
TVが報じなかったパリ五輪のダークサイド。カネとルッキズムの祭典に漂う「持続可能性」とは真逆のオワコン臭
パリ2024オリンピックが11日の閉会式をもって閉幕した。オリンピック旗は2028年の開催地であるロサンゼルスに引き継がれたが、「次回の五輪が楽しみだ、という手放しの楽観はできない」と指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏だ。今回のパリ五輪でもいたるところで見られたという近代オリンピックの闇、「カネ」と「ルッキズム」の問題とは?(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
五輪は「ほぼ米国マネーの都合」だけで動いている
ですが、やはり競技の全体がアメリカという巨大市場のマネーで動いているというのは異常です。その金額については、具体的にはTVの独占放映権です。NBCが結んでいる契約ですが、現時点では「北京(冬季、2022)」から「ブリスベン(夏季、2032)」までの6回で77億5千万ドル(約1兆1230億円)に達します。夏冬ワンセットで約4000億ですから、途方もないカネです。ちなみに、日本の今回(北京+パリ)の放映権料はその10分の1の400億を払っています。
今後も続く、五輪「8月開催」という米国の横暴
いずれにしても、この米国マネー依存というのは、前回の東京大会の場合にも問題になりましたが、具体的には開催時期を縛ってくるという問題があります。NBCとしては、最大の広告収入を上げて、この投資を回収したいわけです。その際に障害になるのは、他のメジャーなスポーツとの日程の重なりです。
今後の五輪に必要なのは「アメリカのシェア低下」だ
日本の事情ですが、例えば日本の民放+NHKの放送権全体が今回の夏冬セットで400億円というのは、アメリカの国力と比較すると高すぎます。
https://www.nhk.or.jp/pr/keiei/otherpress/pdf/20191114.pdf
次回の「コルティナ・ダンペッツォ冬季」+「LA夏季」については、2019年の時点で475億円だそうです。当時のドル円が110円程度ですから、今の換算レート(147円)で計算し直すと、635億円です。NHKと民放の比率は、7対3になっているそうですが、どう考えても民放に夏冬で200億円出す余裕はあるのかは疑問です。
パリ五輪で目立った「スポーツとルッキズム」の大問題
問題はとにかく、セクシズムとルッキズムです。これは巨大な「闇」だと言えます。具体的には、全体的に男性も女性も「外見の感じの良い」選手が目立つようになっているということです。以前からその傾向はありましたが、自信をもってプレーするアスリートは美しく見えるという現象で説明できる範囲については、それはそういう現象だということですし、悪いことではないとも言えます。
ですが、今回はどうにも目立つように思うのです。では、どうして「見た目の良い」選手が多くなるのは問題かというと、実は深刻な背景があるのを感じます。それは、「美しい選手は意図的に作られる」ということです。それは、「スポーツの才能が見出された男女は整形手術をする」ということでありません。そういった動きはあるかもしれませんが、限られた範囲と思います。
だが日本は、あまりにも「カネ」がない
例えば、多くのメダルを獲得して日本選手団全体としては成果があったにもかかわらず、JOCとして優勝パレードは行わないという決定の問題があります。一部には、東京招致と東京開催成功を目指した時期には「パレードを行う理由」があったが、今はないという声もあります。
ですが、それも含めて資金不足ということは明らかです。資金がないので、警備を含めたコストを支えきれないのです。例えばスポンサー企業に頼ろうにも、東京五輪が残した「五輪とカネ」のマイナスイメージがある中では、積極的になれない企業も多そうです。
東京五輪の「2つの闇」は暴かれなければならない
2つの闇があると思います。1つは招致にかかったワイロであり、もう1つは本当の開催費です。どちらも現時点では藪の中であり、そこにメスを入れて全てをガラス貼りに解明しなければ、東京の闇は晴れません。
わが国は、国民の「五輪への信頼」を取り戻せるのか?
「招致工作に関して、恥ずかしいような犯罪的な行為を行った」
「マネジメントに失敗して、信じられないような損失を出した」
という2点です。この2つについては、徹底的に解明して関係者を処罰すべきです。そこでガラス貼りの解明ができて、関係者を処罰できれば、国民の五輪への信頼は回復するでしょう。

日本にカネがない!28年ロス五輪躍進に早くも暗雲…スポンサー離れ加速、競技団体は火の車
ただし、「国からの支援があっても、実際の台所事情は火の車、という競技団体は少なくないのが実情です」とスポーツライターの津田俊樹氏がこう続ける。
「例えば、スポーツ庁が定める重点支援競技のSランクに位置づけられるレスリングは、23年度の決算で約4400万円の赤字になっています。Aランクの陸上競技も、連盟の懐事情は厳しい。国からの支援体制に変わりはなくとも、多くの競技団体が21年東京五輪前後からのスポンサー離れに頭を抱えています。日本陸連は学生を含む一般競技者の年間登録料の値上げに踏み切っています。尾県専務理事は『スポンサー頼みだったが、今の収益構造では陸連の機能が止まってしまう』とまで言っている。
事業の縮小と合わせてどうにか当座をしのいでいるというのが現状です。東京五輪はコロナ禍による1年延期に加えて、組織委員会やスポンサー、広告代理店の電通などさまざまな不正、スキャンダルが露呈した。企業の五輪離れが加速し、スポンサー集めを担っていた電通が身動きが取れなくなったことも競技団体にとっては打撃となっている。各競技団体の財政を考えれば、4年後の28年ロス大会で、日本がパリと同じように躍進できるのか、不安要素が大きいのが実情です」
東京、パリとメダルラッシュに沸いた日本だが、ロスでは厳しい現実を突きつけられる可能性もある。

最終赤字額は2兆3713億円…汚職と談合にまみれた「2021年の東京オリンピック」がわれわれに残したもの
実際の経済効果はどうなっただろうか。ここでは学者の試算を取り上げる。関西大学の宮本勝浩名誉教授(国際経済学専攻)は東京オリンピック・パラリンピックの経済効果を約6兆1442億円と試算。これは消費の拡大や税収増などのプラス効果も勘案したものだという。
また、大会組織委及び国と東京都は合計約2兆3713億円の赤字を出したと試算した。この赤字の中には無観客開催で生じた入場料の逸失収入約900億円も含まれていた。
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