オールドメディアに代わってゼレンスキーの「化けの皮」を明かそう

前回の拙稿「ウクライナ各地でついに始まった「反ゼレンスキー」大規模デモ」で紹介した反ゼレンスキーデモは、いまでも小規模ながらつづいている(下の写真)。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領による二つの反腐敗機関、すなわち国家反腐敗局(NABU)と特別反腐敗検察(SAPOまたはSAP)を事実上、骨抜きとする法律の制定に激怒する人々の怒りは、そう簡単には収まらない。
(出所)https://www.pravda.com.ua/eng/news/2025/07/27/7523674/
ゼレンスキー大統領のねらいは、自分およびその周辺人物への捜査を避けるために、NABUやSAPOを自分の息のかかった検察庁の支配下に置いて捜査を妨害することであった。贈収賄事件を握り潰そうとする行為は民主主義の蹂躙(じゅうりん)そのものだ。だからこそ、7月26日付の「フィナンシャル・タイムズ」は、今回の暴挙によって、大統領は「民主主義の台座から転げ落ちた」と的確に指摘している。
もちろん、欧州連合(EU)も反発し、7月26日付の「ニューヨークタイムズ」は、「EUは7月25日に、総額45億ユーロ(1ユーロ≒170円、以下同)の基金から15億ユーロの支払いを保留するとのべた」、と報じた。この減額は、ウクライナ支援基金の第4回トランシェ(部分支払い)に関するもので、全トランシェの支出に必要な16の改革のうち三つ((1)地方分権改革、(2)汚職その他の犯罪に由来する資産の発見・追跡・管理のための機関[ARMA]改革、(3)汚職防止高等裁判所の裁判官の選出に関する問題)を実施できなかったため、計画よりも少ない資金しか受け取れないことになったのである。ただし、これは、今回のゼレンスキーによる暴挙とは直接的には関係していない。事実、27日、ゼレンスキーは、ARMA改革に関する法律に署名した。
問題は、28日付のドイツの「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(FAZ)の報道の方だ。「EU委員会は、ウクライナに対しすべての財政支援を停止する可能性を警告した」と報じたとのである。7月29日付の「エコノミチナ・プラウダ」は、「7月24日、EU代表は外交ルートを通じてスヴィリデンコ(首相)政府に、ウクライナへのすべての資金援助を停止すると通告した」と報じた。政府、外交界、議会の4人の独立筋によって確認された情報だという。そのうちの一人は、「事態が解決するまで、すべてが保留になった」と語った。
停止されたのは主に、凍結されているロシアの国家資産から得られる特別な収益を活用した特別収益前倒し融資(ERA)(ウクライナが2025年末までに受け取る予定だった約200億ドル)のEU負担分や、欧州復興開発銀行、欧州投資銀行からの融資に関するものである。なお、前述した15億ユーロの減額は、「ウクライナ・ファシリティ」と呼ばれるEUによるウクライナへの財政支援にかかわるものであった。
いずれにしても一時停止を解除してもらうためには、ウクライナはNABUとSAPOの検事総長からの独立性を回復しなければならない。同時に、ウクライナ経済安全保障局(BEB)長官人事の任命も条件となっている。閣僚会議は、NABUの刑事オレクサンドル・ツィヴィンスキーを経済安全保障(BEB)局長官候補の任命を拒否したという前科がある。BEBは、税金の未納について捜査でき、この捜査を通じて、国会議員、高級官僚、裁判官などの有力者の腐敗を糺す機関だけに、NABU出身の者がトップに立つことをゼレンスキーは明らかに妨害したのだ。
正反対の新法案の審議は7月31日
ただ、ゼレンスキーは、英国のキア・スターマー首相らの進言を受け入れて、NABUとSAPOを事実上骨抜きにする法案が成立した22日から2日後の24日夜、今度は、「NABUおよびSAPOの権限強化のためのウクライナ刑事訴訟法およびウクライナの一部立法行為の改正に関する法律案」を議会に提出した。新法案は、反汚職機関に独立性を回復させるもので、物議を醸した法律を事実上廃止するものらしい。
ただし、ロシアの影響力疑惑の問題に対処するために、一つの重要な追加事項が加えられている。これまでとは異なり、機密情報にアクセスできる法執行機関の職員は、少なくとも2年ごとにポリグラフ(ウソ発見器)検査を受けることが義務づけられる。
ここで注目されるのは、「ゼレンスキー議員、「復讐」の恐れから汚職防止機関の復活に難色を示す」という記事を「フィナンシャル・タイムズ」が26日に報じたことだ。ウクライナの指導者に近い3人の人物によると、与党「国民奉仕者」の70人もの議員が、22日の新法の撤回に不安を示しているというのだ。それほど、NABUによる自分たちの腐敗摘発を恐れているというわけである。
ゼレンスキー政権の悪辣さ
今回の暴挙によって、戦争のために目を瞑(つむ)ってきたゼレンスキー政権の悪辣さを明るみに出す動きもある。先のFTは、(1)大統領選挙と議会選挙は戒厳令下で合法的に延期されたが、国民統合政府をつくろうともせず、決定について野党と協議しようともしなかった(独裁的な政権運営)、(2)有能だが独立心旺盛な役人は、イエスマンやウーマンに取って代わられた(新首相になったばかりのユリア・スヴィリデンコ[戦争中でありながらファッション誌『ヴォーグ』の写真撮影に応じた人物]が典型)、(3)人気が出すぎた閣僚は脅威とみなされる(閣僚ではないが、人気の高かった軍総司令官ヴァレリー・ザルジニーは駐英大使に異動)、(4)テレビ局は政府公認のニュース速報を流すことを強制され、自由な意見交換を阻害している、(5)他の報道機関のジャーナリストは圧力や脅迫に直面する(前回の拙稿で紹介したヴィタリー・シャブニンの逮捕)、(6)批判的なメディアの報道はロシアの情報操作として否定される(NABOやSAPOにもロシアの影響があるから廃止に舵を切るとゼレンスキーは説明したが、「EU委員会は反腐敗当局に対する措置の背景にロシアの影響はないとみている」、と前述したFAZが報道)――などを挙げている。
ほかにもまだまだたくさんある。ゼレンスキーは意図的に制裁対象者リストに「政敵」を収載してきた。元大統領で野党の一つを率いるペトロ・ポロシェンコがその典型である。さらに、最近では、大統領を批判する書籍『ジョーカー。ウラジーミル・ゼレンスキーの真の政治的伝記』を執筆した政治学者コンスタンチン・ボンダレンコも制裁対象とした。ボンダレンコは、この著作の出版後にリストに載せられもので、明らかに批判を許さないというゼレンスキー政権の怖さを示している(ただし、ポロシェンコもまた反政府的言動を認めない恐怖政治を実践していた)。
ほかにも、市民権の剥奪という強権を行使している。2025年7月、ゼレンスキーは、ゼレウクライナ正教会のトップであるキーウと全ウクライナのオヌフリイ大主教の市民権を抹消した。ウクライナ保安局(SBU)によると、オヌフリイ大主教は「2002年に自発的にロシア国籍を取得」したが、そのことをウクライナ当局に報告していなかったという。当局は、ウクライナ憲法第25条が「ウクライナ市民は市民権を剥奪されず、市民権を変更する権利を有する」と明記しているにもかかわらず、このような措置を講じているのだ。これがゼレンスキー政権の実態なのだ。
イェルマーク大統領府長官の咎
ここで、ゼレンスキー政権における腐敗の蔓延についても書いておこう。実は、1年以上前の昨年6月25日付で拙稿「もはやここまで…汚職で腐りきったウクライナ政府の実情を全暴露する」において、ウクライナの腐敗のひどさについて紹介したことがある。あるいは、2023年4月刊行の拙著『ウクライナ戦争をどうみるか』の「第三章 ウクライナ側の情報に頼りすぎるな」では、第二節で「腐敗国家ウクライナ」について詳述した。128頁には、「ウクライナの腐敗状況」という表までつけておいたので、関心のある読者はぜひご覧いただきたい。
ここでは、アンドリー・イェルマークが長官を務める大統領府が「伏魔殿」となり、腐敗が横行してきた事実について説明しよう(なお、イェルマークとゼレンスキーとの関係については拙稿「ゼレンスキー大統領を操る「ウクライナのラスプーチン」の正体」をぜひ読んでほしい)。2020年2月にこの地位に登りつめた彼は、翌月、弟デニスの問題で、早くもNABUとSAPOと対決した。
2020年3月31日付の「ウクライナ・プラウダ」によると、2020年3月、与党「国民奉仕者」のゲオ・レロス議員は、NABUに、大統領府長官の弟デニスが「役職を売買」している様子を撮影したビデオを添付した申し立てを提出し、兄アンドリーの汚職関与について調査を行うよう要請した。この動画には、ある個人を政府機関の特定の職位に採用する交渉を行っている様子が映っており、提案された役職には、キーウ税関、インフラ省、ウクライナ鉄道などの役職が含まれていた。デニスは、自身が公開された動画に映っていることを認めたが、同時に、その動画は改竄(かいざん)され、一部が切り取られ、フレーズが削除されていると主張した。
結局、イェルマーク兄弟は不正行為の告発を否定し、2021年春、NABUはこの腐敗事件を終結せざるをえなかった(「キーウ・インディペンデント」を参照)。おそらく、この一件がイェルマークを鍛え、腐敗し放題の環境を生み出したのではないか。逆に、NABUやSAPOはイェルマークの腐敗体質を心に刻み、報復を誓ったに違いない。
「大統領府」対NABU
大統領とNABUの遺恨は、イェルマーク長官が2020年夏、(親ロシア派の)ヤヌコヴィッチ元大統領時代に内務省の主要捜査局長として物議を醸したオレフ・タタロフを副長官に任命する人事につながる。タタロフは法執行システムに関する責任を与えられ、それがNABUと大統領府との関係を緊張に導いた。
それでも、2020年、NABUはタタロフ副長官を、元議員マクシム・マイキタスの代理として法医学専門家に25万フリヴニャ(約150万円)の賄賂を渡した罪で起訴する。この事件は、ゼレンスキーの子分であるイリーナ・ヴェネディクトワ元検事総長、ウクライナ保安局(SBU)、ウクライナの腐敗した司法当局によって妨害され、事実上破棄された。
さらに、同年、オレクシー・シモネンコ副検事総長(当時)は裁判所の判決を口実に、タタロフ事件を独立したNABUから大統領管理のウクライナ保安庁(SBU)に移管する。その後、シモネンコはタタロフ事件を担当する検事団を交代させ、事件を妨害しようとした。
2021年、裁判所はタタロフ事件の捜査延長を拒否した。シモネンコの部下である検事たちは、裁判にかける期限に間に合わなかったことで、この事件を事実上葬り去ったのである。その結果、タタロフはいまでも副長官のポストに居座っている。
他方で、イェルマークによるタタロフ偏重は、2019年9月から副長官のアンドリー・スミルノフを追い詰める。NABUは昨年、スミルノフを不正蓄財で、今年4月にはマネーロンダリングと賄賂受領で起訴するに至る。昨年3月には、副長官を解任された。つまり、イェルマークが守る対象ではなくなっていたことになる。
同じく、2019年5月から大統領府副長官だったキリロ・ティモシェンコも、2023年1月に大統領府を去った。約10万ドル(約1500万円)相当のポルシェ「タイカン」を乗り回していた彼は、汚職を疑われていた。
まだ他にもある。ゼレンスキーはロスティスラフ・シュルマ大統領府副長官を、ウクライナ戦争中の昨年9月に解任したのである。発端は、ジャーナリストによる調査報道で2023年8月、シュルマの兄弟の会社が、ウクライナ政府からロシア占領地域における太陽光発電所建設のための再生可能エネルギー補助金として資金を受け取っていたことだった。合計で3億2000万フリヴニャ(約11億4000万円)以上を不正に受け取っていたという。
それにもかかわらず、ロスティスラフ・シュルマは居座りつづけた。彼が解任されたのは、昨年になって、シュルマがウクライナ全体の経済に過度の影響を及ぼしているとして、制裁を科すことを米国務省が検討しはじめたためであると言われている。ゼレンスキーはシュルマの解任を余儀なくされたのだ。
辞任後、3人の子供の父親であるシュルマはウクライナを離れ、本格的な侵攻がはじまってから家族が住んでいたドイツに向かった。ロスティスラフ・シュルマの弟オレフ(検察庁直員だった)も、3人目の子供が生まれた後に出国した。彼は前述したNABUとSAPOの取り扱っていた事件の被告でもある(「ウクライナ・プラウダ」を参照)。
これらの情報が事実であるとすれば、ゼレンスキー政権は刑事被告人に甘く、戦争忌避に対しても恣意的な差別待遇を行っていると言えるだろう。
ゼレンスキーが焦った本当の理由
前回の拙稿で、NABUの刑事が無人機製造に手をつけたために、NABUが虎の尾を踏んだと紹介した。この件をもう少し具体的に説明してみたい。
ゼレンスキー大統領の最も親しい友人の一人で、Kvartal-95スタジオの共同経営者ティムール・ミンディッチが渦中の人物だ。今年6月初旬、NABUはウクライナから逃亡しようとしていたミンディッチの親族を拘束した。彼は6億6400万フリヴニャ(約23億6000万円)相当の横領で告発されている。そして、ここ数カ月、ミンディッチの名前はドローン生産の文脈で活発に言及されている。
さらに、NABUの刑事がミンディッチのアパートを盗聴したことも知られている。オレクシー・ゴンチャレンコ議員は自らのフェイスブックにおいて、7月25日、NABUが大富豪ゲンナジ・ボゴリュボフ(有名なオリガルヒ、イホル・コロモイスキーのビジネスパートナー)のアパートからミンディッチのアパートに穴を開けた話を書いている。「彼のアパートはミンディッチの部屋の上にあり、そこからミンディッチのアパートに穴を開け、盗聴することができた」というのである。(逆に、ミンディッチの住居が上にあり、ボゴリュボフの部屋が水浸しになる出来事が起き、ボゴリュボフの住居部分を修理した間、盗聴したという説もある)。盗聴期間が数カ月にすぎなかったのはそのためかもしれない(別の情報では、3カ月で、「ゴンチャレンコによれば、ミンディッチのアパートは「影の大統領府のようなもので、そこで武器売却の契約、エネルギー分野での賄賂、企業の搾取、どの大物実業家が制裁下に置かれたまま派遣されるかを話し合っていた」という)。
それでも、「ミンディッチとゼレンスキーの下で起こっているすべての汚職について、多くの有益な情報が得られることを願っている」、と議員はのべている。この話が真実であれば、ゼレンスキーの化けの皮が暴かれるかもしれない。だからこそ、暴挙に出たという推測が可能だ。
沈黙するトランプのねらい
7月29日の段階で不気味なのは、ドナルド・トランプ大統領がこのゼレンスキーの暴挙に沈黙を守っていることである。常識的に考えれば、ここで紹介したようなゼレンスキー政権の内幕を知れば、ゼレンスキーなる人物に肩入れする理由はないはずだ。とくに、7月23日に公開した拙稿「これがウクライナの「現実」…ゼレンスキー大統領追放のカウントダウンが始まった!」に書いたように、「もしゼレンスキーがオフィスを去ることを拒否すれば、おそらくそうなるだろうが、ある米政府関係者は私にこう言った:『彼は力ずくで追放されるだろう。ボールは彼のコートにある』」、という著名なジャーナリスト、シーモア・ハーシュの見立てが正しければ、もはやトランプ政権はゼレンスキーを完全に見放していることになる。
そうであるならば、7月28日、なぜトランプは、「今日から 10 日から 12 日程度を新たな期限とするつもりだ。待つ理由はない」とのべ、今月初めにウラジーミル・プーチン大統領に、ロシアが 50 日以内に和平合意に同意しない場合、「非常に厳しい関税」を課すと警告していた期限を前倒しすることにしたのだろうか。
その理由は現段階ではよくわからない。いずれにしても、ゼレンスキーの化けの皮はすでに露わになりつつあり、彼を相手にしなまま、いかに停戦・和平にもち込むかが新しい課題になりつつあるように思われる。残念ながら、不誠実なオールドメディアが偉そうにしている欧米や日本では、そう報じてはいないが。



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