つまり、3年分の実質GDP成長率で見るなら日本のほうがドイツより倍近く上となります。
2023年4月の「世界経済見通し」が公表されました(図表1-2)。その際、先進国全体の実質GDP成長率については22年の2.7%から23年は1.3%へと半減との予想がなされていました。そして先進各国の内訳を見ると、22年に比べて23年は軒並み実質GDP成長率が低下しており、くだんのドイツに至っては22年から23年は1.8%から-0.1%へと低下していました。
そんな中、実は唯一成長率が拡大していたのが日本だったんです。22年の1.1%から23年は1.3%とわずか0.2%ではあるのですが、他の先進各国と比べれば順調な経済回復を示す内容となります。
日本はコロナ以降の経済回復も順調、ウクライナやガザからも遠く、地政学的なリスクについても当面の間は安心していられる、ということになると、日本株は海外投資家にとっても妙味が湧いてきます。海外へ投資する金融商品を扱っている人たちにとって「日本ダメ」論は都合がよいでしょうし、日本人の一般投資家が気づく前に日本株を安く仕込んでしまおう、という投機家や投資家が国内外を問わずいるかもしれませんね。
「日本が経済規模でドイツに抜かれた」は本当?「日本ダメ」論が好都合な人たちの事情
2024年に入って、株価は史上最高値を更新していますが、我々には景気が良くなった実感はまったくなく、恩恵も感じられない。それどころか、GDP(国内総生産)が、2023年にはドイツに抜かれて世界4位に転落した!なんてニュースもあり……。日本経済に、なにか明るい材料はないのでしょうか。生島ヒロシさんと岩本さゆみさんの著書『日本経済 本当はどうなってる?』(青春出版社)から、日本経済の本当のところをお答えします。
日本のGDPが世界4位に転落!
岩本 株高はどこか遠い世界の話で、たしかに後ろ向きな報道も多くて、みなさんが希望を持ちづらい、足元の物価高もあり、実際にシンドイと思われている方も少なくないと思います。
でも、客観的に日本経済を眺めてみると、「日本はダメ!」ばかりでもないんですよ。
生島 そうなんですか。そういう話をぜひ聞きたいですね!
岩本 国際通貨基金(IMF)による四半期に一度の報告書「世界経済見通し」の2023年10月版が公表された際には、一斉に「日本のGDPがドイツに抜かれ世界第4位に転落」との報道がなされました。日本経済の長期的低迷を懸念する声があるのはまだしも、国際社会での信用問題にまで及ぶとするような声まであがっていたかと思います。
それだけショッキングな内容というのはよくわかるのですが、私個人としてはこの報道に関しては、控えめに申し上げて、違和感を持ったというのが正直なところです。
生島 日本経済の実態を正しく反映してないんじゃないか、ということですね。
岩本 はい。少なくとも現状認識がIMFの主旨とも違うのでは?との印象を持ちました。まずは報道された具体的な数字の確認ですが、23年の名目GDP(見込み)について、日本は前年比0.2%減の4兆2308億ドル(633兆円)となるのに対して、ドイツは前年比8.4%増の4兆4298億ドル(663兆円)になるというものでした。
ちなみに、1位の米国は26兆9496億ドル(4032兆円)、2位中国は17兆7009億ドル(2648兆円)ですから、3位・4位の数字とはずいぶんと差があります。
GDPの考え方としては各国が生み出した付加価値の総額、経済の大きさを表します。1位米国(2021年、3億3190万人)もそうですが、人口の多い国のGDPは大きな数字が出やすくなります。
中国に抜かれることとドイツに抜かれることの違い
生島 アメリカは人口が日本の3倍近く。中国にいたっては日本の10倍以上!
岩本 日本は米国に次ぐ世界第2位の地位を実に42年間維持してきたのですが、それを中国へと譲ったのは2010年のことでした。
中国に追い抜かれた2010年当時のことを思い出すと、中国と日本の人口を比べれば10倍以上。追い越されたとしてもGDPが国全体の総額である以上致し方ない、といった雰囲気ではなかったでしょうか。
生島 中国は勢いもありましたし、人口も日本とはケタ違いですからね。
岩本 しかしながら、今回のドイツについては、人口比で言うならば日本の人口(2021年、1億2570万人)はドイツの人口(2021年、8320万人)のおよそ1.5倍となります。そのドイツに日本が追い抜かれてしまうわけですから、「ショック」を受ける気持ちもわからなくもありません。
生島 かつての日本経済が世界をブイブイ言わせている時代を知っている身としては、ちょっと寂しい限りですね。
なぜ実質GDPではなく名目GDPを選んだのか
岩本 先ほど報道での取り上げ方に関して、違和感があったと申し上げました。というのも報道で取り上げられていたのがIMFの最新予測の中でも「実質GDP」ではなく、「名目GDP」だったためです。
生島 何か裏があるというか、別の目的があるのではないか、と。
岩本 シンプルに日本がダメだ、危ないというほうがニュースとしてセンセーショナルで人目を引きやすい、というのがあるのかもしれません。あるいは日本はダメとしたほうが、海外への投資などを促せる、そうした商品を販売している人たちにとっては都合がよいのかもしれません。
ここで名目と実質の違いですが、名目GDPというのは物価変動の影響を踏まえた数値です。それに対して物価変動の影響を取り除いたものが実質GDPとなります。
例えば名目GDPがこれまでと比べて、ある時点で2倍になったとします。たしかに数字としては2倍になったとしても、そのまま国の経済規模が2倍になったかどうかは名目GDPではわかりません。というのも名目GDPは、モノの値段が上がれば、たとえ経済規模が大きくなっていなくても数字が大きくなってしまうからです。そこで、物価変動の要素を取り除いた実質GDPを見ることで、実際に経済規模がどれくらい成長しているのかを把握するわけです。
2023年のドイツの消費者物価上昇率は6%、かたや日本は3%でした。そのため名目GDPであれば物価上昇率が高いドイツの数字は嵩(かさ)増しされます。
そしてIMFの報告書は米ドルベースとなります。日本のGDPが同じ633兆円であっても、円安時は633兆円÷149円=4.2兆ドルとなり、ドル換算では目減りしてしまいます。対して、例えばコロナ感染症が確認されWHOがパンデミック宣言した2020年3月のドルの最安値101円で計算すると、633兆円÷101=6.2兆ドルと嵩増しされる、という具合です。つまり、名目GDPでは物価と為替変動の影響があって、実際の経済状況の正確な把握がしにくいんです。
実質GDP成長率なら、日本がドイツより上
生島 日本ではドイツほど物価が上がらなかったから、名目GDPもたいして上がらなかった。しかもドルベースで比較しているから、円安の日本はさらに低く出てしまう、ということですね?
岩本 そうです。IMFの「世界経済見通し」の報告書は海外のファンドマネージャーなどの間でもそれなりにチェックされているデータでもありますので、毎回その内容を私自身も気にしているのですが、実は毎回報告書の前面に出てくるのは名目GDPではなく、物価変動の影響を受けない実質GDPです。
IMFは日本語版のHPを開設しており、そちらで最新の報告書の内容も確認することができるのですが、HP上でもまず出てくるのは実質GDPです。
そして、データの数値そのものもそうですが、それに基づいたIMFによる報告書の要旨や総括も実質GDPの数字がベースとなっています。逆に、IMFのサイトからわざわざ名目GDPを探すほうが手間がかかるのです。
生島 やっぱり何か別の目的がある?
岩本 そのあたりに違和感が残ります。ここで実際の報告書を見てみたいと思います。
2023年10月の「世界経済見通し」では、2022年、2023年、2024年と、毎回本年とその前後1年ずつ、計3年分の各国の実質GDP成長率の内訳が公表されます。図表1-1の3年分を合算すると日本は4.0%(22年1.0%、23年2.0%、24年1.0%)となり、ドイツは2.2%(22年1.8%、23年-0.5%、24年0.9%)となります。
つまり、3年分の実質GDP成長率で見るなら日本のほうがドイツより倍近く上となります。
日本人だけ後ろ向きな気持にさせられている?
生島 へぇ、ドイツより日本のほうが成長率が高いんだ?
岩本 はい。こちらのデータから遡(さかのぼ)ること半年前、2023年4月の「世界経済見通し」が公表されました(図表1-2)。その際、先進国全体の実質GDP成長率については22年の2.7%から23年は1.3%へと半減との予想がなされていました。そして先進各国の内訳を見ると、22年に比べて23年は軒並み実質GDP成長率が低下しており、くだんのドイツに至っては22年から23年は1.8%から-0.1%へと低下していました。
そんな中、実は唯一成長率が拡大していたのが日本だったんです。22年の1.1%から23年は1.3%とわずか0.2%ではあるのですが、他の先進各国と比べれば順調な経済回復を示す内容となります。
でも、その際にも日本経済を前向きに指摘する報道はほとんどなく、23年3月に発生した米国の金融機関の連鎖破綻を懸念する内容が多かったと思います。
それから半年たった後の報告書でも、日本経済は堅調というのがIMFの見立てですから、海外投資家としては日本経済を悲観するような材料とは受け止めていなかったでしょう。日本人だけがなんだか後ろ向きの気持ちにさせられて、迫りくる株高の波に乗り遅れるなんてバカげた話です。いったい報道は誰の味方をしてるんだ?と訝(いぶか)しく思いましたよ。
内外で、あるいは一般投資家とプロの間で、かなりの温度差を生じさせるような報道だったわけです。
生島 たしかに。どうしてなんですか?
岩本 日本はコロナ以降の経済回復も順調、ウクライナやガザからも遠く、地政学的なリスクについても当面の間は安心していられる、ということになると、日本株は海外投資家にとっても妙味が湧いてきます。海外へ投資する金融商品を扱っている人たちにとって「日本ダメ」論は都合がよいでしょうし、日本人の一般投資家が気づく前に日本株を安く仕込んでしまおう、という投機家や投資家が国内外を問わずいるかもしれませんね。
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