ノーベル賞の本庶佑教授「世の中のことって嘘が多いですから。別にフェイクニュースのこと言ってるわけじゃないんですけども…。教科書が全て正しかったら科学の進歩というものはないわけでね。教科書に書いてあることも実は間違っていることが多くて、それを正して前に進んでいく。教科書に書いてあること、人が言っていることを全て信じない。信じたら進歩がないということですから。なぜかと疑っていくことが重要だと思っています」
・・・この言葉は名言ですね!
政治経済などの社会科学、物理化学などの自然科学共通の重要な認識だと思います。
偉大な科学者たちが犯した「大きな誤り」とは…教科書が教えてくれない「科学の歴史」
古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、この世界のしくみを解き明かす大発見はどのように生まれてきたのか?
親子の対話形式でわかりやすく科学の歴史を描き出した新刊『父が子に語る科学の話』。その読みどころを、有機化学を研究する現役大学院生にして、サイエンスライターのゆかさんに紹介してもらおう。
「現代の科学」はどのようにできあがったのか?
私は小学生の時に「科学者」ってかっこいいなと思ったのがきっかけで、科学の道に進むようになりました。
そのきっかけは小学生の時に見た TV ドラマ 「ガリレオ」です。このドラマでは、天才科学者が、科学を用いて様々な事件を華麗に解決する様子が描かれます。その様に憧れたというのが元々の動機ですが、科学館見学や研究所の一般公開など様々なイベントに参加する中で、科学の面白さにますます魅了されていきました。
そんな記憶をたどりながら、手に取ったのが『父が子に語る科学の話』です。早速読んでいくと、冒頭で大きな疑問を投げかけられることになります。それは次のようなものです。
「どうしてみんな科学を信じるの?」
この疑問には、かなりハッとさせられました。最先端の研究に不確定な要素があることは共通認識でしょう。でも、高校・大学で一生懸命勉強した内容、それについて疑いを持つ人はあまり多くないのではないでしょうか。
「どうしてみんな科学を信じるの?」という問いは、そんな私たちの前提を揺さぶるものです。一見シンプルなようで、実はとても奥が深い。つまり、我々が信じている「現代の科学」はどのように確立していったのか、という問いに等しいのです。
本書では、そんな科学のなりたちの物語を、父(アガシ)と息子(アーロン)との対話を通してひもといていきます。「地動説」を唱えたコペルニクス、「近代科学の父」と呼ばれるガリレオ、「運動の第三法則」を提唱したニュートン……。その名前は、多くの人が知っているのではないでしょうか。そして、彼らがなしとげたことは、今も教科書などでさまざまに語られています。
科学は「誤りの訂正」でできている
そんな現代に名を残す成果をあげた彼らですが、実は「現代では誤りと考えられている学説も唱えていた」という事実を知っていますか? たとえばガリレオの話。ガリレオは重力について「どの地点でも同じである」と考えていました。しかし、現代の我々は知っていますね。地球から離れれば離れるほど重力が小さくなる、と。
このように、現在では誤りと考えられている学説を一部唱えている側面がありました。ただ、ガリレオは何も「嘘」をついていたわけではありません。当時で考えうる最良の理論を提唱したまでのことです。
それから数年後、ガリレオが死んだ年に生まれたニュートンが、地球から離れるほど重力が減少することを示しました。それにより、「重力はどの地点でも同じである」というガリレオの学説が訂正されました。
そして、ニュートンも現代では誤りと考えられている学説を一部唱えており、それはその後の時代を生きたアインシュタインによって訂正されました。
科学は「誤りの訂正」の連続です。多くの科学者たちがその時点でのベストを尽くしますが、それもやがて淘汰されていきます。その繰り返しの中で、現代の科学が形成されてきました。
ドラマに満ちあふれた科学の歴史
一方で、私たちが中学・高校で用いる多くの教科書は、現代科学における解釈の中で「正しいもの」しか記載がされていません。ほとんどの人が科学のごく一部、「表舞台」しか見えてないのでしょうか。
だから、ガリレオやニュートンだって実は「(一部が)間違った説」を唱えていたのだ、ということを知らない人、意識しなかった人も多いのではないでしょうか? そして、その誤りの理論が淘汰されながら、現代の科学が構築されてきたということも!
そのことは、科学史をひもといていくと自然にわかることですが、現代の「正解」、つまり表舞台しか教えないカリキュラムだと、もしかしたらずっと気づかないままになってしまうかもしれません。なんてもったいない! たくさんの科学者が多くの議論のもとで誤りの訂正をし合い、「現代の科学」が構築される様子は、ドラマに満ちていますよ。実はニュートンとライプニッツが自身の理論をめぐって人間らしい喧嘩をしていた、とかね。
もうひとり、例をあげたいと思います。本書の後半で主役になるファラデーです。「ファラデーの電磁誘導の法則」でとっても有名ですね。それ以外にも多くの法則を発見してきました。
ただ、理論の確立までは一筋縄ではいかなかったようです。現在はファラデーの電磁誘導の法則は正しいと理解されていますが、当時はそうではありません。このファラデーの考えは、ニュートンが築いてきた理論を否定することでした。そのため、ファラデーの考えにまともに耳を傾ける人はほとんどおらず、全世界に対してたったひとりで戦う必要があったそうです。
今では当たり前のように信じている「ファラデーの電磁誘導の法則」が長らく認められなかったなんて驚きですね。
教科書の「舞台裏」がおもしろい!
このような、いわば教科書の「舞台裏」を覗く旅に誘ってくれるのが、『父が子に語る科学の話』です。父アガシと息子アーロンの対話が、私たちを科学の世界へと引き込みます。
これから物理を勉強していくよ!という方には、「現代科学が構築されるまでに、こんなドラマが展開されていたのか!」ということを感じてほしい。身の回りにあふれて我々の生活を豊かにしてくれる科学は沢山の科学者によって支えられているのだ、ということも。
そして、私のように、現在の専門は違うけれど、高校・大学などで物理を学んできたよ!という方にも、「この法則ってあの理論に触発されて形成されたのか!」と楽しんでもらえると思います。事実だけが淡々と描かれている教科書が、カラフルに彩られていく感覚を覚えるでしょう。
さらに、本書は「科学者になりたい」と思っている私にも、大きなヒントを与えてくれました。科学の舞台裏を覗いたことで、現代科学が構築されるまでには、とてつもなく多くの人たちの研究が、すこしずつすこしずつ積み重なってきたプロセスがあったのだということを、あらためて認識することができたのです。
普段私は、白衣を着て毎日研究を行っています。そして、得られた結果を「論文」という形で投稿しています。
この「研究」という行為は、今まで先人たちが積み上げてきたものと相違ありません。私が日々黙々とおこなっている作業が、科学の歴史に「新たなページ」を付け加える一歩なのだと思うと、さらにがんばろう!という気持ちになれます。
皆さんにも、科学が今のような立派な姿になる前の「熱いエピソード」を、本書を通じて知ってもらえたらいいなと願っています!
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さらに本連載では、サイエンスライターのゆかさんによる『父が子に語る科学の話』のレビューをお届けしていく。
【続き<「不完全」な科学をなぜ人は信じるのか…「訂正の繰り返し」でも許される「深い理由」>を読む】
《内容》
「この世界をよく理解するって、どういうことだろう?」
ある日、科学史家は8歳になる息子アーロンに問いかけた。ふたりの対話はやがて、科学の歴史を縦横無尽に駆けめぐる、壮大な知的冒険の旅へとつながっていく。
古代ギリシャの原子論から、コペルニクスの地動説、ガリレオの望遠鏡、ニュートン力学、ファラデーの力線、アインシュタインの相対性理論まで、物理のしくみを解き明かした、驚くべき発見の物語!
■目次
序文 科学はなぜ「対話」を必要とするのか?(読書猿)
第1章 科学って何だろう?……この世界のしくみを解き明かす方法
第2章 世界は何からできている?……科学者たちが追い求めてきたこと
第3章 大発見はどうやって生まれる?……アイデアで世界を動かすには
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