米もマグロも消滅!それでも日本が「他国ファースト経済」をやめない理由。食も文化も海外勢に「買い負ける」悲劇の戦犯

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米もマグロも消滅!それでも日本が「他国ファースト経済」をやめない理由。食も文化も海外勢に「買い負ける」悲劇の戦犯 - まぐまぐニュース!
トランプ米大統領を批判的に見ることが多い米国在住作家の冷泉彰彦氏。そのスタンスは今も変わらないが、たった1つ日本が学ぶべき“トランプ流”もあると指摘する。それが「自国中心主義経済」だ。日本は自国ファーストと真逆に突き進んだため、食も文化も海外勢に「買い負ける」状態になってしまった。このままでは私たちは美味しい

米もマグロも消滅!それでも日本が「他国ファースト経済」をやめない理由。食も文化も海外勢に「買い負ける」悲劇の戦犯

トランプ米大統領を批判的に見ることが多い米国在住作家の冷泉彰彦氏。そのスタンスは今も変わらないが、たった1つ日本が学ぶべき“トランプ流”もあると指摘する。それが「自国中心主義経済」だ。日本は自国ファーストと真逆に突き進んだため、食も文化も海外勢に「買い負ける」状態になってしまった。このままでは私たちは美味しい中トロを食べられなくなる。その「戦犯」は誰なのか。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:ジャパンファースト経済を考える

トランプ大統領の“無双状態”は当面続こう

アメリカでは、トランプ政権が発足して1ヶ月という短期間で、政府機関への大リストラ、疑問だらけの閣僚人事、ウクライナと中東問題を中心とした外交政策の転換が進んでいます。その内容はともかく、スピード感には驚かされます。

そうしたアメリカの現状を一言で言うのならば、「様子見」と言うことにつきると思います。政府のリストラは過激そのもので、当然に多くの訴訟が提起されています。また、多くの閣僚については、まったく疑問は解消していません。外交に関しては、本来なら徹底した議論が必要なはずです。

ですが、メディアは現時点では極めて静かです。民主党敗退の敗北感から静かになっているのかというと、確かにその要素はゼロではありません。ですが、本当のところを言えば、トランプ政権による改革もしくは破壊の速度が余りに速いために、「呆気にとられている」のと同時に「反動が来るのを息を潜めて待っている」のだと思います。

メディアだけではありません。議会も同様です。民主党は団結してトランプ氏の政策に反対しています。一方で意外なことに共和党の側も団結しており、どんなトンデモ人事でも、トンデモ政策でも今のところは丸呑み状態です。最初の「100日は蜜月」などという慣例もありますが、現在のトランプを取り囲む沈黙あるいは無双という状態は異様です。

ですが、裏返して考えれば、全員が我慢している、ジッと息を殺しているというのは、それだけ反対方向のエネルギーが少しずつ蓄積しているということを意味します。潮流に何らかの変化が起きるのであれば、一気に逆方向のトレンドが噴出することも十分にあり得ます。

問題は、仮にこの潮流に変化が起きるのなら、何が転換点になるのかということです。物価がどんどん上がり、インフレをコントロールできない場合に消費者が我慢できなくなるという可能性はあるでしょう。また、どこかの時点で株価が大きく下がる中で、消費や雇用にかげりが出てくる、そこが転換点になるということもあると思います。

あとは、大統領の健康状態です。非常に精力的に活動しているとはいえ、78歳という生理的年齢を無視することはできません。第一次政権と比較すると、自分のやりたいことをスイスイ進めているようにも見えますが、やっている内容は過激そのものです。大統領本人がまったくストレスを抱えていないはずはありません。

仮にトランプ氏本人に健康不安が出るようだと、現在進められている一連の動きが立ち往生する可能性は十分にあります。ですが、そうしたことが起こらない限りは、そして経済の破綻が起きない限りは、現在の「様子見」がまだまだ続くに違いありません。

日本がトランプ氏から学ぶべきたった1つのこと

さて、このトランプによる政界ジャック、いや国際社会ジャック現象は、日本にとっては非常に困った問題ではあります。関税の問題が1つ、そして武力行使による現状変更を追認しそうな点、何よりもロシアの軍事大国的行動を認めているように見える点など、日本にはダイレクトな脅威につながるマイナス材料ばかりと言えます。

ですがそんな中でも、あえて日本として1つだけトランプのアメリカに学ぶとすれば、それは「自国中心主義の経済」になるだろうと思います。

日本経済は「自国ファースト」とは真逆の状態にある

では、自国中心の経済とは何かというと、

GDPと国内の生活水準の改善に寄与する経済

ということに尽きると思います。

トランプ政権が多くの国を相手に引っかき回している「自国ファースト」は、まさにこの考え方に基づいています。

もっともトランプ氏の場合は、例えばメキシコで稼働している小型大衆車の大量生産ラインをアメリカ国内に移転しても、国民の喜ぶような雇用は実現しません。

なぜなら、アメリカの組合員の賃金を適用したら、ロボット化が進み、雇用の確保にはならないからです。また、高賃金の雇用を保証したら製品価格がインフレになってしまいます。仮にそうなって台数が出なくなれば、国内のディーラーや修理工場のメンテ売り上げに影響が生じてしまいます。

テック製品の製造拠点を国内に戻す話も同じです。

アップルは、このトランプ氏の方針に従うかのように、AI用のサーバ工場をアメリカ国内に建設して500ビリオン(75兆円相当)の投資をすると言っていますが、テスラのメガファクトリーと同じで、工場内はロボットだらけになるでしょう。

そうではあるのですが、仮にロボット工場になって、雇用創出は限られていても、ロボットを中心とした設備投資のカネは国内に落ちます

そのあたりの計算は、トランプ氏はともかく、イーロン・マスク氏などは行っているのだと思います。

そして日本は、この自国ファースト経済という点についてだけは学んだ方が良いと思います。なぜならば、日本経済は自国ファースト経済にはなっていないからです。

次ページから、「わが国のGDPを損なう経済空洞化」と「クールジャパン政策によって生じている買い負け」の2点について、より具体的に問題点を検討していきます。

(1)GDPを損なう空洞化~日本経済を海外に売り渡した「戦犯」

1つ目の問題は、空洞化です。今回、日鉄のUSスチール(USS)買収が問題となり、石破総理とトランプ大統領の首脳会談の話題にもなりました。日本国内でも大きな関心があります。

ですが、仮に日鉄がUSSを買って、経営の立て直しに成功したとしても、そこで生まれた利益が日本に還元されることはわずかだと思います。

何が起きるのかというと、USSを含めた日鉄の連結での業績がアップするだけです。その結果として株価は上がるかもしれませんが、株主の多くは外国勢だったりします。

つまり、日鉄と言う名前がついていても、海外で生産して海外で販売している場合は、その日本国内のGDPへの寄与は限られるのです。

自動車メーカーなどはその典型です。多くの場合は海外比率が80%前後になっています。ということは、どんなに頑張っても80%のカネは海外で回るだけです。株価も海外で形成されて、配当も海外に流れます。確かに設計図を書いたのは国内かもしれませんが、そのライセンス料は帳簿上は国内に計上されても、キャッシュは海外でグルグル回るだけです。

同じような話として、エレクトロニクス関連の中国での生産がどうとか、欧州で大規模な鉄道車両の受注があったとかいうのもそうです。後者の場合は公共事業ですから、必ず現地生産が義務づけられるわけで、結果的に日本のGDPにはなりません。

とにかく、GDPを優先するという発想は、日本発の多国籍企業にはないし、その親睦団体である財界にもありません。そして、その財界の支援を受けている自民党も危機感が薄いと言えるでしょう。

政治家ということでは、例えば、日本経済が斜陽になっても、いつまでもODAを止められないのは、キックバック利権があるというだけではないともいます。何よりも、ODAを持って政治家が対象国を訪問すると歓待される、これが政治家の醍醐味と言うことになっている可能性があり、だからこそ止められないのだと思います。

現地生産も同じです。企業そのものは、よりコストを圧縮して為替変動を避けることができるので海外進出して、市場となる国や地域で現地生産をするのは合理的です。ですが、例えばアメリカのある州から「工業団地を造成するので、ぜひ日本のメーカーに」などと誘致を受けると、企業だけでなく政治家もホイホイその州に出かけて起工式に参加して、チヤホヤされるのです。

そう考えると、この空洞化は政財界の共犯関係によって生じているとも言えます。何が「犯罪」なのかというと、国内雇用がどんどん切り捨てられる点です。そんな中で、国内に残るのは逆に零細企業によるネジとか素材関連の利幅の薄い産業が主となり、そこでは日本人のフルタイムの給料が払えないので海外研修制度を悪用したりしています。

その全体の構造がおかしいのだと思います。例えばですが、最先端の半導体製造、最先端の半導体製造マシンの製造などでは、かつては日本は世界一だったのです。ですが、現在はそのノウハウは消滅してしまいました。

何が問題なのかというと、ユーザーの多くは英語で仕様の相談をするし、極めて高度な製造工程の管理は「英語のできる理系人材」が必要なのに、日本の場合は極端にこれが薄いからです。

ホイホイと儲かっている部分を外に出すからには、より最先端の、より高付加価値の産業を国内で養成しないといけないのですが、政財界が一緒になって、これをサボってきたわけです。この問題を根底からひっくり返すような「ジャパン・ファースト」経済の発想が何としても必要だと思います。

日本型の絶望的な空洞化、つまり「外に出したら何も残らなかった」という流れは、失われた35年の間、一直線に進んできました。もう断ち切る時期だと思います。

(2)クールジャパン政策により日本の「買い負け」が生じている

2つ目の問題は、大間違いのクールジャパン政策です。空洞化放置、教育改革先送りの中で、日本国内では先端産業がどんどん消滅していきました。その結果として、現在は、大卒50%の高学歴社会であるにも関わらず観光立国などという政策が進んでいます。

私は観光業の強化には反対しません。富裕層向けの5つ星のホテルは、シティもリゾートも、和風旅館もまったく足りないし、ビジネスチャンスをどんどん逸しています。その一方で、おいしい部分は外資に奪われている、これは絶対に何とかしなくてはならないと思います。

オーバーツーリズム問題も、新幹線の荷物スペースを増やし、観光地にゴミ箱を増やし、民泊の規制緩和をするなど対策をすればいいと思います。インバウンドはもう少し増えても良いし、経済効果はダイレクトにGDPになるので現在の150%ぐらいまではいくだろうし、そこまでいっていいと思っています。

しかし問題は、そこではありません。クールジャパンのいきすぎで、日本人が日本のライフスタイルを維持できなくなっている、これが問題なのです。日本の文化は素晴らしいです。食文化も、工芸品も、おもてなしも素晴らしいのです。それが海外に「バレてしまう」ことで、日本に人が押し寄せてカネを落としてくれる、そこまでは基本的に日本経済にはプラスです。

ですが、いったん寿司の魅力にとりつかれた外国人は、自分の国に戻っても寿司を食べます。おいしいジャポニカ米(短粒米)の味を知ってしまったら、自分の家でも食べたくなります。そうしたトレンドが加速すると、米もマグロも高騰してしまいます。その結果として、日本は国として買い負けてしまい、日本人が日本の食生活から排除されることになります。

包丁などの工芸品もそうですし、例えば面白い日本のTVドラマは、外資の制作が主流になると、カネを払ってサブスクを買っていない人は排除されるようになります。つまり、いきすぎたクールジャパンの結果、買い負けが生じて、日本人が日本文化や日本式のライフスタイルから排除されてしまうことになります。

これは大問題です。

完全に国家の設計ミス、日本国民ばかりが損している

対策はただ一つ、「日本の経済全体が負けないこと」です。

買い負けによる排除は、非常に悔しいですし、そもそも日本の文化の良いところを、「ここまで海外にバラしてしまった」こと自体が失敗だと言えます。

ですが、では、隠せば良かったのかというと、そういう問題でもないと思います。

そうではなくて、先進国、つまり日本にインバウンドとして来るG7や欧州、オセアニア、東南アジア諸国のすべてに日本経済が独り負けしている、この状態が問題なのです。

自分の国の文化について、とりわけ食文化について買い負けが起きるというのは、完全に国家の設計ミスとしか言いようがありません。

この点だけは、声を大きくして叫びたいと思います。これは完全に政財界のミスだと。そしてそうしたミスを放置したまま、能天気に「クールジャパン」などとやっていたのは、自分も含めて猛省が必要だと思っています。

繰り返しますが、日本の経済における、これほどまでの「GDPを損なう空洞化」「自国の文化への買い負け」は大問題です。

この2つを徹底的に見直し、批判し、乗り越えるためには、あまり気が進みませんが、トランプ氏の言う「自国経済ファースト」というスローガンを発奮材料にしないといけないのかもしれません。

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