なぜ日本人は「古代アメリカの謎と神秘の都市伝説」ネタが好きなのか…その「意外な理由」

世界各国の歴史
なぜ日本人は「古代アメリカの謎と神秘の都市伝説」ネタが好きなのか…その「意外な理由」(青山 和夫)
「マヤ」や「インカ」の名前を聞いたことがある人は多いだろう。だが、その「実像」をくわしく知っている人はどのくらいいるだろうか。日本における古代アメリカ文明の取り上げられかたは、テレビなどのマスメディアで巨大な神殿や都市の遺跡に謎や神秘を見出すものが多い。その偏った観点の背景には、じつは中学・高校の歴史教科書の存在があった。

「マヤ」や「インカ」の名前を聞いたことがある人は多いだろう。だが、その「実像」をくわしく知っている人はどのくらいいるだろうか。

日本における古代アメリカ文明の取り上げられかたは、テレビなどのマスメディアで巨大な神殿や都市の遺跡に謎や神秘を見出すものが多い。

その偏った観点の背景には、じつは中学・高校の歴史教科書の存在があった。

【※本記事は、青山和夫編『古代アメリカ文明  マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』(12月14日発売)から抜粋・編集したものです。】

日本の歴史教科書の「偏り」

歴史はしばしば勝者によって書かれ、書き換えられるといわれる。

スペイン人という「勝者」の侵略・植民地化によって「敗者」となった古代アメリカの二大一次文明は歴史の表舞台から消され、後世に及ぼす影響が過小評価されてきた。

19世紀に欧米の探検家たちが、すでに廃墟と化していたメソアメリカやアンデスの諸遺跡を再発見した。300年にわたる植民地支配によって、多くの先住民は社会の最底辺に置かれていた。大部分の探検家は、貧困に苦しむ先住民の先祖が巨大な神殿ピラミッドや都市を築いたとは想像さえできなかった。

「宇宙人や外部の文明が、先住民に文明をもたらした」という誤解の根底にあるのは、「先住民は独自に文明を創造できない」という権力格差や人種偏見に根差した先入観である。いわゆる「超古代文明」や「都市伝説」は、先住民の豊かな歴史・文化伝統に対する侮辱であることが認識されなければならない。

私たち研究者が探求するのは、オカルト的な謎ではない。あくまで学問的な謎である。

「マヤ・アステカ・インカ」シンドローム

しかし学術研究の成果は、なかなか一般社会に浸透しない。世の中にはマヤやインカの名前を聞いたことがある人は多いが、その実像はまだあまり知られていない。アメリカ大陸の多様性に富んだ諸文明は一括して語られ、「インカ・マヤ・アステカ」、「インカ・マヤ」や「マヤ・アステカ」というように同一視あるいは混同される場合が多い。

この「マヤ・アステカ・インカ」シンドロームというべき傾向を助長しているのが、中学歴史と高校世界史教科書である。中学歴史教科書では、今なお時代遅れの「四大文明」・ユーラシア大陸中心的な歴史が語られつづけているのが大きな問題といえよう。

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高校世界史教科書では、古代アメリカの歴史の記述はユーラシア大陸と比べて質量ともに不十分である。メソアメリカとアンデスは明確に区別されず、「中南米の先住民文明」というきわめて短い同一の節で扱われている(山川出版社『詳説世界史』、2023年)。「マヤ・アステカ・インカ」シンドロームは、さながら古代の日本列島、中国文明、アンコール・ワットに代表されるクメール文明を一括して語るような文明への精緻なまなざしを欠く粗雑な記述といえる。

歴史の教科書は「勝者の歴史」

アステカやインカは、後章の「大交易・大交流の時代」で「勝者」に征服された文明として再び登場する。アメリカ大陸の二大一次文明は、ヨーロッパの侵略戦争に敗北した「敗者の歴史」なので、あたかも重要ではないかのようである。生徒は偏った教科書をもとに勉強するわけだから、西洋史や東洋史と比べて知識に差が出るのは当然といえよう。

謎と神秘の古代アメリカの「都市伝説」は、マスメディアやSNSにあふれている。それは、社会的な要求の交差点として多くの日本人が好んできたことも事実である。問題なのは、嘘や偽物であるのを知っていながら、テレビ番組やオカルト雑誌といった「商品」の制作に利用するという姿勢といえよう。

困ったことに、偽情報を発信するメディア関係者とそれを消費する大人は、どちらも中学高校で偏った「勝者の歴史」を学んだ元生徒である。

教科書以外の理由

古代アメリカ文明の実像がまだあまり知られていないのには、中学高校教科書以外にも理由がある。その一つが、メソアメリカ文明が栄えたメキシコと中央アメリカ及びアンデスが位置する南アメリカが、多くの日本人にとってまだ馴染みの薄い遠い地域であるためといえる。

アンデス考古学の鶴見英成(放送大学)は、古代アメリカ文明が大航海時代まで日本列島の歴史に直接には関係ないことも一因と述べる。

地理的な遠さのためだけではない。メソアメリカとアンデスを一緒に扱った出版物、特に一般読者向けの本が少ないことも原因であろう。

最近の例外は、例えば関・青山『岩波 アメリカ大陸古代文明事典』(2005年)、増田・青山『世界歴史の旅 古代アメリカ文明 アステカ・マヤ・インカ』(2010年)や杉山・嘉幡・渡部『古代メソアメリカ・アンデス文明への誘い』(2011年)くらいしかない。

本書はこの不足を補うべく、古代アメリカの二大一次文明を一緒に解説する日本初の新書である。

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ヨーロッパ人「発見」以前の新大陸の歴史を私たちは軽んじていないか?

人類史の常識に再考を迫る最新知見がおもしろい!

「多くの人が生贄になった!? 」「大河の流域でないと文明は生まれない!? 」「 無文字社会にリテラシーは関係ない!?」「 王は絶対的な支配者だった!?」

――「常識」の嘘を明らかにし、文明が生まれる条件を考える。青山和夫編『古代アメリカ文明  マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』は12月14日発売です!

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