国の豊かさは、GDPだけでははかれない、その本質は何か?に言及している記事を紹介します。
日本経済にとって、平成時代は失われた30年、と呼ばれており、この間はGDP、国民所得が伸びず、貧富の差が大きくなった時代だと言われています。
ただし、この間大きな落ち込みがなかったことは、逆に日本の強さとみることも出来ます。
以下の記事にあるように、
国の豊かさをはかる新たな指標として、4つの資本に分けその残高を計算する方法が提示されています。年間の伸び率(フロー)ではなく残高(ストック)を計算しているところも重要だと思います。
その4つとは――。
・人的資本……教育レベルや健康面での環境なども含む人の質の資源
・生産した資本……人工資本とも呼ばれるが道路や施設などのインフラ部分
・天然資本……化石燃料や鉱物、水産物、森林資源、農業用地など
・社会関係資本……その国に対する信頼感など社会関係の資本と言っていい
明治維新以降、特に太平洋戦争以降、私達日本人は「自虐史観」を元に自らを批判的で否定的、悲観的でネガティブな視点でしか見てこなかったように思います。
しかし、このような価値観や先入観、固定観念からは現実や事実は何も見えてこないし、自らが抱える課題も可能性も発掘できないように思います。
これからの歴史的なパラダイムシフトの時代に入るにあたり、事実をしっかり見る、追求する事が求められています。
日本人は自国の豊かさの現実をわかっていない GDPは大きいが1人当たりで見るとバランス悪い
日本の豊かさを脅かすリスクとは?(写真:freeangle/PIXTA)
日本の人口は1億2000万人余。世界全体に比べれば第11位と中ぐらいの規模に属する。にもかかわらず1年間に稼ぎ出す名目GDP(国内総生産)は、大国のアメリカ、中国に次ぐ世界第3位である。ほんの10年前までは、中国より上の世界第2位だった。
考えてみれば、鉄鉱石や石油などの天然資源もほとんどない。農業生産のための国土面積も7割が森林で限られている。1億2680万人(2017年)のうち約6720万人(同)が働いており、その勤勉さは世界的に有名だが、近年は少子高齢化で人手不足が目立つ。自動車産業頼りとはいえ製造業も健在ではあるが、携帯電話や家電など一時の勢いはない。
そんな中で、日本のGDPはいまでも世界第3位の地位にあり、財政赤字がGDPの198%超(2019年度末、政府見通し)、金額的にも1122兆円(同)もあるとはいえ、株式市場は好調だし、円相場も円売り=円安の兆候は少なく、むしろ安全資産の代表格として扱われている。
地震は頻繁に起こるし、超大型の台風も次から次へと襲ってくる。にもかかわらず、「国民1人当たりの日本の食品ロス(食糧廃棄量)は世界一」とも言われるほどの飽食であり、どの商店に行っても商品であふれている。
なぜ日本はこんなにも豊かなのか……、実際本当に豊かなのか……。
たとえば、平均賃金や1人当たりたりのGDP、貧困率といった個人の豊かさという点では、日本経済の落ち込みようは深刻と言っていい。国は豊かだが、個人は貧困なのか。日本にも深刻な格差社会が到来したということなのか……。
国のGDPは世界3位、日本の稼ぎ頭はいまや「投資」?
国の豊かさを示す経済指標で最も一般的なのは、やはりGDPだろう。その世界ランキングを見ると2018年現在、アメリカが20兆5802億ドル(2222兆円、IMF、1ドル=108円で換算、以下同)、中国は13兆3680億ドル(1443兆円)、そして第3位の日本は4兆9717億ドル(536兆円)となっている。アメリカと中国が断トツで巨大なGDPを稼ぎ出しているものの、日本も長い間3位を堅持している。
ちなみに、第4位はドイツの3兆9513億ドル(426兆円)、第5位がイギリスの2兆8288億ドル(305兆円)。安倍政権がGDP600兆円、年間2%の経済成長率を掲げていることを考えると、日本のGDPの大きさは今後も守られていくのかもしれない。
問題は、1億2000万人の人口を有する国が世界3位のGDPをどうやって稼ぎだしているかだ。そもそもGDPとは何なのか。たとえば、2018年の日本の名目GDPの構成比(支出側)は次のようになっている。
・民間最終消費支出(家計消費支出、民間非営利団体を含む)……55.6%
・民間需要(総資本形成)……24.3%
・政府支出……19.8%
・財貨・サービス純輸出(貿易収支など)……0.9%
日本が豊かであることの原動力
日本が豊かであることの原動力は、原材料や資源を輸入して自動車などを製造して世界に販売。貿易黒字によって外貨を稼ぎ、食料品やエネルギーなどを購入して豊かな暮らしができている……、と思いがちだ。しかし、GDPの内訳を見ると「個人(民間)消費」が圧倒的に大きなウエイトを占めていることがわかる。
消費税率の引き上げに合わせて、政府が躍起になって個人消費が下がらない政策を打ち出しているのも、個人消費の低迷がそのままGDPの低下に結びつくからだ。アメリカのGDPが巨大なのも、借金しながらでも消費しようとする、その楽観的な国民性に理由があるのかもしれない。最近は、中国人の消費も大きなパワーになっている。
GDP以外で注目したいのは?
国の力を図るものとしてGDP以外で注目したいのは、「貿易収支」や「経常収支」と言った指標だ。とりわけ、日本の強さは貿易黒字や経常黒地の存在が大きいと長い間言われてきた。しかし、近年、貿易黒字は減少の傾向にある。実は、貿易収支以外の黒字が日本の国力を支えていると言っていい。経常収支の中身は、次の4つで構成されている(数字は日本貿易会調べ)。
・貿易収支……輸出から輸入を差し引いた収支(+1兆0480億円、2019年見通し、以下同)
・サービス収支……旅行や特許使用料などの収支(-470億円)
・第1次所得収支……配当・利子の収支(+21兆1190憶円)
・第2次所得収支……対価を伴わない無償資金援助などの収支(-2兆2450円)
2019年度の見通しでは、日本の経常黒字は19兆8760億円。現在では、第1次所得収支が日本を支えていることがわかる。貿易収支は、このところ慢性的に赤字が続いている。2017年度はかろうじて黒字になったものの、2018年度、2019年度と赤字になる見込みだ。
日本の貿易収支が赤字に転落したのは東日本大震災がきっかけで、エネルギーや鉱物性燃料の輸入額が増え、2012年~2015年にかけて赤字となった。経常収支も赤字にこそならなかったものの、大きく減少することになる。
経常収費が黒字であるうちは、莫大な財政赤字を抱える政府がデフォルト(債務不履行)に陥る可能性は低い……、という考え方がある。莫大な財政赤字があるにもかかわらず、日本円が暴落したり、株価下落や金利が跳ね上がらない……。そのポイントは「経常収支」にあるという専門家も多い。言い換えれば、慢性的な経常赤字の状態になれば、日本の富は徐々に失われていく、というわけだ。
「貿易立国」から「投資立国」へのシフト
一方、配当や利息などの第1次所得収支は1980年代から徐々に増加傾向となり、現在では経常収支の稼ぎ頭になっている。「貿易立国」から「投資立国」へのシフトが鮮明になってきたと言っていいだろう。
実際のところ、現在の日本の稼ぎは貿易による黒字ではなく、投資収益や配当、利息などによって得られる金融収支の黒字が大きい。製造業を中心とした工業立国ではなく、金貸しや金融によって豊かになっている日本にわれわれは住んでいるわけだ。
国の豊かさはGDPでは分からない?
そもそもGDPは、その国の力や豊かさを最も象徴する数値として使われてきたが、近年この数値に疑問の声がある。確かにGDPの大きさは、国はもちろん個人の豊かさを象徴するものとしても最もポピュラーだが、国民の幸福度にはつながらないことが指摘されている。
GDPは、経済学者のサイモン・クズネッツが発案したものだが、彼自身もアメリカの議会で「GDPでは国民の幸せははかれない」と証言している。むしろ「国家の軍事力を見積もるために考案されたもの」であり、GDPが大きいからといって国民が本当の意味の豊かさを手にすることができるかどうかは、また別問題と言っていい。
実際に現在の世界のGDPを見てみると、軍事大国のアメリカが抜きん出て大きく、ついで13億人の巨大な人口を抱えて急成長してきた中国が続いている。平和憲法を持っている日本は軍事費を別のインフラ整備などに回すことができたのが幸いしたのか、世界第2位、3位の座をすでに半世紀近くも続けている。
GDPは、その国の経済の大きさだけではなく、その伸び率などによって経済成長率が判断され、景気の良し悪しや経済政策なども決まっていく。そもそもアベノミクスや日銀の異次元緩和もGDPをベースに進められている。そんな「GDP最優先主義」に逆らう形で始まったのが、国の豊かさを改めて考え直す指標の開発だ。
2008年2月から1年半をかけて、世界の専門家24人が集結して新しい豊かさの概念を提案した。これが2009年に発表された「スティグリッツ報告」と呼ばれるレポートだ。通称「サルコジ報告」とも言われる。
「GDPの問題点」「生活の質」「持続可能な開発と環境」という3つのテーマによって、経済のパフォーマンスを考えて行こうという考え方だ。実際に「社会全体を見るなら平均値ではなく分布や底辺を見るべき」「GDPは生産の尺度。市民の幸せを見るなら生産よりも所得と消費を見るべき」「GDPの使い方が間違っている」といった指摘をしている。
こうした考え方をもとに、2012年6月に国連がまとめた報告書「総合的な豊かさ報告2012年(Inclusive Welth Report2012)」が大きな注目を集めた。同報告書は2014年、2018年にもまとめられている。ちなみに、同報告書では1990年から2008年までの18年間の国の豊かさをまとめており、2012年に発表されたランキングでは、日本が国全体の豊かさでアメリカに次ぐ第2位となり、国民1人当たりの豊かさではアメリカを抜いて第1位だった。
国の豊かさを4つの資本に分けると?
同報告書では、国の豊かさを4つの資本に分けてその残高を計算。年間の伸び率(フロー)ではなく残高(ストック)を計算しているところが特徴的だ。その4つとは――。
・人的資本……教育レベルや健康面での環境なども含む人の質の資源
・生産した資本……人工資本とも呼ばれるが道路や施設などのインフラ部分
・天然資本……化石燃料や鉱物、水産物、森林資源、農業用地など
・社会関係資本……その国に対する信頼感など社会関係の資本と言っていい
日本の場合、天然資源が乏しいとずっと言われ続けてきたが、天然資源という枠で考えれば国土の7割は森林であり、国の周囲は豊富な水産物の資源に恵まれた海に囲まれている。日本の豊かさは勤勉な国民と優れた製造業によるもの、という既成概念は通用しないのかもしれない。
ちなみに、2018年にまとめられた「新国富レポート2018」では、世界全体の富のシェアを健康資本(26%)、教育資本(33%)、自然資本(20%)、人工資本(21%)という形で分類している。国の豊かさは、人間の健康維持の制度や教育システムによって半分以上は決められている、というわけだ。北欧諸国は、GDPの規模は小さいが、社会福祉制度が充実。質の高い教育環境が整備されている。そういう意味では、日本は豊かな国とは言い難い。
1人当たりのGDP=26位が意味すること?
問題は、従来のGDPで考えた場合、最近の日本は長い間足踏みをしている状態と言って良い。とりわけ、「1人当たりGDP」の数値は、日本経済のバランスの悪さを示唆している。
たとえば、日本はGDP全体の大きさは世界第3位なのに1人当たりの名目GDPは世界第26位(2018年、IMF調べ)。単純に考えれば、生産性が低く、賃金が上昇していないためで、安い賃金で働き続ける高齢者やいまだに旧態依然とした産業やゾンビ企業が数多く残っていることなどが指摘されている。
民主党政権時代、2010年の1人当たりのGDPは4万3000ドル(約470万円、IMF調べ)。円高の影響もあるがピークに達している。安倍政権になった2015年は3万2000ドル(約350万円)に下落。この現象は、政府が企業側にスタンスを置くか、労働者側に置くかで説明できる。国の豊かさというのは企業が豊かになるか、労働者が豊かになるのかの違いと言っていい。
日本の富の蓄積状況を見ると、その実態がよくわかる。日銀が、今月20日に発表した2019年7~9月期の資金循環統計によると、家計が保有する金融資産残高は1864兆円、企業の現金・預金は271兆円。金融資産に限れば、家計(個人)が最も多くの金融資産を保有しているのは当然としても、企業も莫大な金融資産を保有していることになるわけだ。
相当の資産を企業が保有
実際に、企業の内部留保(利益剰余金)は7年連続で増加しており、金融業・保険業を除く全産業ベースで463兆1308億円(2018年度)となっている。金融業、保険業の内部留保は、自己資本比率規制があって一定の資産を保有する必要があるため、企業の内部留保の数値には含まれないが、金融業・保険業の資産も含めれば、相当の資産を企業が保有していることになる。
ちなみに、日本銀行の国債保有高もここに来て500兆円となっており、43.9%の国債を中央銀行が保有しているという歪んだ構造になっている。
財政赤字の処理方法で日本の未来が変わる?
日本の豊かさを考えるうえでどうしても避けられないものに、世界でも例を見ない莫大な財政赤字がある。1122兆円もの財政赤字は、当然のことながら負の資産になるわけだから、このまま放置した場合、どうなるのかが心配だ。
いまや日本の資産には、世界中の投資家が投資しており、グローバル経済の中では外国人投資家が「日本売り」に出てしまうことが最も大きなリスクと言っていい。現在の日本は、世界中に投資した利息や配当による収益が経常黒字の大半を占めている。要するに「金貸し国家」だ。
実際に、株価も下がらないし、円相場も安定している。現在の政権を支えている原動力にもなっているわけだ。日本の豊かさを維持している証拠と言っていいのかもしれない。
日本円が安全資産と言われる背景には、世界の金融マーケットで何かがあったときに、世界中に投資している日本の投資家が外貨を売って日本円に戻すために、どうしても円高になる。
また、高頻度売買といったプロの機関投資家が希望する投資環境も、日本には揃っている。システム的にも、投資家の数という面でも、世界有数の「流動性」を日本は確保できている。そのおかげで、日本の国債や株、円はたたき売られずに済んでいるとも言える。
筆者の個人的な考えだが、日本経済が失われた20年とも30年とも言われ、日本病という景気低迷のサイクルから抜け出せないにもかかわらず、日本の金融市場が現在も安定して推移している背景には流動性があると考えている。
いつでも莫大な金額が、安定した形で売買取引できる限り、外国人投資家は日本を信頼して取引をする。言い換えれば、この流動性が枯渇したとき、日本の強みは失われるのかもしれない。たとえば、日本国債は間もなく流動性を失う可能性がある。日銀が半分以上の国債を買い占め、その流動性を枯渇させようとしているからだ。
日本の豊かさを脅かすリスクとは何か?
日本の豊かさの実態が正確にはつかめていないが、このままの状態を日本は維持していくことができるのか。最後に、この豊かさを脅かす存在とは何かを考えておこう。簡単に紹介すると、およそ次のようなものが考えられる。
GDPだけでは国の豊かさは測れない
●人的資源の衰退……人口減少をはじめとして、健康や教育といった資源の衰退は日本の成長に陰りを落とす。少子高齢化がリスクであることは容易に想像できる。
●気候変動……日本の豊かさのひとつである森林や海洋の資源が、気候変動によって脅かされている。気候変動で森林が破壊されれば治水が機能しなくなり、農産物に大打撃を受ける。海産物の減少と並んで食糧不足をもたらす。
●資源価格の高騰……石油や穀物などの食料品を輸入に頼っている日本にとって、貿易収支の悪化は大きな痛手になる。資源価格の高騰は、日本の富にダメージを与える。
●財政赤字……現在の政府の財政赤字をどうするかが大きな問題だ。現在の日本は、企業も個人も、政府に依存した体質になっている。施設を作る、学校を設立する、イベントの実施……、どれをとっても国の「補助金」ありきでスタートしている。アメリカのように、クラウドファンディングといった民間投資の概念が低い。そのために、経済そのものが政府主導となり、財政赤字は一向に減らない。さらに、どうしても企業活動優先になっていく。財政赤字をどう処理できるかが、日本の豊かさを維持する大きな課題だ。
●金融マーケット……日本の経常黒字が投資によって支えられている以上、投資にはリスクがつきものだ。アメリカ株やアメリカ債、あるいは世界の企業価値が下落すれば、投資立国・日本は計り知れないダメージを被る。
この他にも、技術革新による変化は世界の富の構図を変えるかもしれない。いずれにしても、GDPだけでは国の豊かさは測れないということだ。
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