日本における古代アメリカ文明は「謎と神秘」というイメージが先行してきた。多くの人が、「宇宙人がナスカの地上絵を描いた」「マヤ人の人類滅亡の預言」などの不思議な都市伝説を聞いたことがあるだろう。
しかし、こうした都市伝説の多くは商業主義的な利益を優先するマスメディアが「捏造」したものだった。
【※本記事は、青山和夫編『古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』(12月14日発売)から抜粋・編集したものです。】
「宇宙人起源説」や「人類滅亡の預言」の信ぴょう性
私たちは、古代アメリカ文明の大きな恩恵を受けている。(参照記事:「数千年をかけて「100種類以上の野生植物を栽培化」…「古代アメリカ文明」がもたらした「食文化革命」」「ビール、ちくわ、体格改善、温暖化防止…「古代アメリカ先住民の贈り物」のすごすぎる活躍」)
それにもかかわらず、古代アメリカ文明は、「謎・神秘の古代文明」というイメージが先行して、実像が紹介されることは少ない。商業主義的な利益を優先するマスメディアが、謎、不思議、神秘をおもしろおかしく強調して、歪められた謎と神秘の古代アメリカ文明観を捏造・再生産しつづけている。
「ムー大陸」も架空
歪められた謎・神秘の古代アメリカ文明観は、枚挙にいとまがない。
例えば、生贄を過度に強調する「血生臭い文明」というイメージがある。スペイン人は植民地化を正当化するために、生贄の数を捏造して誇張した。アステカ王国の主都テノチティトランの大神殿で「4日間に8万4000人を生贄にした」と記したスペイン人文書もあるが、物理的に実行不可能である(本書第二章)。
2012年に「マヤ人は人類滅亡を予言した」というデマが流行ったが、マヤ人はそのような予言をしなかった(本書第一章)。
「失われたアトランティス大陸の避難民が中南米で古代文明を築いた」という伝説がある。しかしアトランティスはプラトンが想像した架空の大陸であり、存在しなかった。また、いわゆる「ムー大陸」も架空に過ぎない。
マスメディアが触れつづける「オーパーツ」
商業主義の非良心的なマスメディアは、「超古代文明」の「オーパーツ(場違いな人工物)」に触れつづける。彼らは「宇宙人がナスカの地上絵を描いた」、「宇宙飛行士を描いた石板がマヤ文明の遺跡にある」といった「宇宙人起源説」や「宇宙人と接触することによって先住民が英知を得た」という興味本位の嘘まで流している。
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当然ながら、アンデス先住民がナスカの地上絵を描いた(本書第三章)。またマヤ文明の石板は、メキシコの世界遺産パレンケ遺跡で7世紀に君臨したパカル(「盾」の意味)という名前の大王の死生観を表現したものである。
「マヤの水晶ドクロ(クリスタルスカル)」
いわゆる「マヤの水晶ドクロ(クリスタルスカル)」も「オーパーツ」とされる。先スペイン期にはない回転式の道具で加工されたのがその根拠という。
しかし実際のところ、これは19世紀にドイツで製造された工芸品であり、「オーパーツ」ではない。20世紀前半にロンドンでこれを購入した自称「発見者」が、「マヤ文明の遺跡で見つけた」と大嘘をついただけである。
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ヨーロッパ人「発見」以前の新大陸の歴史を私たちは軽んじていないか?
人類史の常識に再考を迫る最新知見がおもしろい!
「多くの人が生贄になった!? 」「大河の流域でないと文明は生まれない!? 」「 無文字社会にリテラシーは関係ない!?」「 王は絶対的な支配者だった!?」
――「常識」の嘘を明らかにし、文明が生まれる条件を考える。青山和夫編『古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像』は12月14日発売です!
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