トランプのベネズエラ軍事作戦が「石油のためではない」決定的理由…真の狙いは中国への強力な牽制だった

現代のロシア
トランプ暴走、この先に待つ「キューバ・イラン崩壊」
トランプ政権は、ベネズエラへの軍事作戦を実施し、中国やロシアの影響を排除しようとしている。2024年の予測によると、アメリカでの麻薬死はコカインよりもフェンタニルが多数を占めるが、ベネズエラへの攻撃は麻薬対策が目的ではないとの見方もある。ベネズエラの経済破綻は中南米全体に影響を及ぼしており、キューバやイランなどの体制にも影響が出る可能性がある。産業育成が必要とされる中、トランプ政権は安全保障を重視した行動を取っている。

トランプのベネズエラ軍事作戦が「石油のためではない」決定的理由…真の狙いは中国への強力な牽制だった

公平さに欠ける日本のオールドメディア

トランプによるベネズエラへの軍事作戦の狙いについて、オールドメディアの報道では、「アメリカへの麻薬の流入を防ぐというのは建前にすぎない、本音は金儲けのために石油利権を奪いに行ったのだ」という見方が示されていることが多い。だが、この見方はかなり歪んだ見方だと言わざるをえない。

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そもそもベネズエラで社会主義のチャベス政権が生まれた後に、それまでベネズエラに資本投下していたアメリカ資本をベネズエラは接収して国有化した。当時ベネズエラに資本投下していたアメリカ資本は、現在のエクソン・モービルとコノコ・フィリップスだ。だからトランプ政権はエクソン・モービルとコノコ・フィリップスを呼び、ベネズエラ政府に接収された設備や資産について補償を受けたいのであれば速やかにベネズエラで事業を再開するように伝えた。

これは過去に奪われたものを取り戻すという話でしかない。社会主義政権によって資産が奪われた歴史があることを正確に伝えないで、それを取り戻しに行く行動だけを切り取り、「石油利権を奪いに行ったのだ」と評価することは、公平さに欠けると言わざるをえない。

このように私が語っても、いろいろと反論があるだろう。

麻薬のメインルートでもない

そもそもアメリカの麻薬問題においては、コロンビアやベネズエラから流れてくるコカインよりも、中国からメキシコを経由してくるフェンタニルの方が、問題が大きいのに、中国やメキシコを叩かずにベネズエラを叩きに行っているのがおかしいではないかなんていう主張もある。

確かに、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)によると、2024年のアメリカでのフェンタニル中毒死の推計値は48422名であるのに対して、コカイン中毒死の推計値は22174名となっている。

ここからすれば、フェンタニル対策の方がコカイン対策よりも2倍以上重要であるということになるだろう。しかもコカインの生産国は主としてコロンビアであり、ベネズエラは中継地点の意味合いの方が大きい。だから、フェンタニル対策でメキシコや中国を叩いたり、コカインの件で主要産地のコロンビアを叩くことを行わずに、ベネズエラを叩いたのは、麻薬対策が本当の目的ではないとの見方にも、一理あるように感じるのは理解できる。

だが、麻薬対策の観点だけから見ても、ベネズエラを真っ先に叩きに行ったのは、最も的確な判断だったというのが、私の見方だ。

今回ベネズエラを叩いた結果として、中国、メキシコ、コロンビアはどう反応するだろうか。今までのように、アメリカを舐めてアメリカに麻薬をどんどん持ち込むようなことを続けていると、自分達もヤバい目に遭わされるかもしれないという恐怖心に、彼らは当然駆られたであろう。「アメリカなんざ怖かないぞ。どうせ国際法が邪魔して何もできないだろう」と舐め切った対応をこれまで取り続けてきたわけだが、そういうわけにはいかなくなったのだ。これにより、アメリカへの麻薬の流入が大きく鈍化することになるなら、トランプ大統領としては、最も得たい結果を得られることになるではないか。

経済破綻がまき散らした害毒

そもそもベネズエラは経済が破綻しており、破綻状態でも政権を維持するために、選挙不正はやりたい放題になっていたし、反発する国民を苛烈に弾圧してきた。ベネズエラの国内情勢から見ても、国際的な世論からしても、ベネズエラは圧倒的に叩きやすい状態にあった。

さらにベネズエラの経済破綻は、麻薬に限らない、様々な問題を作り出していたところも見落とすべきではない。

ベネズエラ経済がいかに破綻していたかを、GDPベースに見てみよう。

ベネズエラのGDPがピークを付けたのは2010年頃で、その時のGDPは大体4000億米ドル程度であった。これが2024年にはざっと1200億米ドル程度にまで落ち込んでいる。ここから単純に計算すれば、GDPは14年前の3割水準ということになるが、これは7割ものGDPが消し飛んだということを意味する。

しかもこの間の米ドルの物価上昇率は44%程度であるから、2024年の1200億米ドルというのは、2010年の830億米ドル程度にしか相当しない。ここから計算をすると、2024年のベネズエラのGDPは、実質的には2010年比で80%ほど失われたことになる。こんな国家運営を行っている指導者が、なぜか選挙になると国民の多数派の支持を受けたことになっているのだが、そんなことが起こることは、およそ考えられないだろう。高まる不満を抑え込むために、マドゥロ政権は反対派の国民を徹底的に弾圧してきた。こうした中にあって、もはやベネズエラでは暮らしていけないとして、国民の1/4以上に相当する800万人が国外に脱出した。

「トレン・デ・アラグア」とか「太陽のカルテル」といった国際犯罪組織がベネズエラで大きく発展したことにも、こうした経済破綻が大きく影響している。国家の運営制度の誤りが経済破綻を招き、貧困を作り出し、犯罪組織を大きく育てることにつながったのである。そしてこうした巨大な国際犯罪組織が、南北アメリカのいたるところで治安の悪化を引き起こし、アメリカ本土にも深刻なダメージを作り出している。そしてこうした国際犯罪組織が破綻したベネズエラ経済を支える役割を一部では果たしており、ベネズエラの政権中枢とも深い結びつきを持ってきた。それどころか、「太陽のカルテル」の元締めはマドゥロだと見做されているのである。

コロンビアは先にも示したように、コカインの主要産地であり、ベネズエラと同じ左翼政権の国であり、ベネズエラの相棒のような存在でもある。だが、コロンビアにしても、ベネズエラからの大量の難民の流入とこうした犯罪組織の跋扈によって、国内の治安悪化に苦しんでおり、コロンビアのペトロ大統領は2024年のベネズエラ大統領選挙結果について、手放しで認めるわけにはいかなくなっているのが実際である。国内の高まる不満を抑えることも考えなければならないから、口先だけかもしれないが、詳細な投票集計を見ずにマドゥロの再選を認めることはできないとの立場を示してきた。

このように、ベネズエラの問題は麻薬だけでない。不法移民をどんどんとアメリカに送り込んだり、性サービスに従事させたりするための人身売買まで行なって、アメリカの治安を悪化させる働きを、ベネズエラの犯罪組織は行ってきた。こうした被害をできる限り食い止めたいということがアメリカの目的だと見るべきではないか。しかもこうした被害を受けているのはアメリカ一国だけではない。南北アメリカ大陸のすべての国がこの被害に苦しんでいる。

キューバの未来

それどころか、こうしたマドゥロ政権が引き起こした治安悪化が、皮肉にも中南米の左翼政権にとっての大きな逆風にもなっている。昨年8月に行われたボリビアの大統領選挙では、与党の左翼系候補は、わずかに3%しか得票できなかった。昨年12月にはチリでも、「極右」とオールドメディアが伝えるカスト氏が大統領として選ばれた。カスト氏は、軍事クーデターを起こしたピノチェト将軍を、公然と讃えている人物だ。ピノチェト将軍は社会主義勢力を苛烈に弾圧したことで知られる。そんなピノチェト将軍を讃える人物が大統領として、国民から幅広い支持を獲得したのだ。こういう変化が南米では次々と生まれている。

このように、ベネズエラがもたらす被害に南北アメリカ大陸にある他の国々も大いに苦しんでいる中で、ベネズエラを叩くことへの不満は、中南米に広がる他の左翼政権においても、本音では小さいと見るべきだ。

さらに、ベネズエラを叩けば、ベネズエラと極めて深い関係を持つ独裁国家のキューバもやがて行き詰まることが見えている。

今回の米軍の軍事作戦では、ベネズエラで80名の死者が出たとされるが、キューバ政府の発表によれば、そのうちの32名はキューバ人であった。マドゥロ政権を支えるために、キューバは軍事顧問団を派遣し、それがマドゥロの身辺警護にも大きな役割を果たしていたのである。

キューバはベネズエラから原油をほぼ無償で受け取り、その代わりに軍事顧問団や医療使節団をベネズエラに派遣してきた。これによって持ちつ持たれつの関係を築いてきたのである。

だから、ベネズエラを叩いてベネズエラの原油がキューバに行かないようになれば、キューバはエネルギーを国際価格で購入せざるをえなくなり、大いに困ることになる。キューバ経済もベネズエラ同様に、長年の社会主義政策によって大いに弱っている。そんなキューバにこんな負担が発生すれば、キューバは相当に困ることになる。直ちに体制転換につながることはないとしても、ボディーブローのように効いてくるのは間違いないだろう。

ベネズエラの原油では儲からない

私がこのように説明しても、「いやいや、世界最大の埋蔵量を誇るベネズエラの石油を奪って儲けることこそがアメリカの真の目的なんだ」という人も、きっといるに違いない。

確かにルビオ国務長官は「我々はアメリカの巨大石油企業に入ってもらい、数十億ドルの投資を行い、傷んだ石油インフラを修理させ、ベネズエラのためにお金を儲けさせ始めるつもりだ」と言っている。トランプ大統領も同様の発言をしているのは、ご存知の方も多いだろう。ルビオ国務長官は、口先では「ベネズエラのために(正確には「その国のために」)」と言っているが、そんなことはキレイゴトで、実際に儲けるのはアメリカの巨大石油企業なんだろうという見方もできなくはない。

だが、ベネズエラ国営石油会社PDVSA(ペトロレオス・デ・ベネズエラ)の見積もりによっても、インフラを更新してピーク生産レベルに戻すには580億ドル(9兆円)の費用がかかるとされている。1998年のチャベス政権誕生以降に、ずっと設備更新のための投資を怠ってきたからだ。チャベス政権はそうした費用を節約する一方で、浮いたお金でバラ色のばら撒き政策を実現して国民の支持を集め、さらには国外の社会主義勢力の支援にも、大盤振る舞いしてきた。

当時チャベスが率いるベネズエラは、世界の左翼政権の輝ける星だった。資本家による搾取をなくせば、こんなに豊かに生活できるんだということを、世界に証明したようにも見えたのだ。だが、チャベス政権末期頃から経済は壁にぶつかり始め、マドゥロ政権になってから、奈落の底に経済が落ち込んでいくことになった。

話を元に戻そう。必要なインフラ更新に総計580億ドルかかるとすると、年間で100億ドル(1兆5000億円)ずつ負担しても、6年間必要になってくる。この資金を米企業が回収するのは、現実にはたやすい話ではない。

そもそもベネズエラの原油の大半は、質の悪い超重質油だ。ドロドロとした重い油なので、掘り出そうにも地表に簡単に浮いて出てくるわけではない。掘り出すためにはかなりの技術とコストが必要になる。たとえ掘り出せたとしてもドロドロすぎて、そのままでは普通の製油所で処理することもできない。粘度を下げるためには粘度の小さいナフサなどを加え、さらに不純物を取り除く別工程も必要になる。

こうした処理を「アップグレード処理」というが、これをやらないと、普通の製油所に入れることもできない。つまり、産出後の処理にも余計な作業が加わる。軽質油と比べた場合に、掘り出しに余計なコストがかかるのに、さらに値段を下げないと売れないのである。今の原油価格を前提とするなら、利益を上げることはかなり難しいのが実際ではないか。

中露イランという外敵の排除こそが

ではなぜベネズエラの石油をアメリカが押さえるのだろうか。この点についてルビオ国務長官は、こんな話をしている。

「私たちはベネズエラの石油を必要としていない。石油ならアメリカに十分ある。私たちが許すつもりがないのは、ベネズエラの石油産業がアメリカの敵によってコントロールされることだ。なぜ中国がベネズエラの石油を必要とするのか。なぜロシアがベネズエラの石油を必要とするのか。なぜイランがベネズエラの石油を必要とするのか。彼らはアメリカ大陸に存在すらしていないではないか」「ここは私たちが暮らすところであり、この地がアメリカと敵対する相手の拠点となることを許すことはしない」

ベネズエラの石油は簡単に儲かる石油ではなく、利益だけを考えたらアメリカが喉から手が出るほど欲しているようなものではない。それは中国、ロシア、イランにしても、実は同じだろう。にも関わらず、こうした国々が経済性を度外視してベネズエラの石油を支えるのは、反米国家を維持することで、アメリカの安全保障を脅かすことができるからだ。トランプ政権からすれば、アメリカの外敵がここに拠点を構えることは、安全保障上の脅威となるから、なんとしてでも排除したいということなのである。

したがって、アメリカがベネズエラの石油を押さえたいと思っているのは事実だとしても、これはオールドメディアが振り撒くような、単純に経済的利益を奪い取りたいという話ではないのだ。

ベネズエラを安定させるには、ベネズエラにきちんとした産業を育て、真っ当な産業でベネズエラ国民をみんな食べられるようにしていかなければならない。そうでなければ、「トレン・デ・アラグア」とか「太陽のカルテル」といった国際犯罪組織をなくすことはできない。これは相当に難しい話だ。

当然今後広範囲に存在する左翼勢力が、粘り強い抵抗行動を続けることも考えなければならない。この結果として、ベネズエラが泥沼化する恐れも当然ある。トランプ政権内部でもこれを心配する声はあった。そこで、こういうリスクをなるべく小さくするためにはどうすればいいかということで、CIAに様々なシミュレーションをさせた。その結果として、トランプ政権は現政権からトップのマドゥロだけを排除して、真の国民代表を選ぶ選挙を実施するまでの政権運営は、現政権に任せるのが最もよいと判断したのである。

だが、こうしたからといって、トランプ側に対する抵抗運動が必ずなくなるわけではないだろう。トランプとしては、睨みを効かせることで、ベネズエラの反トランプ運動に外部から資金や武器を提供する動きを大きく抑制できることに賭けているのだろうが、その見通しが必ず実現できるとは期待できない。それでもアメリカの安全を確保するためには、この困難な道に踏み切らざるをえなかった。これがトランプ政権の考えではないか。

超法規的独裁者擁護の立場に立つな

さて、アメリカの今回の軍事行動は国際法違反だとして、厳しく批判する声が強い。それは私も理解できるし、今回のアメリカの軍事作戦を手放しで喜ぶことはできない。だが、ベネズエラのマドュロ、中国の習近平、ロシアのプーチン、北朝鮮の金正恩、イランのハメネイなどが、国際法も国内法も守らない超法規的存在であったことを大して問題視せずに、トランプ大統領の行動だけを「国際法違反だ」というのは、公正な議論なのだろうか。

人類が直面する巨悪にどう立ち向かうのかについて、我々はもっと真剣に考えるべきで、従来の枠組みが十分に機能していないのであれば、それに代わる新たな枠組みをどう構築すればいいのかについて、必死に知恵を出すべきではないのか。

ところがこうした動きに左派勢力は真剣に取り組もうとせず、逆になぜか邪魔立てばかりして、超法規的な独裁者を擁護する立場に立つようなことをしてきた。こうした左翼勢力が学術界やマスコミを牛耳り、芸能界にも影響力を広げ、全世界的に大手を振ってのさばってきた。左翼にとって最大の問題は、貧富の格差を生じさせる資本主義であり、資本主義にダメージを与えることが絶対視されてきた。こうした中で、手詰まり状況を動かすために、トランプ大統領が思い切った手に出ざるをえなかった現実も、きちんと見るべきではないのか。

ベネズエラに風穴が開けられたことで、キューバの崩壊が見えてきたことは、先にも述べた。だが話はそこにとどまらない。イランの崩壊も見えてきたし、コロンビアやニカラグアの左翼政権も長くはないだろう。こうした比較的小さな独裁政権が次々と崩壊すれば、アフリカなどの独裁政権も動揺するだろう。

またベネズエラは中南米諸国の中で最も先進的な防空体制を確立したはずの国だった。アメリカのステルス戦闘機だって、中国製の最新レーダーできちんと捉えられるはずだった。だが、今回中露の防空システムが全く機能しなかった現実を前に、中露に頼って自分たちの立場を守ろうとしても無理なんだということに、気付かざるをえなくなった。中露の軍備に頼ってきた国々の中には、路線変更を模索する動きも出てくるだろう。この結果、中露はどんどん孤立していくことになる。

トランプ大統領は表面的には中露に対して妥協的な態度も示してきた。これは力の強い者には弱いという印象を与えるものであり、トランプ大統領に裏切られたと感じている人も多いだろう。だがそれは、トランプ大統領が目指す最終的な着地点が見えていないからではないのか。

すでに何度も語ってきたが、トランプという人はマッドマン戦略を採用し、気狂いを装って本音がわからないようにするから、表面的な発言などでその真意を測ることはできない。この点は実に厄介だ。

軍事力で全く勝てないことを知った中露の選択肢

さて、今回の米軍の軍事作戦によって、中露が自分たちの勢力圏と考える場所で、好き勝手にできるようになったとの見方が出ている。さらに、アメリカが過去のモンロー主義に立ち返って、南北アメリカ大陸に引き込むことにしたとの見方も出ている。そうだとすれば、中露は南北アメリカ大陸以外では、結構やりたい放題できるようになったことになる。

では、今の状況で南北アメリカ大陸の外にあるイランのハメネイ政権を、ロシアや中国が積極支援することはできるだろうか。

中露は今回、アメリカには軍事力では全く勝てない圧倒的な現実を見せつけられたのだ。またトランプ大統領は、南北アメリカ大陸の外にあるイランに対しても、反政府抗議活動を行う人たちをハメネイ政権が力づくで弾圧するなら、米軍が介入する可能性を匂わせている。このような中で、中露はイランへの本格介入など、怖くてできないだろう。ここから見ればわかる通り、今後、中露が自分勝手に動けるようになるというのも、少なくとも当面は真実ではないと見ればよい。

オールドメディアの勝手な報道を鵜呑みにしてはならない。

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