日本、7人に1人が貧困に。米国型経営を真似て格差拡大、経済長期低迷へ

現代の日本
日本、7人に1人が貧困に。米国型経営を真似て格差拡大、経済長期低迷へ=斎藤満 | マネーボイス
日本経済の長期停滞が続いています。少子高齢化に加え、西側経済の衰退やアジアの成長についていけないことも要因です。米国に追従する姿勢が、格差拡大や学力低下を招き、企業・市場優先の政策が円安を通じて経済の弱体化を加速させました。そろそろ損切、リセットの時です。(『』斎藤満) 【関連】「貯蓄から投資へ」の残酷さ。政

日本、7人に1人が貧困に。米国型経営を真似て格差拡大、経済長期低迷へ=斎藤満

日本経済の長期停滞が続いています。少子高齢化に加え、西側経済の衰退やアジアの成長についていけないことも要因です。米国に追従する姿勢が、格差拡大や学力低下を招き、企業・市場優先の政策が円安を通じて経済の弱体化を加速させました。そろそろ損切、リセットの時です。(『 マンさんの経済あらかると 』斎藤満)

【関連】「貯蓄から投資へ」の残酷さ。政府は国民を切り捨てる意図で投資を奨めている=鈴木傾城

※有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2025年3月17日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。

停滞が続く日本経済

日本経済の長期停滞が続いています。

少子高齢化も一因ですが、総じてパックス・アメリカーナの終焉など西側経済の衰退、アジアの勃興について行けないアジアの日本も目に余ります。

米国に「右へ倣え」の姿勢が、貧富の差拡大、学力の低下などをもたらし、企業、市場優先の政策が円安を通じて日本経済の地盤沈下をもたらしました。

そろそろ損切、リセットの時です。

GDPは6兆ドルから4兆ドルに

安倍元総理は以前、「あの悲惨な民主党時代」とこき下ろしましたが、民主党政権時の2011年、12年の日本のGDPは6兆2,000億ドルあまりで、17兆ドル台の米国、7兆ドル台の中国経済に次ぐ世界の3番手にありました。

ところが、昨年10月のIMF(国際通貨基金)の推計によると、2024年のGDPはトップの米国のGDPが29.2兆ドル、2位の中国が18.3兆ドルに拡大しているのに対し、4位に落ちた日本のGDPは4兆700ドルとなっています。米国の7分の1、中国の4分の1にも満たないレベルに落ち込んでいます。今年はインドにも抜かれる模様です。

円ベースの名目GDPが伸び悩んでいるうえに、安倍政権以降の大規模金融緩和によって円の価値が民主党政権時の半分近くに下落したことが影響しています。そして円ベースの低成長は、成長戦略をとらずに、企業が楽に利益を上げられる環境を優先し、モノづくりよりも簡単に市場で儲ける金融利益主義に走ったことも影響しています。

米国の衰退と同じ道を歩んでいます。

もはや米国は模範足りえない

米国でトランプ大統領が選ばれた背景には、米国経済が衰退し、過去の栄光に対する「ノスタルジー」が白人労働者を中心に広がったことがあります。また有色人種の中にも生活に窮する人々が、現状打破を期待して腕力の強いトランプに期待した面があります。

その裏には、かつて鉄鋼や自動車などの生産で世界を席巻した米国が、金融利益に傾き、モノづくりを放棄したこともあります。もはや「パックス・アメリカーナ」は過去の遺物となり、欧州経済も衰退の道を歩んでいます。そして中国を中心にいまや「パックス・アシアーナ」の時代と変わりました。

ところが、日本では明治以来、西洋に学ぶ流れが抜けきれず、いまだに欧米に留学した学者、エコノミストが政権に大きな影響を及ぼしています。小泉政権時の竹中大臣や安倍政権時の経済参謀たちです。

米国流「改革」があだに

その象徴的な出来事が、1994年2月に千葉県浦安市舞浜で開かれた経済同友会の会議にみられました。

ここで新日本製鉄社長の今井敬氏が雇用重視の「日本型経営」重視を主張。これに対して、オリックス社長の宮内義彦氏が「株主重視」の米国型経営に転換すべきと主張。激しい論争となりました。

これがいわゆる「今井・宮内論争」と言われるものです。

結局、日本は宮内氏の考えを採用、日本型経営を捨て、その後米国型の経営にかじを切りました。大きな変化は雇用形態に表れ、それまでの年功序列、終身雇用型が崩れ、中途採用、非正規雇用の拡大へと進み、企業にとって「固定費」とされた人件費を「変動費」化し、コストの弾力的な削減を可能にし、短期収益拡大に道を開きました。

その一方で労働者には「わが社」という帰属意識が後退、会社に対するロイヤルティ(忠誠心)も低下し、社内教育が後退、労働生産性の足かせにもなりました。

当時、米国帰りのエコノミストは日本型経営を「非効率」と決めつけ、米国型短期収益追求に変えましたが、後に米国の研究者から日本型経営を評価する論文も出るなど、むしろ米国から日本型経営の良さを再評価する声が上がりました。

7人に1人が貧困の制約

日本が米国流の企業重視、金融利益重視の政策に傾く中で、金融緩和が長期化し、これによる株高、円安が所得分配に大きな偏りをもたらしました。

労働者の4割近くが非正規雇用となり、国税庁のデータによると彼らの年収は200万円前後で、そこから家賃と社会保険料を引かれると、食費の確保が精いっぱいで、結婚や子育てどころではなくなります。

その一方で企業は最高益を更新し続け、資産価格の上昇で資産家、富裕層がますます富むことになります。その結果、米国と同様に日本でも所得格差が拡大。日本財団の調査によると、日本の相対貧困率は1985年の10.9%から2019年には13.5%と、7人に1人が「貧困」状態となりました。

2010年のOECDのfactbookによると、日本の相対貧困率は15%で、これは加盟国のうち、メキシコ、トルコ、米国に次いで4番目に高い数字となっています。デンマークの5%とは大違いです。中間層が消滅し、富裕層と貧困層に二分される中で、日本の個人消費は低迷し、最近ではこれに物価高が重なって、格差と物価高が消費や経済を圧迫するようになっています。

大学改革にも失敗しました。2004年に大学の自主性を高めるという名目で大学の法人化を進めました。国の補助金は減り、大学教授は研究費の捻出のためにアルバイトを余儀なくされ、若手研究員が減りました。国の補助が減ったので大学は授業料を引き上げたので、貧しい学生には大学が遠くなりました。富裕家庭でないと東大を目指せなくなりました。

特に基礎物理の研究が敬遠され、日本の物理化学の根幹が弱ってきました。世界の大学ランキングに日本の大学が上位に入れなくなって久しくなりました。

過ちを正すに遅すぎることはなし

ノーベル賞経済学者のダロン・アフセモグル氏の著書に「なぜ国家は衰退するのか」があります。

これによると、国家の制度には、国家の権力と富が社会に広く分配される「包摂的な制度」と、一部のエリートに権力と富が集中する「収奪的制度」の2つがあり、前者では国家が繁栄し、後者では衰退する、と述べています。

日本では長年この「包摂的な制度」のもとで繁栄してきましたが、90年代になって米国帰りの学者、エコノミストの働きかけで、次第に「収奪的な制度」に変わり、日本経済は長期低迷に入りました。かつて8割を占めた「中間層」が消え、一握りの富裕層と多数の貧困層に二極化し、消費の低迷、経済の縮小が続いています。若者が結婚も子育てもできない社会に明日はありません。

企業は株主だけのものではありません。資本、労働、顧客の三位一体型のバランスの取れた経営がかつての日本を成功に導きました。労働者からの収奪には限度があります。雇用制度の見直しと、貧困でも学べる教育環境、ポピュリズムに走らないよう、小選挙区制の見直しなど、これまでの「改革失敗」をリセットする時期に来ています。

間違いを正すに遅すぎることはありません。

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