
著名投資家レイ・ダリオが予測する「アメリカ内戦」の現実度。バイデンが退きトランプが咆えるとき世界を襲う大混乱

米大統領選挙の大きな混乱が続いている。バイデン降ろしの圧力は強いものの、バイデンは頑強に抵抗し、候補者としてとどまる意思をはっきりと表明している。世界最大のへッジファンドの創設者、レイ・ダリオはこれからアメリカは内戦の混乱期になるとの見通しを出している。(『未来を見る! 「ヤスの備忘録」連動メルマガ』より)
激しくなるバイデン降ろしとバイデンの抵抗
相変わらず激しいバイデン降ろしの要求が続いている。リベラルな主要メディアや民主党の下院議員など、バイデンに大統領候補を辞退するよう要求する声は時間を経ることに強まっている。
大統領選挙では任期が2年の下院がすべて改選されるので、共和党に勝てる見込みが非常に低いバイデンを推していては、民主党が下院で議席を減らす可能性がある。これを避けるためには、バイデン以外の候補に変える以外にないという認識が強まっている。
最近では、バイデン降ろしの声はアメリカを代表する知識人にも広がっている。
ノーベル賞受賞者で「ニューヨーク・タイムズ」のコラムニスト、ポール・クルーグマンが、バイデン大統領は「正しいことをする」べきであり、カマラ・ハリス副大統領を支持するために選挙戦から降りるべきだと語った。
先月のテレビ討論会でバイデンは、トランプの「奇妙で威嚇的な」振る舞いを前にして「冷静で安心させる」絶好の機会を得たが、彼は「そのテストに完全に失敗した」とクルーグマンは書いている。
今後、このようなバイデンに候補者の辞退を迫る声は、アメリカを代表する知識人や有名人で増えることが予想される。
一方、内外から候補者辞退を迫る声の増大にもかかわらず、バイデンは大統領選を戦い抜き、二期目を務める意志が固いことを明らかにしている。7月8日に行われた「MSNBC」のインタビューに応じたバイデンは、自分は「どこにも行かない」と述べ、再選キャンペーンを続けることを誓った。
インタビューでバイデンは、自分の一期目の業績を評価し、トランプに勝てるのは自分だけだと強調した。バイデン降ろしの声は日増しに強くなっているものの、どうなるかはまだ分からない。7月21日の民主党首脳部による「民主党委員会」でバイデンの擁立が改めて宣言されるかもしれない。
しかし他方、アメリカの著名な政治監視サイト「ジュディシャル・ワッチ」によると、来週あたりにバイデンが候補者を降りるか、大統領職を辞任して、ハリス副大統領が大統領となり選挙戦を戦うとの情報もある。情勢はまだどうなるのか分からない。流動的である。
トランプの動き
そうした中、トランプの支持率が上昇している。いまトランプは約4ポイントほどバイデンをリードしている。トランプはバイデンを引き離しつつあり、追い風に乗っている状況だ。
このような状況で共和党は、「プラットフォーム2024」というトランプの政策綱領を発表した。
かねてからトランプ陣営は、「アジェンダ47」という綱領を発表しているが、「プラットフォーム2024」はトランプ陣営の「アジェンダ47」を共和党全体の綱領として、一段階アップグレードしたものである。
内容的には「アジェンダ47」と基本的に同じである。ということでは、この綱領は共和党全体がトランプ党になったことを示している。以下が「プラットフォーム2024」の項目だ。
【プラットフォーム2024】
(1)国境を封鎖し、移民の侵入を阻止する。
(2)アメリカ史上最大の強制送還作戦を実行する。
(3)インフレを終わらせ、米国を再び手ごろな価格にする。
(4)米国を世界有数のエネルギー生産国にする!
(5)アウトソーシングをやめ、米国を製造大国にする。
(6)労働者に大幅な減税を実施し、チップには課税しない!
(7)憲法、権利章典、そして言論の自由、信教の自由、武器を所持する権利を含む基本的自由を守る。
(8)第3次世界大戦を阻止し、ヨーロッパと中東の平和を回復し、わが国全土を覆う巨大なアイアンドーム・ミサイル防衛シールドを構築する。
(9)アメリカ国民に対する政府の兵器化を終わらせる。
(10)移民犯罪の蔓延を阻止し、外国の麻薬カルテルを解体し、ギャングの暴力を粉砕し、凶悪犯罪者を監禁する。
(11)ワシントンD.C.を含む都市を再建し、安全で清潔で美しい都市を取り戻す。
(12)軍隊を強化・近代化し、間違いなく世界最強・最強の軍隊にする。
(13)米ドルを世界の基軸通貨として維持する。
(14)定年年齢の変更を含め、社会保障と医療を削減することなく守り抜く。
(15)電気自動車の義務化を中止し、高コストで負担の大きい規制を削減する。
(16)批判的人種論、急進的ジェンダー・イデオロギー、その他不適切な人種的、性的、政治的内容を子どもたちに押し付ける学校への連邦政府資金を削減する。
(17)女性スポーツから男性を締め出す。
(18)ハマス過激派を国外追放し、大学キャンパスを再び安全で愛国的なものにする。
(19)同日投票、有権者の身分証明、紙の投票用紙、市民権の証明など、選挙の安全を確保する。
(20)新記録レベルの成功をもたらし、国をひとつにする。
「プロジェクト2025」との関係
一方、このメルマガでは何度か紹介した「プロジェクト2025」がある。
これは保守系シンクタンクの「ヘリテージ財団」が発表した保守政権に向けた詳細な政策綱領だ。「アジェンダ47」の実施マニュアルという位置付けになっている。
7月5日、トランプは自身のSNSで「プロジェクト2025」について「私はまったく知らない。彼らとは何の関係もない」と述べ距離を置く姿勢を示した。トランプが大統領選挙で返り咲けば、大統領権限を強めると危惧する無党派層や共和党穏健派に配慮したものと思われる。
しかし「プロジェクト2025」と共和党が発表した「プラットフォーム2024」の両方を見ると、両者は基本的に非常に類似しており、ほとんど同じような内容であることが分かる。
「プロジェクト2025」の執筆者は前トランプ政権の閣僚や高官、そして現在のトランプ陣営の中心的な人物が多い。
また、「プロジェクト2025」はワシントンの官僚制を入れ替える人材をトレーニングするための訓練コースも提供している。
「プラットフォーム2024」を実行するためには、現在のワシントンの官僚の多くを入れ替える必要がある。そうした人材の供給源は、「プロジェクト2025」が開設した官僚教育コース以外にはない。
このような点を考えると、トランプが選挙に勝利し、トランプ政権が成立すると、「プロジェクト2025」の計画は、結局は実施される見込みが非常に高いように思われる。
一見すると状況は静か
さて、いまトランプに敗退することを恐怖した民主党の一部によるバイデン降ろしが活発化する中、支持率を伸ばし新しい政策綱領を発表した共和党は、トランプへの結束を強め、勢いに乗り始めている。
民主党の首脳部は、これに恐怖している。一種のパニックになっていると言ってもよい。
しかしながら、今回の大統領選挙では、2020年の大統領選挙に見られたような暴力的な対立は、いまのところ見られない。
2021年1月6日の「連邦議会議事堂乱入事件」のようなアメリカの民主主義の崩壊を思わせるような事件も起こっていない。
今回の大統領選挙戦は比較的に静かなように見える。
2020年には内戦の危機と、アメリカ第2革命の可能性が叫ばれ、極右団体の激しい活動が見られたが、今回はまだそうした事態にはなっていない。一見、穏やかそうに見える。
しかし、コントロールできないような波乱は、これから起きるとする予測も実は多いのだ。
アメリカの国内でこれから何が起こるのか見るためにも、こうした信頼できる予測を見ておくことは重要だ。
レイ・ダリオの内戦への警告
そうした中、世界最大のヘッジファンド、「ブリッジウォーター・アソシエーツ」の創業者、レイ・ダリオの予測と警告が注目されている。
ダリオは、歴史の反復するサイクルをもとにして、アメリカの覇権の衰退と、中国の台頭の必然性を説き、それを回避する方策を提案した本、「Changing World Order」でベストセラーとなった作家でもある。

「Changing World Order」によると、覇権の転換には250年のサイクルがあり、その移行期は10年から20年だという。そして移行期は、新興勢力との対立期になるとしている。
ちなみに、覇権国の盛衰と転換を決定するパラメーターには次に8つがあるとしている。
【盛衰を決定する8つのパラメーター】
(1)教育
(2)テクノロジーとその開発力
(3)世界市場における競争力
(4)生産力
(5)世界貿易のシェア
(7)軍事力
(8)資本市場の金融力と準備通貨の強さ
よい教育は高いテクノロジーと開発力をもたらし、国際的な競争力が上昇する。その結果、生産力は高まり世界貿易のシェアも拡大する。それは大きな軍事力の基礎となり、その国の金融センターがグローバルなセンターになる。その結果、その国の通貨が基軸通貨になる。
これらの8つのパラメーターは上昇期には相互に強め合いながら一層強くなるが、下降期には逆になる。
楽観シナリオを捨てたダリオ「これから第6段階の内戦と革命に入る可能性が高い」
これらのパラメーターから見ると、覇権国は次の6つの期間を経過して繁栄から衰退に向かう。
【覇権国が繁栄から衰退に向かう6つの期間】
(1)平和と繁栄
(2)金融バブルと格差の拡大
(3)バブルの崩壊と景気後退
(4)通貨の印刷と信用の拡大
(5)財政悪化と紛争
(6)革命と新しい覇権国による世界秩序の再構築
このステップからみると、現在のアメリカはステップ5の末期にあるとした。アメリカの内戦と革命を回避するためには、内部分裂の基本的な原因となる極端な格差を是正できる政策の実施が急務であるとしている。
この本の内容は、第747回のメルマガに詳しく書いた。この本ではアメリカが内戦と混乱に向かう途上のステージ5にあるとしながらも、これから国民を統合できる政治家と党が出てくれば、破滅的な内戦になることはギリギリで回避できるはずだとしていた。
この本が出版されたのは2020年である。しかし、少し前の6月25日にダリオは――(メルマガ2024年7月12日号より一部抜粋)
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