トランプが「7人の標的」に牙を剥いた!

今回はドナルド・トランプ大統領による復讐・報復について考えたい。2007年に出版された本『Think Big and Kick Ass: In Business and Life』のなかで、トランプは、「私のモットーは常に仕返しすることだ」(My motto is always get even)と書いている。2016年4月には、お気に入りの聖書の一節は「目には目を」(an eye for an eye)だと明かした(ABCニュースを参照)。
さらに、2023年3月4日、メリーランド州での会議で、トランプは、「私はあなたの戦士であり、あなたの正義であり、不当に扱われ裏切られた人々のために、私はあなたの報復者である(I am your retribution)」と語った(下の写真)。現実に大統領に就任した彼はいま、復讐リストに収載された人物への報復を急いでいる。
といっても、トランプのリベンジ・ツアーの根拠は、民主党がはじめたというものだ。ジョー・バイデン政権下の司法省は、トランプを2度起訴した。民主党の州検察はさらに2度起訴した。後述するレティシア・ジェームズは民事訴訟を起こした。つまり、トランプには復讐すべき対象がたくさんいる。
苛烈なトランプの報復
今年5月末までの状況をまとめた拙著『ネオ・トランプ革命の深層』では、29頁に「表1-1 トランプ大統領が報復対象に定めた人物と報復内容」を掲載している。ここに、それを特別に示すとつぎのようになる。
10月に入って、トランプによる復讐・報復は苛烈を極めている。そこでここでは、司法省が目の敵にしている5人と1機関、およびおまけ1人について詳しくみてみよう(下図を参照)。
前FBI長官を虚偽陳述などで起訴
<標的1>ジェームズ・コミー前FBI長官
バージニア州検事のリンゼイ・ハリガンは、2020年9月に議会で嘘をついた疑いで、連邦大陪審にコミー前FBI長官を、今年9月、起訴した。コミーは2020年9月、上院委員会で、FBIのだれかが報道機関にリークすることを許可したことを否定し、嘘をついたという、議会に対する虚偽陳述の罪1件と、議会手続き妨害の罪1件で起訴されている。コミーは無罪を主張し、裁判官は公判期日を2026年1月5日に設定した。
検察当局は、コミーがトランプの2016年大統領選挙キャンペーンとロシアとの関係の可能性に関するFBIの調査について、議員に嘘をついたとして起訴されるべきかどうかを長い間検討してきた。トランプは長年、ロシア調査を「魔女狩り 」や 「デマ 」と呼んで激怒してきた。彼は、FBIが2016年の大統領選の結果に影響を与えるためにトランプの顧問の一部がロシア政府と共謀したかどうかを調査していた2017年に、コミーを突然解雇した。
結果として、トランプは刑事責任を問われることはなかった。ロバート・ミューラー特別検察官が率いたこの捜査は、トランプ陣営に関係する複数の人物を起訴したが、最終的にはトランプやその顧問をロシアとの共謀や連携で起訴するには証拠が不十分であるとした。
<標的2>レティシア・ジェームズNY司法長官
トランプが指名したトランプの元弁護士であるリンゼイ・ハリガン検察官が10月9日、ニューヨークのレティシア・ジェームズ司法長官を、住宅ローン申請に関する銀行詐欺と虚偽記載容疑でバージニア州東部地区において起訴した。「ニューヨークタイムズ」によれば、これは、パム・ボンディ司法長官とトッド・ブランチ副長官の反対を押し切って、ブランチの部下のエド・マーティンが推進して強行されたものである。
ニューヨーク選出の民主党議員であり、トランプに対して民事訴訟を起こしていたジェームズに対する捜査は、彼女がバージニア州ノーフォークとブルックリンに所有していた2軒の住宅に焦点を当てていた。トランプの住宅関係者は、ジェームズがこれらの住宅に関する記録を改ざんした可能性を示唆し、この件を司法省に照会していた。
トランプがジェームズを標的にしたのは、ニューヨーク州司法長官だったジェームズがトランプの保有する不動産の価値をつり上げていたという疑惑について調査を開始したからだ。彼女は最終的にトランプの会社に罰金を科したが、後に控訴裁判所によって破棄された。控訴裁判所は、トランプ・オーガニゼーションに3億6400万ドルの罰金を支払うよう命じた裁判官の命令は行き過ぎだと判断したが、下級裁判所の「刑法違反の責任認定」を「裁判記録は圧倒的に支持する」との判決を下した。
上院議員も容赦なく標的に
<標的3>アダム・シフカリフォルニア州選出民主党上院議員
司法省は、メリーランド州の不動産に関連した住宅ローン詐欺の可能性を調査している。トランプがシフ氏を標的にする理由は、シフが下院議員時代、2019年にトランプに対する最初の弾劾裁判を主導する手助けをしたからである。
10月12日には、自らのSNSに、「ウクライナ弾劾(私に対する!)詐欺は、ウォーターゲート事件よりもはるかに大きな違法デマだった。議会を含め、必要な当局がこの件を調査することを切に願う!アダム・「シフティ」・シフはとても不誠実で腐敗していた」と投稿した。
<標的4>ジョン・ブレナン元CIA長官
ブレナンに対する疑惑は曖昧だが、2016年の大統領選におけるロシアの影響に関する情報機関の評価をまとめる手助けをしたことに関連しているようだ(NYTを参照)。まさに、2016年のロシアの選挙干渉に対するCIAの対応が、トランプの怒りを買ったことが、復讐・報復の原因になっている。
<標的5>ファニ・ウィリスジョージア州フルトン郡地方検事
連邦大陪審は、ウィリスが昨年の選挙前後に海外で行ったと検察が考えている旅行に関する記録を召喚した。しかし、捜査の範囲も、検察が記録を求める理由も明らかではない。
トランプがウィリスを標的にしているのは、ウィリスが2020年の選挙を覆そうとしたトランプらを告発する大々的な事件で、トランプを起訴したからである。控訴裁判所はウィリス女史を訴追する資格を剥奪し、この事件はすぐに前進しそうにない。
<標的6>オープン・ソサエティ財団(設立者ジョージ・ソロス)
大富豪ジョージ・ソロスが設立したグローバル助成金ネットワークである。ソロスや彼の組織に対する具体的な疑惑はないが、六つある連邦検事局に出されたメモには、放火からテロリズムの物質的支援まで、検察が検討しうる容疑が列挙されている。
トランプがオープン・ソサエティ財団を目の敵にする理由は、同財団が多くのリベラルな活動や団体に資金を提供してきたからである。ジョージ・ソロスは民主党の億万長者で、トランプの永年の不満の対象だった。ホワイトハウスがリベラルで進歩的な団体を取り締まると約束したなか、米司法当局による捜査の推進は、保守派活動家チャーリー・カークの暗殺事件をきっかけにはじまった。
ボルトン元大統領補佐官も告発
<標的7>ジョン・ボルトン元国家安全保障担当補佐官
バイデン政権時代、ボルトンが機密情報を誤って扱ったのではないかという調査が活発化した。調査はトランプ政権下でも継続されており、その範囲は不明だが、国家安全保障上の秘密に関連する電子メールや私文書の不正使用で告発された高官が関与した過去の事例と類似している。夏には、連邦捜査官がボルトンの自宅とオフィスに捜索令状を出した。10月16日になって、ボルトンは国防情報の送信と保持に関する18の訴因で起訴された。
トランプがボルトンを毛嫌いしているのは、ボルトンが国家安全保障補佐官としてトランプのもとで働いていたとき、しばしば衝突したことに原因がある。ボルトンはポストを去ってから、外交政策におけるトランプ大統領の姿勢を批判することが多かった。
こうした選択的起訴は、「トランプが司法省を私物化した一つの方法にすぎない」、とThe Economistは指摘する。もう一つは、トランプの支持者に対する特別扱いだ。これは大統領就任初日にはじまったことで、2021年1月6日に国会議事堂を襲撃した罪で有罪判決を受けたほぼ全員を恩赦した。
司法省はまた、ほとんどの海外贈収賄事件の追及をやめ、政治腐敗を専門とする公共誠実部門を解体した。それ以来、対象となった何人かは捜査が打ち切られ、告訴が棄却されたり、刑が抹消されたりしている。
トランプによる復讐・報復は、本当は、もっと根の深い西洋文明自体のもつ欠陥につながっているように思える。そう、トランプのふるまい自体は軽薄だが、それは深く重い問題を提起していることに気づくべきだろう。



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