蓄米放出をしても需給は変わりません。放出量が不十分なうえ、1年以内の買戻し条件まで付けました。これでは価格が下がりません。

政府は急遽予定を変え、4月30日に3回目の備蓄米10万トンの放出を行いました。落札価格は前回より400円余り低い60キロ2万302円でした。ここまではその効果が見られません。

折しも、米国からコメ輸入の解放を求められ、日本のコメ不足解消にちょうど良いきっかけとなったのですが、江藤農水大臣が農家を守るためにコメの解放には否定的な発言をしました。その際、自動車業界が破綻しても農家を守ると言い放ったことが多くの批判を呼びました。

自民党は農協票に多くを依存し、農協の支持がなければ選挙に勝てないとの認識があります。これがあからさまに出たわけで、自動車業界も不快に思ったはずです。政府は農家・農協を守るためにコメの価格維持を優先、国民のためにコメの価格を下げる意思があるのか、問われています。

輸入米増も価格に影響せず

こうした中で輸入米も増えてきています。

それでもまだ限界的な供給に過ぎませんが、25年度については民間輸入分が前年比20倍の年間4万トンを超える見込みと言います。この過半が米国からの輸入です。しかし、ベースの需給がひっ迫しているために、輸入米が数万トン入ってきても、需給緩和、価格下落に影響する力は限られます。

昨年秋以降、コメ業者の在庫は前年比49万トン減となっていて、在庫がまったく足りないうえに、在庫が減少傾向にあります。

これは需要に見合った供給がなされていないためで、昨年の需要と同じと前提しても、在庫維持にこの需要をカバーするだけの供給増が必要で、さらに今年の需要がインバウンドなどでさらに増えれば、その分の上乗せが必要です。

輸出促進政策に乗ってコメの輸出も急増しているので、その穴埋めも必要になります。そのうえで、昨年より減った在庫の49万トンの補填も必要になります。

これをカバーするためには、25年度のコメ生産量を大幅に増やす必要がありますが、前述のように政府から農家に対して減反指導が続き、なかなか増産ができない状況です。そこにまた猛暑などで作柄が落ちれば、とても需給改善どころでなく、さらにコメ不足が進む懸念さえあります。

しかも、いったんコメ作を止めたところを再開するのは容易でありません。また生産を増やすには大規模耕地での効率化が必要ですが、細分化された田んぼの統合も容易ではありません。農家の平均年齢が高齢化し、跡取りもいないところが多く、増産体制は簡単ではありません。減反の付けが回ってきています。

これらを考えれば、コメの需給を緩和し、コメの価格を下げるだけの供給確保には、輸入米を10万トン単位で増やさないと間に合いません。民間ベースの4万トンでは足りないのです。

トランプ政権との交渉で米国産米の関税撤廃という「目に見える」対策提示で心証を良くすれば、相互関税や自動車関税にもプラスの影響が期待できますが、先に示したよう、江藤大臣は自動車業界がつぶれても農家を守るという姿勢です。

政府にこの姿勢が続けば、いくら備蓄米の放出を繰り返してもコメ価格は下がりません。

3回目の備蓄米は23年度産米なので落札価格は下がりましたが、24年度産米の供給追加は困難な状況にあります。国産の古いコメか、米国産の24年度産米か、国民に選ぶ権利を与えても良いのではないでしょうか。

青田買いから茶田買い

減反を進める中でコメ不足が進み、かつて「青田買い」と批判された状況が、今ではさらに進み、田んぼが青くなる前の、まだ苗植えもしてない「茶色の田んぼ買い」にまでエスカレートしています。

その価格が24年度よりさらに3割も高い価格で契約しているところがあります。すでに25年度米を高値で買う動きが出ているなら、コメの価格が今後下がる期待は持てません。

そのなかで少しでも安く米を手に入れるために、料理店や外食産業、学校給食用、さらには海外の業者から農協や卸を通さずに、直接農家に発注するケースが増えています。

今のコメ価格急騰には、中間卸の価格押し上げが指摘され、農協や卸を通さずに購入することでコスト減の安価なコメの調達が可能になります。コメの価格高騰が急であっただけに、現在の農協制度、卸形態にメスが入ろうとしています。

トランプ政権も農協体制を問題の本質としてこの解体を求めています。自民党は支持基盤を失うようなことはできないと、ここは踏ん張っていますが、価格を抑えるためにはコメの流通を見直す必要があります。

自民党農水族の危機とも言えます。

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