新NY市長「共産主義者」と呼ばれる男が「圧倒的に支持」される理由…アメリカ庶民は「尋常じゃない生活苦」に激怒している

トランプもクリントン夫妻も推したクオモを破って
ニューヨーク市長選挙で、民主党予備選挙を勝ち抜いて民主党候補として出馬したゾーラン・マムダニ氏が当選した。
このマムダニ氏の当選は、今後のアメリカの政治の流れを読む上で、非常に大きな示唆になるのではないかと思っている。
まず注目したいのは、6月に行われた民主党予備選挙で、まだまだ無名だったマムダニ氏が、アンドリュー・クオモ前ニューヨーク州知事という著名な大物を破って当選したことだ。
クオモ氏は、一時期はトランプ氏と米大統領選挙で対決する民主党候補の最有力馬になるのではないかとも言われていたが、コロナ時の対応が悪くて高齢者施設で多くの方を亡くならせながら、この事実を隠蔽していたことがバレたり、セクハラ問題が様々に噴出したりということがあって、知事を辞職せざるをえないところに追い込まれた経歴がある。
それでも全米レベルでも圧倒的な知名度を誇る大物であり、地元ニューヨークでは特に高い知名度を誇り、地元のビジネス界との深いつながりから、潤沢な選挙資金も簡単に用意できる立場にあった。
そんな有力候補のクオモ氏を退けて、マムダニ氏が民主党の候補となったのは、大きなインパクトがあり、滅多に起こることのない「大番狂せ」だと騒がれた。
さて、クオモ氏は民主党予備選挙で敗れたが、それでもニューヨーク市長選挙への出馬を断念しなかった。民主党の直接の支援は受けられないものの、無所属の候補として名乗りを挙げて、本選挙も戦った。
ニューヨーク市は民主党の圧倒的な地盤であり、共和党の候補者が選挙で勝利する可能性はほぼゼロだと言っていい。そのためトランプ大統領は、極左候補のマムダニ氏の当選を阻止することが重要だとして、共和党から出馬したカーティス・スリワ氏を支援せず、クオモ氏への投票を呼びかけていたという面白い構図がある。
前回民主党から立候補して当選したエリック・アダムズ市長も元大統領のクリントン夫妻もクオモ氏支持に回った。化粧品のエスティローダー創業家のローダー一族、情報サービス会社「ブルームバーグ」の創業者でもあるマイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長、エアビーアンドビーの共同創業者であるジョー・ゲビア氏、ネットフリックス共同創業者リード・ヘイスティングス氏に代表される有力財界人も、こぞってクオモ氏を支持していた。クオモ氏のもとには莫大な選挙資金が集まり、マムダニ氏に対する強力なネガティブキャンペーンが展開された。それでもマムダニ氏が圧勝したのである。
SNS時代が本格到来し、オールドメディアの広告の力が大きく減衰したからだ。
トランプに「共産主義者」と呼ばれる人物
マムダニ氏はウガンダ生まれの移民で、イスラム教徒であり、民主党の中にあっても非主流の最左翼に属する人物だ。
ところでトランプ大統領はマムダニ氏を「共産主義者」と呼んだが、これは間違いだと一般には報じられている。彼は実際には穏健な「民主社会主義者」であるとされているが、本当にそう見ていいのだろうか。
確かにマムダニ氏は自分のことを「スカンジナヴィア諸国の政治家みたいなもの」だと表現し、ノルウェーの労働党やスウェーデンの社会民主労働党のような穏健な政治変革を目指すだけのように主張しているのは事実だ。
とはいえ、彼の本質は共産主義者であると断じていいと、私は判断している。
マムダニ氏が「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」社会を目指すと語っているのは、そのわかりやすい一例だ。
実はこの「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」というのは、マルクス・レーニン主義の始祖であるカール・マルクスが「ゴータ綱領批判」の中で使った有名なフレーズだ。マルクスは共産主義のより高次な段階において「各人は能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」ようになると記した。
共産主義が本格的に花開くと、収入などの制約を受けずに、自分にとって必要だと感じるものが簡単に手に入る理想状態が実現すると、マルクスは主張したのである。
マルクスは共産主義と社会主義との明確な区別をつけていなかったから、共産主義のより高次な段階とそれ以前の段階とを区分けして表現し、より高次な段階に至ればこんな理想社会に到達するとしていたのである。
マルクス主義を発展させたとされるレーニンは、このマルクスの主張をもとに「国家と革命」の中で「各人が能力に応じて働き、労働に応じて受け取る」社会を社会主義段階、「各人が能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」社会を共産主義段階だと定義分けした。
社会主義段階では、必要に応じて誰もがなんでも受け取れるほどの生産力はないから、労働に応じて収入にも格差が生じ、それによって受け取れるものにも格差が生まれざるをえなくなる。だが、生産力が発展してこうした制約が取っ払われる共産主義になれば、誰もが必要があればいつでも欲しいものを手に入れられる社会ができるのだと、レーニンは主張したのである。
マムダニ氏が「能力に応じて働き、必要に応じて受け取る」という表現を用いたのは、こうしたマルクスやレーニンの言葉を念頭に置いているのは間違いない。もしマムダニ氏が共産主義者(マルクス・レーニン主義者)と自分の考える立場を明確に区別したいと考えるのであれば、こうした言い回しを知っていても、言葉として出すのは避けていたであろう。
ちなみに、トランプ大統領だけでなく、まもなく退任する民主党系のエリック・アダムズ市長も、マムダニ氏を「共産主義者」だと呼んでいる。
若者を中心に急増、アメリカ民主社会主義者党
さて、マムダニ氏をニューヨーク市長選挙での当選に押し上げるのに大きく貢献したのが、アメリカ民主社会主義者党(DSA)だ。
DSAは近年若者を中心に急激に広がりを見せ、現在党員数は8万人で、そのうち1万人がニューヨーク市に住んでいると言われている。
この1万人の党員がマムダニ氏当選のために大活躍を見せた。
先の参議院選挙で我が国では参政党ブームが沸き起こったが、同じようなムーブメントが今回ニューヨーク市でDSAによって展開されたと考えればよい。
DSAは、資本主義を容認しつつも格差の縮小に努めようとする民主社会主義団体であるかのように報道されているが、ここにも私は疑問を感じる。
例えばDSAは党の憲章において「我々は社会主義者である。我々は私益に基いた経済政策、疎外された労働、富と権力の不平等、人種・性別・身分・年齢・出身地・性的指向・宗教・障害などあらゆる差別、暴力や非人道的行為による体制の維持を拒絶する。我々は社会主義者である。我々は資源や生産手段の一元的な管理、計画された経済、公平な再分配、フェミニズム、人種の平等、そして非抑圧的な関係に基づく人道的な社会秩序に向けた理想を共有している」と宣言している。
ここで注目したいのは、「体制の維持を拒絶する」「資源や生産手段の一元的な管理」「計画された経済」といった言葉だ。現行の資本主義体制を拒絶し、資源や生産手段の国家的な一元的な管理を行い、計画経済を進めると言うのだ。DSAが明確に共産主義を志向する姿勢を持っていることがわかるだろう。こうした共産主義政党を、なぜかオールドメディアは「穏健な民主社会主義団体」として扱おうとするのだ。
なおDSAは、世界の社会民主主義政党・団体の国際組織である「社会主義インターナショナル」に対して、資本主義体制に対する批判が緩いことを問題視し、2017年に同組織にとどまることはもはやできないとして、離脱しているところにも着目しておきたい。
この離脱は6000人程度にとどまっていたDSAに急激に若者たちが数多く参加し、5倍規模の3万人規模にまで大きく膨れ上がっていった時期と機を一にする。この時期に党員の平均年齢が68歳から33歳にまで下がったというのも、この間の大きな変化を物語っている。
現状に不満を持ち、急進的な社会変革を望む若者たちが一気に加入することで、DSAの急進左翼路線の色彩が強まったのである。
このDSAが民主党内部にどんどんと浸透する方針を推し進めており、その中でマムダニ氏が民主党の候補者として押し上げられ、今回選挙で圧勝したのである。
ちなみに2018年にニューヨーク州第14選挙区の民主党予備選挙で、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス(AOC)氏が現職の民主党議員に圧倒的な差をつけて勝利し、2018年の選挙で最大の番狂せだと騒がれたが、彼女も民主党に浸透したDSAのメンバーである。
このように近年DSAは若年層を中心に勢力を急拡大し、過激傾向を一気に強めたが、このDSAの影響力が今どんどんと民主党内で強まっており、従来民主党内で主流派だった穏健な立場は、今後「世代交代」が進む中で確実に勢力を失っていくことになるだろう。
その象徴が民主党の超大物政治家のナンシー・ペロシ元下院議長が来年11月の中間選挙の下院選に出馬せず、引退を表明したことだ。ペロシ氏の選挙区には、AOC氏の選挙キャンペーンのリーダーだったサイカット・チャカラバルティ氏が出馬すると名乗りを挙げていたが、今回のニューヨーク市長選挙の結果を見て、彼に勝つことが難しくなったことをペロシ氏は悟ったのではないかと見られている。
実際、DSAは、ハキーム・ジェフリーズ民主党下院院内総務(下院民主党のトップ)をも対象にして、民主党内穏健派の追い落としを図ることを公言するに至った。こうした動きがどの程度まで成功するかはわからないが、知名度でも財政力でも圧倒するクオモ氏を大差で退けて、無名に近いマムダニ氏を当選させたDSAの力を見くびってはならないだろう。
近年、マルクス・レーニン主義的な傾向の強くなったDSAの影響力の高まりにより、米民主党では過激な左翼政党色がどんどん強まっていくことになるのは確実である。来年11月の中間選挙で米下院の総入れ替えが行われると、民主党の在り方はガラッと変わる可能性も高い。ここはかなり警戒して見ておくべきポイントとなる。
「ビリオネアは存在すべきでない」
さて、マムダニ氏は「ビリオネアは存在すべきでない」と公然と主張するなど、金持ち敵視の立場に明確に立っている。マムダニ氏は高騰する家賃を凍結するとか、市バスや保育料を無料にするとか、最低賃金を時給30ドル(4500円)にまで段階的に引き上げるとか、営利を目的としない市営スーパーマーケットを開設することを、公約として掲げてきた。
これらを実現する財源として、地方所得税の最高税率の2ポイント引き上げや、地方法人税率の現行の7.25%から11.5%への大幅引き上げを謳ってきた。
マムダニ氏が実際に市長に就任してから、これらをどのくらい実施するのかはわからないという見方もあるが、私は、それは楽観論に過ぎると思う。マムダニ氏がこうした公約の実現に動かなければ、DSAがマムダニ氏を許さないのは確実だからだ。
そもそもアメリカでの一般国民の生活、特にニューヨーク市での生活は、私たちの想像以上に厳しいものがある。ここも見落とすべきではない。
ニューヨーク市に住む世帯の平均年収は8万ドル余りとされ、日本円換算では1200万円を超えるから、一見するとすごく裕福に見えるだろう。
だが、ニューヨーク市内の55平米程度の広さの、かなり狭めの部屋の家賃でも、平均値で月額4000ドル(60万円)だとされる。月60万円の家賃だとすると、年間で家賃は720万円だ。世帯年収が1200万円であっても、年間720万円が家賃に消えるとすれば、残金は480万円しか残らないことになる。さらに年金保険料・健康保険料、所得税などの支払いに200万円程度の支払いが必要になることを考えると、実際に使えるお金は年間で300万円もないことになる。それでいて、物価は日本の2倍から3倍なのだ。
ましてや日本とは比べ物にならないくらいに高い授業料をローンで借りて大学や大学院を卒業している若者たちは、実に多い。私立大学の学費は、平均でも年間4万ドル(600万円)程度なので、卒業時に既に2000万円とか3000万円といった借金を負っていることも珍しくないのだ。自分がもともと住む州の州立大学であっても、学費は平均で年間1万ドル(150万円)を超えている。卒業後にローンの返済に追われる立場になっていれば、その生活の苦しさたるや、尋常ではないのは想像がつくだろう。
こうしたアメリカでの暮らしに対する大きな不満が、DSAに加入する若者たちを急増させ、それがマムダニ氏への支持にも繋がったのである。
株式資産をしっかり蓄えていれば、現在の株高から大きな恩恵を得ることができるが、そんなものを蓄える余裕がなければ、その日暮らしに追われることになり、その生活レベルは非常に厳しいものになる。
元々資産を持つ者たちは、ろくに働かなくても資産価格の大幅上昇でいい暮らしができる一方、資産を持たない者たちは、額に汗して働いても生活がなかなか成り立たないことになる。この現状に、特に若年層が大きな不満を持つのは当然だとも言える。彼らが過激な社会主義思想に共感を覚えるのも、全くおかしなことではないのだ。
だから、マムダニ氏は過激な社会主義的な政策を推し進めようとするのは確実だ。DSAはこうした動きに抵抗する共和党はもちろんのこと、現実に妥協しようとする民主党の穏健派に対しても敵意を向け、民主党内での権力移行を進めようとするのは間違いない。
背景はトランプ現象と同じく
そもそも昨年の大統領選挙でトランプ氏に多くの支持が集まったのは、こうした切実な生活改善に取り組みそうな顔を見せながら、そんなことよりも遥かにLGBTQの権利だの、SDGsだのを重視していたバイデン政権が、そっぽを向かれた結果でもあった。
トランプ氏は、民主党はそんなくだらないことばかりに夢中で、働く者たちの現実の暮らしぶりに無関心なのだと大統領選挙の時に主張した。そしてそのトランプ氏の主張に納得するアメリカ国民が多かったことが、トランプ勝利の要因として大きかった。
だが、トランプ政権になってからも自分たちの暮らし向きがよくなったとは考えられないことから、今度はトランプ政権に対する失望が広がっている。それが今回のニューヨーク市長選挙などの一連の選挙結果で、共和党が惨敗したことにも表れたと見るべきなのだ。
トランプの関税引き上げは、事前に懸念されたほどには物価上昇には今のところは寄与していないが、今後の物価も安泰だとは、なかなか言えないのが実際である。
マムダニ氏が進める過激な政策がうまくいかないのは明らかだ。無料バスを実施すれば、バスがホームレスの居場所になり、普通の人たちには利用しにくいものになってしまうだろう。家賃の引き上げ凍結は、今でも不足している住宅供給をさらに抑制することになるだろう。市営スーパーが安売りで知られるウォールマートよりも安い値段で食料品を販売するとすれば、最初から大赤字になることを受け入れざるをえない。そしてその結果として、ウォールマートなどのスーパーがニューヨークから姿を消すことになるかもしれない。
地方所得税、地方法人税の引き上げに嫌気が差す富裕層や有力企業は、フロリダなどの共和党の地盤に拠点を移す動きを活発化させるであろう。収入は大きく減り、支出は大きく増え、生活が却ってしにくくなるのは目に見えている。
だからといって笑って見ているわけにもいかない。うまくいかないのが見えていても、その方向にすがらざるをえなくなっているところに、今のアメリカの大きな病理があると言えるのではないか。
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