民主党派からは魑魅魍魎の陰謀論噴出…それでもトランプは「神」になった?

現代の米国
民主党派からは魑魅魍魎の陰謀論噴出…それでもトランプは「神」になった?(塩原 俊彦) @gendai_biz
下の写真は、ピューリッツァー賞受賞者のAP通信のエヴァン・ヴッチが撮影した世紀の瞬間である。7月13日にアメリカのペンシルベニア州での選挙集会で起きた、ドナルド・トランプ前大統領暗殺未遂事件において、銃に撃たれてもなお、トランプは拳を振り上げ、「ファイト!」と叫んだ。群衆は「USA!」と唱えた。

民主党派からは魑魅魍魎の陰謀論噴出…それでもトランプは「神」になった?

カメラが捉えた世紀の瞬間

下の写真は、ピューリッツァー賞受賞者のAP通信のエヴァン・ヴッチが撮影した世紀の瞬間である。7月13日にアメリカのペンシルベニア州での選挙集会で起きた、ドナルド・トランプ前大統領暗殺未遂事件において、銃に撃たれてもなお、トランプは拳を振り上げ、「ファイト!」と叫んだ。群衆は「USA!」と唱えた。そして、彼はまた一歩、「神」に近づいたのである。

7月13日にペンシルベニア州バトラーで開催された選挙集会で、シークレットサービスのエージェントたちに囲まれながら、顔に血のついたドナルド・トランプ前大統領が群衆に向かって拳を振り上げた。 エヴァン・ヴッチ/AP (出所)https://edition.cnn.com/2024/07/13/politics/gallery/in-pictures-trump-injured-at-pennsylvania-rally/index.html

 4月3日に現代ビジネスで公開した拙稿「「トランプは21世紀のキリスト」だって!? キーワードはWWJD」で書いたように、この時点で、すでに「神に定められた」(Ordained by God)トランプであったが、今回の事件を切り抜けたことで、トランプはまさに殉教者となったと言えるかもしれない。

ライス大学の大統領史研究者ダグラス・ブリンクリーは、「暗殺未遂から生き延びることで、あなたは殉教者になる、大衆の共感が得られるからだ」と語っている(WP(ワシントンポスト)を参照)。

民主党とメディアの責任

重要なことは、この4月の記事で紹介した、ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス上院議員(オハイオ州)がつぎのようにツイートしたことである。なお、彼は、7月15日に副大統領候補としてトランプに伴走することになった。

「今日は単なる孤立した出来事ではない。バイデン陣営の大前提は、ドナルド・トランプ大統領は権威主義的ファシストであり、何としても阻止しなければならないというものだ。そのレトリックは、トランプ大統領の暗殺未遂に直結した」

この指摘は、おそらく正鵠(せいこく)を射ているだろう。民主党および民主党支持の主要マスメディアは、これまでトランプの人格攻撃に加えて、「もしトラ」は独裁につながるといった脅しをかけまくってきた。そうした一方的なディスインフォメーション(意図的で不正確な情報)による情報操作が、暗殺を企てる輩(やから)を誘発した可能性があるからだ。

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たとえば、7月11日付NYT(ニューヨークタイムズ)は、「ドナルド・トランプは指導者にふさわしくない」という長文の記事を公表した。出だしから、「トランプは道徳的適性に欠けている」と手厳しい。「もしトランプ氏がこれらの資質をもっているとしても、アメリカ人は彼が国家の利益のために行動する姿を見たことがない」ことを根拠に、「彼の言動は、基本的な善悪を無視し、大統領の職責に対する道徳的な適性を明らかに欠いていることを示している」と断じている。

たしかに、指摘は「当たらずとも遠からず」かもしれない。だが、ウクライナに代理戦争をさせながらウクライナ人を死に追いやり、他方で、パレスチナ人を無差別に殺戮(さつりく)するイスラエル政府を支援しつづけながら、自分の認知機能の衰えを否定し、アメリカ国民ばかりか地球上に住む全人類を危機に巻き込むことに躊躇(ちゅうちょ)を感じていないジョー・バイデンにも、道徳的適性があるとはまったく思えない。

片腹痛いのは、トランプへの人格攻撃だ。「人格とは、リーダーに信頼性、権威、影響力を与える資質である」としたうえで、NYT(ニューヨークタイムズ)は、トランプにこうした資質がないと主張する。

トランプは、(1)自分に不利な証人として証言する気概のある人物を威嚇(いかく)しようとする、(2)トランプに法の責任を問う義務を果たしている裁判官の誠実さを攻撃する、(3)自分が嫌いな人々を馬鹿にし、自分に反対する人々について嘘をつき、共和党員が膝を屈することができなければ敗北の標的にする――と指摘している。

私からみると、過去に数々の情報操作のために、不正確な情報を流したり、あるいは、あえて情報を流さなかったりしてきたNYT自身の「悪辣(あくらつ)さ」を反省しないまま、「よくもこんなことが書けるものだ」と唖然とする。

独裁懸念

7月1日、米最高裁判所は、大統領免責をめぐる「トランプ対合衆国」裁判で、トランプ前大統領が前回の選挙を覆(くつがえ)そうとした容疑について、実質的な訴追免除を受ける権利があるとの判決を下した。採決は6対3で、党派で分かれた。その直接的な実質的効果は、選挙を前に陪審員の審理が行われる可能性はほとんどなくなり、トランプに対する罪状は最低でも絞られることになった。

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ジョン・G・ロバーツJr.最高裁長官は、多数派を代表して、「トランプ氏には少なくとも、その公務行為に対する推定的免責がある」とのべた。その上で、裁判長は、「公式な行為と非公式な行為を分けるために集中的な事実審査を行い、公式な行為についてトランプ氏を保護する推定を検察が覆すことができるかどうかを評価しなければならない」と付け加えた。トランプが投票で勝利すれば、司法省に告訴の取り下げを命じることができるため、この問題は無意味になる可能性すらある。

他方で、リベラル派判事のソニア・ソトマイヨール判事は、「この判決は重大な見当違いである」と書いた。判事は、「元大統領の刑事免責を認める今日の決定は、大統領制を再構築するものである。それは、われわれの憲法と政府システムの根幹をなす原則、『法の上に立つ者はいない』という原則を愚弄(ぐろう)するものだ」と断じた。換言すれば、「法の上に立つ」独裁者の誕生を米最高裁が認めたことになる。

こうした成り行きからわかるのは、既存の統治システムにあっても、事実上の独裁者が登場するという事実らしい。その意味で、問題はトランプ本人にあるというよりも、トランプ個人を独裁者に押し上げてしまう制度自体にあるのかもしれない。

民主党および同党と結託したマスメディアによる「ディスインフォメーション」工作

こうした民主党と、同党を支持する主要マスメディアが意図的で不正確な情報である「ディスインフォメーション」を流して、多くの人々を騙す工作を行う結果として、トランプという個人を標的にする暴力を助長した面があることは否めないのではないか。

決定的だったのは、バイデン大統領による7月8日の発言だった。NYTは同日、バイデンが最大の資金調達者や寄付者に直接話しかけ、選挙戦に残るという主張を繰り返し、選挙戦の焦点を自分からドナルド・J・トランプ前大統領に移す必要があると伝えたという内容の記事を報じている。そのなかで、NYTが閲覧した会談のビデオ録画によると、「これ以上、気を取られて時間を無駄にすることはできない」とバイデンは語ったとした後で、NYTはバイデンの話をつぎのように書いている。

「私の仕事はただ一つ、ドナルド・トランプを倒すこと、ドナルドを倒すことだ。私は、それができる最高の人間だと確信している。ディベートについて話すのはもう終わりだ。トランプを標的にするときだ」

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最後の一文は、“It’s time to put Trump in the bull’s-eye”という言葉を翻訳したものだ。まさか、バイデン大統領自身が「トランプを銃撃せよ」と言ったとは思わない。しかし、そう受け取られかねない発言をしたのは事実である。この “bull’s-eye”は “bullseye”とも綴られ、「ダーツなどのゲームで、狙った物体の円形の中心、またはこれに当たるショットやスローのこと」を意味している(「ケンブリッジ辞典」を参照)。そう考えると、「標的にすべきとき」と解釈されても仕方ないだろう。

たとえば、7月14日付のWSJ(ウォールストリートジャーナル)は、「バイデン大統領のドナルド・トランプ前大統領に対する暴言はここ数日で激しさを増し、そのなかには少なくとも一度、トランプ氏を標的として言及したものも含まれている」と書いている。それがここで紹介した部分なのである。

だからこそ、マイク・コリンズ議員(ジョージア州選出)は、紹介したバイデンの発言を問題視し、「ジョー・バイデンが命令を下した」と13日夜にソーシャルメディア「X」に書き込んだのである。紹介した発言がいかに重要であるかは、15日にNBCによって行われたバイデン大統領へのインタビューのなかで、この発言について問われたことによく現れている。バイデンはこの表現が誤りであったことを認めたうえで、「焦点をあてる」(focus on)という意味だった釈明した(この様子はYouTubeでみることができる)。

実は、4月19日、ベニー・トンプソン下院議員(民主党)が有罪判決を受けた重罪犯からシークレットサービスの保護を剥奪(はくだつ)する法案を提出したとNYPが報じている。これは明らかにトランプ前大統領を狙ったものであり、もはや民主党のなかに、「トランプ憎し」の感情がたぎり、暴発しかねない状況にあったとも考えられる。そうした感情は、民主党支持者にも感染しかねないほどだったのではないか。

親民主党派による陰謀論

主要マスメディアがあまり報じたがらないこととして、親民主党派も陰謀論を流布してしまっているという事実がある。たとえば、バイデンを支持するソーシャルメディア・ユーザーは、「大統領が討論会の前に密かに薬物を投与された」と主張した。

さらに、彼らは、バイデンの熱烈な支持者である俳優のジョージ・クルーニーが、バイデンのガザ戦争におけるイスラエル支持に触発された手の込んだ復讐計画の一環として、大統領選からの降板を呼びかけるニューヨーク・タイムズ紙の論説を書いたという陰謀説を流した。

こうした陰謀論者らは、今回の暗殺未遂事件について、トランプ前大統領の耳についた血は「お芝居用のジェルパック」によるものだと主張し、銃撃は「偽旗」であり、おそらくシークレットサービスがトランプ陣営と協力して調整したものだと言い出した。このバカバカしさに業を煮やしたWP(ワシントンポスト)は、親民主党のメディアでありながら、こうした陰謀論者の存在を批判する記事を書いた。

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陰謀論では、当初、右派の「QAnon」が有名となった(この問題については、「論座」に掲載した拙稿「日米ロで広がる陰謀論の裏側(下)」を参照してほしい)。これに対して、ネット上でリベラルな陰謀論を展開し、ブルーカラーの民主党の主張を広めようとする「ブルーアノン」と呼ばれる勢力も目立つようになっている。

WPによると、民主党の献金者リード・ホフマンの政治アドバイザーであるドミトリ・メールホーンは、13日遅くに支持者たちに、この銃撃は、トランプが写真を撮って反動から利益を得るために奨励され、もしかしたら演出された可能性さえあると考えるよう、電子メールで呼びかけたという。

なお、暗殺未遂事件の犯人トーマス・クルックスは共和党の有権者として登録されていたが、これは彼が党に所属していることを意味するものではない。NYTによれば、彼は「2021年に進歩的な大義にも寄付をしていた」という。ジョー・バイデン大統領が就任した2021年1月20日、クルックスは民主党寄りの政治活動委員会に15ドルを寄付したとの情報もある。

このようにみてくると、民主党にも親民主党派にも、共和党や親共和党派と同じく、暴力に傾きかねない人々がいることがわかる。その意味で、トランプをスケープゴートにするあまり、暗殺の教唆(きょうさ)を疑われても仕方がないほどの情報操作を民主党側がやっていた責任は大きいと指摘せざるをえない。それにもかかわらず、こうした問題点をアメリカの主要マスメディアは国民に伝えていない。

その結果、日本国民の多くも暗殺未遂事件の背景を知らないままなのだ。

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