
「不完全」な科学をなぜ人は信じるのか…「訂正の繰り返し」でも許される「深い理由」
古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、この世界のしくみを解き明かす大発見はどのように生まれてきたのか?
親子の対話形式でわかりやすく科学の歴史を描き出した新刊『父が子に語る科学の話』。その読みどころを、有機化学を研究する現役大学院生にして、サイエンスライターのゆかさんに紹介してもらおう。

なぜ私たちは科学を信じるのか?
ここからは、「どうしてみんな科学を信じるの?」という『父が子に語る科学の話』の冒頭に登場する問いについて考えてみたいと思います。
すでに見てきたとおり、コペルニクス、ガリレオ、ニュートンなど現代でも名を残している偉人でも間違っている説を唱えている側面がありましたね。なのに、なぜ私たちは彼らを信じるのでしょうか?
この問いを考えるにあたっては、「科学」が誕生した歴史を見ていくのがよさそうです。500年ほど前、地動説を唱えたニコラウス・コペルニクスは、当時信じられていた「地球が宇宙の中心である」という考えを否定しました。これが、今に続く「科学」が誕生するきっかけになりました。その後、ブルーノやガリレオ、ケプラーが地動説に続きます。
17世紀には、今でいう「科学者」の集団ができあがりました。そして、「誤りの訂正の連続」の歴史をスタートします。ただ、現代の科学と300~400年前の科学とでは、「科学」の捉え方に違いがあります。300~400年前には、科学はそれほど大きな仕事ではなく、自分の人生の中で「完成」するものだと考えられていました。

一方で、現代の科学者は「完全な科学」にたどり着くことはできないと考えています。天才科学者であるアインシュタインも、自分の理論は現在考えられる中では最良であるが、それで十分であるとは考えていなかったと言います。誤りの訂正を繰り返して、明日にはもっともっと良い理論が生まれる可能性があると信じていたのです。
科学は「終わりなき旅」
「どうしてみんな科学を信じるの?」という問いの答えはここにあると考えます。
私たちは、今の世の中で「正解」と解釈されている科学だって「完全な科学」ではなく、現在入手できる中で最も良いものにすぎないと認識しています。それを認識しているからこそ、私たちは「現在の科学」を信じることができると言えるのではないでしょうか。科学を学んでいるものとして、これらを築いてきた偉人たちに、あらためて感謝しなくてはなりませんね。
一方で、裏を返すと、多くの科学者は完成されることはないとわかっていながら、この科学の仕事をしているということになります。なぜ科学者は、「終わりなき旅」だと知りながら、平気でいられるのでしょうか?

本書でも語られていたとおり、それはずばり「楽しいから」に違いありません。
私自身、毎日毎日がんばって研究していますが、私が生きているあいだに「完全な正解」に到達することはないということは理解しています。それでも、仮説を立てて、それを実証するために実験して、というプロセスを繰り返して、自身の仮説を証明できたときには、なんとも言えない喜びがあります。そして、それを「論文」という形で投稿することによって、現代の科学のページにまた新たな1ページを付け加えることができたな、という充実感。それを味わえて、とっても幸せです。
それでも、ときどき「地球の終わりの直前」にタイムスリップしたいなと考えることがあります。我々人類がどこまで「科学」を発展させたのか、人類が到達できた「最良の理論」とは何か……。
私が「完全な科学」にたどりつけないとわかっているからこそ、タイムスリップして見てみたいなと妄想します。とっても気になりませんか? ああ、タイムマシンができたら!
ともあれ、皆さんも私と一緒に「終わりなき旅」に出かけてみませんか? 『父が子に語る科学の話』が、そのための良い道案内になるはずです!
* * *
本連載では、サイエンスライターのゆかさんによる『父が子に語る科学の話』のレビューを前後編でお届けしている。
【前編<偉大な科学者だって、たくさん間違えた…教科書は教えてくれない「科学の歴史」>から読む】

《内容》
「この世界をよく理解するって、どういうことだろう?」
ある日、科学史家は8歳になる息子アーロンに問いかけた。ふたりの対話はやがて、科学の歴史を縦横無尽に駆けめぐる、壮大な知的冒険の旅へとつながっていく。
古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、物理のしくみを解き明かした、驚くべき発見の物語!
■目次
序文 科学はなぜ「対話」を必要とするのか?(読書猿)
第1章 科学って何だろう?……この世界のしくみを解き明かす方法
第2章 世界は何からできている?……科学者たちが追い求めてきたこと
第3章 大発見はどうやって生まれる?……アイデアで世界を動かすには
コメント