
一番「きれいな音色」の楽器は何? 「音波」の正体に迫る!
「心地よい音」と「雑音」の違いとは

大好評! ブルーバックス『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』(志村史夫・著)に惜しくも収録されなかった「波」についてお届けする短期集中連載!
第2回の今回は、「波」は「波」でも「音波」に注目! 楽器の音はなぜ美しく聞こえるのか、もっとも美しい音色の楽器は何なのか。今回は「音波」のふしぎを徹底解剖します!
【過去の連載】
第1回:身近で体感!「波」を知りたければ「野球場」と「釣り堀」に行こう!
「音」って何からできてるの?
私たちの周囲には、さまざまな「音(おと)」がある。というより、深海や宇宙空間のような特別の場所へいかない限り、私たちが「音」と無縁になることは不可能であろう(じつは、深海や宇宙空間にも、それなりの「音」があるのだが)。
私たちにとって「音」は空気と同様に「あって当たり前」の存在であり、ふだん、それについて深く考えるようなことはしない。
好むと好まざるとにかかわらず、私たちの耳にはさまざまな音が聞こえる。高い音、低い音、大きな音、小さな音、美しい音、耳障りな音……、などなどである。では、聞こえ方が違うこれらの音は、いったい何が異なっているのだろうか?

さまざまな音を考えるうえで基本となるのが、波の「形」である。音の「聞こえ方」には多少の個人差があるものの、基本的には高低、強弱、音色によって決まる。
そして、それぞれを決めるのは振動数(あるいは波長)、振幅、波形である。これらを、音の三要素という(図1)。

図中のa、bは、三要素のうち二要素が同じ音である。それぞれの音を1a、1b、2a、……、3bと名づけると、たとえば、3a、3bの音では、高さ(振動数)と強さ(振幅)は同じだが、波形が異なるために音色が違う(本当は「音色が異なるので波形が違う」)。
また、物理的には高さ(振動数)と強さ(振幅)が同じでも、音色が異なれば、私たちの耳に同じ高さ、同じ強さの音に聞こえるとは限らない。
特に、実際に聞こえる音の強さは、音の好みに依存するであろう。たとえば、嫌いな音は、それが物理的には弱いものであっても、感性的には強く聞こえるに違いない。
楽器の音の波形を見てみよう
音楽とは「音を楽しむこと」であり、「音の芸術」である。そのような「音」を発する器具が楽器である。オーケストラにはさまざまな楽器があるが、世界の民族楽器を加えたら、楽器の種類は相当な数にのぼるだろう。
異なる楽器からは、その楽器特有の異なる音色の音が発せられる。それらの音のオシロスコープで表された波形の一例を図2に示す。

耳に快い音は規則性のある美しい波形を持っている。それに対し、雑音(一般的には不快な音である)の波形には図3に示すように規則性がない(だから雑音なのである)。

さまざまな楽器は、打楽器、弦楽器、管楽器などに大別されるが、結局、音を発するもの、つまり「振動するもの」が何かによって分けられることになる。
一般に、楽器として「振動するもの」は弦、膜(板)、棒あるいは気柱(管の中の空気)のいずれかである。ピアノやパイプオルガンは鍵盤楽器とよばれるが、前者では弦が、後者では気柱が振動して音を出す。
ちなみに、リード(reed)は日本語(漢字)では「簧(した)」と書かれるが、これは「笛の舌」の意味である。アコーディオンやハーモニカは、金属製薄片のリードの振動がもとになって音を出す楽器である。

オカリナの「驚くべき」波形
私事で恐縮だが、2003年の初秋、北海道・屈斜路湖近くのアイヌ・コタンで開かれた「鎮魂祭」で偶然出合った、日本を代表するオカリナ奏者・本谷美加子(ホンヤミカコ)さんに自作の曲を聴かせていただいたとき、まさに「自然のささやき」のようなオカリナの音に私は癒され、「一目惚れ」ならぬ「一耳惚れ」した。

それが高じて約5年間、本谷さんの協力のもとに「究極のオカリナ」を求め、「オカリナの音の科学的研究」に没頭した。その研究成果は「応用物理学会」で何度か発表し、「オカリナの科学的研究──科学と芸術の融合」(CrystalLetters,No.37,Jan.2008)としてまとめた。また、その具体的成果は2007年、イタリア・ミラノの国立ヴェルディ音楽院のプッチーニ・ホールでのオカリナ・コンサートで本谷さん自身によって披露された。
さまざまな「変わった」研究をしてきた私ではあるが、私がオカリナの研究を始めて最初に驚いたのは、オカリナの音の波形が図2に示した音叉の音の波形とまったく同じことだった(以下に図4として再掲する)。

オカリナの音の波形は他の楽器の音の波形と異なり、きわめて単純であり、純粋無垢の美しさを持っていた。
私がオカリナの音に、それまでに経験したことがないような癒しを感じ、「一耳惚れ」したことに合点がいったのである。
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