日本人が知らない上海協力機構のイマ。進む「運命共同体意識」とは?

現代の世界各国

6月28日、中国は平和共存五原則発表70周年の記念行事を北京で行ったが、そのタイトルは「平和共存五原則から人類運命共同体の構築へ」だった。つまりSCOはいま中国が進める人類運命共同体(運命共同体)のサンプルでもあるのだ。

運命共同体は習近平のオリジナルではないが、正式に提起されたのは中国共産党第18回全国大会(2012年)で、経済的な結びつきを呼び掛けた「一帯一路」と対をなす。運命共同体という言葉は先進国の外交ではほとんど聞かれないが、すでに国連総会決議では6年連続で盛り込まれるというようにじわりじわりと国際社会に浸透している。

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中国の習近平国家主席が上海協力機構(SCO)の首脳理事会に出席するため、カザフスタンとタジキスタンを公式訪問したことで、西側諸国のメディアが「SCO」に言及する量が増えました。しかし、その内容は、SCOの本質を捉えているとは言い難いものだったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、

日本人が知らない上海協力機構のイマ。進む「運命共同体意識」とは?

中国の習近平国家主席が上海協力機構(SCO)の首脳理事会に出席するため、カザフスタンとタジキスタンを公式訪問したことで、西側諸国のメディアが「SCO」に言及する量が増えました。しかし、その内容は、SCOの本質を捉えているとは言い難いものだったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では、多くの中国関連書を執筆している拓殖大学の富坂聰教授が、SCOを「西側への対抗軸」「反欧米グループ」と位置づけることを危険視。SCOとNATOの違いとして「安全保障観」を上げ、SCOのそれは中国の「運命共同体意識」に通じていると解説しています。

中国が進める運命共同体意識と「一帯一路」への軽視が招く「変化する世界」の読み違え

上海協力機構(SCO)と聞いて、直ちにピンとくる日本人は少ないだろう。だが、いまや国際情勢を理解するうえで外せない組織だ。メディアがSCOを伝える際の常套句は「加盟国の人口は全世界の40%を占める」。そう聞けば、その規模にドキリとさせられるが、実際にはほぼ半分に達する勢いだ。

SCOへの加盟を希望する新興・発展途上国は少なくない。予備軍を含めればそれ以上にもなる。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカの振興5カ国)との親和性も高い。

中核を成すメンバー国(中国、ロシアと中央アジア5カ国、インド、パキスタン)の顔ぶれを見ればわかるように、先進7か国(G7)に代表される西側先進国を中心とした国際秩序とは一線を画す組織と目され、ゆえに警戒の対象でもある。

中心にいるのが中国だ。先週、SCOに関する報道がにわかに増えたのは、中国の習近平国家主席がSCO加盟国首脳理事会第24回会議(首脳会議)に出席するため、中央アジアのカザフスタンとタジキスタンを公式訪問したからだ。

日本のメディアは、例によってロシアのウラジミール・プーチン大統領との首脳会談に大きく紙面を割いたが、欧米メディアはむしろ西側価値観への対抗軸としてSCOを扱う報道が目立った。ロイター通信が「中国国家主席、『外部の干渉』に抵抗呼びかけ 上海協力機構」と報じたのは象徴的だ。実際、プーチンも会議のなかで、「SCOはBRICSと共に新たな世界秩序の支柱であり、世界の発展と多極化への真の推進力だ」と訴えた。

SCOには23年にイランが、今年はベラルーシが新たに加盟したとなれば、欧米メディアが「強権的指導者のそろい踏み」(ドイツZDF 7月4日)とネガティブに報じるのも無理からぬところだ。だがSCOを「西側への対抗軸」とか「反欧米グループ」と位置づけるのは、やや拙速で危険だ。単純な理解はSCOやBRICSが本来備えているポテンシャルを過小評価してしまいかねないからだ。

そもそもSCOは組織の拡大自体を目的としていない。今回も多くの国から加盟の申し出があったとする反面、「数や地域を拡大し過ぎれば地域的なつながりが希薄になる」との懸念が出た(シンガポールCNA 7月2日)とも伝えられる。

では、どう理解すべきなのか。答えの一つは、中国の安全保障観のサンプルとしての位置づけだ。多くの国はSCOを見て、大国・中国との付き合い方を予測できるからだ。

SCOはソ連崩壊後の地域の安全を維持するための協力機構、上海ファイブが前身だ。力の空白がロシアの疑心を刺激するなか、これにどう対応するか、北大西洋条約機構(NATO)が直面した課題も同じだった。中国は、東方拡大でロシアと衝突したNATOに対し、予測される摩擦を上手く消化したSCOの優位性を語る。

プロセスはどうであれ、結果的にウクライナでの戦争を招き、地域経済と住民に深刻なダメージを与えたNATOに対し、今年24回目の首脳会談を行い、参加国首脳が笑って握手しているSCOとの差だ。ちなみにSCO間の貿易量は2021年までの20年間で28倍にも拡大したというから、平和の配当も小さくはなかった。

冷戦期の軍事同盟・NATOが敵対勢力を想定し、スケールメリットで相手を圧倒しようとするのに対し、SCOは地域の紛争を拡大させないための装置であり、性質も違う。SCOが中国のサンプルだと考えられるのは、設立時に掲げられた「上海精神」(相互信頼、相互利益、平等、協議、多様な文明の尊重、共同発展)が、中国外交の原点である平和五原則(領土・主権の相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉、平等互恵、平和共存)と重なるからだ。

6月28日、中国は平和共存五原則発表70周年の記念行事を北京で行ったが、そのタイトルは「平和共存五原則から人類運命共同体の構築へ」だった。つまりSCOはいま中国が進める人類運命共同体(運命共同体)のサンプルでもあるのだ。

運命共同体は習近平のオリジナルではないが、正式に提起されたのは中国共産党第18回全国大会(2012年)で、経済的な結びつきを呼び掛けた「一帯一路」と対をなす。運命共同体という言葉は先進国の外交ではほとんど聞かれないが、すでに国連総会決議では6年連続で盛り込まれるというようにじわりじわりと国際社会に浸透している。

目立ったのは習近平のヨーロッパと中央アジアへの訪問だ。習は行く先々で運命共同体を繰り返し強調したのだった──(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年7月7日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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