経済成長を阻む「財政危機」という偏向報道

現代の日本
No.1406 経済成長を阻む「財政危機」という偏向報道
財務省の辞書には「経済発展」という言葉はない!? ■転送歓迎■ R07.02.02 ■ 78,037 Copies ■ 8,854,384Views■ 過去号閲覧: 無料メール受信: ■1.「103万円の壁」でそれ以上働けないお兄さん 伊勢: 国民民主党が「103万円の壁」を撤廃するという公約を掲げてこの前の衆議院選挙で大躍進したけど、自民党が「財源…

No.1406 経済成長を阻む「財政危機」という偏向報道

財務省の辞書には「経済発展」という言葉はない!?

■1.「103万円の壁」でそれ以上働けないお兄さん

伊勢: 国民民主党が「103万円の壁」を撤廃するという公約を掲げてこの前の衆議院選挙で大躍進したけど、自民党が「財源がない」と言って抵抗しているね。国民民主党が提案している103万円を178万円に引き上げたら、国と地方の税収が7.8兆円も減少すると言って、難色を示している。

花子: うちの両親は蕎麦屋をやっていて、近所の大学生のお兄さんがアルバイトで働いています。そのお兄さんは103万円を超えないように、働く時間を制限してるんです。地元では人気のある店なんで、忙しい時にはてんてこ舞い。父はもっと働いて貰いたいと言っていますが、お兄さんは103万円の壁があるから無理、と断っているそうです。

伊勢: 103万円以上稼ぐと、そのお兄さんは親の扶養控除から外れて、親の税金が増えてしまう。通常のケースでは、10万円以上も税金が急に増えたりするから、そのお兄さんが103万円の壁を意識するのも当然だね。

■2.「日本の借金は世界一、しかし資産も世界一」

花子: でも、日本の借金は世界一で危機的な状況だと、以前、税務署の人による出前授業で教わったんですけど。その時に使われた財務省のパンフレットでは、「日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準」という説明がありました[財務省]。GDPと言ったら、確か「国民総生産」、会社で言ったら「売上高」ですよね。

 各国のグラフもあって、日本の借金の対GDP比は2024年で、255%。次がイタリアの139%、アメリカ123%、フランス112%と、ダントツでした。日本って、こんな借金まみれだったんだ、とクラスの皆が驚いていました。こんな状態で、7.8兆円も税収が減って、その分、また国債を発行しなければならないとしたら、大丈夫なんですか?

伊勢: 借金だけ見たら確かにそうだろう。でも、会社で言えば資産がある。お父さんのお蕎麦屋さんも、銀行からの借金はたくさんあるだろうけど、土地や建物、設備、貯金などの資産もあるだろう?

花子: もちろんです。

伊勢: それなのに、資産を無視して、「あのお蕎麦屋さんは売上げの何倍も借金があるから倒産寸前だ」と言われたら、どう思う。

花子: そんなのおかしいです。父は「ウチは土地だけで、銀行からの買い入れの何倍も資産価値があるから、借金しても大丈夫だ」って言っていました。

伊勢: 借金と資産を比べた表を「バランス・シート」と言うんだけど、日本政府のバランス・シートを財務省で初めて作ったのが、元財務省官僚で経済学者の高橋洋一さんだ。高橋さんによると、令和4(2022)年の負債総額は子会社の日本銀行を加えて、1546兆円。一方の資産総額は1613兆円。差引き67兆円の資産超過となっている。

 高橋さんは「日本は『借金は世界一、しかし資産も世界一の国』」と言っている。[高橋、p27]

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先進国でも資産から負債を差し引いた純資産はマイナスの国がほとんどである。その中で、日本はほぼイーブンとはいえ、数少ないプラスの国である。・・・
 つまりどんなに財務省が「深刻だ、深刻だ」といっていても、国債の暴落が起こることはありえない。これが、プロフェッショナルが見た、資産負債のバランスシート――日本の財政の実相である。[高橋、p30]
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花子: なぁーんだ。そうだったのですか。それでも、国債をどんどん増やしていったら、いずれ借金が積もり積もって、大変な状況になるんじゃないですか? 借金が増え続けるのは、将来の私たち世代の負担が増える、という不安がありますけど。

■3.コロナ禍の苦境を救った休業給付金、支援金

伊勢: それはその時の状況による。たとえば、コロナの際に、100兆円も国債が発行されて、それで経済的危機が救われ、さらにコロナ収束後の成長で税収が増えた、という事例があるんだ。コロナの際にみな外出を控えたんで、お父さんのお店も大変だったろう?

花子: はい、父の店もまったくお客がこない開店休業状態で、父もあと何ヶ月か、こんな状況が続いたら、店を閉めなければならなくなる、って暗い顔をしていました。

伊勢: あの時、安倍政権で一律に各世帯10万円が配られたり、休業を余儀なくされた従業員にも休業給付金が出たり、事業者にも支援金が出たり、と矢継ぎ早に手が打たれたよね。

花子: はい、支援金で本当に助かった、店を閉じずに済んだ、って、父は言っていました。パートのおばさんやアルバイトの大学生のお兄さんも休業補償が出たのでなんとかなった、って喜んでいました。

伊勢: 実はこの時、安倍政権と次の菅政権で、合計100兆円もの国債発行をして、こうした手当に使ったそうだ。両政権のブレーンだった高橋さんが証言をしている。

 安倍首相はじめ、みな、もうすぐ世界的な大恐慌になるという感じで、焦っていた。高橋さんは、国民が外出を控えて、お金を使わなくなるから、その経済的な落ち込みを防ぐために100兆円くらいを使わないと、その後、失業が激増すると、進言したそうだ。

 一方、財務省は100兆円も使ったら、供給能力を大きく超えて、超インフレになると脅してきた。しかし、高橋氏が慎重に計算したところ、150兆円ぐらいまでは大丈夫だとなった。そう安倍首相に伝えたら、安心して「では100兆円で行こう」ということになった。結局、安倍政権で30兆円を2回、次の菅政権で40兆円と、合計で100兆円を使ったそうだ。

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■4.100兆円という未曾有の国債発行で日本が救われた

花子: えー、そんなに使って、大丈夫だったんですか?

伊勢: ついこの間亡くなった経済学者の森永卓郎さんは、この大規模国債発行について、こう語っていた。
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国の広義の借金は2020年度末で、前年比102兆円増えている。2020年度の国債発行額は109兆円だ。どの統計でみても、2020年度に国は100兆円前後の借金を増やした。そして何も起きなかった。これはまぎれもない事実なのだ。[森永、p70]
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花子: そんなに借金を増やしたのに、「何も起きなかった」というのは、なんでですか? 普通のお店だったら、銀行がもう貸してくれない、とか、無理にサラ金から借りようとしたら、めちゃくちゃ利子を取られてしまうんでしょう?

伊勢: 100兆円も国債発行をして、何も起こらなかった、ということは、日本経済として、そのくらいの借金をしても、十分に返せる力があると認められた、ということだろう。高橋さんが150兆円までは大丈夫と計算したのは、そういう事だ。

花子: それは、日本政府を父の蕎麦屋に例えれば、コロナ下で売上げが落ち込んで、銀行からお金を借りようとしたら、すぐに貸してくれた。銀行は父の蕎麦屋が生き延びさえしたら、コロナ後は優良企業としてやっていける、と見込んだということですか?

伊勢: その通りだね。現実に高橋さんは、こう言っている。
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しかも財政負担なしで、増税なしで、日本は先進国の中で失業率の上昇が最も少なかった。他の国は失業率がすごく上がったけれど(JOG注: 日本は)ほとんど上がらず、世界的にはかなり評価された・・・[高橋、p216]
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 しかも、コロナの後も、この国債発行の効果は続いている。2020年度から、税収は3年連続で過去最高を記録している。産経新聞の田村秀男氏もこう言っている。

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・・・バラマキがコロナ収束後の急速な回復の道を切り開いたことになります。
・・・アベノミクスのおかげです。アベノミクスで企業が業績を伸ばし、国民の生活も順調になって、納める税金が増えたからです。[田村、p218]
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花子: えー、そんなことがあったんですか? 税金の出前授業では、そんな事は全く教わりませんでした。

伊勢: 大方のマスコミもこういう事実を伝えないからね。時には、借金を大きく増やしても、それで経済を成長させれば、税収も増える状況もあるということだ。

■5.財務省の辞書には「経済成長」という言葉はない?

伊勢: だから、103万円の壁がぐっと上がれば、お父さんの店でお兄さんの働く時間が増えて、店がもっと儲かって、その分、払う税金も増える。そういうプラスの面も考えなければならない。

花子: そう言われればそうですね。そういうふうに日本経済が成長すれば、当然、税収も増えますよね。

伊勢: 7.8兆円という税収減の数字には、そういう成長による税収増の計算は入ってないみたいなんだ[玉木]

 お店の経営者ならば、お兄さんに払う給料が増えても、それで店の売上げが上がれば、十分、もとが採れる、と計算するけど、自民党を裏から操っている財務省には、そういう経営的センスはないようだね。売上げを固定して考えていて、お兄さんへの給料を上げたら、どこか他でコストを下げて、財源をひねり出さないといけない、と考えているみたいなんだ。

 どうも財務省の辞書には「経済成長」という言葉はないようだね。森永卓郎さんが、国民の家計について、こんな分かりやすい比較をしていた。消費税導入前の昭和63(1988)年と令和3(2021)年の比較をして、

世帯主収入 474万円 → 533万円 (+59万円)

 直接税   53万円 →  57万円 (ー 4万円)
 社会保険料 37万円 →  78万円 (ー41万円)
 消費税    0万円 →  32万円 (ー32万円)

手取り収入 384万円 → 366万円 (-18万円)

 そもそも収入が33年間で12.4%しか伸びていない。この時期の名目GDP(国民総生産)の伸びを見ると、アメリカは4.5倍、カナダ、イギリスが4倍ほど、イタリア、フランス、ドイツも2.5倍となっている。日本だけがほとんど成長せずに、「失われた30年」と言われている。

花子: なんで、日本だけがこんなに停滞したんですか?

伊勢: 森永さんはこう言っている。
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 なぜ、日本経済がこの30年間、ほとんど成長しなかったのかという疑問がしばしば提起されている。・・・いろいろな意見が出されているが、この表を見れば、答えは明らかだろう。
 日本経済が成長できなくなった最大の理由は「急激な増税と社会保険料アップで手取り収入が減ってしまったから」だ。[森永、p112]
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 収入がほとんど増えていないのに、税金や社会保険料はそれ以上に増えて、結局、手取りは18万円減少となっている。手取り収入が減って国民の消費も縮こまってしまうから、経済も成長せず、税収も伸びない。それで増税したら、まずまず国民の財布は痩せ細り、経済全体もさらに縮こまってしまう、という悪循環だ。

■6.「無借金経営」の考え違い

花子: そう言えば、父の店が繁盛してきたのは、銀行からどしどしお金を借りて、店を広げたり、最新式の設備を入れてきたからですね。

伊勢: ちょうどその反対をやっている店がある。私の良く行くカレー屋さんは、とってもおいしいと評判で、いつもお昼時には長い行列ができる。しかし、店内はカウンター席が10席ほどしかなくて、私も長時間待たされるのにうんざりして、店長に「こんなに長い行列ができるんだから、もう少し店を広げたら」と言っている。

 でも店長は「店を広げるには大きな投資がいるから、そこまでの蓄えはない」と言う。「こんなに繁盛しているんだから、銀行から借りられるだろう」と言うと、「父親の代にだいぶ借り入れが増えたんで、今は無借金経営を目指して、借り入れを減らすのに精一杯」と言っていた。

 これは、この30年、日本経済が成長できなかったのとまったく同じ理屈だと思う。今の小さな店舗での限られた利益の範囲内でちまちま借金を返していこう、とするよりも、思い切って銀行からの借り入れを増やして、店を大きくして、収益を拡大する。その方が早く借金も返せる。そういう経営センスも必要なんだ。

 日本は高度成長の時に、お父さんのお蕎麦屋さんのように借り入れを増やして事業を大きく伸ばした。その結果、世界でも有数の豊かな国になった。ところが、その後、このカレー屋さんように「無借金経営」を目指したので、経済がまったく成長しなくなった。
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JOG(103) 下村治 ~ 高度成長のシナリオ・ライター~
「日本経済は美しい白鳥になる」
https://note.com/jog_jp/n/nda483d03fc38

テーマ・マガジン「大御宝(おおみたから)を仕合わせにする経済学」
https://note.com/jog_jp/m/m87152febd23e
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■7.偏向教育、偏向報道

花子: そういうことだったんですか。学校で教わった財政危機の話と、高橋先生の日本には資産がたくさんあると言うお話のギャップが余りにも大きいので、ちょっとびっくりしました。また、コロナ禍で安倍政権、菅政権がこんなに国債を発行して、国民生活を支えていてくれたこと、そしてそれが今も好景気につながっていることも全然知りませんでした。

伊勢: こういう良い面や、立派な業績も教えずに、危機ばっかり訴える。これも一緒の偏向教育、偏向報道だね。そういう偏向教育、偏向報道で、私たち主権者である日本国民の現状に関する認識が相当歪められてしまい、正しい政策判断ができなくなってしまう。「失われた30年」と言われるように、こんなに長期間、経済成長が停滞した原因の一つがここにあるようだね。

花子: 先生の話で、歴史問題での偏向教育、偏向報道についてはいろいろ学びましたけども、今回のような現代の経済問題に関しても、同様に偏向教育、偏向報道がされていることがわかりました。私も学校の授業や、新聞テレビの報道を鵜呑みにせず、もっと自分で勉強しなければなりませんね。

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