「99:1」か、「それ以下」か…2種類の炭素の比率を調べたら、なんと、35億年どころか、さらに古い「生命の痕跡」が次々と見つかった

生命科学
「99:1」か、「それ以下」か…2種類の炭素の比率を調べたら、なんと、35億年どころか、さらに古い「生命の痕跡」が次々と見つかった(小林 憲正)
「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」しかし、生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロ。ならば、生命はなぜできたのでしょうか? そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめた『生命と非生命のあいだ』から、読みどころをご紹介するシリーズ。今回から、生命の誕生した時期と場所を探っていきます。

「99:1」か、「それ以下」か…2種類の炭素の比率を調べたら、なんと、35億年どころか、さらに古い「生命の痕跡」が次々と見つかった

「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた

圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?

この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。本書刊行を記念して、その読みどころを、数回にわたってご紹介しています。

これまで一連の記事において、最初の生命という謎に人々が気づき、その謎を探っていった過程や、「生命の材料探し」について取り上げてきました。今回から、最初の生命が誕生した時期と場所について考えていきます。

*記事末尾にこれまでのテーマの代表的な記事を掲載しています。

【書影】生命と非生命のあいだ

*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。

大量に見つかった「微化石」

過去の生命の痕跡として、まず思い浮かぶのは化石でしょう。

かつては、化石とは多細胞生物の痕跡であるとされ、化石が見つかる時代をそれ以前と区別して「古生代」「中生代」「新生代」とよんでいました。その期間は、およそ45億6000万年の地球の歴史のうち、たかだか5億4000万年ほどでした。それ以前の約40億年は、生物が存在した証拠が見つかっている古生代最初期のカンブリア紀より前ということで「先カンブリア紀」とよばれていました。

ところが、1954年にカナダ・オンタリオ州のスペリオル湖岸で採集された岩石(ガンフリントチャート)を電子顕微鏡で観察したところ、大きさが数ミリ以下の「微化石」とよばれる小さな化石が大量に見つかりました。その年代を調べたところ、19億年前、つまり先カンブリア紀よりも前の単細胞生物である藻類の化石であることがわかったのです。

スペリオル湖。北米の五大湖のひとつである photo by gettyimages

これを機に、先カンブリア紀の生物の痕跡探しが本格化しました。より古い地層からも次々に微化石が発見され、地球で生命が誕生したとされる時期は、どんどん古い時代にシフトしていきました。

35億年前の生命は、決して原始的ではなかった

1993年にはカリフォルニア大学のウィリアム・ショップ(1941〜)たちが、西オーストラリア州の北西部のピルバラ地区「ノースポール」で微化石を発見したと報告しました(余談ですがここはとにかく暑い地域で、名前だけでも涼しくしたいという理由で「ノースポール」と名づけられたそうです)。

その化石は単細胞生物が一列に連なったような形状(図「ショップが発見した約35億年前の微化石」)で現生のシアノバクテリアに似ていて、年代は約35億年前のものと推定されました。

ショップが発見した約35億年前の微化石

シアノバクテリアは藍藻ともよばれる原核生物で、光合成をして酸素を発生します。そのためショップたちは、約35億年前にすでに、酸素を出す光合成生物がいたのではないかと考えました。

この発表は、大きな論争を巻き起こしました。光合成のしくみはけっこう複雑なので、光合成をする生物は最も原始的な生物とはいえません。それが35億年前にはすでに存在していたかもしれないというのです。

また、微化石そのものにも疑義が投げかけられました。生物が存在しなくても、ショップが見つけた化石のようなパターンが生じる可能性はあるという指摘です。

しかしその後、日本のグループが同じノースポール地区を調査して、深海底の堆積物と考えられる35億年前の岩石中に、フィラメント状の微化石を発見しました。これにより、35億年前には微化石を残す原始的な生物がすでに誕生していた可能性が高くなったのです。

ただ、深海底ということは光が届かないので、光合成生物ではないことになります。

では、微化石すら残っていない、さらに古い岩石で生命がいたかどうかを判断するにはどうすればよいでしょうか。その場合に使われるのが、炭素の「安定同位体比」です。

炭素の「安定同位体比」で、次々に明るみになる初期生命の痕跡

炭素には陽子と中性子を6個ずつ持つ炭素12と、中性子のほうが1個多い炭素13とがあり、前者がほぼ99%を占めるという比率で安定して存在しています。この比率が安定同位体比です。

しかし、この比率は化学反応や生物活動などによって変化することが知られていて、とくに生物活動が関与すると、炭素13の割合が小さくなる傾向があります(図「炭素安定同位体比」)。

炭素安定同位体比。生物に使われにくい¹³Cは生体内での割合が小さくなる

そこで、試料中の炭素13の割合が標準よりも小さければ、生物によってその試料中の炭素の割合が変えられた可能性が高いといえるのです。

そのような観点で、35億年以上前にできたと考えられる岩石中に含まれる炭素粒子の安定同位体比を計測する試みがなされました。

そうした古い岩石が見つかる場所としては、とくに、グリーンランドが注目されました。

1999年、コペンハーゲン大学のグループは、グリーンランドのイスア地域で見つかった約38億年前のものと考えられる岩石中で、炭素粒子の炭素安定同位体比が、生物活動が原因と考えられる低い値を示すことを見いだしました。この計測が、その頃にすでに生命が誕生していたとする根拠の一つとなりました。

さらにその後、東京大学のグループは39億5千万年前のカナダの岩石で、また、英国ユニバーシティカレッジ・ロンドンのグループは42億8千万年前〜37億7千万年前に海底熱水系で生じた堆積岩で、それぞれ炭素が低い安定同位体比を示すことから、それらの岩石ができたときには生命が存在していたのではないかと発表しています。

だとすれば、最初の生命が誕生したとされる時期は、さらに遡る可能性も考えられます。

しかし、岩石中の炭素の安定同位体比を調べる方法には、一つ問題があります。

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