トランプの「ウクライナ植民地計画」をなぜゼレンスキーは容認したのか?

秘密裏に結ばれた2つの協定
多くの西側メディアは4月30日に、米国とウクライナが、ウクライナの鉱物資源、石油、ガス、その他の天然資源への共同投資を確立するための協定に署名したと報道した。しかし、この裏で、秘密裏に本協定とは別に二つの協定が結ばれていたことに注意を払った西側メディアは少ない。
唯一、4月30日付の米政治メディアPoliticoは気になる情報を紹介している。それは、ウクライナ側が主要な経済協定と二つの技術的なサイド・アグリーメントへの署名を渋っていたという話だ。「米国政府関係者は、ウクライナが土壇場でいくつかの変更を要求し、米国財務省が強硬手段をとった後、双方が三つの協定すべてに署名したことを確認した」と記されている。このなかの本協定だけが部分的に明らかにされたというのである。
情報操作にだまされるな
ここまで知っていれば、協定に署名した当事者のユリヤ・スヴィリデンコ第一副首相兼経済相が4月30日に情報発信した内容に「大嘘」が含まれているであろうことが容易に想像できる。彼女は同日に米国で、ベッセント財務長官とともに協定に署名した(下の写真)。そのうえで、彼女はフェイスブックに、こう書いた。
「ウクライナの領土および領海内のすべての資源は、ウクライナに属する。どこで何を採掘するかは、ウクライナ政府が決定する。地下資源はウクライナの所有権に留保される」
さらに、彼女は述べた。
「基金は両国が半々で設立される。この基金は、ウクライナと米国が共同で運営する。いずれの当事者も過半数の議決権を有することはなく、これはウクライナと米国の対等なパートナーシップを反映したものとなる」
(出所)https://www.facebook.com/yulia.svyrydenko/posts/pfbid0fEC77cSqtiH9pdTpg7VQtspRFfT61RPRfyj6XbW9nJeJL6wJLAs8UTfHYkVcrJwql?rdid=3a0AWEDIRxQ6W6FG
3つの合意文書があった
5月1日付の「ヨーロッパ・プラウダ」をみると、「4月30日にワシントンで締結された二国間協定は、鉱物資源の開発、鉱物の販売、およびウクライナが今後受け取る米国の支援(軍事支援を含む)に関する両国政府の協力の政治的な枠組みを定めている」と説明されている。だが、政治的に重要な事項を含む多くの詳細は、「技術協定」に明記される予定で、「現時点ではまだ署名には至っていない」と伝えている。4月30日に署名された協定は、わずか12ページで構成されているという。気になるのは、先のPoliticoが二つの技術協定と一つの本協定がともに署名済みと報じたにもかかわらず、「ヨーロッパ・プラウダ」は未署名としている点だ。
もっとも、信憑性が高いと思われる情報によると、スヴィリデンコ第一副首相兼経済相が4月30日に本協定に署名した際、米政府関係者は、彼女がさらに二つの文書にも署名するよう主張したという。ウクライナが拒否しようとすると、米側はウクライナが協議を頓挫させようとしていると非難し、彼女に「すべての協定に署名するか、帰国するか」の決断を迫まった。ウクライナ側は、最初は拒否していたが、方法を見つけることにした。
その後、ウクライナ閣僚会議がスヴィリデンコに議会の承認なしに行動することを許したので、取引はまとまったという。どうやら、三つの合意書が締結されたというのが事実らしい。
アメリカは安全を保障しないのか
12ページにわたる「米・ウクライナ復興投資基金の設立に関するウクライナ政府とアメリカ合衆国政府との間の合意について」というウクライナ語版の資料を見つけ出すことができた。あまり意味があるとは言えない資料だが、この資料を分析してみよう。
まず、名称は、「米国・ウクライナ復興投資基金設立協定」(以下「本協定」)と呼ばれている。第二条において、米国際開発金融公社(the United States Corporation for International Development Finance, DFC)と、ウクライナの機関である官民パートナーシップ支援国家機関が、リミテッド・パートナーシップの形態で米・ウクライナ復興投資基金を設立する契約を締結することは、両当事者の方針である、と定められている。
協定の目的を定めた第三条四項で、「両締約国はまた、本協定が両国の国民および政府間のより広範かつ長期的な戦略的協調の表現であり、ウクライナの安全保障、繁栄、復興、世界経済の枠組みへの統合に対する米国の具体的な支持を示すものであることを再確認する」と書かれている。しかし、米国によるウクライナの安全保障に対する保証については、言及されていない。
第六条五項は、「発効日以降、米国政府がウクライナ政府に何らかの形で新たな軍事援助(兵器システム、弾薬、技術または訓練の移転を含む)を提供した場合、米国パートナーの出資額は、リミテッド・パートナーシップ契約に従い、当該軍事援助の見積額によって増加したものとみなされるものとする」と定めている。これにより、ウクライナは、米国による新規の軍事支援を投資基金への出捐金とみなすことになる。
第十一条二項では、「両当事者は、本協定の発効には、ウクライナ最高議会による本協定の批准が必要であることを認める」と定められている。
アメリカ有利の秘密協定
この本協定だけをみても、実は、二国間合意の本質を理解することは難しい。先に紹介した米国草案と本協定の違いをみると、草案は「米国・ウクライナ復興投資基金」をパートナーシップという形式で設立するためのもので、ウクライナ全土の石油・ガスを含むすべての天然資源を対象としていた。これに対して、本協定では、天然ガス、石油、レアアース、有価金属、いわゆる非鉄金属など、協定の対象鉱物がリストアップされたが、なぜか、鉄鉱石、石炭、花崗岩、地域的に重要な鉱物[砂、砕石など]は除外されている。つまり、少しだけウクライナ側がカネになる鉄鉱石や石炭などを守ったことになる。
さらに、草案では、米国は、2022年2月のロシア軍による全面侵攻開始後にウクライナに提供された物的・金銭的支援を基金への拠出とみなすとされていたのだが、本協定では、過去の支援については言及されていない。つまり、米国がウクライナに大幅に譲歩したことがわかる。
だが、本当に米国はウクライナに大幅譲歩したのだろうか。
それを教えてくれるのが、公表されていない二つの協定の一つ、「リミテッド・パートナーシップ協定」(Limited Partnership Agreement)である。この合意に関する報道によると、二国間で設立するウクライナ・米国共同基金は、ウクライナと米国の代表が同数ずつ集まった理事会によって管理され、四つの委員会が支援する。だが、その四つの委員会の構成をみると、米国優位は間違いない。①投資決定を担当する投資委員会(米国人マネジャー3人、 ウクライナ人2人)、②経営と管理を担当する管理委員会(米国人マネジャー3人、ウクライナ人マネジャー2人)、③外部監査人の契約と拠出金評価コンサルタントの雇用と監督に責任を負う監査委員会(米国人マネジャー2名、ウクライナ人マネジャー2名)、④投資機会の特定を担当するプロジェクト・サーチ委員会(最終的にウクライナ人マネジャー3人と米国人マネジャー2人)となるからだ。
つまり、ウクライナが主導権を握れるのはプロジェクト・サーチ委員会だけで、他の問題では少数派であり、実際には必要とされていないも同然だ。さらに、米国のマネジャーたちだけで合意される問題も数多くあるという。たとえば、投資決定、資産分配のタイミングと金額、パートナーシップ、その投資および収益の監査などだ。
加えて、「ウクライナのパートナー」が何かに違反した場合、そのパートナーには分配金が支払われず、ウクライナのマネジャーはファンドの取締役会や関連委員会での議決権をすべて失うという。これに対して、アメリカのパートナー側の違反については、何の言及もない。しかも、協定の条項は国内法よりも優先され、さらなる法改正によってその効力を制限することはできない。
ゼレンスキーの目的は権力保持
三つの合意によって、今回の全体像をわかりやすく示しているのが、下図である。3500億ドルとの言われる、米国によるウクライナへのこれまでの支援総額がウクライナの債務としてカウントされることはないが、それはその債務を米国に売ったことを意味していることになる。米国は過去の支援をウクライナへの債権(ウクライナにとっての債務)としない代わりに、鉱物資源開発で破格の条件を勝ち得たことになる。
だが、その内容は、二つの協定を非公表とすることで外部にはさらされない。それにもかかわらず、本協定を議会で批准することで、ウクライナは米国の無理難題を受け入れるというわけだ。
5月6日、ウクライナ議会の外務委員会で、本協定を議会で批准するよう上程することが決まった。11人の委員が賛成票を投じ、1人が棄権、2人が欠席した。これは、政府が国会議員に二つの合意文書を見せないまま、本協定を批准させようとしていることを意味している。
実は、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、二つの追加合意について、「追加協定は、政府高官の技術的なものだ」として、問題視しない姿勢を示していた。それだけではない。ウクライナの安全がかかっている多くの守るべきものを守るために投票しない者に対して、「米国は彼らのビザを取り消すべきだと思う」とのべ、米国に盲従するよう脅迫したのである。
どうやら、ウクライナの鉱物資源開発をめぐるウクライナと米国との間の合意の裏には、ウクライナを植民地化しようとする米国の帝国主義が露骨に存在することがわかる。同時に、その帝国主義に盲従することで、議員に真実を隠蔽し、自らの権力を保持しようとするゼレンスキーがいる。
これは、まさに、拙著『帝国主義アメリカの野望』で描いたアメリカの本質を示していると言えるだろう。
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