
ホワイトハウスと決別し敵対もいとわない…トランプにたてつく米共和党の集団「YOLO派」の急速な台頭

トランプ流「忠誠政治」の代償
「ブローバック」(blowback)という英語は、砲撃時の「吹き戻し」を意味している。喩えて言えば、ドナルド・トランプ大統領によって頻繁になされる「他者への砲撃」は、その度に自らが吹き戻しにさらされて、想定外の結果や望ましくない反響につながる可能性がある。
いま注目されているのは、今年11月の中間選挙での共和党候補者を選ぶための予備選において、自身への絶対的な忠誠を求めるトランプの恣意的な候補者推薦という一撃が、現職上院議員の落選をもたらし、任期切れまでの数カ月間、彼らがトランプに反発し、復讐に燃えている現象である。トランプによる「砲撃」が自身への反動につながりかねない状況にある。まさに、ブローバックだ。
たとえば、テキサス州の共和党上院候補者の選出選挙では、選挙の直前、トランプは5月19日になって、「ケン・パクストンを偉大なるテキサス州の次期上院議員として、私は全面的に支持する」と自らのソーシャル・メディア(TruthSocial)に投稿した。これは、現職のジョン・コーニン上院議員(下の写真①)にとって大打撃であり、5月26日に勝利したのは、スキャンダルにまみれたテキサス州司法長官のパクストン(下の写真②)であった。彼は11月の中間選挙で、民主党候補ジェームズ・タラリコと議席を争うことになる。
トランプがコーニンではなく、パクストンを選んだ理由は、トランプへの忠誠心にある。コーニンは2021年の弾劾裁判でトランプを無罪とする投票を行ったが、その後、トランプが2024年の選挙では勝利できないと示唆し、「トランプ大統領の時代は終わった」とのべたことがある。2023年7月、トランプはコーニンとミット・ロムニー(ミシガン州上院議員)を名指しして、「彼らはどちらも弱く、無能で、共和党と我が国にとって非常に悪い存在だ。多少の腕前のある対立候補が現れれば、彼らは次の選挙で敗北するだろう」と書いた。「コーニンは、常に民主党にすぐに降伏し、彼らが望むものは何でも与えてしまう」、ともTruthSocialに投稿した。
これに対して、パクストンは、ペンシルベニア州、ジョージア州、ミシガン州、ウィスコンシン州における 2020 年の大統領選挙の結果を覆そうとする訴訟を主導し、バイデン政権を100回以上も訴えた。まるでトランプの「親衛隊員」のような人物だ(WPを参照)。
ただし、ご多分に漏れず、脛(すね)に傷がある。自身のスタッフが連邦捜査局(FBI)に通報したことを受け、職権乱用で不倫を隠蔽(いんぺい)したという汚職容疑で2023年5月、州下院によって弾劾された。それでも、上院では無罪になったという経験がある。
ほかにも、パクストンは、テック系スタートアップの投資家を詐欺した容疑で、州による重罪の証券詐欺の捜査も受けていた。彼は30万ドル近くの賠償金を支払って和解した。さらに、彼の妻は、弾劾手続きで明らかになった以上の彼の行動について詳しく知った後、「聖書的な理由」で彼と離婚している。それでも、トランプは自分への忠誠心をもつ人物を選んだのだ。
「YOLO派」の出現
実は、トランプのこうした「攻撃」が、共和党の上院や下院の議員のなかに、ホワイトハウスと決別する姿勢を強める議員を増やすというブローバックを惹き起こしている。そして、こうして生まれた人々の集団は、「YOLO派」と呼ばれる。
たとえば、5月20日付のAP通信は、「共和党内の「YOLO派」は少数派だが、勢力を拡大しつつある。これはトランプ大統領の議会での政策課題にとって、厄介な事態となるかもしれない」という興味深い記事を配信した。
「YOLO派」とは、正式な政党や公式の議員連盟ではない。これは、メディアが名づけた愛称にすぎないが、なかなか秀逸なニックネームなのだ。なぜなら、「YOLO」という言葉が予備選に敗れて引退を余儀なくされたり、引退を決意したりして、もはや政治的に「失うものは何もない」と感じている共和党議員の心情にぴったりだからである。
「YOLO」とは、「You only live once」(人生は一度きり)の略語であり、11月の任期切れまでの期間、トランプの意向は気にせず、是々非々の立場で最後の議員活動をまっとうしようという彼らの心境に近い。YOLOはそもそも、10年以上前にラッパーのドレイクによって広められた言葉であり、それ以来、好んでリスクを取る、吹っ切れた生き方を指すようになった。その後、パンデミックのなか、人生設計における優先順位が変わり、人々の生き方に変化が生まれていることについて、前向きに受け止めるようになり、YOLOが人口に膾炙(かいしゃ)するようになったのだ。
キャシディ氏も「YOLO派」
先のAPの記事は、5月20日時点で、ルイジアナ州のビル・キャシディ上院議員(写真③)がこのグループの最新のメンバーだと書いている。トランプが支援する対立候補に予備選で敗れたわずか数日後、キャシディは5月19日、イラン戦争に関する法案について態度を翻し、米軍の軍事行動を抑制するため民主党と共に賛成票を投じた。もう吹っ切れた彼は、残りの任期をYOLOの精神で活動しようとしているようにみえる。
共和党議員のなかには、元国土安全保障長官のクリスティ・ノームを激しく批判し、最近ではピート・ヘグセス国防長官に矛先を向けているトム・ティリス上院議員(ノースカロライナ州)がいる。彼は政治的な独立性から、しばしば「党の結束を破る」と評されている。引退予定はないが、「YOLO派」のような振る舞いをしている。
イランにおけるトランプの戦争権限を制限しようと民主党と協力したアラスカ州選出のリサ・マーコウスキー上院議員もいる。メイン州のスーザン・コリンズ上院議員とケンタッキー州のミッチ・マコーネル上院議員は、トランプの閣僚指名の一部に反対票を投じた。下院では、ネブラスカ州のドン・ベーコン下院議員が、関税に関する議会の権限を取り戻すよう働きかけている。
5月28日付のThe Economistによれば、任期満了を控えた共和党上院議員は9名おり、その多くは大統領と長年にわたる確執を抱えている。ケンタッキー州選出のミッチ・マコーネル上院議は2025年、翌年の再選を目指さないことを表明し、トランプを「卑劣な人間」(a despicable human being)と呼ぶなど、やりたい放題だ。
薄氷を踏む共和党
こうした状況にあるため、共和党の上院は薄氷を踏むような状況に置かれている。共和党は上院で53対47の議席を占めており、全上院議員が投票する場合、最終法案の採決で共和党議員の票を3票までしか失うことができないという現状にあるからだ。
たとえば、6月4日、ニューヨーク州選出の民主党上院議員で少数党院内総務のチャック・シューマーが提出した動議に対する採決が、最初に行われた。共和党が全体として重視する連邦移民取締機関への資金提供法案を委員会に差し戻し、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件で有罪判決を受けた者への賠償基金の創設を禁止する条項を追加するという内容だった。この動議は50対49で否決されたが、再選を控えた3人の共和党議員(前述したメイン州のコリンズ上院議員のほか、オハイオ州のジョン・ハステッド上院議員、アラスカ州のダン・サリバン上院議員)が民主党に賛同した。
司法省は、トランプが計画していた賠償基金の設立をこれ以上追求しないと表明している。それでも、この修正案は、共和党議員にこの問題について政治的に苦渋の決断を迫るための民主党の試みであった。
ただ、多くの共和党議員も、将来的にそのような基金が設立されないよう法的に明文化したいとの意向を示している。ゆえに、この基金に懸念を表明してきた共和党上院議員たちにとっては、この案を完全に葬り去るために提出したい修正案について、共和党指導部から確約を引き出すための好機ともなった(「ニューヨークタイムズ」を参照)。そのなかには、コーニン、キャシディ、マーコウスキー、ティリスといった「YOLO派」と目される上院議員らが含まれていた。彼らは全員、トッド・ブランシュ司法長官代行が下院で宣誓の下、賠償基金は永久に消滅したとのべた後もなお、議会が同基金を阻止するために断固たる措置を講じるべきだと示唆していた。
上院では採決中、共和党議員たちが議場内に集まり、この問題への対処法を深く議論したため、数時間にわたり審議が停滞した。コリンズは早い段階で「賛成」票を投じたが、前述した面々は、移民法案を軌道に乗せ続けるために動議に「反対」した。その代わり、賠償基金に対する立法措置が約束されたかどうかは判然としない。
いずれにしても、「YOLO派」の存在で、トランプが好き勝手な政策がとれない状況になりつつあるのはたしかだ。
ここで読者に思い出してほしいことがある。黒澤明監督の映画『生きる』だ。映画『生きる』で志村喬演じる市役所の市民課長の渡辺は、役人の事なかれ主義に染まりながらも、死を目前にしてその生き方に疑問をいだく。渡辺は住民が望む公園づくりに奔走する。その死を前に、公園のブランコで彼が口ずさんだのが「命短し恋せよ乙女」であった。
この渡辺の生き方こそ、YOLOそのものである。それは、米国の政治家だけでなく、どこの国の人にも共通する想いとなりうる。
命短し恋せよ乙女!


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