
中国に見限られた日本。グローバルサウスへ目を向け「極東の隣国」を軽視する習近平

中国の脅威に対抗すべく、我が国でも声高に叫ばれた「対中包囲網」の構築。しかしながらその構想は今、脆くも崩れ去ったと言っても過言ではないようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では多くの中国関連書籍を執筆している拓殖大学教授の富坂さんが、中国包囲網はすでに形骸化しているとしその理由を解説。さらに今や習近平政権が日本を完全に軽視しているとも取れる証拠を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:やはり「中国包囲網」は完成できなかったバイデン外交の総決算
「中国包囲網」など夢のまた夢。トランプと習近平に軽視され翻弄される日本
日本のメディアが「中国包囲網」「価値観外交」だと大騒ぎしたのは、もう10年以上も前のこと。第2次安倍政権がスタートした直後である。
いわゆる「世界地図を俯瞰(ふかん)する外交」であり、具体的にはTPP(環太平洋連携協定)の推進などだ。もちろん、そんな非現実的な目標が達せられるわけはなく、数年後には、むしろ中国との関係修復に動くことになった。
ここ数年、日本の一部には、一度は潰えた「中国包囲網」の夢が、バイデン政権によった成し遂げられるのでは、という強い期待が広がっていたようだ。
バイデン政権は日本、オーストラリア、インドと安全保障などを協議する枠組みQUAD、イギリス、オーストラリアの3カ国でつくる安全保障の枠組みAUKUS、そしてTPPに代わる「インド太平洋経済枠組み」(IPEF)などを次々と立ち上げ、中国の台頭に対抗すると喧伝してきたからだ。
中国はこれに強く反発。米中首脳会談の度に大統領が「同盟関係の強化を通じた中国への対抗を図らず」(2024年11月18日、リマでの首脳会談など)と発言するアメリカの「言行不一致」を取上げ非難し続けた。
来年1月、ドナルド・トランプが再び大統領に返り咲くことが決まり、アメリカの対外政策も大きく変化することが予測されている。
なかでも大きな特徴の一つが「同盟軽視」であり、同盟国は備えを迫られている。
だが、仮にカマラ・ハリスが大統領選に勝利し、バイデンの外交路線を引き継いでいたとして、中国包囲網は完成したのだろうか。実は、極めて怪しいのだ。
すでに形骸化していた「中国包囲網」
対中包囲網の要のインドは今夏の総選挙の時点で盛んに中国との関係修復の必要性を強調し始め、実際、10月にロシアで開催されたBRICS首脳会議を利用し、およそ5年ぶりとなる中印首脳会談を実現させた。
また、もう一つの重要国・オーストラリアのアルバジーニ政権は、スタート時から中国との関係改善に積極的に動いた。
イギリスは自国経済の立て直しに必死で、アジア太平洋どころではない。
つまりトランプが返り咲くか否かに関係なく、対中包囲網は形骸化していたのだ。
ジョセフ・バイデンにとつて仕上げの外交とも評されたアフリカ訪問において、その現実がより顕著になった。
アメリカの公共放送PBSの『NEWSHOUR』(12月4日)は「Competing in Africa」というタイトルでバイデン大統領のアンゴラ訪問を伝えた。
キャスターは、アメリカがアンゴラに6億ドルを投資して、アフリカへのコミットを続ける意思を示したと伝えた。
バイデン政権の投資の目的はアンゴラからザンビアの一部を通過してコンゴまで続く鉄道の建設だ。
グローバルサウス全般で存在感を示す中国
興味深かったのは、番組がその6億ドルのアメリカの投資規模を中国と比較して以下のように嘆いたことだ。
(6億ドルの投資)とはいっても、中国が2023年に投資した217億ドルと比べると雀の涙です。中国はこの20年間、サハラ以南のアフリカ諸国にとって最大の貿易相手となり、輸出先の20%を占めるまでになっているからです。輸入品の主なものは重金属、鉱物、エネルギー。中国はこれまでの24年間で、アフリカの53カ国に対し、合計1,820億ドルを投資しています。
要するに、中国のアフリカへの食い込み方に比べれば、アメリカが簡単に存在感を高めることは難しいというわけだ。
実際、今年行われた中国─アフリカ会議に際し、中国は「中国企業がアフリカ各国で新規建設や改修に参加した鉄道は合計1万キロメートルに達し、道路は10万キロメートル、橋梁は1,000本、港湾は100港、送変電網は6万6,000キロメートル、基幹通信網は15万キロメートル」と胸を張った。
こうしたアフリカでの存在感は、いまではグローバル・サウス全般に向けたものになりつつある。
そのことは11月13日から21日まで、APEC(アジア太平洋経済協力)非公式首脳会議、ペルーへの国賓訪問、G20サミット、ブラジルへの国賓訪問を一気にこなした習近平の外交に如実に表れている。
トランプシフトの裏で対中関係でも微妙な調整を迫られる日本
そんななかトランプ再登板後の立ち位置が難しくなるのが、日本である。
まずトランプがメキシコとカナダからの輸入品に対して25%の関税をかけると予告したことで、日本の自動車メーカーがダメージを受けることは避けられない事態だ。同時にトランプは、新日本製鉄のUSスチールの買収にも改めて「NO」とSNSで発信したのである。
さらにトランプシフトの裏側で、中国との関係も微妙な調整を迫られている。
中国がいま、先進国との関係にも増してグローバル・サウスに目を向けていることはあらためて触れるまでもないが、その傾向は日本軽視という特徴を通じて対日本にも帯びつつある。
分かりやすいの日中首脳会談の位置づけの変化だ。
習近平がAPECで会談した首脳は日本だけではない。同じタイミングで6カ国の首脳との会談をこなし、中国中央テレビ(CCTV)が夕方のニュース『新聞聯播』でそれを報じているのだが、問題はその順番だ。
韓国の尹錫悦大統領がトップ。続いてチリのガブリエル・ボリッチ大統領との会談が流れ、3番目にタイのペートンターン・シナワット首相。4番目にシンガポールのローレンス・ウォン首相と来て5番目にニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相。そして6番目にやっと石破首相だったのだ。
CCTVの報道は、国の重要度や関係の好悪など総合的に判断される。つまり中国がいまどの国をどの程度重視しているのかが一目瞭然なのだ。
言論NPOの調査でも中国国民の日本に対する感情もいよいよ悪化が顕著となった。
これは本当に日本人が望んだ結果なのだろうか。
(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2024年12月8日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録ください)
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