「重いダンベル」と「軽い風船」の違いを本気で考えてみたら…アインシュタインの相対性理論にたどりついた「深すぎるワケ」

「重いダンベル」と「軽い風船」の違いとは?
前の記事で紹介したW粒子、Z粒子、物質素粒子。これらに質量を与えているのは、素粒子の標準理論に組み込まれたヒッグス機構という仕組みです。ただし実は、原子核を構成する陽子や中性子の質量は、ヒッグス機構で与えられているのではありません。では、陽子や中性子に質量を与える仕組みとは? 本記事では、あらためて質量とは何かという話をします。
重いダンベルと軽い風船。2つの違いは、どこからくるのでしょう。それを考える前に、まずは「重い」というのがどういうことかを考えてみましょう。

私たち自身の体はもちろん、地球上の物質はすべて重力によって地球に引き付けられています。重い物質は強く、軽い物質は弱く。つまり、重さとは重力の働く強さだと考えてもよさそうですね。実際、ニュートン博士の万有引力の法則によれば、すべての物質には質量に比例した大きさの重力が働きます。地上では、物質の質量とそれに働く重力の間に比例関係があり、比例定数を「重力加速度」と言います。中学や高校の理科で、「9.8メートル毎秒毎秒(9.8m/s²)」という数字が出てきたのを覚えている人もいることでしょう。
地球から遠く離れた宇宙空間ではどうでしょう。あるいは宇宙ステーションの中のような無重力状態が実現している場所では、質量をどうやって決めればいいのでしょう。重力のない世界で質量を体感するには、その物質を押してみればいいですね。質量の小さい物質は楽に動かせるのに対して、質量の大きい物質を動かすには大きな力を必要とします。すべての物質には「慣性の法則」が成り立っていて、静止した物質は静止したまま、ある速度で動いている物質はその速度のままにとどまろうとするのです。慣性の大きさはその物質の質量に比例するので、その物質を加速するために必要な力に応じて質量を定義することができます。
通常、「質量」と言うときは、後者のように慣性を通じて定義されるものを指すことが多いです。これを「慣性質量」と呼びます。ただし以下で述べるように、この慣性質量は、重力に関わる質量である「重力質量」とも密接に関係しています。
質量の「正体」とは?
アインシュタイン博士の特殊相対性理論は、時間と空間について、さまざまな驚くべき予言をしています。高速で移動している宇宙船では時間がゆっくり進む、というのもその1つです。ここでは、特殊相対性理論が質量について何を予言するか考えてみましょう。
慣性の法則は、「運動量の保存則」と呼ばれることもあります。運動量、つまり質量と速度の積は、時間がたっても変わらない、つまり保存されます。速度がゼロならゼロのまま、ある速度ならその速度のままにとどまる、ということになります。でも、運動量は、その物質のもつ固有の性質ではありません。それを見る人によって異なるからです。高速で飛ぶ宇宙船の運動量は、地上から見ると非常に大きなものになりますが、宇宙船に乗って一緒に動いている人にとってはゼロのままですね。

運動量は観測する人がどう運動しているかによって異なり、それらの関係は特殊相対性理論が教えてくれる通り、「ローレンツ変換」と呼ばれる操作で結び付けることができます。ローレンツ変換の驚くべき特徴は、空間的な座標と時間とが互いに絡み合っていることで、このおかげでさまざまな驚くべき性質が導かれるのです。ここではその一例を紹介しましょう。ローレンツ変換は、空間座標と時間を混ぜるのと同じように、運動量とエネルギーを混ぜます。
ある速度で運動する物質は決まった運動量をもちますが、その物質と同じ速度で動く観測者にとっての運動量はゼロですね。しかし、両者を関係付けるローレンツ変換によれば、運動量はエネルギーと混ざるので、運動量ゼロのこの物質もあるエネルギーをもつことになります。これが静止した物質がもつエネルギー、つまり静止エネルギーです。その大きさは質量に比例します。エネルギーEを静止質量mに関係付ける、E=mc²というアインシュタイン博士の有名な公式です。ここでcは光速を表す定数。つまり、質量とは静止した物質のもつエネルギーということです。
エネルギーこそが重力の源
アインシュタイン博士は、ここからさらに考えを進めました。質量、つまりエネルギーと重力との関係はどうなっているのか。ニュートンの万有引力は質量に比例して働く力でしたが、特殊相対性理論によって質量とは静止した物質のエネルギーに相当することがわかったのです。そうであるなら、重力もエネルギー、そしてエネルギーと混ざる運動量に働くことになります。
ここでは一般相対性理論について詳しく解説することはできませんので、関係する結果だけを述べます。アインシュタイン博士の一般相対性理論に現れる重力の源は、エネルギーと運動量です。これらが空間を曲げ、曲がった空間の中を走る物質は、あたかも重力を感じているかのように運動するのです。曲がった空間こそが、重力の正体だということです。

ここにきて、2つの異なる質量、重力質量と慣性質量の関係が見えてきました。慣性質量はエネルギーとみなすことができます。そのエネルギーが重力の源になっているのです。そういうわけなので、両者は相対性理論を通じて深く結び付いているということになります。
コメント