「スターマー英首相関連連続放火事件」の背景に「停戦すれば財政が傾く」欧州の事情

いま、英国で話題となっているのは、キア・スターマー首相の影の部分である。それは、放火事件に関連している。
スターマー関連の「三つの放火事件」
5月20日付のNYT(ニューヨークタイムズ)によると、スターマー英首相に関連する二つの不動産と車の火災で、2人目の男が起訴された。
最初の放火は8日に起きた。スターマーが以前所有していた車が、北ロンドンのケンティッシュタウンで放火されたのである。11日には、同じくロンドン北部のイズリントンで、スターマーがかつて住んでいた物件から出火した(下の写真を参照)。12日未明、昨年までスターマーと家族が住んでいたケンティッシュタウンにあるスターマーの私邸の玄関先で小さな火災が発生した。
5月17日にロンドン北部のルートン空港で逮捕された、ウクライナ生まれのルーマニア人、スタニスラフ・カルピュク被告(26歳)は、最初に起訴された21歳のウクライナ人、ロマン・ラヴリノヴィッチ被告と共謀し、4月17日から5月13日の間に放火を行なった罪に問われている。ラヴリノヴィッチはロンドン南東部のシデナムに住んでいたが、すでに起訴されている。事件の3人目の容疑者として、19日に逮捕された34歳の男が拘留されている。ただ、警察は名前を明かしていない。
5月21日付の英国の「インディペンデント」は、「ウクライナ人2人とルーマニア人1人の計3人が、首相に関連する住宅への放火で起訴された」と報じた。
「テレグラム」によると、不審火の容疑者は、ウクライナ西部のイヴァーノ=フランキーウシク州出身の21歳のロマン・ラヴリノヴィッチ、ウクライナ南西部、ルーマニア国境沿いのチェルニフツィ州出身の26歳のスタニスラフ・カルピュク、3人目は34歳のウクライナ人、ペトロ・ポチノクだ(下の写真を参照)。3人はロンドン在住で顔見知りであった。
ラヴィノヴィッチは、自分自身を「モデル志望」で、どんな仕事でも時給20ポンド(イギリスの最低賃金は時給約13ポンド)で承諾すると書いているという。カルピュクもラヴィリノヴィッチと同様、建設現場でアルバイトをし、有名モデルになることを夢見ていたらしい。さらに、「テレグラム」はつぎのような未確認情報を流している。
「イギリスのソーシャル・ネットワークでは、スターマーが彼らを知っていたとされる噂があり、彼らはエスコートやレンタルボーイと呼ばれている。そして、その少年たちは、スターマーが彼らにお金を返さなかったという事実に対して、彼に復讐をしたと言われている」
いずれにしても、3人はスターマーに意趣返しをするかのように、彼個人にまつわる対象に放火したようにみえる。
ウクライナ戦争がもたらす「現実」
これ以上は書かない。忘れてならないのは、3年もつづく戦争が多くの人々の生活に影響をおよぼしてきたという「現実」である。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年2月にウクライナで戦争が始まって以来、2025年初頭の時点で、全世界で約690万人のウクライナ難民が記録されている。2025年1月11日現在、ドイツに124万3445人、2024年12月31日現在、ロシアに122万3795人、2025年1月14日現在、ポーランドに99万3795人の難民がいる(「statista.com」を参照)。
2024年7月の「キーウ・インデペンデント」の情報では、7月17日付の『ウクライナ情報』(Ukrinform)によると、ウクライナ内務省の職員は、特別な状況下で行方不明となった人々の統一登録簿に4万2000人の国民が登録されていることを明らかにした。この登録は、戦争や占領、自然災害や人災によって行方不明になった人々のデータを集めたものである。この数字は、強制送還、誘拐、ウクライナの軍人と民間人の両方における多数の死者を伴うロシアの全面戦争の人道的影響を強調するものとされている。
わかってほしいのは、ウクライナ戦争が長引くなかで、武器などの製造・販売で儲ける者もいれば、人身売買や売買春のようなもので大金持ちになったり、あるは身を落とさざるをえなくなったりする者もいるということだ。
不可思議なのは、こうした厳しい状況にあるにもかかわらず、欧州の政治指導者が戦争継続派であることだ。
進化したロシア製ドローン
ウクライナと欧州諸国は、ともにロシアに対して、「30日間の無条件停戦」を要求していた。ウラジーミル・プーチン大統領はそれを拒否した。このため、5月20日、欧州連合(EU)と英国はともに対ロ制裁の追加に踏み切った。
しかし、これは戦争継続をねらう国々の「小芝居」にすぎない。本当は、プーチンの拒否に起こったドナルド・トランプがウクライナへのさらなる支援と、対ロ制裁の強化に踏み切ることを期待したものだった。しかし、トランプはこうした「小芝居グループ」の期待を裏切った。当面、米国は対ロ制裁を追加しそうにない。
ブルームバーグによれば、米国がウクライナへの支援を拒否した場合、欧州は米国の武器を購入し、キエフに譲渡することを計画している。あくまでも、ウクライナを軍事支援し、戦争をつづけさせたいらしい。
ウクライナが負け戦を強いられているという現実を、戦争継続派たる「小芝居グループ」は認めようとしない。負け戦であれば、本当に早期に停戦・和平に向かわないと、無辜なる犠牲者が増えるだけだ。ゆえに、ロシアに対して、停戦すれば対ロ制裁の緩和や撤廃などの懐柔策をとることが必要になる。あるいは、ウクライナへの軍事支援を停止するから、停戦してくれと頼むのが筋となるだろう。
最近でいえば、ウクライナ東部でロシアが領有権を主張しているルハンスク(ルハーンシク)州の西、ハリコフ(ハリキウ)州の州都ハリキウにまで、ロシア製ドローン(無人機)が到達するようになっている。これは、15~30キロを飛行でき、電子戦システムで妨害できない光ファイバードローンの脅威が高まっていることを意味している。5月22日、ロシアはウクライナに対して128機の無人機を発射し、ドニプロとハリコフの住宅に損害を与えた(NYTを参照)。5月23日付のWPは、「ロシア軍は、最大12マイル(約19.3キロ)の射程距離をもつ光ファイバードローンを使ってウクライナの装備を破壊し、とくにロシア西部のクルスク地方で重要な兵站ルートを支配している」と書いている。
しかも、ロシアのドローン攻撃は精度を上げている。まずロシア軍は偵察ドローンを発射する。それからウクライナの陣地に誘導爆弾が浴びせかけられ、大砲でがっちりと援護される。その後、ロシア軍はすぐにFPV(ファースト・パーソン・ヴュー)攻撃ドローン(一人称視点ドローンと呼ばれる、ごく小型で安価なドローン)を投入し、砲撃後に動けるものをすべて粉砕することを狙う(下図を参照)。さらに光ファイバー攻撃ドローンを増やし、どんなカウンタードローンも防ぐことが難しい。その後、バイクや四輪バイク、あるいは徒歩で4、5人の兵士からなる突撃部隊を投入し、ウクライナの拠点に到達して陣地を掃討する――というやり方がいまのロシア軍の戦い方だ。
1年前はドローンの面でウクライナが明らかに優位に立っていたが、今では少なくとも互角であり、いくつかの地域ではロシアが非常に優位に立っている。とくに憂慮すべきは、攻撃範囲が広がっていることだ。無人偵察機はすでに数十キロの距離を攻撃しており、全エリアの兵站を破壊しているという。
本当は、こうした「現実」を受け入れて、停戦・和平を急がなければならない。それにもかかわらず、どうして欧州は戦争を継続しようとしているのだろうか。
おそらく決定的なのはカネの問題だ。欧州諸国が停戦・和平後の対ロ制裁緩和をめぐって大いに恐れている問題がある。それは、ロシア中央銀行が国際通貨準備高(外貨準備)として各国の中央銀行などに預けていた資金が欧米や日本の政府によって凍結され、それを担保に勝手位にウクライナに融資するまでに至っている、ロシア資産の今後である。欧州は、ロシア資産約3000億ドルの3分の2を凍結・管理下に置いている。もし停戦・和平の実現によって、これをロシアに返還することになれば、欧州各国は停戦・和平後のウクライナ復興資金の捻出に窮する事態に陥るだろう。
つまり、「小芝居グループ」にとって、ウクライナ戦争の停戦・和平は自国のカネ、費用の急膨張をもたらし、財政悪化の原因となりかねないのだ。同グループの英、独、仏といった国は自国のためにウクライナに戦争をつづけてもらい、できればロシアを破って、ロシア資産の返還に応じなくてもすむ状況にしてほしいのだ。だからこそ、欧州の政治指導者はウクライナの戦争継続を求めてやまないのである。たとえその結果として、ウクライナ国民の死傷者が増加しても、冷徹で利己的な彼らにとってはどうでもいい問題なのだ。
スターマー事件は、そんな欧州の政治指導者の冷徹さと符合しているようにみえる。



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