
フジテレビが港社長の「こっ恥ずかしい会見」の最中にウクライナ問題で誤報!

1月17日、フジテレビの港浩一社長が、タレントの中居正広の女性を巡るトラブルの件で、急遽会見を開いた。だが、「魚は頭から腐る」という警句をフジテレビにあてはめると、その「腐敗」は港社長を筆頭とする幹部だけでなく、報道部門にも広がっていることがわかる。簡単に言えば、フジテレビはめちゃくちゃなウクライナ報道をしたのである。
FNNプライムオンラインは1月16日午後4時15分、「兵士不足のウクライナでゼレンスキー大統領が徴兵対象を17歳に引き下げる法案に署名 違反だと最大で約9万2000円の罰金」というタイトルで「誤報」を報じた。この原稿を書いている18日午後3時現在、この誤報は閲覧可能となっている。

この報道が誤報である理由を説明しよう。記事は、「ウクライナで兵士不足が課題となる中、ゼレンスキー大統領は徴兵の対象年齢を17歳に引き下げる法案に署名しました」という一文からはじまっている。
ところが、ゼレンスキーが「徴兵の対象年齢を17歳に引き下げる法案に署名」した事実はない。まったくの事実無根の内容を報じているのだ。
二番目に出てくる文章は、「日本の国会にあたるウクライナ最高会議は15日、ゼレンスキー大統領が17歳になった男性に対して名前や住所などの個人情報を軍に登録することを義務づける法案に署名したと発表しました」と書いている。この記述は、「徴兵の対象年齢を17歳に引き下げる」という表現とは異なり、ただ、「17歳になった男性に対して名前や住所などの個人情報を軍に登録することを義務づける法案」に署名したことを意味している。
つまり、「徴兵の対象年齢を17歳に引き下げる」ことと、「個人情報を軍に登録する」ことをまったく同じことのように解釈している。だが、この二つの内容を同一視してはならない。
ゼレンスキーが署名した法案とは?
正確な情報を教えよう。議会のサイトによると、ゼレンスキー大統領は1月15日に、「ウクライナ国民の兵役登録の特殊性及び基礎軍事訓練中の徴兵者の健康診断に関するウクライナ法『兵役及び軍事義務に関する』の改正に関する法律案」に署名したことがわかる。
その詳しい内容がわかる別の議会サイトは、既存法の第14条を改正し、「毎年、1月 1日から 7月31日まで、兵役登録の年に 17 歳になるウクライナの男子国民は、電子身分証明書による本人確認と明確化により、関連情報を徴兵、兵役義務者、予備兵の統一国家登録簿に登録され、兵役に登録される」ことにすると紹介している。つまり、毎年1月1日から7月31日まで、17歳になった若者は徴兵登録され、その情報は徴兵、兵役義務者、予備役者の統一国家登録簿に登録されるというのである。

決定的に重要なのは、あくまで登録について改正したにすぎない点である。徴兵の対象年齢については、まったく書かれていない。
このいい加減なフジテレビの報道は、ウクライナにおける徴兵制と動員制の区別について、注意を怠っているために生じているのではないか。
戒厳令下で正規兵の徴兵は行わない
まず、知らなければならないのは、2022年10月にゼレンスキー大統領によって署名された法律、「正規兵役のための徴兵の特殊性と戒厳令下における徴兵委員会の活動に関するウクライナ法「軍事任務と兵役について」の改正に関する法律案」によって、「戒厳令の期間中、正規兵役のための徴兵は行われない」と定められたことである。ゼレンスキーはすでに2025年5月9日まで戒厳令を延長することを決めたから、それまでの間、徴兵は行われない。
したがって、いま問題なのは動員令で定められた兵役ということになる。
動員令は過去に何度も改正されてきた。ゆえに、その詳細を理解するのは難しい。それでも、ウクライナ戦争について報道する立場にあるのなら、昨年5月から施行された動員令改正によって、徴兵制に代わるものとして、基礎兵役と呼ばれる軍事訓練が導入されることになったことを思い出さなければならない。
この新法では、「18歳から25歳までのウクライナ国籍の男性は基礎軍事訓練(BMT)を受けなければならない」とされており、兵役義務のある者でBMTを修了した者、または25歳に達する前にBMTを修了した者は、動員中の兵役召集の対象とはならない。なお、女性は任意でBMTを受けることができる。

BMTはbasic military trainingの頭文字を表している。ウクライナ語では、базова військова підготовкаという。BMTは平時・戦時を問わず、戦闘状況下で任務を遂行できるよう、すべての人が準備することを目的としている。武器の取り扱いや使用、戦場での行動、応急手当や心理的支援など、基本的な知識、技能、能力を身につけさせるための訓練だ。
BMTは今年9月1日に導入される予定だ。つまり、ウクライナ政府は徴兵制そのものを廃止して、BMTに変更しようとしているのであり、17歳で登録させるのはそのための準備作業ということになる。BMTの平時の訓練期間は最長5カ月で、そのうち最長3カ月は基礎的な一般軍事訓練、最長2カ月は特殊訓練が施される。戒厳令時は最長3カ月で、そのうち少なくとも1カ月は基礎的な一般軍事訓練、最長2カ月は特殊訓練に費やされる。高等教育機関の学生の場合、訓練は、高等教育機関自体、または警察訓練を提供する特定の訓練条件を備えた教育機関で実施される。公務員、地方公務員、検察官に初めて採用される予定の市民や、関心のあるすべての人の訓練は、ウクライナ国軍の訓練センターで行われる。
市民の反発を恐れるゼレンスキー
フジテレビの報道が伝えるように、たしかにウクライナでは兵員不足が深刻化している。このため、トランプ新政権下で国家安全保障担当大統領補佐官になるマイク・ウォルツは、「私たちがウクライナ人に提起する問題のひとつは、軍隊に関する現実的な問題に関係している。現在、ウクライナの徴兵年齢は18歳ではなく26歳であり、多くの人々はウクライナが数十万人の兵士を新たに動員できることを理解していないと思う」とABCとのインタビュー(2分30秒後あたり)で語っている(なお、本格的な侵攻が始まる前、ウクライナの徴兵制では、徴兵年齢は18歳から27歳まで、兵役期間は最長18カ月[高等教育を受けた者は最長12カ月]と定められていたが、2024年5月に25歳まで引き下げられた。他方で、動員年齢は27歳から25歳に引き下げられた。ゆえに、ウォルツの発言は不正確であり、本当は動員年齢を18歳まで引き下げるように要求していると考えられる)。
しかし、ゼレンスキー大統領は、この引き下げが国内で大きな反発を引き起こすことを熟知している。18歳から25歳の子どもをもつ親が猛反発するのは確実だからだ。トランプ大統領の登場で、もうすぐ戦争が終結するかもしれないとの期待が広がっているなかで、そんなことをすれば、厭戦(えんせん)気分がより一層高まるかもしれない。
今月公表された情報にある、下に示した年齢別人口構成からわかるように、対象となる18~25歳が少ないという現実もある。ソ連崩壊後の1990年代に出生率が劇的に低下し、経済的苦境が続くなかで2000年代までつづいた結果である。

(出所)https://www.rferl.org/a/ukraine-russia-war-conscription/33275293.html
戦争が停止されれば、ウクライナ当局は動員年齢を引き下げる必要がなくなることは明らかである。それどころか、それは有害な措置となるだろう。なぜなら、戒厳令が解除されれば、大統領選挙が不可避となり、若者を前線に送るという姿勢は、ゼレンスキー大統領の支持率を傷つけることになるからだ。
逆に、戦闘が継続する場合は、動員年齢の引き下げは避けられないだろう。戦争を継続することで大統領職に踏みとどまりたいゼレンスキー大統領としては、動員年齢を引き下げて、兵員数を増やす必要がある。しかし、それは前述したように、国民の大きな反発を招きかねない。
このように、きわめて重大な局面で、フジテレビが流した報道は、いまのウクライナの現状を理解したうえでなされたとは、とても思えない。
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