身近で体感!「波」を知りたければ「野球場」と「釣り堀」に行こう!

科学論
身近で体感!「波」を知りたければ「野球場」と「釣り堀」に行こう!(志村 史夫)
物理の「波」を知るカギは「釣り」と「野球」!? 物理がわからなかったオジサンも、この2つからなら「波」がわかるかも! 短期集中連載、第1回!

身近で体感!「波」を知りたければ「野球場」と「釣り堀」に行こう!

波の不思議に迫る、集中連載第1回!

絶賛発売中のブルーバックス『いやでも物理が面白くなる〈新版〉』(志村史夫・著)。
光や電気、力など、「物理学の基礎」とよべる項目をわかりやすくお伝えするこの本ですが、じつはページ数の都合で惜しくも紙の本では収録できなかった項目がありました。

その項目とは、「波」。

3週連続でお届けする本連載では、同書の電子版だけに収録された「波」の項目から、選り抜きの内容を特別に公開しちゃいます!
第1回の今回は、水が巻き起こす文字どおりの「波」についてご紹介!

「波」って何なの? どう生まれるの?

池やプールの中に小石を投げ込むと、その小石の落下点を中心にして、同心円状の波紋が拡がっていく。石が水面に落ちたときに跳ねて飛んだ水滴が、それぞれ新たな同心円状の波紋をつくるようすも見てとれる。

同心円状に広がる波紋 Photo by gettyimages

誰もが経験的に知っている現象だが、波がどのようにして発生するのか、あらためて考えたことはないのではないか。私たちは(特に、「おとな」は)「当たり前のこと」を深く考えたりしないものである。

誰でも、小さい頃にロープの端を持って手を動かし、地面の上で波や輪をつくって遊んだ思い出があるだろう。図1のようにロープの端を持ち、手を上下にひと振りすると、その上下運動がロープに伝わって一つの波が生じ、それが前方(図では右方向)に進行していく。

図1 ロープを振ってできる波

手の上下運動を規則正しく続ければ、山と谷の起伏が規則正しく繰り返された連続的な波が生じ、前方へ伝わっていく(図2)。

図2 連続してロープを振ったときの波

波とはある場所の状態の変化が次々に隣の場所に伝わっていく現象のことであり、波は「何か」の振動によって発生する。つまり、波は振動が伝わる現象である。そして、その「何か」を媒質という。

釣りの「浮き」から見る波のヒミツ

さて、読者の中には釣りが好きな人も少なくないだろう。私自身、かなり長いあいだヘラブナ釣りに熱中していた。

釣りには浮きを使うものと使わないものがあるが、浮きを使う釣り、特にヘラブナ釣りのような場合には、浮きの微妙な動きを読み取ることが重要である。

浮きが作る波紋 Photo by iStock

水面の浮きのことを思い浮かべてみよう。浮きは、どのような動きをするだろうか?

水面の波は同心円状に進行していくので、媒質である水そのものが中心から外側へ移動していくように思える。したがって浮きも、その水に運ばれて外側へ動いていくと考えたくならないだろうか?

ところが、釣りの経験者ならば誰でも知っているように、浮きは移動することなく、水面の波の山と谷に応じて上下運動(振動)を繰り返すだけである。これは、浮きの下におもりがぶら下がっているからだろうか。

そうではない。

たとえば、ピンポン玉のような軽いものを水面に浮かべた場合を考えてみよう。ピンポン玉も、やはり波の進行方向に移動することはなく、同じ場所で上下運動を繰り返すだけである。波の動きとピンポン玉の動きとの関係を調べるために、図3で異なった時刻(t1t4)におけるピンポン玉の位置と、進行する波との関係を考えてみよう。

図3 ピンポン玉の位置と波との関係

時刻t1のとき、ピンポン玉は波の山の位置にある。時間の経過とともに、つまり波の進行とともに、ピンポン玉の位置は時刻t4で谷の位置に達する。この後、ピンポン玉は逆の動きをして山の位置に戻る。

水に浮かぶピンポン玉は上下運動(振動)を繰り返すだけで、波の進行方向に移動することはない。このことは、ピンポン玉を支える水自体が、波の進行方向に移動することなく、その場で上下に振動しているにすぎないことを意味している。

つまり、水面の波の媒質である水そのものが上下に振動しており、その振動のようすを表しているのがピンポン玉、というわけである。

波の本質は「野球場」にあった!

とはいえ、波乗り(サーフィン)のような遊びがあり、波が勢いよくサーフボードを運ぶようすを思い浮かべると、波の媒質自体が進行しているわけではない、といわれても、すぐには信じがたいかもしれない。

そこで、野球場やサッカー場でよく見かける「ウエイビング」(それは“waving”で、まさに「波」そのものである)のことを考えてみよう。

競技場をびっしり埋めた観客が順次、立ち上がって「バンザイ」をすることによって、あたかも海の波のような「波(ウエイブ)」が競技場の観客席を伝わっていくように見えるのが「ウエイビング」である。

ウエイビングをする観客 Photo by gettyimages

図4に示すように、帽子をかぶった人が一列に並び、左側から規則正しく順次立ったり座ったりすれば「ウエイブ」が生じる(「バンザイ」をしながら立ったり座ったりすれば、いっそう「ウエイビング」の感じが出るだろう)。

図4 ウエイビングによって生じる波

このとき、図3のピンポン玉に相当する帽子の動きに注目すると、波の本質が理解しやすい。ウエイビングを起こす「媒質」は人だが、観客席にいる人自体が波の進行方向に移動するわけではないことは明らかである。

そして、一人一人の観客の帽子が、それぞれの観客の位置で上下に振動している。図3には1個のピンポン玉しか描かれていないが、これは、図4で一人の観客の一つの帽子しか描かれていないことに相当する。

波とは、「振動が伝わる現象」だから、一人の観客だけでは「ウエイブ」は起こせない。

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