
みのもんたさんは「日本最大のタブーを暴露して消された」!? 若者世代が「特別会計の闇」とみのさんの“遺言”に注目するワケ

先月、80歳でこの世を去ったみのもんたさん。そのみのさんに関して、「特別会計の闇を暴露したことでテレビ界から消された」との説が浮上し、動画サイトで大いに注目されている。実態を調査していた国会議員が不審死を遂げるなどいまだ分からないことが多く、タブー視されることも多かった「特別会計」。心理学者の富田隆教授(駒沢女子大)は、「少なくとも、テレビよりもネットをよく見る40代以下の若い世代にとって、この“闇”を論じることはもはやタブーではなくなった」と指摘する。(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
みのもんたさんは、日本最大のタブーに斬り込んで「消された」のか?
先月80歳で亡くなったフリーアナウンサー、タレントの「みのもんた」さんについて、「『特別会計の闇』というタブーを暴露したことでテレビ界から消されたのではないか?」との見方が浮上し、関連動画がYouTubeで話題になっています。
その動画は2016年の『報道ステーション』。当時メインキャスターだった古舘伊知郎さんが降板した第1期最終回に、みのもんたさんがゲスト出演した際のものです。
この日、普段は軟派(?)な性格のみのさんが珍しく政治の話題、それも当時タブーとされていた国の「特別会計」について語り始めたのです。
彼は、国家予算の倍にも及ぶ200兆円規模の「特別会計」を、各省庁の役人が好き勝手に使っていると糾弾しました。さらに、この闇に光を当てるためには、国会に公認会計士を何人も送り込んで、使い道を徹底的に調べるべきだ、と提案したのです。
いまだブラックボックスの中にある「特別会計」の複雑怪奇
「特別会計の闇」については、以前からまるで都市伝説か何かのように、陰謀論めいた話として囁かれていました。使途不明金やずさんな会計処理、さらには「埋蔵金」といった噂話も絶えません。
さらに、これを調査していた国会議員が不審死を遂げるといった事件まで起きました。
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各方面から批判が殺到したことで、ようやく数年前から、その「透明性」を高めるための取り組みが始まりました。
しかし、財政規模があまりにも大きく多岐に渡り、さらに金の流れが複雑怪奇で、部外者にはさっぱり分かりません。
結果、いまだにほとんどが「ブラックボックス(Black box 内部構造の不明な「暗箱」) 」状態のままになっています。調べ始めると、あたかも巨大な迷宮のようで、闇は深まるばかりです。(次ページに続く)
みのさんが暴露。国民に隠された「特別会計」の不都合な真実
「特別会計」とは、国の基本的な行政サービスに使われる「一般会計(これが新聞などに載るいわゆる予算です)」とは別に、特定の事業や目的のために運営される独立した会計、つまり「目的別の財布」のようなものを指します。
たとえば、国債の償還や利払いのための会計(国債整理基金特別会計・160兆円前後)、年金や医療保険など社会保障制度の運営に関わる会計(社会保障基金特別会計・60兆円以上)、再生可能エネルギーや原子力政策に関連する費用 (エネルギー対策特別会計・数兆円)、東日本大震災などの災害対応費用 (災害復興特別会計・約2兆円)など、何十種類にも及びます。
国から地方に回されるお金(地方交付税・交付金特別会計)も、この「特別会計」に組み込まれていて、年間約16兆円前後のお金が動きます。すべて合わせると、凄い額になりますね。
マスコミによる“教育”のおかげで、私たちは新聞などに載る予算、すなわち「一般会計」だけが国の予算のすべてであるかのように思い込んでいます。ところが、「一般会計」よりも上述の「特別会計」のほうが、実は金額的にはるかに大きいのです。
ちなみに、2024年度の「一般会計」が112兆円であるのに対して、「特別会計」は総額で約460兆円、重複分を除いた「純計」で190兆円にのぼります。
その財源は、私たち国民や企業が支払った「保険料」や電気料金の一部として払っている「賦課金」、さらに国債発行で得た国の借金、これらに加えて「一般会計」から回される補助金(税金・30~40兆円!)などが元となっています。
ですから、実際に国の財政で動いているお金の大部分は「特別会計」にあると言っても良いでしょう。
それにもかかわらず、国会では形式的にこれを「承認」するだけで、その使い道について詳細に議論されることはないのです。膨大な額の「特別会計」は実質上「国会フリーパス」です。結果、各省庁に「丸投げ」ですから、お役人の使いたい放題ということになります。(次ページに続く)
みのもんたさんは「特別会計」の何に怒っていたか?
「特別会計」もまた、形式的には国会の「予算委員会」で審議されるのですが、実際の審議時間は「一般会計」に比べて極めて短く限定的です。「特別会計」に特化した議論はほとんど皆無で、審議時間の99%は「一般会計」が中心となっています。
「一般会計」のほうがメディアでも注目される派手な「花形」だからです。まれに「特別会計」が審議される場合でも、「一般会計」予算と「一括」して審議されることが多く、特別会計単独での詳細な審議は行われていないのが現状です。
そもそも、日本の「予算委員会」では、一般会計予算についてさえ、充分な議論がなされているようには見えません。
森友学園とか、桜を見る会とか、いわゆる政争の具となる週刊誌ネタを無理矢理予算に結びつけては取り上げ、野党議員が政府を相手に大見栄を切って見せる猿芝居の場に、国会が堕しているのです。
「予算委員会」の名が聞いて呆れます。こうした狎(な)れ合いの“プロレス”に使う時間の何分の一かでも「特別会計」に関する真面目な議論に使っていれば、この国の官僚機構はもう少し風通しのよい清廉なものに変わっていたはずです。
しかし、現実はその逆です。
あの動画で、みのさんたちが憤(いきどお)っていたのは、政治家たちの腐敗が官僚機構の「独善独裁」を許し、特別会計の闇を深めることに寄与しているからなのです。
この30年、G7などの諸外国に比べ、日本の国民の給与が一向に伸びず、横這いのままなのも、財務省をはじめとする官僚組織の独善独裁が続いた結果です。
そして、みのさんたちは、日本のマスコミが「世の木鐸(よのぼくたく:社会に警鐘をならし、ビジョンを示すもの)」としての役割を果たすことなく、国民に「大切なこと」を伝えることができなくなっている現状にも憤っていたのです。(次ページに続く)
みのもんたさんが「権力を裏切った」理由を推察すると
新聞にせよテレビにせよ、志を失ったマスコミというのはしょせん、権力の手先です。新聞などが掲げるイデオロギーの看板はあてになりません。
たとえ、朝日や毎日のように社会主義的な左翼のポーズを取っていても、読売や産経のように自由主義的な保守のポーズを取っていても、それは、あくまでも固定読者に向けての表面的なサービスであり、“ラーメンのどんぶり”のようなものに過ぎません。
中味は似たり寄ったりで、大切な根本の部分では、この国の権力と足並みを揃えているのが実情です。
残念ながら、マスコミの現実の姿は権力の一部であり、プロパガンダ(propaganda:宣伝)機関そのものです。
ですから、戦時中は大本営が発表する日本軍勝利の報道を一斉に垂れ流し、先年の新型コロナのパンデミックに際しては、mRNAワクチンの有効性と安全性をこれまた異口同音に喧伝(けんでん:世間に言いふらすこと)していたのです。
時代が変わっても、マスコミがプロパガンダ機関であることに変わりはありません。変わるのは、彼らがタッグを組んでいる相手、時の権力中枢です。
ですから、「ほぼ官僚による独裁状態」が続く近年の日本において、「特別会計の闇」といった話題はタブーにされてきたのです。「特別会計」は、官僚たちが自在に権力を振るうために必要なエネルギー源だからです。
長年、マスコミの中で仕事をしてきたみのさんは、それが危険なタブーであることを充分知っていました。
しかし一方で、水道メーターで有名な株式会社「ニッコク」の経営者でもあったみのさんは、社会の現実を見る目も鋭く、政治や官僚機構の仕組みも理解していました。
世の中を動かすお金の流れについても、よく分かっていたはずです。
ですから、戦時中に威勢の良い「大本営発表」を読み上げていたアナウンサーが、心の中では「本当は、負け戦(いくさ)だ」とつぶやいていたように、みのさんもまた、この国の支配構造とお金の流れについて真実を語りたかったのではないでしょうか。
ただ、マスコミの中心でお仕事を続ける以上、普段はそんなことはおくびにも出せません。(次ページに続く)
みのもんたさんは「消された」のではなく「私たちに未来を託した」
YouTubeでは、みのさんが「特別会計の闇」について、本当のことを番組で語ったからテレビ業界から消されたのだと解説しています。
しかし、私には別の物語が見えます。
2016年当時、体調の衰えを自覚し、そろそろ引退を覚悟していたみのさんが、視聴者への最後の「遺言」として、「特別会計の闇」を暴露したのではないでしょうか。
それは、アイゼンハワー大統領(Dwight David Eisenhower 1890-1969)の退任演説に似ているかもしれません。
第34代アメリカ合衆国大統領アイゼンハワー氏は、退任に臨む最後の演説で、「今、この国を動かしているのは、産業界と軍隊が結びついた軍産複合体(Military-industrial complex)だ」という爆弾発言を残したのです。
これも、大統領という重い職責を肩から降ろした最後の演説だからできたことです。彼が任期中に、ずっと心の底に抱えていたアメリカのタブーを、最後の最後に口に出したのです。
優秀な軍人としてノルマンディー上陸作戦を成功させ、英雄となったアイゼンハワー氏は、タブーを恐れず、米ソ冷戦の中でアメリカが今抱えている危険性について正直に語り、後任のケネディ大統領(John Fitzgerald Kennedy 1917-1963)に国の運命を託したのです。
その後、ケネディ大統領は、ソ連との軍拡競争を平和的な宇宙開発競争へと昇華するために「アポロ計画(有人月探査計画)」を立ち上げます。
みのさんのあの発言が一種の「遺言」であったと仮定するなら、古舘伊知郎さん最後の『報道ステーション』での対談は、みのさんが心の底に抱えていた「未来へのメッセージ」を語るのにぴったりの舞台だったことになります。
危ないタブーに敢えて挑戦したのは、報道畑で奮闘していた古館さんへの餞(はなむけ)という意味もあったのでしょう。(次ページに続く)
みのもんたさんの「遺言」が日本の若者に与える影響とは?
あれから10年近い月日が流れ、みのさんも天国へと旅立ちました。
奇(く)しくも、経済学者の森永卓郎さんによる「遺言」のような書籍『ザイム真理教』がベストセラーとなり、官僚機構の頭目である財務省の前には、連日、千人を越えるデモ隊が押し掛け、「財務省解体」を叫んでいます。
とはいえ、私の知人の財務官僚は立派な善人ばかりですし、彼らが悪いとは思いません。
しかし、あまりにも強大な権力が財務省のようなひとつの官僚機構に集中してしまえば、結果的に独裁状況が生まれます。これは官僚個人の良心の問題ではなく、巨大な「官僚システム」そのものが孕(はら)んでいる欠陥なのです。
一例を挙げれば、歳入も歳出もひとつの官庁が担当するといった権力集中的な構造は、必ず独善的な「悪」を生み出します。デモ隊が「財務省解体!」と叫ぶと少々過激に聞こえますが、過度な機能の集中を分割し、権限を分散するという意味なら、確かに「解体」の必要はあるのです。
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そうすれば、「増税」を成功させた官僚でなければ出世できないといった財務省の歪んだ体質も変わるでしょう。
もちろん、各省庁に丸投げの「特別会計」についても、AI技術を駆使して透明性を高め、国会における議論を通して無駄を省き、効率化と節約に務める必要があります。まずは、もっと調査に関わる専門家を増やし、国会において権限を強化するべきです。
今、テレビよりもネットをよく見る40代以下の若い世代にとって、「特別会計の闇」を論じることは、もはやタブーではなくなりました。少なくとも彼らには、この国の権力の在り処(ありか)が見えています。だから、財務省にデモをかけているのです。
さらにその智慧(ちえ)で、自分たちが搾取されている仕組みについても、おいおい明らかにしていくことでしょう。
みのさんの「遺言」は、現体制を支えている内部の人間であっても、様々な「矛盾」に気付いており、機会さえあれば「何とかしたい」と願っているという事実を示しています。
そして、お役人様たちが思っているほど、民衆は愚かではありません。人々の声に素直に耳を傾ければ、我らが日本の未来も決して暗くはないのです。
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(メルマガ『富田隆のお気楽心理学』4月18日配信号「遺言?」より抜粋。この号の他の記事(「自然?」「人畜無害?」)もお読みになりたい方はご登録ください。初月無料です)
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